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聖霊使いへの道  作者: 雪月葉
セントルイナ大陸編
91/132

ユリトエス・ルナ・ゼリアリス

 ユリトエスの言った言葉をゆっくりと呑み込み、乾いた唇で問う。

「秘匿大陸への……扉? じゃあ、この四角いのは……」

「ああ、やっぱりユッキーは聞いてたんだ。まあそうだよね。精霊が三体、君の下に集ってるんだからそれくらいの情報は得ているのも当然か。ホント、王様コンビよりもずっと有能だよね、ユッキーはさ」

「秘匿大陸への、転移魔法……?」

 ユクレステの呟きに驚きの表情を浮かべるマイリエル。あり得ないと言われていた存在を前に、彼女でさえ驚愕してしまう。

「転移装置、って言った方が正しいかもね。足元を見てごらん? 変な模様があるでしょ? これが、魔法陣のような働きの扉を開くための補助具なんだ。……そこまでは分かったんだよね? レイサス様」

 チラリと後ろを見て、言葉を促した。

「そうだね。ベリゼルス王はそう言っていたよ。ただ、扉を開くためのエネルギーが切れていて起動しないらしいけど」

 レイサスが喋っているのを困惑した様子で見つめるマイリエル。捕らえられ、そして今まで心に干渉して来たマイリエルが近くにいると言うのにその表情にはなんの変化もない。ただ、優しげな笑みを張りつけているだけ。

「レイサス様……」

 いつもならば、見惚れるその微笑みも、なぜだか無性に気味が悪かった。それが果たして精神操作が途切れた事によるものなのか、また別のものなのか、判断はつかない。

 一方で、ユクレステはレイサス自身には興味がないのか、彼の言った言葉だけに反応している。

「エネルギー、確かそれが精霊の力だったはず……だけど、それだけで扉が開くとは思えない……ユリト、おまえはなにをもって扉を開くエネルギーを伝えるつもりだ?」

「ふぅん、どういう事かな?」

「この扉に繋がる模様、既に力は完全にと言って良いほどに失われている……ここに精霊の力を送り込もうとも、それだけで大魔法を発動できるとは思えない。だとすれば、エネルギーを通す道筋を示すなにかが必要なんだろう?」

 質問の内容に、ユリトエスは可笑しそうに微笑んだ。

「その通りだよ、ユッキー。余もそれに気付くのに何年も掛かったって言うのに、良く気付いたね。流石は長年あの場所を夢見て来ただけはあるのかな?」

「……なあユリト。聞かせてくれないか? なんでおまえは、そんなに秘匿大陸に拘るんだ? ただ行ってみたいだけってだけじゃあ、そこまで渇望はしないだろう? 俺の思いだっておまえにはきっと勝てない」

「謙遜しないで良いよ。ただ行きたい、それだけでここまで辿りつけたんだ。十分過ぎる程の思いの強さだよ」

 素直な称賛の言葉を告げ、しばらく考え込む。やがて口を開き、物悲しい瞳を見せていた。

「……理由は、まあ簡単だよ。初めは余の父から秘匿大陸への事を聞いていてね、それに興味を持ったのが始まり。そして決定的だったのが……」

 一度言葉を区切り、真っ直ぐに瞳を向けて言った。

「……秘匿大陸。そこが、余の生まれ故郷だから。故郷に行きたい……いや、帰りたいと思っても不思議じゃないだろう?」

「…………えっ?」


 今よりも百年程の昔、ゼリアリス国王家に一人の男児が誕生した。名は、エーリック・ゼリアリス。様々な才能に溢れた少年は皆の期待を一身に背負い、立派な青年へと成長した。

 そしてその頃、彼の父が秘匿大陸へと赴く方法を確立する。だが父は体が弱く、結局秘匿大陸へと向かう前に亡くなってしまった。その意思を継いだのが、エーリック王子だ。彼は父の残した文書を読み解き、精霊たちの力を借りて扉を開く事に成功した。

 しかし、そこまで。その後の話は聞いておらず、結局彼は秘匿大陸の地から帰って来る事は無かったと言う。

 死んだと思われていたエーリック。だが、実際は違っていた。彼は秘匿大陸の地でとある女性と出会い、恋をした。その結果生まれたのが、ユリトエス・ルナ・ゼリアリスである。


「時間の流れが違うんだ。ここと、秘匿大陸。父さんがあの場所にいた時間はニ年にも満たなかった。それなのに、帰って来てみれば百年も時間が流れていたんだってさ」

 もう何度驚愕を感じたのか分からない。それほどまでの話を実際に聞いてしまっている。どうやらマイリエルも知らなかったのか、口元に手を当てていた。

 なんと尋ねれば良いのか分からず、単純に質問する。

「それで、どうしたんだ?」

「父さんも驚いたみたいでさ、全然知らない人達ばかりになってるゼリアリスを見て、途方に暮れたみたいだよ? で、手元には一歳にも満たない赤子の余がいて、とにかくその時の王……つまり、ベリゼルス・サン・ゼリアリスに謁見したんだって。……それが一番の間違いだって、苦笑しながら言ってたっけなぁ」


 その時から既に秘匿大陸の力に魅せられていたベリゼルスは、喜んでエーリックを迎え入れた。彼を自身の弟にし、病弱だと偽って一室に監禁。窓もなにもない真っ白の部屋は、今でも思い出す。

 ベリゼルスはエーリックから必死に情報を聞き出すが、彼の野心に気付き、全てを話す事を拒否したと言う。それでも貴重な情報源だ。無理やり聞き出して、間違えて殺してしまってはせっかくのチャンスをふいにしてしまう。そのため、ベリゼルスは別の手段を講じた。

 一番手っ取り早い、人質と言う方法だ。

 エーリックからユリトエスを引き離し、彼の無事を餌に全ての情報を得ようとしたのである。しかしそれだけでは逃げられる心配が出て来る。そのため、ベリゼルスは毒を使って彼を弱らせていったのだ。計らずしも、病弱と言う設定が現実になってしまった。そしてそれが息子に向かう事を危惧したエーリックは、毒の成分を検証し、たまに城へ侵入してくる商人にその解毒薬を作成して貰う事にした。

 ユリトエスは言う。親に初めて覚えさせられた言葉は、パパでもママでもなく、解毒薬の名前だった、と。薬の名前さえ覚えてしまえば、外へ抜け出した時に買いにいけると思ったのだろう。そこそこ高価な品だったそれは、一人分しか用立てられず、結局エーリックはそれら全てをユリトエスに渡していた。

 マイリエルと出会ったのも、ちょうどその頃だった。



 ――十二年前、ゼリアリス城。


 一人、与えられた部屋で食事を済ませたユリトエスは、胸を押さえながら洗面所へと向かい、隠してあった小ビンから液体を一気に飲み干した。舌を突き刺す程の苦みが口の中を暴れ回り、思わず少し吐いてしまった。薬を無理やり胃に落としたユリトエスは、疲れのためにドサリとベッドへと倒れ込む。

「父さん、大丈夫かな……」

 解毒薬を常備しているユリトエスとは違い、私物を一切持ちこむ事を禁じられているエーリックでは毒を中和することが出来ない。日に日にやせ衰えて行く父を見る度に、ベリゼルスへの憎しみが増していく。

 けれど、エーリックは人を憎むなと言う。優しく、聡い子であれと、念を押す様に。そんなこと、幼いユリトエスには理解できるはずもない。

 このまま眠ってしまうのも良いかもしれないが、ある程度の自由が確保されているユリトエスならば城の中を歩き回る事が出来る。地の利を把握しておく事は大事だとの父の言葉を真に受け、自室のドアを開けた。


 そうは言っても、幼い体では大して移動出来る場所は少ない。精々が中庭に秘密基地を作るくらいだ。実を言うとつい先日、茂みの下に小さな穴を見つけ、そこを秘密基地にしていたのだ。小さな毛布を持って地面に敷いただけの簡素なもの。それでも、ユリトエスの初めての秘密基地なため不満はなかった。厨房からお菓子を数個持ち出し、意気揚々とそこへと向かう。

「…………」

「…………」

 なにかがいた。

 自分の秘密基地に、知らない女の子が座っている。金色の髪に、ドレス姿でとても可愛らしい顔立ちの少女。お互い顔を合わせたままの形で動きを止め、数秒。

「だ、だれだ――もがっ!」

「し、しー! 静かにして!」

 小声でそう怒鳴って来た少女に、ユリトエスは口を塞がれ茂みの下に引き込まれた。その時、老人の声が聞こえて来る。

「姫様ー! 姫様、一体どこに行ったのですか!? エイゼンは、エイゼンはどうすればー!?」

 ドドド、と凄い勢いで駆けて行く老騎士。いなくなったのを確認し、少女はふぅ、と息を吐いた。

「まったくもう……エイゼンってすぐに心配ばっかり。わたしだってお外で遊びたいのに……」

「え、ぁ、ぅ……? き、きみ、だれ?」

 口から手が放れ、地面に座りながら少女を指差す。キョトンとしていた少女は、にっこりとほほ笑んで答えた。

「はじめまして、マイリエル・サン・ゼリアリスです。あなたは、どなたですか?」

 それが、ユリトエスとマイリエルの初遭遇だった。


 マイリエル・サン・ゼリアリス。ベリゼルスの一人娘であり、蝶よ花よと育てられたお姫様である。性格はちょっとお転婆で、良くエイゼンやお付きの者を困らせる程度には元気な女の子だ。彼女から言わせれば皆心配し過ぎとの事だが、それも彼女を思っての事だと理解して上げて欲しい。

 将来、戦悪魔ヴァルキリーと恐れられる武人になる少女は、幼い頃は酷く病弱な子だった。少し動けば発作を起こし、それこそペンよりも重い物を持つ事が出来ない程度には脆弱であった。そんな彼女を父の姿と重ねたのか、ユリトエスは良く彼女と遊ぶ事が増えて行った。少々気が強い彼女に泣かされる場面も多々あったが、基本的には仲の良い、本当の兄妹のような関係が続いていた。

 それが壊れたのが、彼らが五歳になろうかと言う冬の日の事。ユリトエスは見てしまった。大きく斬りつけられた父の姿。腹に刺さった豪奢な剣。赤く赤く染まる、白い部屋。そしてそれを眺める、二人の王と一人の姫君。

 翌日、涙を流しながら、ユリトエスは一冊の手帳を読み込んでいた。全てが聖霊言語で書かれた手帳。ベリゼルスは分からなかったようだが、父から精霊言語を習っていたユリトエスには辛うじてながら読む事が出来た。彼が読む事を見越してエーリックが簡単に書いてくれたというのもあるのだろう。

 そこに書かれているのは、秘匿大陸への行き方。そして、ユリトエスの出自について。エーリックと、秘匿大陸に住む一人との間に生まれた命。そして、せめてもう一目、愛する人に会いたいと。訳あって離れ離れになってしまったが、自分の無事を知らせてあげたいと、震える文字で書かれていた。

 それを読み、ユリトエスは思ったのだ。自分の母に会いたい、父の願いを叶えたい。例え、この世界を敵に回しても、自分の命を賭けても。しょせんこの世界は、自分の故郷ではないのだから。

 立ち上がった翌日から、ユリトエスは幼いながらに行動を開始していた。情報の全てはユリトエスの頭に入っている。その点で言えば、ベリゼルス達よりも一歩も二歩も先を進んでいる。だから、後は上手く立ち回るだけだ。そのためには、愚かでいよう。侮られよう。バカで愚鈍だと思われた方が事は上手く行く。

 そうして、ユリトエス・ルナ・ゼリアリスは、秘匿大陸を目指す一歩を踏み出した。



「そんな事が……」

 ユクレステの視線を無理やり切って、ユリトエスはレイサスを見る。微動だにしない笑みでそれを見つめ返し、黒髪の少年は忌々しそうに舌打ちをした。

「まあ、そんなこんなさ。とってもシンプルで、バカで愚かな話だろう? 復讐なんてどうでも良い、百年の平和なんてもっと。余はただただ、この目的だけで生きて来たんだ。そのためならば……」

「ユリトっ、なにを……!?」

 胸元からなにかを取り出し、レイサスへと向ける。黒く鈍い輝きを放つ、聖具オリジナル・アイテム。撃鉄を起こし、躊躇ちゅうちょなく引き金を引いた。

「グッ――!」

「だれであろうとなんであろうと、傷つけ殺す覚悟は出来ているよ」

 放たれた弾丸はレイサスの腹部を貫通し、パッと血が飛び散った。

 火薬と血の臭いが鼻を突き、ユクレステは思わず表情を歪める。

「レイサス様!? ――きゃあ!」

 駆け寄ろうとした瞬間、ユクレステと同じように見えない壁にぶつかった。

「おっと、それ以上のお障りはいくらお客様でも許可出来ないよ。安心しなよ、マイリ。君を操っていたような人間を、余が殺してあげようと言うんだ。感謝して欲しいくらいだね」

「ユリト! ふざけていないでここを通しなさい! 今ならまだ……!」

「えっ? 助けるつもりなの? なんで?」

「ユ、ユリト……」

 心底不思議そうに首を傾げる姿にマイリエルは言葉を詰まらせた。

「だってマイリ、考えてもみなよ。彼は君の心を操った。弄んだんだよ? そんな相手をわざわざ生かしておく事なんて、ないじゃんか」

「そ、んな事は……」

「マイリエル様、退いて下さい!」

 ユクレステが魔力を操り、魔法陣を展開してユリトエスに向けている。バチバチとほとばしる雷が解き放たれた。

「雷撃砲――なっ!?」

 だがそれは、掻き消されるように消失した。初めからなかったかのように、魔力の残滓まで消え去る。

「ムダだよ。この部屋では魔法は使えない。なぜなら、この部屋の魔力は全て扉に注がれるから。けど今は伝達する術が無い。故に、君の魔力程度ではこの場の理を覆す事は不可能だ。大体、ユッキーは許せるの? ライゼス・ドルクを操っていたのはこの男だ。人の尊厳を無視した、非道な術。魔法使いである君には、到底許せるものではないと思うけどね」

 確かに、ユリトエスの言っている事は理解出来る。例えどんな理由があろうと人の心に干渉するなど邪法以外の何ものでもない。自然の理を追及する魔法使いと言う種には許せることではないだろう。しかしそれでも、

「わざわざおまえが手を汚す必要はないはずだ。やるんならライゼスさんでもアランでも、罰する人間がやれば良い。おまえは、違うだろう?」

「違わないよ。例え余が操られて無かろうと、レイサス様はマイリを駒にした。その段階で殺そうとは決めていたからね。だからユクレステ様、邪魔をしないでくれないかな?」

 低い声で笑うユリトエスに、初めてゾクリとした恐怖を感じる。一瞬黙った隙をつき、さらに一発、腕を貫いた。

「ぐぅ――」

「ハハっ、ざまぁないですね、レイサス様。人を駒のようにしていた奴には、当然の報いだと思いませんか?」

「どう、だろうね。私にはどうでも良い事だよ」

 汗が滲む顔で笑みを作ってみせるレイサス。彼の声に反応し、マイリエルが顔を上げる。

「もうやめなさい、ユリト! 私は、こんな事は望んでいない……!」

「またまた、冗談ばっかり。ならなんでマイリは揺れていないのさ?」

 彼女の悲痛な叫びにも、ユリトエスは淡々と返した。

「揺れ、て?」

「ほら、レイサス様を見てごらんよ必死にマイリを操ろうと指輪を握り締めているだろう?」

「っ!?」

 レイサスの表情が崩れ、サッと指輪の嵌められた腕を後ろに隠す。それが人の心を操る魔法具アーティクションなのだと気付く。

「この場で余を止められるとしたら、マイリ。君だけだ。だからレイサス様は今も必死に、君の心に干渉し続けている。でもムダだよね、混迷の指輪は人の心の迷いに反応する魔道具。ただでさえ強固なマイリの心理防壁、さらにはレイサス様を殺す事に反応しない心。操れる道理はない。分かってる? マイリ、君はレイサス様が死んでも構わないと思っているんだ」

「そ、そんな事は……」

 口ごもるマイリエルを追い詰めるように、さらにユリトエスの言葉が続けられた。

「まあ、当然だよね。マイリが今さら人を殺す事に迷いを生むはずがないんだもの」

 意味深な笑みを浮かべ、クルクルと銃を指先で回す。ドクンドクンと焦りに鳴る心を必死に落ち着け、マイリエルはキッと強く睨みつけた。

「なにが、言いたいんですか……!」

「いやぁ、別にぃ。たださ」

 ニヤリとした笑みを張りつけたユリトエスは、混乱する彼女に向けて言い放った。


「マイリは父さんを殺したくらいだし、その程度余裕なんだろうな、って思ってさ」


 ドクン、と心臓が跳ねた。

 エーリック・ゼリアリス。ユリトエスの父。マイリエルとも仲の良かった人。優しげな表情をして、悲しげな瞳でユリトエスを眺めていた、彼にとって大切な人。

 それを、殺した。

「あ、ち、違います――わた、私は――!?」

「ハハっ、なに言ってんのさ。違わないだろう? 君が殺したんだ、君が、その腰に下げているゼリアリスの宝剣、煌輝の剣で斬り、突き刺したんだ」

「ユリト! それ以上はやめろ!」

 マイリエルの様子にただ事ではないと止めにかかるユクレステ。だが言葉一つで止まる程、ユリトエスの負の心は浅くはない。憎むように、糾弾する。

「そうさ、余がだれよりも憎むとすれば、それはベリゼルスじゃない、レイサスでもない! 君だよ、マイリエル!!」

「あっ――」

 瞬間、心が揺れた。

 共に育った、仲の良い従兄。好かれていると思えるほど自意識過剰ではないが、嫌われているとも思っていなかった。信じてくれていると勝手に思い、こうして面と向かって憎悪の言葉を向けられる。どうして良いのか分からない。なんと言って良いのか、分からない。心が揺れ、目の前が真っ白になる。

 その瞬間、

「……そう、ですか」

 ジワリジワリとなにか不快なものがマイリエルを浸食する。普段ならば跳ね退けるそれを、なぜか受け入れてしまっている。そのせいで、彼女の頭には一つのことしか浮かばない。

「なら、貴方もここで死になさい」

 キラリと煌剣を抜き放ち、一振り。それだけで結界を切り裂き、グッと足に力を溜める。

「っ、マイリエル様!」

 危険な雰囲気に思わずユクレステは手を伸ばした。だが伸ばされた手は空を切り、一足でマイリエルは懐に入り込む。

 黒髪の少年が瞳に映る。琥珀色の瞳と視線が交差し、刹那、過去の思い出が浮かび上がった。


『ねえ、マイリ。君は将来なにになりたいの?』

『なぁに、ユリト。突然そんなことを聞いて。うーん、そうね……体が弱くて絶対になれないかもしれないよ?』

『そんな事ないって。目指せばなんでもなれるってお父さん言ってたもん』

『そうかなぁ……。じゃ、じゃあ内緒よ? ユリトにだけ教えてあげるんだから。エイゼンにも内緒』

『うん、約束する!』

『わたしの、わたしの夢はね? ――』


 ――――皆を守れる、とっても強いお姫様!


 マイリエルの刃が、ユリトエスを刺し貫いた。

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