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聖霊使いへの道  作者: 雪月葉
セントルイナ大陸編
86/132

再戦――リベンジ

『ん? 変ではないのか、それは? だってアレンシー殿達を操っていたのはアーリッシュと言う国なのだろう? で、扉を開こうとしているのは彼らだと精霊様は仰った。なら、どうしてそこでゼリアリスと言う国が出て来るのだ?』

 最初は半信半疑だった。ユゥミィが首を傾げて言った言葉に、確かに変だなとは思いはしたのだ。

 ゼリアリスがアーリッシュと仲が良いと言う噂は聞いていた。そして思い至ったのは、アーリッシュとゼリアリスが共謀しているのではないかと言う考えだった。それを考えれば、色々と辻褄が合う様な気がして来た。

 そもそも、アーリッシュで開発された征戦車がどのようにしてアークス国へと持ち運ばれたのか。ヴァセリアが言うには、この国に帰って来たのは一月と少し前。アークス国北東の海岸に下ろされ、隠れるようにやって来たのだと言う。

 船で来たという事だ。だが、あんなものを普通の客船に乗せられるはずもなく、どこかの軍船が運んだと思い至る。そこまで考えれば、それがどの国の船なのかも。

 あれほど巨大な物を運べる巨大な船は一つしか知らない。そして、ちょうどその時期、ゼリアリス国保有の巨大戦艦、ブルートゥ号はゼリアリス国から離れていた。名目上は、ユリトエス王子の迎えである。

 ゼリアリスがアーリッシュと繋がっていた。それならば、今回もまた同じようにアーリッシュが加勢してくる展開が見えて来る。

 その後、ライゼスやソフィア、ヴェリーシェと言った者達の助言を受け、一つの場所にライゼスを含めたジルオーズがアーリッシュに向かう事になった。なぜジルオーズが、と聞けば、当主であるヴァイオルが言葉少なにこう語った。

『彼奴らはジルオーズに刃を向けた。ならば、力でもって返すのは当然だろう』

 流石に貴方はいけませんけどね、とソフィアに言われたヴァイオルの背中は、どこか寂しげであったとか。

 一方、ダーゲシュテンへの援軍は、まさに勘のようなものであった。あれほど用意周到な人物が、ただユリトエスを迎えに行かせるためだけにブルートゥ号を向かわせるだろうか。そう発したのだ。なにを隠そう、これまたユゥミィが。



「それで本当に襲われてるってんだから、ビックリするよなぁ」

「ふふん、どんなもんだ!」

 褒めて褒めてと頭を突き出して来るユゥミィを優しく撫で、ユクレステはマイリエルへと向き直る。

「そう言う訳で、二つの戦場はあなた達の思惑通りにはならないですよ。ダーゲシュテンは言わずもがな、アロイ草原もライゼスさんが部下を率いて当たっています。ここであなたを倒し、士気を下げるくらいの時間は楽に稼いでくれる。ここまでだよ、ゼリアリス。扉をこじ開けようとしてるみたいだけどな、秘匿大陸に行くのはこの俺だ」

 子供のようではあるけれど、少なくともこんな無茶な事をしでかすベリゼルス王には譲るつもりはないのだ。今ここで見逃せば、秘匿大陸でも同じ事をするかもしれない。そんな負を撒き散らすような王を、同じ夢を目指すユクレステは許すつもりはない。

「そのために、太陽姫。まずはあなたを超えてやる!」

「……生意気、な。私は、ユリト、を……」

 もはや彼女の瞳に相対者は映っていなかった。彼女は今、ただ目の前の邪魔ものを屠るだけの駒となり下がっている。それを不憫に思ったのか、セイレーシアンは少しだけ悲しそうな声で語りかけた。

「哀れね、貴女も。そんなに、ユリトエス王子を想っているのにどこにも向かないなんて。ちょっとだけ同情するわ」

「……私が、ユリトを……」

「……えっ!?」

 セイレーシアンの言葉を聞き、一拍遅れて驚きの顔を彼女に向ける。

 太陽姫が、ユリトエスを想っている? なにそのホラー。

「ユクレ、その顔はなによ。まさかあれ見てなんとも思ってなかったの?」

 そんなユクレステの表情を読み取ったセイレーシアンは心底呆れたようにため息を吐いた。

「い、いや、てっきり操られてあんなこと言ってるのかなーって。逆にセレシアは良く分かるな」

「バカね。ユリトエス王子の名前を言う時にだけ熱が入るでしょ? 私がユクレを呼ぶ時と同じだもの。それくらい分かるわよ」

 なんだか少し惚気ているのだろうか。少し居た堪れなくなった空気を壊す様に、コホンと咳払いをした。

「と、とにかく、それなら彼女をこのままにしておくのは忍びないよな。尻に敷かれる未来しか見えないけど、ユリトのためにもここは勝つぞ!」

「尻に敷かれるって言うか……馬車馬の如く?」

「うーむ、ユリトなら割と喜んで受け入れるのではないか?」

「お似合い、だと思いますけど……」

 一名しか祝福の言葉はなかった。この場にマリンでも居れば面白可笑しく場をかき乱してくれたのだろうが、今頃東の海で騒いでいることだろう。諦め、素直に戦闘態勢を取った。

「兎にも角にもまずはリベンジを果たすぞ。勝たなきゃならない時には勝つ、そう決めててな。悪いけど、今この時は負けるわけにはいかないんだよ!」

「私は……ユリトの、ために……」

 マイリエルの光剣が輝きを放ち、戦闘の開始を告げた。



 光を両腕に纏ったマイリエルと真正面から衝突するのは、黒い魔力を纏うミュウ。どちらも聖蜜魔法によって強化され、一撃の威力は途方もない。だが、マイリエルは彼女よりも剣技に優れ、さらにスピードも上だ。

「聖光――煌剣」

「っ……!?」

 光を発した剣が一瞬でミュウの頬を掠める。咄嗟に大剣を横に倒したお陰で伸びるような突きを回避出来た。しかし、さらなる追撃に思わず目を閉じる。

破砕ブラスト!」

 だがそれをさせじと空気が炸裂してマイリエルを押し返す。

「セレシアさん……」

「ミュウ、無理をしないで。あれと真っ向からやり合おうとすれば間違いなくやられるわ。いい? 私に合わせて」

「は、はいっ!」

 一呼吸吐き、セイレーシアンはグンとマイリエルへと突貫した。

「ハァ!」

「……」

 お互いに剣戟が繰り出され、剣のぶつかり合う音が響き渡る。強化をしたマイリエルに対抗するために両腕で剣を振っているため、セイレーシアンが魔法を使う事は出来ない。しかし、一人ではない今ならばそれも対して苦にはならない。

「いくぞディーラ、ユゥミィ! シルフィード――」

「了解。ザラマンダー――」

「私に任せろー! ユグディア――」

『――ファランクス!』

 三種の上級魔法がほぼ同時に発動する。風、炎、大樹の巨槍が放たれ、マイリエルを襲撃した。

「……オーバーレイ・ディアシャーレス」

 それを迎え撃つように光の纏った斬激を繰り出した。ぶつかり合う剣と槍。ビシビシと足元のレンガがひび割れて行く。

「天成の双脚ハオマ

 消滅させるには至らないまでも、かなり威力を弱めた魔法を見て、マイリエルは即座に強化魔法を両脚に発動させる。

「……エクスプ・ディアシャーレス」

「っ! この――」

 回し蹴りで魔法を弾き返すと言うとんでも技を見せつけ、慌ててユゥミィがユクレステ達の前に出る。両手に構えた盾で魔法の残り香から防御し、ふ、と気を抜いてしまった。

「あ、ユゥミィ。上」

「なに?」

 顔のすぐ側に光の玉がゆっくりと落ちて来る。気付いた時には、発動態勢は整っていた。

「のぉおおお!?」

「ストームカノン!」

 それを危険と判断し、咄嗟にユクレステが風の砲撃で吹き飛ばした。なにを? もちろん、ユゥミィを。

「あ、あ、あ、主ぃいい――!?」

「いやだって、これが最善だったと思うんだけど? なあディーラ?」

「そうだね。あの光球を吹き飛ばすのは無理。それならユゥミィを……うん、理に適ってる」

 いたくご立腹のユゥミィ。だがそこは勘弁して欲しい。兜を被った万全の状態の、パーフェクトアーマーユゥミィならばそのまま囮として魔法の一撃を受けていたはずである。流石に頭が剥き出しになっているための救助措置だ。ちょっと吹き飛ぶくらいは仕方ないのである。

 そう自分自身に言い訳をしながら、ユクレステは苦笑いを浮かべた。


 光球が爆発した瞬間、セイレーシアンはさらに動いていた。後ろの掛け合いなど気にも留めず、剣を打ち込む。

「ミュウ!」

「……は、はいっ!」

 ギィン、と弾かれるように後ろに跳び退り、直後に入れ替わるようにミュウが大剣を叩きつける。

「――っ!」

 強化が脚へと移っているためにミュウの一撃を無視できないマイリエル。両腕で剣を支え、めり込む足元から光の魔力を放出した。

 マイリエルが押し出すようにミュウの体を退け、体勢の崩れた所へ人差し指を向ける。

「ディアシャーレス・オルレアン」

「飛びなさい! 目いっぱい!」

「っ――ぃ! 混濁の双脚ハオマ!」

  辺りに瓦礫の破片を撒き散らしながらミュウが跳躍する。それを追うように光の糸が天へと昇って行った。セイレーシアンはチラリと横を見る。

「初めまして、悪魔さん。セイレーシアン。ユクレの……妻よ」

「……初めまして。なんか、納得しちゃうね。キミ見てると」

 言葉を交わし、お互いに微笑み、すぐに表情を引き締め魔力を解き放つ。

「刀身熱き炎の刃、焔の如く切り裂き燃えろ――ブレイズ・エッジ!」

「――ザラマンダー・ブレード」

 瞬間、二筋の赤い炎が噴き出した。間髪入れずに二人は魔法剣を振り切り、マイリエルの魔法を切断する。

 しかし彼女の攻撃は未だ終わっていない。

「ディアシャーレス・ファランクス」

 城門さえ吹き飛ばす高威力の魔法がミュウへと向けられる。咄嗟に助けに向かおうとするセイレーシアンに、ユクレステの声が届いた。

「全員、最大火力!」

 その言葉で即座に思考を攻撃のそれへと変更する。ユクレステが攻撃を防いでくれると信じて。

「って訳でユゥミィ!」

「うぅ、やっぱり嫌な予感が……」

 しかしまあ、ユクレステにマイリエルの攻撃を防げないことは以前からも分かっていたことだ。それを一か八かでやる気概は今のところない。だからとりあえず、確実な所からもって来ることにした。

「大丈夫大丈夫、人間やる気になれば飛べるから!」

「私はダークエルフなんだけど……」

「さあ行け、シルフィード!」

 ユゥミィの背に手を当て、円陣を起動する。放たれるのは突風。光の巨槍が空を駆けるのと同時に、ユゥミィは空を舞った。

「ひぃいいん! り、リンクタワー!」

 ボウ、と魔力を帯びる二つの盾。それを持つユゥミィが、ミュウとマイリエルの間に入り込む。

「こ、のぉお!」

 苛立ちをぶつけるように盾で巨槍を殴り飛ばす。その瞬間、眼下で魔力の爆発が起こった。

紅蓮腕ぐれんかいな。ぶっ飛べ」

「ハァアア――!」

「――っ!?」

 ディーラの炎の拳がマイリエルを殴り付け、そこで出来た隙をついてセイレーシアンが突撃。左手で刀身を撫で、魔力を付与して高密度の一撃を繰り出した。

「ユゥミィさん!」

「うん?」

 重力に引かれ落ち行くミュウが、若干上昇中のユゥミィに声をかける。どうしたのかと首を傾げ、

「ごめんなさい!」

「ぎゃん!?」

 頭を強かに踏みつけられた。

 ユゥミィを踏み台にさらに高く跳ぶ。大剣の重さを最大にし、さらに両腕に強化をかける。

「混濁の双腕ソーマ……」

 そして残るは、剣気を刀身に流し込む。淡く光る大剣。ミュウはそれを大上段に振り上げ、落下速度を利用しマイリエルへと――

「剣気――地崩!」

 叩きつけた。

「天成の双腕ソーマ――っ!?」

 咄嗟に掲げた剣と剣がぶつかり合う。黒と光の魔力を纏い、二つの力が重なった。砦が悲鳴を上げ、瓦礫片が舞い上がる。

 辺りは砂煙が充満した。


「ひゃう……!」

 ミュウがドシンと尻餅をついた。弾かれるようにして離れる二人の戦士。マイリエルはガシャリと剣を取り落とし、膝をついて顔を伏せる。

「……やった?」

「どうかしらね。その一言でさっきは無傷だったけど、今回は流石に……」

 ディーラとセイレーシアンの攻撃によって鎧に大きな傷が付いたマイリエル。それでも未だに倒れ伏してはいない。警戒はそのままに、ユクレステ達はマイリエルの動きを待った。

「――私は……」

 動いた。その瞳は僅かに濁り、それでも確かな輝きを称えている。

「……どっちだ?」

 いつでも迎撃できるように杖を握り締め、次なる言葉を待った。

 その時、

「いたた……ん? 主、なにか降って来るぞ?」

 頭を擦るユゥミィが空を指差してそう言った。つられるようにそちらを向き、確かに何かが見える。それも、かなりのスピードで落下していた。

「な、なんだ?」

 言っている間になにかは砦にズシャリと重たい音を立てて着地した。

 金属の光沢を放ちながらユクレステ達の前に現れた、丸い卵のような機械。どうやって跳んで来たのか疑問が残る造形のそれは、体の上部が突然開きだした。

「こ、これは……主! 変形だ! 変形しているぞ!?」

 どうやらユゥミィの琴線に触れたようだ。目をキラキラと輝かせ、嬉しそうに成り行きを見守っている。もちろん、そう思っているのは彼女だけで、ディーラなどはさっさと魔法でぶっ飛ばしたいと考えていた。

 ユクレステもどうしていいのか分からず、再度それを見る。と、突然、

「うわっ!?」

 光のようなものが空へと放たれた。同じような光が離れた場所から四つ発生し、四角く切り取られた光の窓が空に出現する。そして、卵のような物体から大音量の声が流れ出した。

『あー、あー。ただいまマイクのテスト中、ただいまマイクのテスト中。……ん、まあこれで良いか」

 未だに少年の域を出ないであろう少年の声が戦場に響き渡る。

『えー、この放送はビゴー荒野、アロイ草原両戦場にライブで発信しています。ただそっちの状況は見れないんで一方的になっちゃうかと思うんだけど……まあ、そこら辺は多めに見てね?』

 てへ、とわざとらしい言葉に、ユクレステが首を傾げた。聞こえて来る声が、どうにも聞き覚えがあるのだ。それは他の面々も同じらしく、訝しげな表情をしている。

「この声って……」

「…………えっ?」

 マイリエルが顔を上げた。その声を聞いた瞬間に濁った瞳は洗い流され、驚愕の表情で空の窓を見上げている。

 そして、その窓に何者かが映った。

 小柄な少年で、黒い髪と琥珀色の瞳。顔にはふてぶてしいまでの笑みが張り付き、勝ち誇った声でその場にいる全てに言う。


『それじゃあ一応自己紹介といこうか。余はゼリアリス国が王子、ユリトエス・ルナ・ゼリアリス。たった一人のクーデター犯でっす』


 ニヤリと笑む彼の姿は、戦場を呆気に取らせるには十分過ぎるものだった。

少し短めで申し訳ないです。こんなことなら前回の分を少しこっちに回すべきでしたね。

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