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聖霊使いへの道  作者: 雪月葉
セントルイナ大陸編――閑話
98/132

ダーゲシュテンの日常 Ⅱ

 ミュウの場合


 目を覚ませば、視界いっぱいに星の輝きが映っていた。

「…………ん?」

 寝起きで鈍い頭で若干の違和感を感じ、段々とそれが大きくなっていく。星が頭上にあると言う事は、ここは屋根のある場所ではないと言う事だ。絡まった記憶を思い出す様に一度あー、と呻いた。

 確か寝ようとしていたらミュウが入って来て、ハーブティーをどうぞと持って来てくれたのだ。それを口にして……からの記憶がない。まるで不自然な程にブッツリと記憶の糸が途切れている。邪推するならば、その時になにか盛られたのだろう。だがミュウがそのような事をするとは考え難い。そうなると、答えは一つだ。

「ミラヤまたおまえかー!!」

「おや、ようやく起きましたねお坊っちゃん。少し睡眠薬の量が多かったのか不安になってきたところです。まったく、お坊っちゃんはお寝坊さんで困ります。こうなればこのミラヤ、お坊っちゃんが起きられるようにこれから同じベッドで睡眠を取ろうと思うのですが、どうでしょう?」

「却下に決まってるだろ! 身の危険を感じて仕方ないよ!?」

 シレっと睡眠薬を入れた事を認めているこのメイド。ミュウから渡されたとはいえ、なんの躊躇もなく口にした事が悔まれる。

「あ、あのご主人さま……! 申し訳ありません……まさか薬が入ってるとは思わなくて……!」

 で、その実行犯に仕立てあげられたもう一人のメイドさんは涙目で頭を下げている。恐らく彼女も睡眠薬が混入しているとは知らなかったのだろう。

「いやいや、ミュウは別に謝らなくても良いよ。どうせミラヤが勝手にやったんだろうし」

「失敬な。このミラヤ、お坊っちゃんに睡眠薬を飲ませそのまま拉致するかのごとく連れ出したなどしようはずがありません。ああっ、お坊っちゃんが私を疑うとは……幼少期のあの可愛いらしいお坊っちゃんは何処いずこへ……」

「うん、おまえのせいだよね? 俺が性格ひん曲がったってんならその原因の一端は間違いなくおまえのせいだからな?」

「おやおや、これは異な事をおっしゃりますね。このミラヤ、お坊っちゃんを強い子に育てるために少々意地悪はした事はあれど、性格が曲がる程の嫌がらせなどした記憶はあまり御座いません」

 本当にこのメイドは良い性格をしている。

 イラッとした視線でミラヤを見つめ、諦めて周りを見渡す。どうやらここは二階のバルコニーのようだ。丸いテーブルが置かれ、その近くのイスに寝かされていたらしい。

 体を起こし、はあ、と吐息する。

「で、なんの用だ? もしこれでなんの用事もなくて睡眠薬盛ったってんなら色々と考えがあるぞこの野郎」

「まあ、それは大変です。色々、ですからきっとお子様厳禁な事をされてしまうのでしょう。……お坊っちゃん、ありがとうございます」

「なんで感謝してんのおまえ?」

「えっ?」

「だからなんでそんなに不思議そうな顔出来るのかこっちが首を傾げたいわ!」

「まあまあ、落ち着いて下さいお坊っちゃん。そろそろ始めますので」

「始める?」

 ミラヤの言葉にミュウが立ちあがり、一礼してその場を去って行く。そしてすぐにバルコニーへの扉が開かれ、カートを押して戻って来た。

 再度礼をして、カートの上のポットを手に取った。

「あ、あの……今日はご主人さまに、お茶会を楽しんでもらおうとご用意させていただきました」

「へっ?」

 緊張しているのかぎこちない動きで茶を注ぎ、ティーカップをテーブルに並べ、クッキーやスコーンが振る舞われる。

「このお菓子、今朝からミュウちゃんが一人で手作りしたんですよ。如何ですか?」

「へぇ」

 進められるままにクッキーを一つ手に取り、口に放る。甘い砂糖と香ばしいアーモンドの味が口に広がり、思わず顔がほころんだ。

「うん、美味しい。前のマドレーヌの時よりも良く出来てると思うよ」

「本当ですか? うれしい、です……」

 ミュウはホッとしたように笑みを浮かべている。


 美味しい紅茶とお菓子に舌鼓を打ち、ふとユクレステが声を上げた。

「……って、もしかして拉致ったのって」

「はい。今日はミュウちゃんの成長具合を見て頂こうと思いまして。いかがでしたでしょうか?」

「いや、別にそんなことなら言ってくれれば……」

 わざわざ拉致する意味なんてないのでは、そう尋ねようとするも、ミラヤは真剣な表情を浮かべて言う。

「それだと面白くありませんので」

 よっぽど、一発殴ってやろうかと。

 必死に自重し、プルプルとした腕を下ろした。その間にもお菓子をパクついているミラヤに、ミュウは真剣に質問する。

「あの、ミラヤさん。どう、でしょうか?」

「私ですか? そう言う事は主であるお坊っちゃんだけで……」

「いえ、わたしは……ミラヤさんにも聞きたい、です」

 キッとした表情はいつもの彼女とは違い、恐がりながらも答えを望む表情だった。

「……それは、なぜでしょう?」

 疑問に首を傾げるミラヤに、ミュウはしっかりとして言葉でもって返した。

「だってわたしは、ミラヤさんみたいになりたいんです!」

「わ、私みたいに、ですか?」

 おいおいそれは止めた方が良くないか。

 いや、確かにそうは思ったが、流石にこの雰囲気でそんなことを言ってしまう程空気が読めないユクレステではない。黙って事の成り行きを見守った。

「はい! いつも自信満々で、家の妖精としての仕事をなんでもこなせて優しい、わたしもそんな風になりたいんです」

「……あ、あの、お坊っちゃん……なぜだか胸が痛いのですが……」

「ミュウにはそう見えてるってことだろ。自分勝手なサボり魔の妖精さん?」

「うぁ……」

 彼女とて自分がそんな目標とされるような者ではないと分かっているからこそ、ミュウの真っ直ぐな瞳に弱いのだろう。そう言う事はシュミアに言ってくれと、引きつった表情で思ってしまった。

 だがそれを直接言う事は、ミラヤには出来ない。憧れていると言うミュウに、そんな辛い現実を突き付ける訳にはいかないのだ。

「……ふ、ふふ。そ、それは素晴らしい目標ですね。ですが、このミラヤの領域まで到達するには生半可な実力では出来ませんよ? も、もうちょっと押さえ目に設定した方がよろしいのでは……」

「いいえ! わたし、ミラヤさんみたいになります! まだまだ未熟者ですけど、メイドとして立派に成長してみせます!」

 ああ胸が痛い。

 冷や汗ダラダラなのだが、薄暗いためにミュウにはその様子は伝わっていないようだ。ただ一人、ユクレステが同情するように頷くだけである。

「そ、そうですか……わ、分かりました。ならば、このミラヤ。ミュウちゃんを立派なメイドに育ててさしあげましょう! ええ、それはもう、立派な! ですからミュウちゃん?」

 フイと顔を逸らし、背を見せながら強い口調で言い切った。

「――ついて来るのですよ?」

「……っ、はい!」

 ミュウはキラキラと輝く瞳でミラヤを見つめ、力強く頷いた。

「…………」

 そんな彼女の視線を受けながら、ミラヤは強張った表情で脂汗を流している。

「……どうしましょう?」

「取りあえず、サボらないようにすれば良いんじゃないのか?」

 基本的には有能なのだから、後はそのサボり癖をなんとかすればミュウの憧れに足りるとは思うのだ。ソッとミラヤの肩に手を置きながら、ユクレステはため息と共に苦笑した。


 翌日から、サボり常習犯だったミラヤが心を入れ替えたように仕事に精を出す様になり、シュミアとフォレスが涙を流して喜んだのだとか。

 今までの行いが良く分かる反応である。

 ……もっともそれも、ユクレステ達が旅を再開するまでの短い間だけだったようだが。




 マリンの場合


 時刻は昼過ぎ。

 これからどうするべきか、ゆっくりと考えるためにユクレステは一人になれる場所を探していた。考える事は色々あるが、一番の問題点と言えば、秘匿大陸へと行くべきか……ではなく、

「うあー。どうやってアリスと仲直りすれば良いんだよ……」

 氷の主精霊、アリスティアとの関係修復である。いくら頭を悩ませても良案は浮かばず、悶々とした時間を過ごすだけ。どうしたものか、歩きながらもため息が零れた。

『~~~~』

「うん?」

 浜辺を歩いているとどこからか綺麗な歌声が聞こえてきた。下を向いていた頭を上げ、声の方へと視線を向ける。

「あれは……マリン?」

 岩に腰掛けて瞳を閉じ、歌を紡いでいる人魚姫。ユクレステの仲間の一人である、マリンがそこにいた。どこか寂しげな表情で声を震わせ歌っている。

 気付かれぬように静かに近づいていく。

「~~~~。……」

 キラリと彼女の瞳から水滴が零れた。

「なんだ? もう終わりなのか?」

「わひゃおう!?」

 それに気付かないフリをして後ろから声をかけると、マリンは驚きの余り海に落ちてしまった。十一月期の冷たい水しぶきがユクレステのズボンにかかる。苦笑して先ほどまでマリンがいた場所の隣に座り、眼下の人魚姫へと声をかけた。

「なにやってるんだよ、マリン。こんな所に一人で。里帰りは済んだのか?」

「マスター……い、いつからそこに?」

「ついさっき。歌の終わり部分でだな」

 引きつったような表情に苦笑しながら、ついさっきだと言う。あからさまに困惑しながら軽く跳ねてユクレステの隣へと座りこんだ。

「あー、もしかしてマリンちゃんの恥ずかしいところを見られちゃった?」

「いいや。なんか泣いてたような気もしたけど多分気のせいだと思う事にしたから大丈夫だろ?」

「あはは……。うん、そうだね。気のせいなら大丈夫だね」

 おどける様な姿に笑みを浮かべ、気を取り直して元気な声をあげた。

「にしてもマスター、ちょっとデリカシーないんじゃない? 私だってか弱い女の子なんだから、そこはもっとこう、肩を抱いて甘い言葉の一つでも欲しいんだけど」

「か弱い、ねぇ……。ここらに沈んだゼリアリスの兵隊さんに聞かせてあげたい言葉だよな、それ」

 戦艦ニ十隻が今もこの近海に沈んでいるはずだ。ゼリアリスの切り札のブルートゥ号も同様に、自然界の脅威には逆らえずに沈没してしまっている。もっとも、それを起こしたのが二匹の魔物だと言うのだから恐れいる。

「失敬な、ちゃんと皆生きてるじゃん。忘れてなければ船員さん達は全員ふん縛ってお義父さまにプレゼントしたはずだよ?」

「ああ、そういやそうだったな。父さん、軽く気を失ってたみたいだぞ。あの人神経細いから」

 事実、あれだけの事をしたにも関わらず死者は出なかった。その代わりに船は全て海の藻屑となったが、人的被害はゼロだ。それも、この人魚が全て拾い上げたから。

 思案しながら、ユクレステは小さく言った。

「……別にさ、無理しなくても良かったんだぞ? 戦争中だったんだから、全員を救おうとしなくたってさ」

 ただ沈めるだけならばマリンにとっては簡単だ。海というフィールドならばこの少女は負けることはないだろう。しかし、海に溺れる人間を救うとなると話は別だ。人魚の加護を与えるにしても限界はある。百人以上を溺れさせないようにするのは、かなり苦労したことだろう。

 それでもマリンはニッコリと笑って言う。

「だーいじょーぶ! 今回はリューナさんも手伝ってくれたから、どうにでもなったし。そうでなくてもそれくらいは楽勝だよ? ……うん、今までやって来た事に比べれば、全然平気」

 笑うマリンはツ、と視線を海へと向け、悲しそうに呟いた。

「…………」

「わわっ、どしたのマスター?」

 その様子にガリガリと頭を掻き、強めにマリンの頭を撫でまわした。

「別にー、なんとなく撫でたくなっただけ。で、そんな事より里帰りだよ、里帰り。お土産はないのか? 人魚焼きとか」

「いやいや、なにその恐いお土産。お土産って言うか私たちからしたら軽く猟奇殺人なんだけど。大体あんな寂れた故郷にお土産なんてある訳ないじゃん」

「ちぇー、残念」

 口を尖らせるユクレステに、マリンは宝石を持ち上げながら言った。

「大体、マスターはこの人魚の至宝をもらってるんだから、それで満足してよ。帰っても結構グチグチ文句言われてるんだから」

「いや、だってそれくれたのあっちだろ? なんで今さらそんな事言うかね?」

 ユクレステの認識では、アクアマリンの宝石は人魚の里から譲ってもらった認識だ。マリンを連れていく時に、里の長から渡された。それを今さら返せと言われても困る。

「あはは、私マスターのそう言う図太い所とか大好き。でもこっちの立場から見てもあれは盗んだようなものだと思うよ?」

「そうか?」

 だが向こうからすれば……いや、マリンからしても譲ったという雰囲気ではなかったらしい。それもそうだろう。

「お婆さま人質にして宝物庫から盗んだ人が良く言うよね。いやまあ、そのお陰でこうしてマスターと一緒にいられるんだから私としては感謝するところなんだけどさ」

「うむ、感謝し給えよ」

「うっわ、すっごくムカつくんですけど」

 そうは言いながらもクスクスと口元に手を当てて鈴の音のような声を転がせた。


 ひとしきり笑った後、はぁ、と息を吐き出して意を決したようにマリンは口を開いた。

「あの、ね? 兵士の人が、言ってたんだよ。ちょっとそのせいでナーバスになってたって言うか、気分が良かった所を邪魔されたって言うか……なんか、そんな感じ」

 取り留めのない話をするように、少し沈んだ口調で胸の内を語って行く。ユクレステは黙ってそれを聞いていた。

「魔女って呼ばれてしまいました。海の魔女。……なーんか、懐かしいなぁ、って」

 ニコッと無理やり笑みを作る。

「結構黒歴史なんだけど、どうもその時のことを思い出すとやーな気持ちになるんだよね。って言うか、うんあれだよ、やっぱり」

「マリン」

 声をかける。けれど、聞こえていないのか笑いながら話していく。

「魔女だなんだって言われるのって慣れてると思ったけど、直接人間に言われるのはやっぱり堪えるって言うのかな。それがこう、恐怖の顔で言われると嫌でも――」

「マリン!」

「あ……」

 クシャリとマリンの髪に触れ、そっと自分の腕に押し当てる。湿った髪の水滴がユクレステの服に吸われ、じんわりと染みが広がっていった。

「マリンは、マリンだ。魔女じゃない、おまえはお姫様なんだろ? マーメイドプリンセス?」

 主の声が冷え切っていた心に直接届く。茶化すようなその言葉に涙がこぼれ、海水とは違うしょっぱい水滴が服を濡らした。

「あ、あはは……マスター、ひどい。それも結構な黒歴史なんですけど」

「そうだっけか? まあ、魔女よりは良いと思うぞ、プリンセス?」

 笑うユクレステをヒドイなど思うはずもない。マリンは見えないように顔を押し付け、だらしなく表情がほころぶのを必死に隠している。

 恥ずかしい、けど、見せたい。

 そんな相反するような心が、温かくトクントクンと鳴っている。

「……マスター、私は……私の名前は、なにかな?」

 ギュッとユクレステの服を掴みながら、問いかける。その答えはもちろん、決まり切っている。

「さっきも言ったろ? マリンはマリンだ。俺の仲間で、みんなのお姉さん分。それはこの先も絶対に、変わらないし、変えるつもりはないよ。お姫様?」

「…………」

 ああ、やはりダメだ。どうしたって、顔がにやけるのが止まらない。こうなっては誤魔化すためにこうするしかない。

「へっ?」

 掴んだ手を放すことなく体を前に倒す。ちょっとした浮遊感の後に、慣れた水の感触が肌を濡らした。

「ゴボゴボ!? ぷはっ! さ、寒っ!?」

 人魚にとって心地良いとは言っても、十一月期の海は人間にとっては冷たいものだ。海に落とされ、鼻から侵入してきた水を吐き出しながら涙目でマリンを見る。

「な、なにすんだよ! 鼻に水が……痛い痛い」

「えへへー、だってほら、さっきマスター私を覗き見してたじゃん? ちょっとした仕返し、だよ?」

「あーなるほどー……なんて言うと思うかコラ!」

「キャー、マスターに襲われるー!」

「人聞きの悪い事言うな!! いやホント、最近街の皆の視線が可笑しいんですがなんででしょう!?」

 それはまあ、まだ若いのに二人の嫁を作って可愛い人型の魔物を囲っている時点でお察しだ。気付いていないのは本人とその周りだけのようだが。

 ユクレステは変態という噂がダーゲシュテンで流れているのである。

 バシャバシャと水を掻きながらマリンへと迫るが、当然のごとく掴まらない。港町に住んでいるだけあってユクレステの泳ぎは決して遅いものではないが、人魚のマリンに勝てるはずもない。バシャンと尾びれで水をかけられ、結局海に潜られて見失ってしまった。

「はい、マスターつかまーえたー」

 そして背後に現れたマリンに抱きしめられ、見動きは取れない。ため息一つ、ユクレステは両手を上げて降参のポーズを取った。

「ったく、海で人魚と鬼ごっこなんてするもんじゃないよな。捕まえられる訳ないじゃん」

「ふふん、当然だよ。海で人魚最速のマリンちゃんが負けるはずないもんね、っと」

「ちょっ、マリンさん!?」

 胸を張って言った後に、ユクレステに抱きつく力を強める。ふにゅ、となにやら柔らかい物が形を変え、思わず顔を赤くして振り向こうとする。それはマリンの顔によって阻まれた。

「マリン?」

 右肩にマリン顔が乗っている。安らかな表情で瞳を閉じ、形の良い唇が言葉を紡ぐ。

「……ごめんねマスター。マスターが大変な時に力になれなくて」

「あー、いや、それはこっちのセリフだよ。それにほら、おまえだって元気づけようとしてくれただろ? その、嬉しかったよ」

「……あはは、そうだと嬉しいよ、マスター」

 一息いれて、囁いた。

「私の居場所はここだよ。ずっとずっと、ここなんだ」

 その笑みは、まるで今の海のように静かだった。元気なマリンの、穏やかな表情。ユクレステは知らずのうちに、その笑みに引き込まれていた。

「マスターが、ミュウちゃんが、ユゥミィちゃん、ディーラちゃん。他にもたくさんの人たちが私のことをマリンって呼んでくれる。だからきっと、私の居場所は……マリンの居場所は、ここで、良いんだよね?」

 問いの答えは決まっている。

「当たり前だろ、マリン」

 ユクレステの笑みと共に浸透するマリンと言う名前。心臓に達すると、キュンと胸が高鳴った。

 嬉しくて、嬉しくて、思わずマリンはグイ、と前に出た。

 ――呆ける彼の頬に、小さくついばんだ。

「のなっ!?」

「クスクス、マスター変な声ー」

 驚いたような間の抜けた声がユクレステの口から発せられる。マリンはからかうようにクスクスと笑い、チロリと舌を出して言った。


「マスターのマリンちゃんは今日も元気だよ」

次回で幕間は最後のお話となります。

最後はアリスティアのメイン回ですねー。

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