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聖霊使いへの道  作者: 雪月葉
セントルイナ大陸編
89/132

突入、遺跡城

 アーリッシュ国上空を二匹の飛竜が飛んでいた。そのうちの一匹に寄り添うように翼を動かしていたディーラが、飛竜の背に乗る主へと声をかける。

「思ったよりも……って言うか、まるで抵抗がないね」

 言外につまらない、と言うディーラに、ユクレステは苦笑する。

「楽を出来ればそれに越した事はないんだけどな。……まあ、なにも無さ過ぎて逆に心配になってくるけどさ」

「ユリトの言葉を鵜呑みにしてはいけない、そう言う事でしょう。ですが、なにかを狙っているのは事実。油断なさらぬように」

「……了解」

 もう一匹の飛竜に乗るマイリエルに言われ、コクリと頷くディーラ。ジロリとユクレステの飛竜を一瞥し、先行する。

「な、なにかディーラ機嫌悪くなかったか?」

「そうだったか? 私にはよく分からなかったが」

「え、ええと、その……ごめんなさい、ディーラさん……」

 ディーラの不機嫌な理由に本気で気づいていないユゥミィと、気付いてしまったがために申し訳なさそうに俯くミュウ。

 そんな彼女たちが座る場所は、ユクレステと同じ飛竜だ。スッポリと彼の腕に収まる形でミュウが、背中に抱き付くようにユゥミィが、三人一緒に座っていた。それに対してディーラは自前の翼で空を飛んでいる。一人仲間外れにされているようで面白くないのだ。

 とは言え、ディーラも一緒に乗るとなると流石に飛竜がかわいそうだろう。

 デュマルアムと言う異常種イレギュラーには適わずとも、この飛竜はジルオーズで育てられた屈強な一匹だ。それでも四人を乗せるのは辛いものがある。

 どうすりゃいいのか、とげんなりした表情のユクレステ。それを眺めながら、マイリエルは驚いたように言った。

「随分仲がよろしいんですね」

 驚く、と言うか訝しげなと言うか。

 どうか可笑しな方に受け取られていないことを願うばかりである。


 ユリトエスの放送からアーリッシュ城までたどり着くのに三日が掛かった。マイリエルの乗る飛竜はデュマルアムとは違う個体で、もし彼が万全の状態ならばもう少し早く辿り着くことが出来たかもしれない。だが当時彼は、ディーラとミュウにぶっ飛ばされて傷だらけの状態だった。流石にそれを無理やり叩き起こすのは気が引けたのである。

 そんなこんなでやってきたアーリッシュ城。堅牢な石畳の城壁に、面積の広い平べったい建築物。それでもどこか威圧感を放つその城に、ユクレステの視線は自然と釘付けになった。

「はー、見事なもんだ。これが噂に名高い遺跡城か」

「遺跡城、ですか?」

 小首を傾げるミュウの問いに、ユクレステは頷いて答えた。

「アーリッシュ城の別名さ。元々遺跡があった場所に建てられたら城で、地下部分には遺跡部分が残されてるらしい。まあ、噂だけどな」

 ちらりとマイリエルへと視線を向け、確認する。

「実際に足を踏み入れた事はありませんが、確かに地下遺跡というものは存在します。良く父がレイサス様と向かっているのを目撃していましたから」

 そこでふと、マイリエルの表情に影が落ちる。

「やっぱり……心配ですか?」

「え、ええ……」

 果たしてそれは父か、それとも婚約者か。ミュウに話し掛けられたらことに驚き、若干戸惑いながらも質問に答えた。

「お父様もレイサス様も、これまでの行いは許されるようなものではありません。争いを起こし、ライゼス様達を人形のように操った……それは、裁かれなければならないのです」

 気丈に言ってのけ、僅かに瞳を伏せる。

 道中、レイサスの行いをユクレステから聞いている。人の心を操り、自身の駒とする。そんな非道な術を、想い人はおこなったと言う。

「そして、私自身も」

 例え操られていようと、マイリエルは兵を率いてルイーナへと攻め込んだ。そのせいで傷つき、命を落とした者達もいるだろう。だからこそ、償わなければならないのだ。

「ですがその前に、ユリトだけは止めたいのです。ユリトがなにを望んでいるのかは分かりませんが、それでも止めなければいけない……そんな気がするのです」

 決意を新たに、マイリエルは言う。なんと言っていいのか迷っていると、ユクレステの背中側から声が発せられる。

「ふむ、よく分からないんだが、とにかくユリトのためなのだろう? ならば自信を持ってやり遂げれば良いのではないか?」

「それは……」

「意外にユゥミィって的をついた事を言うよな……」

「基本なんにも考えてないからね。考えてない分、やりたいことがハッキリしてりんじゃない?」

 ボソボソとユクレステとディーラが話している。もちろん会話の内容は聞こえているのだが、空の上で暴れる度胸はないようだ。

「えぇと、ユゥミィ様、でしたね。……ありがとうございます。少しだけ、見えた気がします」

「ユゥミィ、様……!?」

 一人マイリエルがニコリと微笑んで礼を述べる。一方その当人はそれどころではなかった。

 様付けなんてなんだか騎士っぽい! 頭の中を覗き込めばきっとこんな事を考えていることだろう。

「うわ、ユゥミィ様だってさ。……果てしなく似合わない」

「んー、似合わないというか分不相応と言うか……まあ良いんじゃないか? 本人喜んでるし」

「あ、あはは……」

 苦笑気味のミュウを含めた、彼女を良く知る者達にとって、様付けユゥミィには違和感しか感じられないようだ。

 一方で気を良くしたユゥミィは楽しげにマイリエルへと話しかけていた。

「うん、最初は恐い人だと思ったけど、実際に話してみると普通だな! えぇと、マイ…マイ…」

「ふふ。マイリエル……マイリで構いませんよ? ユゥミィ様」

「む、そうか? ならば私もユゥミィで良い! 様付けは魅力だが、友人に様付けされるのはなんか嫌だし」

 友人と言う言葉に驚いたように目を見開くマイリエル。

「ユゥミィすげー。太陽姫でもお構い無しかよ」

「ご主人、バカを甘く見ない方が良い。バカは信じられないことをやってのけるからバカなんだから」

「ユゥミィさん、やっぱりスゴいです」

 素直に感心しているのはやはりミュウだけだ。

 マイリエルの様子もどこか可笑しい。友人扱いされて戸惑っているのだろう。と言うかである。

「もしかして、マイリエル様って友達いません?」

「うっ……」

 どうやら図星らしい。

 王族と言えば取り巻きが大勢いるイメージだが、マイリエルはそうではないようだ。

 勉学等は専門の家庭教師がついていたため、学校に通うことはなかった。そのためかは分からないが、彼女には友人と呼べるものがいないのだ。

 ある程度大きくなり社交界に出てからは多少他人と交流を深めるようになったが、あまりに完璧すぎる彼女を前に友人に立候補するような気概を持った子女は現れなかった。ちなみに男はベリゼルスが近づけさせなかったようである。

 彼女の周りの同年代など、ユリトエスくらいなものだ。

 そんな彼は言いました。


 ――マイリの性格だと普通の友達って出来ないんじゃないかなぁ。


 ユリト、見ていますか? 私に友人が出来たようです。

 心の中でいたく感動しているお姫様。ただし、その友人おバカなダークエルフだけど、と注釈を入れておいた。

 普通とは言えない友人。従兄からの忠告通りだ。流石はユリトエス、良い読みである。

「と言うか、私は恐いですか?」

 割とショックを受けているマイリエル。行く先々で太陽姫だ戦悪魔ヴァルキリーだと恐れられていては気が滅入ると言うもの。

「そりゃまあ、極大呪文を簡単に使ってたり……」

「えと……ライゼスさん達が凄く怖がっていました……」

「ついでに俺達もボッコボコにされたしなぁ」

 とは言え彼女の言動に寄るところが大きいため、自業自得ではあるのだが。

「……そう、ですよね。しょせん私は暴力でしか解決できないですし……ユリトも良く言っていました。暴力姫と」

 フッと自嘲するような表情を浮かべ、コホンと咳払いを一つ。

「……そうです。ユクレステ様には謝罪をしなければなりませんね。貴方に傷を負わせてしまい、申し訳ありませんでした。当然の言葉に逆上して八つ当たりなど、本当に恥ずべき事です。後ほど、謝罪の品をお持ちします」

「あー、いや別に良いですよ。リベンジはちゃんと果たしたし」

 戦績は現在一勝一敗だと笑うユクレステ。例え数人がかりでも、極大呪文を使用し、さらにはセイレーシアンとの戦闘の疲れもあっただろうが勝ちは勝ちである。だから気にしないと言った。

「……感謝致します。ですが、そこは私の勝手な意地ですので、無理にでも受け取って頂きますよ?」

「は、はは、別に気に……」

「受け取って頂けますね?」

「……はい」

 かつてユリトエスは行っていた。マイリってば変なとこで頑固で困ると。なるほど、確かにその通りだ。

 ユクレステは引きつった笑みで視線を外す。と、その先にいたディーラが興味深げにアーリッシュ城を見下ろしている。

「ねえ、ご主人。あそこ、なんだろ? 壊れてるみたいだけど……」

「ん? どれどれ……」

 彼女の言う通り、城の中心付近が崩れているのが見えた。他の場所は特に破損はないため、そこだけが余計に目立ってしまっている。

 チラリとマイリエルを見ると、僅かに強張った表情で言った。

「あそこは……玉座の間、ですね。しかし、変ですね。まるで内側から破壊されたような崩れ方をしています」

「ふぅん……良く分からないけど、とにかくあそこに行けばいいんでしょ? 権力を持った人間は無駄に高いイスでふんぞり返ってるって言うし」

「そ、それはどうなのでしょう? 王族の一人として是非とも反論したいのですが……」

 間違った知識を披露してしまった。だが、元々これを教えたのは三バカトリオのリーダー。ロイン・カタルである。後でシメると心に誓うディーラであった。

「そんじゃあまあ、行ってみるか? って言っても結構な数の機械人形が配備されてるし……本当にユリトがそこにいる保証もないしな。ちょっと探って来るか」

「いえ、その必要はありません」

「へっ?」

 忍び込むならば裏側か、と思案していた所へ、制止の声が掛けられる。

「ユリトは間違いなく玉座の間にいます。そこへ魔法で大穴を空けて侵入しましょう」

「……えっと、とりあえず。それ、侵入って言うか襲撃?」

 どうせ似たような事にはなるのだろうが、そこはそれ。侵入と言った方が幾分か大人しめに聞こえるものである。

 もう一つのツッコミどころはユゥミィが引き継いでくれた。

「マイリはユリトの居場所が分かるのか?」

「薄らと、ですが。なぜかユリトの魔力だけは手に取る様に分かるんですよね。もちろん、距離が遠ければ分かりませんが」

「……なるほど、つまり不思議センサーと言う事だな!?」

「い、いえそれは……それで良いです……」

 説明が面倒になったらしい。ため息交じりに肯定する。多分、それが正解だろう。今ユゥミィに深く理解させるには時間も気力も足りていない。教えるのならば、せめてこの件を片付けてからにした方が無難である。

「って訳だから、ディーラ、一発かましてやれ」

「ん、りょーかい」

「では僭越せんえつながら私も」

 魔晶石が握られた片手を空に向けるディーラに、両手を前に突き出し魔力を収束させるマイリエル。どちらともなく、魔法を吐き出した。

「ザラマンダー・バスター」

「ディアシャーレス・バスター」

 光と炎の砲撃がアーリッシュ城へと突き刺さる。それを見て、ユクレステはすぐさま指示を飛ばした。

「行くぞ!」

 二匹の飛竜と一匹の悪魔が、堅牢なる城へと突撃した。



 危なかった。ほんと~に危なかった。後数センチだけでもズレていたら一体どうなっていた事か。

 ユリトエスは滝のように流れる汗を拭く事もせず、恨みがましくエイゼンへと振り向いた。

「ちょっとエイゼン、君の教え子とんでもねーんだけど!? あれ下手したら余に直撃だよ? 非力な余だったら一秒で溶ける自信あるね!」

「い、いえまあ……元気があって良い事ですな!」

 ほっほっほ、と老人が笑い声をあげる。こんな時だけジジイっぽくなりやがってと内心で恨み事を言い、見事に空いた空を見上げる。天井を崩したのはユリトだが、昨日一応の修復はしたのだ。と言ってもキートゥに頼んで石を嵌め込んだだけだが。

「ま、まあ良いさ。これもマイリっぽいし」

 光の砲撃魔法はマイリエルが良く放っている魔法だ。ユリトエスからすれば見慣れた魔法の一つでもある。……その用途が、大体ユリトエスお仕置き用と言うのが涙を誘うが。

 空から急降下する物体を見て、逸る気持ちを抑えつける。ようやく夢見た光景を叶える事が出来る。

 そう思い、三つの影を見上げた。

「……ん? 三つ?」

 二つは飛竜。一つは人の形をしたなにか。予定ではマイリエルが単身乗り込んで来ると読んだのだが、助っ人でも呼んだのだろうか。訝しげな視線を向け、次いでその瞳は驚愕に見開いた。

「ユリト! 見つけましたよ!?」

「久し振りだな、バカ王子!」

「マイリ! ……に、ユッキー!?」

 予想だにしていなかった珍客に、ラスボス然とした体裁を忘れ素っ頓狂な叫びを上げてしまった。



 飛竜から飛び降り、即座に飛竜達は空へと舞い戻って行った。それを見送ることもせず、ユクレステは久し振りに出会った黒髪の少年に声をかける。

「相変わらずバカ王子みたいな面してるな、バカ。あ、間違えた。バカみたいな面してるなバカ、だった」

「違うよ! それだと完全にバカ扱いじゃん!? って言うかそもそもバカにされてる気しかしない!」

 久し振りのツッコミに、不思議と笑みが浮かぶ。そんなユクレステを押し退け、マイリエルが一歩前に出た。

「ユリト、バカな真似を止めなさい! 貴方がバカなのは割と前から……具体的には貴方が言葉を喋るようになった辺りで察していましたが、ここまでバカなことをするとは思いませんでしたよ!? そこまで民からバカバカ言われるのが嫌だったのですか? 早く言って下されば、他の方々は無理でも私だけは、ユリトって頭良いですよね、って言ってあげたのに……本当にバカなんですから!」

「マイリー! 温厚な余でも怒る時はあんだからねー! って言うかそれ止めて! 哀れまれてるみたいでかなりキツイ!」

 ユリトエス、涙目である。

 怒鳴ってマイリエルの口を噤ませ、コホンと場の空気をやり直す。

「ふっふっふ、良く来たな、マイリエル・サン・ゼリアリス! だが貴様一人で余を打ち倒すつもりか――って一人じゃないんだよ! このカンペ使えねー! あーもう! とーにーかーくー!」

 ベシ、と一冊のノートを投げ捨て、今まで取り繕って来た姿を投げ捨ててユクレステ達を睨みつけた。

「良い!? とにかく余の目的のために駒にしてやるから覚悟しろよ、マイリ! あとユッキー! なんでここに来てんのさ!? って言うかなにで知ったの!?」

「え? ビゴーの砦で。ほら、マイリエル様にリベンジしようとしてジルオーズから飛竜借りて飛んで来た」

「えー。ちょっと待って、色々説明欲しいんだけど? まずさ、なんでそんなにジルオーズと仲良さげなの?」

「いや、なんか派手な親子喧嘩に巻き込まれてさ。ウォルフって言う……ほら、コルオネイラの闘技大会で風狼を仲間にしてた奴。あれがジルオーズ本家の子だったみたいでさ」

「……えっ!?」

「ちなみに切っ掛けはシャシャの姉が操られたライゼスさん達から鍵を盗んだ事から始まったんだけどな? いやー、シャシャよりもずっと危険だぞ、あのシャロン

「やっぱりか! やっぱり鍵盗んだの君か!? そしてジルオーズには厄介者しかいないの決定! シャシャちゃんよりやばいってどういう事さ! いきなり辻斬ってくるのよりやばいってどんだけだよ!?」

「でまあ、さっき言った通りリベンジに行った訳だ。今回はちゃんと勝ったぞ」

「マジで!?」

「……本調子ではなかった、とは言い訳にはなりませんか?」

 頭を押さえながら一つ一つ質問していき、打てば響く鐘の音のように次々とツッコミを返していく。それがなんだかとても楽しいように思えて仕方がない。

「で、まあそこでおまえが映ったって訳だ」

「あー、見てたんだ。余の晴れ姿」

「ええ、見ていて気分が悪くなったのはこれで二度目ですね」

「マイリひどい!?」

 けれど、そこで途切れてしまった。しょせん近況報告みたいなものなので、そう多くを語ることは出来ない。ユリトエスからは話す事はなにもないのだから、余計に。

「なんだ、やっぱりユリトはユリトだな。いつもとちっとも変わらない」

「これでも変わったと思うけどなー。ユゥミィちゃんはあれだね、ちょっと胸大きくなった?」

「なにっ!? 本当か!」

「あ、ごめん。服が伸びてそう見えるだけだった」

「…………」

 一瞬でユゥミィの表情が暗くなった。

「ディーラちゃんは……うん、聞いたよ? なんかスゴイ征戦車を倒したんだってね?」

「そ。真っ二つだったかな?」

「……マジで? あれ確かゼリアリスの防護障壁が搭載されていたはずだよね? それを真っ二つ? ……うーん、あの子大丈夫かなぁ。ちょい心配」

 起きたばかりの赤子キートゥを心配するユリトエスは、まあすぐ分かるからいっかと頭を振る。

「ミュウちゃんも大丈夫だった? ライゼスっておっさん、あれで英雄だから強いと思ったけど……」

「えと、力なら、なんとか勝てました……」

「いやー、馬鹿力に磨きがかかったようですね。その顔でその怪力……これがギャップか。あ、シャシャちゃんは元気? ちゃんとユッキーの妾になれそう?」

「おいっ!?」

「多分、大丈夫です。ご主人さまもシャシャちゃんのこと、大好きですから」

「ミュウさん!?」

 恥ずかしい事をあっさりと言ってのけるミュウに思わず視線が向く。本人は分かっていないようで、ユクレステがなにに驚いているのか首を傾げていた。

 共に旅をした四人と言葉を交わし、満足したのか、ユリトエスはマイリエルに顔を向ける。

「……お帰り、マイリ。怪我、してない?」

「……平気です。それよりユリト、風邪を引いていませんか? 少し、声が掠れていますよ?」

「はは、それこそ問題はないよ。バカは風邪を引かないって言うだろう?」

 前に一度寝込んでいたじゃないか、とは言わないでおく。なんとなく、二人の会話を途切れさせたくないのだ。

「あのバカ伯父上、マイリを戦場に送ったんでしょ? 余は心配で心配で……」

「今さら私を心配することなんてないでしょう? 私の強さは、貴方が身に染みて分かっているはずですよ?」

 ああ、その通りだよ、マイリ。余は君を良く知っている。

 微笑みの中にそんな言葉が浮かんだ。けれど、それを口にする事はない。一度開きかけた唇を、キュッと結び直す。

 そうして、次の瞬間には、口角をつり上げた。

「さて、それではちょっとした雑談タイムは終わりにしよう。これから先は……」

 首に下げた灰色の意思を取り出し、撫ぜる。

「余の目的の成就のために、君にはちょっとだけお付き合い頂くよ。なお、ご招待されていないお客様におかれましては――」

 そして、

「この子の遊びに付き合って貰いましょう。――キートゥ」

 赤と黒の文様が浮かび上がり、巨人が彼の背後に現れる。

「……百年の妄執に、終止符を打とうじゃないか! それがゼリアリスの悲願なんだろう!?」

 真っ直ぐに射られた琥珀色の瞳が、ジッとマイリエルを見つめていた。

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