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聖霊使いへの道  作者: 雪月葉
セントルイナ大陸編
92/132

開かれる扉

 生温かい液体が腕を赤く染める。ムッとした鉄の匂いがマイリエルの鼻腔を刺激し、呆然と自分がしてしまった行為を確認する。

 ゼリアリスの宝剣とも呼ばれた煌輝の剣。その輝きが赤い血に染まって本来の輝きを失っている。震える手。視線の先にいる、優しげな表情には、先ほどまでマイリエルを責めていた面影は微塵も感じられない。

「ユ……リ、ト……あ、あぁ、あぁあああ――」

 心を取り戻し、同時に崩壊を始めた。

 彼がわざとああいう言い方をして、マイリエルの心を揺さぶったのだと理解する。その結果、レイサスの術にかかり、その剣で貫いた。言葉にすれば簡単だが、その事実はどこまでも重い。悲鳴染みた音が喉から絞り出される。

 同時に、思い出してしまった。ユリトエスの言う通りの、過去の出来事。あまりの体験に自らが記憶の底に封じ込めた、冬の日の惨劇を。




 その日は、父、ベリゼルスの古くからの友人が遊びに来ていた。マイリエルも挨拶をして、共に食事を

取る。そうして、話は彼女が分からないものへと移って行った。

「では、出来るのか? 他者の精霊の強奪を……?」

「ああ、出来る。うちの宝でもある煌輝の剣。あれならば、他者の使役する精霊を奪う事が可能だ。もちろん、それをすれば奪われた者は死ぬがな」

「ふむ、試してみる価値はある、か……どの道精霊は必要だ。特にそれが光の精霊だとすれば、こちらにとっての利益は計り知れない。……だが、良いのか? 貴様の弟なのだろう?」

「なに、そんなもの便宜上与えているに過ぎん。それに、情報は粗方吐き出させた。となれば、最早用済みだろう? もしなにか他に入り用であるなら、奴の息子もいるしな」

 幼いマイリエルには彼らがなにを言っているのかさっぱり分からなかったが、機嫌の良い父達を見てきっと楽しい事だろうと思っていた。

「ふむ、ではやるとするか。貴様の娘が?」

「ああ、そうだな。精霊の力を得ればこの子も人並みには動けるようになるかもしれん。そうなれば、親としては一安心だからな」

 そう言って、ベリゼルスはマイリエルの頭を優しく撫でる。

「マイリ、喜べ、お前の体を治す事が出来るかもしれん」

「えっ? それって、どういう事ですか? お父様?」

「詳しくは言えんが、とにかくこれに成功すれば丈夫な体になるんだ」

 一瞬呆けるマイリエルは、すぐに興奮したように声を上げた。

「ほ、本当に? お外で遊べるようになるんですか?」

「ああ、そうだとも」

「じゃあじゃあ! 剣を習う事も?」

「お前が望めばな」

 若干女の子らしくないその要望に、ベリゼルス達は苦笑する。

「それならそれなら!」

 ――ユリトとエーリック叔父さまを守る事も出来ますか?

「ははは、そう慌てるな。そうだ、なんでも出来るようになるんだ。だからまずは落ち着きなさい」

「はーい!」

 さらに言い募るマイリエルの言葉を遮り、優しく微笑んだ。その姿には確かに父としての愛情も浮かんでいた。


 それから先の記憶がひどく曖昧だ。ぼんやりとした頭にだれかの声が聞こえてきて、なにかを手渡される。不思議と手に馴染むそれを持ち、部屋を出た。

 ふらふらとした足取りで廊下を歩き、一つの部屋の前に立つ。ノックもせずに開けられた扉。その先には良く見知った男性の姿があった。

 頬が痩け、ガリガリにやせ細った体。それでも優しげな双眸に変わりはない。ユリトエスに良く似た顔立ちの彼は、扉を潜るのがマイリエルだと分かると微笑みながら迎え入れた。

「やあ、マイリちゃん。どうかしたのかい?」

 見つからないように剣を後ろ手に隠し、一歩二歩と近づいて行く。

「マイリちゃん?」

 黙ったままの少女の姿を不審に思ったのか、再度呼びかける。次の瞬間──

「どうし──ぐっ!?」

「……」

 煌輝の剣が細い体を斬り裂いた。

 突然身に降りかかった事態に困惑しながら声をあげる。

「マイリちゃん! 一体、なにを……それはっ!?」

 彼女が手にした物を見て驚愕ぼ声をあげる。同時に、その狙いもすぐに理解した。

「そこまでかっ……! 自分の娘を使ってまでして野望を叶えるつもりか、ベリゼルス!?」

 吠えたところでなにも変わらない。それは分かっていても、抑えられなかった。自分の子供すら利用しようとする、ベリゼルスに対してだけは。

「がっ、は──!?」

 胸に突き立てられ、血に塗れた刃がエーリックの背から突き出している。血が失われていく感覚に苛まれながら、マイリエルを見る。

「叔父、さま……?」

 瞳に色が戻っていき、呆然とした表情が貼り付いている。ああ、不味いと彼女のを抱き締める。

「大丈夫……大丈夫、だから……マイリちゃん。だから、泣かないで? これは、仕方ない事なんだから」

 ウソに決まっている。こんな理不尽に殺される仕方ないなど、あって堪るものか。

 それでもエーリックは微笑まなければならない。大丈夫だよと、声をかけ続けなければならない。さもなければ、この子は今にも壊れてしまいそうだ。

「あいつの狙いは、やはり精霊なんだね。それでマイリちゃんが元気になるのなら、喜んで差し出そう」

 ポウ、とエーリックの体から光の粒子が現れる。それは吸い込まれるようにマイリエルへと吸収されていく。

「う、あぁ……」

「泣かないで。力を、君が生きていけるだけの力をあげる」

 エーリック・ゼリアリスは光の主精霊と契約した、歴史上でも数少ない人物だ。それだけに彼のポテンシャルは本当に人間なのかと疑問する程に高かった。その力全てが、今マイリエルへと注がれる。

「だから……お願いをしても良いかな?」

「えっ……」

 薄れ行く意識を必死につなぎ止め、願いの言葉を口にする。

 願いは、一つ。

「その力であの子を……ユリトを守って欲しいんだ……結局、父親らしいことなんてなにも出来なかったけど、大切な、大切な、僕のかわいい子供……僕の代わりに、君が……」

「あ……」

 ぐらりと傾く体。血に染まったベッドに横たわり、虚ろな視線があらぬ方向を向いていた。

 もはや意識もないのだろう。ただ、言葉を発しているだけ。

「……もう一度、君と一緒に、君の好きな桜もち……食べたかった、な……」

 それきり、動かなくなった。呆然とそれを眺め、よろめきながら後ずさる。

「マイリ?」

「あっ……」

 廊下に出たところで声をかけられた。幼い、男の子の声。

「ユリト……」

「ど、どうしたの? それ、血?」

「ユリト……わたし、わたし……」

 嗚咽の混じる声は要領を得ず、ユリトエスは急ぎ彼女に駆け寄った。そして、見てしまった。

「……え? お父、さん?」

 実の父が血に海に沈んでいるのを。

「お父さん! お父さん!?」

 慌てて駆け寄り必死になって呼びかける。けれど、返事はない。温もりが消えた体に抱きつき、幼いながらに感じ取った。もう、どうしたって動かないのだと。

「ユリト…」

 なんと言って良いか分からず、マイリエルはそっと手を伸ばした。しかし、

「────ッ!?」

「あ……」

 伸ばした赤い手は、容易く払われた。憎しみに染まる瞳が睨みつけ、ビクリと体を震わせる。

「許さない……よくも、お父さんを……」

「ち、違うの! わたしは──!」

「おお、マイリ。どうやら成功したみたいだな?」

 マイリエルの言葉を潰して二人の大人が現れた。そのどちらもが喜色満面で彼女を迎えている。

 そこでユリトエスは理解した。こいつらが、全部仕組んだのだと。

「ベリゼルスゥウウ──!!」

 怒りの形相で殴りかかってくる幼い子供。そこでマイリエルは意識を失った。同時に、記憶まで。ただ漠然と、エーリックが亡くなったのは自分が原因だと理解しながら。



 そして長い時間が経ち、マイリエルの剣は彼の子供を貫いている。

 守って欲しいと言って託された力で、守るべき人を。

 ギシギシと心が軋む音を奏で始める。きっともう少しでこの心は崩れ落ちるだろう。

「だい、じょうぶだよ……」

「えっ……?」

 だがそれより早く、ユリトエスの腕が彼女を抱きしめた。そのせいでマイリエルのバトルドレスが血に染まるが、そんなことお構いなしに強く、強く。

 それは奇しくも、エーリックの時と似ていた。

「マイリは、余のわがままを聞いてくれただけ。そう、でしょ?」

「な、にを……なにを言っているんですか!? 私が! 私が貴方から奪ってしまった! 壊してしまった!! それなのに今度はユリトまで──! こんなの……こんなのどうやって償えば良いんですか!? どうやってあがなえばいいんですか!?」

 悲鳴のような彼女の叫びに、ユリトエスは血の味のする唾を飲み込み、言う。

「償わなくて、良いよ。贖わなくたって、構わない」

「え……?」

「だってこれは余にとって必要な事。余の目的を果たすために、君を利用しただけだから」

 ニコリと微笑み、彼女の手に自分のそれを重ねる。

「君も、レイサス様も、ね」

「ハハッ、そうなのか! それはやられたよ!」

 チラリとレイサスを見る。今にも死にそうな青い顔で、彼は可笑しそうに笑っていた。

「でも十分だ! 最後に君を殺す事が出来るんだ! なんだろうね、今すっごく気分が良いよ!」

 今まで感じた事のない感情が彼の胸の内を支配していた。父とベリゼルスの傀儡でしかなかったレイサスが、今初めて感情を爆発させている。血の涙を流しながら笑う彼に、どこか同情すら覚えてしまう。

「そう? それは、良かったね。なら、もう未練はないだろう?」

「ははは、そうだね……君の事を、地獄で待つとするよ……ユリトエス・ルナ・ゼリアリス!」

 それきりレイサスは沈黙した。僅かな哀れみの視線を向け、ユリトエスはマイリエルから手を放す。

「あー、痛い。メッチャ痛いや……血が止まらないもんなぁ……これは死んだかも?」

「バカユリト! 良いからここを開けろ! とっておきの治療薬使ってやるから!」

「それは困るよ、今余は一文無しだし。請求されるともれなく借金だ」

 ユクレステの言葉も聞く耳を持たず、ただ微笑んでいる。そして、そっと剣の柄に触れた。

「人の話を聞けバカ野郎! マイリエル様! 回復魔法を!!」

「ダメなんです! なぜか魔法が……ディアシャーレスが応えてくれない!?」

 必死になっている二人をよそに、ユリトエスは力無く口を開く。

「それじゃあ、扉を開こうか。余の意識があるうちにね――頼むよ、光の主精霊(ディアシャーレス)

 その瞬間、剣とユリトエスから光の存在が現れた。



 光の主精霊、ディアシャーレス。精霊達を統べるものとも呼ばれ、他の精霊よりも強い力を持っている精霊だ。今代で光の主精霊と直接契約したのはマイリエルだけだと言われている。

 だが、それは間違いだ。

「ディア、シャーレス……どうして、どうしてユリトがディアシャーレスを!?」

 ディアシャーレスと契約していたのはエーリックだった。マイリエルは、その彼から受け継いだのだ。だが、彼女が受け継いだのはディアシャーレスの力の部分だけ。心の部分は、既に譲渡を済ませていた。

 彼の息子、ユリトエスに。

「父さんは、きっと薄々殺されることに気づいてたんだろうね。だから、秘匿大陸へ渡るための……最後のピースとして、余に残していた。そしてその時がくればマイリからディアシャーレスを返して貰い、扉を開く……予定だったんだ」

 失敗だったのは、思いの外マイリエルがディアシャーレスの力を吸収してしまった事だ。そのおかげで彼女は最強を名乗るだけの力を得る事が出来たのだが、光の主精霊を返還することが出来なくなった。そのため、ユリトエスはかなり無茶をする羽目になったのだ。

「……血の、契約。余のディアシャーレスの心を使い、血を媒介に呼び起こす。それを、最初に精霊を奪った煌輝の剣で行う事によって、光の主精霊を顕現させることが出来る……」

「ユリト! もう良いから! 早く治療を――!」

「ダメだよ、ユッキー。ここでやめちゃえば、もう一生扉は開かれない。君も秘匿大陸を目指すんだろ? なら、黙って見ていて……時間のズレも、ここで直しちゃうから」

 揺らがぬ決意にユクレステが黙り込む。

「お願いです、ユリト! なにかをするのでしたら私がやります! だからもう、無茶はしないで……!」

「ああ、ごめん。それもムリなんだ。なにはともかく、この扉を開くのは余にしか出来ない事だからさ。だから、ここで引く事なんて出来るはずがないんだ」

 マイリエルの泣き顔ですら、もはやユリトエスは止められない。光が部屋中を照らし、床に描かれた模様が輝き出す。ポケットから小ビンを取り出し、中の物を振りまいた。

「ディアシャーレス……光を操るモノよ。君に属する力をもって秘匿されし扉を開け……」

 扉に様々な色の力が流れ込んで行く。それを行っているのがディアシャーレスであり、ユリトエスだ。さらに片腕を掲げると、そこに灰色の石が現れた。

「お待たせ、キートゥ。君の出番だよ」


 その時地上では、巨人とそれよりも小さな者達との戦いが繰り広げられていた。とは言っても、防戦一方でとてもではないが戦闘と呼べるようなものではなかったが。

 巨大な剣をミュウが受け止めるが、足場にしていた瓦礫もろとも潰される。銃声が轟き止め処なく吐き出される銃弾をユゥミィが受け止めるが、全てを受け止める前に彼女自身の肉体が悲鳴を上げる。ディーラの魔法も大したダメージは与えられず、まるで歯が立たない。

 だがその戦いも唐突に終わった。キートゥの動きが突然止まり、一瞬で体を崩して消えて行く。なにが起こったのか分からずに首を傾げるディーラ達。どこか嫌な予感を感じながら、無事五体満足でいられる事に安堵した。


 意思が光を受けて輝きを放ち、扉に向かって音を届かせる。その瞬間、地面が大きく揺れた。

「な、なんだ!?」

「地震? ……いや、これは……あー、そゆこと。念を入れるのは、いつの時代も一緒って、ことか」

「ま、まさか……」

 ユリトの呟きに嫌な予感を浮かべ、ユクレステは乾いた唇で言葉を発した。

 遺跡のお約束とも呼べるもの、それは――。

「トラップ……だね。多分、数分で崩れるよ、ここ」

「そんな!? それなら早く逃げましょう!」

 手を伸ばすマイリエルだが、結界が再発動して行く手を阻む。困ったように頭を掻きながら、痛みを我慢して突き刺さったままの剣に力を込めて引き抜いた。

「っぅ……」

 せき止められていた血液が噴き出し、一瞬目の前が真っ暗になった。それでも扉を背にしてなんとか踏ん張り、ポイと剣をマイリエルの近くへと投げた。カラカラと滑る様に彼女の足元へと辿り着き、光がマイリエル達を包み込む。

「じゃあ、ディアシャーレス、頼んだよ」

「な、なにをするつもりです!?」

「なんだ、この魔力……ユリトおまえまさか!?」

 ユクレステとマイリエル。二人の足元に魔法陣が描き出された。その正体に気付いたユクレステが、必死になって解呪を試みる。

「このっ――!」

 同列キャンセル魔法。だが、魔法が発動すればその瞬間に扉へと魔力が吸い込まれるため、結局は霧散する。ならばと手を伸ばすが、結界によって阻まれる。

「くそっ! 転移魔法か!?」

「転移……まさか、ユリト!」

 瞳を閉じ、微笑むように笑っているユリトエス。その通りだと言ってあげたいところだが、生憎と血を流し過ぎてまともに返すことも無理のようだ。目を開いても、ぼやけてまともに彼等の表情を見る事さえできない。きっと怒っているんだろうなと思考し、すぐに切り上げる。

「キートゥ、最後の仕事だ。任せたよ?」

 鍵を扉へと投げ込み、ついにユリトエスは座りこんでしまった。

「ユリト! くっ、このっ――! ディアシャーレス! お願いです、私に力を貸して下さい! じゃないと、ユリトが!?」

「バカ野郎! そんなとこで寝てたらまた風邪ひくぞ! そしたら今度は看病してやらないからな!?」

 結界に剣を振るうマイリエルと、必死に拳を叩きつけるユクレステ。そんなことでどうにかなるはずもなく、結界を叩く音だけが空しく響く。その間にも揺れは激しくなり、光は強くなる。

 小さな、蚊の泣くような声が聞こえてきた。

「ユッキー、秘匿大陸……目指しなよ?」

「ユリト……?」

 もはや意識もないのかもしれない。無意識に呟かれた言葉に、動きが止まる。

「扉は、一つじゃない……だから、行けるはずだよ。扉は、開かれるんだから……」

「……おまえだって、おまえだって行くんだろ! ならそんな所で寝てるなよ!」

「……睡眠妨害は、重罪だってだれかが言ってた」

 クスリと微笑み、僅かに顔を上げる。向く先は、涙を流すマイリエル。

「マイリ……余の……僕の、大切なマイリ。泣かされる事は良くあったけど、泣かせた事ってあんまりなかったね……」

「バカっ、バカっ!」

「うん、ごめん、僕はバカ王子だからさ……。でも、バカでもなんでも、分かる事はあったよ?」

 立ち上がり、視線を逸らさず、真っ直ぐに彼女に言葉を届ける。子供の、あの時からの言葉を。

「……君に初めて出会った時から、大好きだった……いや、大好きだよ。もちろん、今でも。これからも」

「――――っ!?」

 そんな事を、今言われたってまったく嬉しくない。そんな、まるで今にも死にそうな表情で言われたって嬉しいはずがない。

 ――それなのに、

「ユリトの、バカぁ!」

 ――なぜこんなにも胸が熱いのだろうか。


 光が視界を覆う。涙で滲んだ視界の先で、ユリトエスが幸せそうに微笑んでいた。

 彼の隣にマイリエルはいない。その事が、堪らなく悔しくて、苦しくて……


「おぉ!? ひ、姫様!? 良くぞご無事で! ど、どうされたのですか? ま、まさか泣いていらっしゃるのですか?」

 一瞬で変わった場所で、子供のように泣きじゃくった。





 ――マイリエル達の姿が消えた。無事に転移魔法が発動したのだろう。

 ユリトエスはそれを確認し終え、足を引きずる様に扉と向かい合った。今の今まで四角い枠だった扉には、半透明の壁が張り付けられていた。

 息を途切らせながら、壁に書かれた文字を読んで行く。

「……この瞬間より……聖霊への干渉を、許容する事を、承認する……。その果てに、どのような未来が待っていようと、争うか、手を取るか……世界を選択せよ……。良く分からないけど、えっらそうに……」

 未来など、人のものではないと言いたいのか。選択させ、その結果決めるのは聖霊だと。

「関係、ないよね……僕はただ、見たいだけさ。父さんが愛した、見捨てられてなお健気に生きる世界ってやつを……」

 文字が浮かび上がり、ユリトエスの眼前に降りて来る。天井が崩れる中それを視界に入れ、ニヤリと笑って拳を握りしめた。

「それに、どうせユッキーも来るんだ。それなら、面白い方が良いだろうさ……!」

 叩きつけるように画面を殴り付け、そこで限界が来たのか前のめりに倒れ伏した。

 体が動かない。重たい物が次々にユリトエスを押し潰す。

 ついに意識が、消えさった。



 部屋が完全に埋もれ、暗くなった一室で青白い画面がボウと浮かび上がる。二つの選択肢、その内の一つは血がベッタリと付着している。微かに読み取れる聖霊言語には、こう書かれていた。


 ――貴方はこれより世界を創造しますか?

 ――YES/NO


 そんな二者択一オルタナティブ

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