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聖霊使いへの道  作者: 雪月葉
セントルイナ大陸編
83/132

選択――オルタナティブ

 ゼリアリスがルイーナに対して宣戦布告を行った。その話を聞いてから数日。ついにルイーナ国のゴビー荒野にて戦争が始まったとの情報が各所へと知らされた。ユクレステはあちこちに連絡を回していたヴェリーシェから詳しい事情を聴き、神妙な面持ちで瞑目する。

「太陽姫まで出張ってるみたいだからなぁ。相当本気なんじゃないのか?」

 かつて相対した少女の姿を思い出したのか、ライゼスがぶるりと背を震わせて言った。

 確かに彼の言う通り、ゼリアリスが最高戦力を前面に押し出して来たという事はそれだけこの戦いに本気で挑んでいると見て良いだろう。

 なぜ突然戦争を起こしたのかまでは広まっていないようだが、それも仕方ないさろう。ユクレステ達も、とある精霊の言葉を聞くまでは理解出来なかったのだから。

「くふふ~。さぁて、ついに始まっちゃったわねぇ。人間の大罪が一つ、強欲。どこまで喰い込めるのか見物だわぁ」

「止めなさい。みっともないですね、精霊が人の争いを見て笑うなど趣味が悪いですよ」

 クスクスと宙に腰掛けながら可笑しそうに笑う風の主精霊、シルフィード。氷の主精霊、アリスティアがそれをたしなめた。

 人を見守りし存在である主精霊がなぜこの場に居るのかと言うと、それは全て彼女達の契約者の行動を待っているためだ。

「……さぁて、それじゃあそろそろ応えて貰おうかしら? どっちを選ぶのか」

「その言い方はどうかと……まあ、良いです」

 ズイ、と顔を近づけるシルフィードと、横目でチラチラとユクレステを見るアリスティア。二人の精霊がちょうどユクレステの前にいるため、主語の無いシルフィードの言葉のせいで見ようによっては修羅場に見えない事もない。

『マスター! 選ぶんなら私だよね!?』

「マリン、分かっててそのネタ振ってるだろ?」

「え、と……ご主人さま? シャシャちゃん達が来ました」

「な、なんなんスかこの状況……」

 扉から入って来たのはミュウとマリン、その後ろからはシャシャとウォルフが現れた。状況の分かっていないシャシャが首を傾げながら問いかけた。それに答えたのは、コロコロと笑っているシルフィード。

「人間が果たさなければならないとても大切な事を催促しているの。そうでしょう? アリスちゃん」

「それを面白半分で問うな、性悪精霊。ユクレステ、良く考えて答えなさい。その言葉一つが、貴方の未来を決める選択になるかもしれないのですから」

 シルフィードと違って重みのある言葉にぐっ、と呻く。ユクレステは一つ深呼吸をしながら、選択を迫られた時の事を思い出していた。




「ゼリアリスが、宣戦布告!? なんでまたそんな状況になってるんだよ?」

 ヴェリーシェからもたらされた情報に、皆一様に驚きの表情を作っている。あのウォルフでさえポカンと口を開きっぱなしになっていた。

「あぁ、ヴィルのあの表情……カワイイ……」

 若干一名、別の事に思考がいっているお姉様がいるが。

「詳しい話はまだ情報待ちだけど、なんか噂ではルイーナの王族の人が勝手に侵入してゼリアリスの関所を無理やり止めちゃったみたいなのよね。でもそんな事普通しないわよねぇ……って、どうしたのあんた達?」

 なんだかとても聞き覚えのある話に、ユクレステとウォルフは微妙な表情を浮かべる。確かに、ルイーナの王弟であるロイヤードがゼリアリス国のコルオネイラで魔物だけの闘技大会を開いた事はあった。しかも、ルイーナからの追手を足止めするために関所を封鎖していたのは確かだ。当時は特に深く考えなかったが、それだけ勝手をやったのならば相手方が怒るのも無理はない気がしてきた。

「……と言ってもあれから大分経ってるし、それまで全然反応なかったのに突然言って来るのは変だよなぁ」

「……そうね。でもそうすると、なぜ急に言い出したのかしら?」

 ウォルフから詳しい事情を聞いたソフィアが思案気に首を傾げた。

「さぁて、なんでかしらねぇ~」

「……シルフィード、なにか知ってるのか?」

 あからさまな態度にジト目でシルフィードを見るユクレステ。相変わらずクスクス笑いで答える。

「くふふ、ルイーナの地には未だ誰の目にも触れられていない遺跡があるのよぉ。その遺跡はちょっと特殊なものが置かれているの。それの名はゲート。こことは違う場所へと移動するための入り口よぉ」

「あー、つまり?」

 彼女の言葉にライゼスが首を傾げ、その横でユクレステがポツリと呟いた。

「……秘匿大陸への、入り口?」

 明確な行き方が謎に包まれていた秘匿大陸。その秘密の一部を知っていた王子様は、正攻法では辿り着けないと言っていた。船で渡ろうとしても、空を飛ぼうとも、超巨大魔力障壁である星のカーテンに阻まれ突破する事は不可能。ならば、どう行くのか。

「まさか……転移魔法? いや、でもそんなのはお伽噺にしか……」

 別の場所から別の場所へ。線移動ではなく、点から点への空間移動。構想はいくつも取り上げられてはいたが、実際にそんな魔法が成功したとの報告は上がっていない。けれど、シルフィードのニンマリとした顔は正否を雄弁に物語っていた。

「本来、私たち精霊はあの場所について詳しく述べる事を禁じられています。それでも主が望んだ場合に限り、扉を開く手伝いをする。それが、私たち主精霊とあの方と結んだ一つの契約です」

 唐突に現れたアリスティアが周りの驚く顔など気にも留めずに淡々と説明を続ける。

「……本来ならば扉が見つかるまでは助言はしないのですが。まったく、口の軽い精霊もいたものですね」

「あら、時間の問題よぉ。だってゼリアリスが扉を求め、あの場所を目指すのならどの道扉は開いたでしょう? 要は速いか遅いか、どちらが後か先か。そして選択は、今この時に果たすべきなのだから」

 ニコニコとした笑みの中に言い知れぬ迫力が今のシルフィードにはあった。ゴクリと緊張に唾を飲み込み、ユクレステは問うた。

「それで? その扉って言うのはどこにあるんだ?」

「ユクレステ・フォム・ダーゲシュテン。おまえの質問はそうではないです。そうでしょう?」

「えっ?」

 スッと真正面から見つめられる。アリスティアの青い瞳がユクレステを捉え、試す様に責め立てる。どう言う事なのか分からず、首を傾げた。

「えっと……つまりどういうことだ?」

「くふふ~、そこの頭の弱そうなダークエルフちゃんにも分かり易く言うとねぇ」

 チラリとユゥミィを盗み見たシルフィードが、彼女の質問に答えるように言う。

「今貴方の前には幾つかの道があるわぁ。例えば、扉を開き、秘匿大陸へと渡る道。例えば、扉が閉じて秘匿大陸への道を閉ざす道。そこに付随する幾つもの事象を込み込みで、選択と言う道がね。貴方は一体、どれを選ぶのかしら?」

 くふふくふふ、と笑いながら、右手と左手の人差し指を上に向けた。

「そんなの決まっている! そうだろう? 主!」

 主ならば間違いなく秘匿大陸へと渡る道を選ぶ。そう確信してユクレステに視線を向ける。だが、当の本人はどうにも難しい顔をしていた。

「…………」

「……主?」

「ご主人さま?」

 どうにも腑に落ちない点がある。いや、話としては単純だ。秘匿大陸へ行くか、行かないか。それだけで言えば、間髪入れずに前者と答えるだろう。だが、その質問をしたのが精霊だと言うならば、躊躇してしまう。

 精霊とは人を見守り、力を貸す存在だ。同時に、人に試練を与える側面を持っている。アリスティアやシルフィードがそうであったように、全てを善意として捉えるのにはやや抵抗があった。

 ついでに言えば、シルフィードと言う存在に疑問を感じていると言うのもある。もしこれがアリスティアから直接言われたのならば、幾分かは信じただろう。しかし、今回の話をしたのは風の主精霊様だ。彼女の性格を良く知っている者としては、素直に頷けない。なにせ彼女は、もの凄く性格が悪いのだ。性根がひん曲がっていると言っても良い。

「……選択するに当たっての注意点なんかはあるのか?」

「もちろんあるわよぉ。ふたぁつ」

 一つは、精霊と契約している必要があると言うこと。扉を開くためのエネルギーとして精霊の力が必要なのだと言う。だが、問題はもう一つ。

「多分、貴方にはこっちの方が重要なんじゃないかしらぁ? くふふ、詳しくは言えないけど、道を選ぶとこんな事が起こるって教えてあげるぅ」

「もったいぶっていないでさっさと言え」

「あらあら、こっちの風の子は随分クールなのねぇ」

「や、これはクールとかじゃなくて難しく物事を考えられないだけなのよ。つまりおバカさぁん、ってやつ?」

「…………」

 鯉口に指をかけるウォルフと、慌ててソフィアの後ろに隠れるアミル。二人の事は無視し、ユクレステはシルフィードの言葉に耳を傾けた。

「くふふ、あのねぇ~。ユクレステ・フォム・ダーゲシュテン? 貴方がもし扉を開く道を選んだとしたらぁ……」

 溜めを作って焦らす様に笑みを深める。


「――貴方の大切なお友達が、この世から消える事になるわぁ」


 ゾクリとする笑みでの言葉に、ユクレステの思考は停止してしまった。

「……え?」

「それが誰で、何人で、何時かは言えないし、分からないけれど……これだけは言える事よ。貴方が道を選んだ際に、この戦争に関わっている貴方のお友達は貴方の前から消えてしまうの。くふふ、さぁてぇ……貴方はどれを選ぶのかしらね」

 ニヤニヤとした邪悪な笑いに、ユクレステは完全に気圧されていた。幼少時に彼女と出会い、話をしたあの時と同じように、風の主精霊は悪意に満ちた笑みでもってユクレステを試している。

「そ、それってどういう事なんですか……?」

「つ、ま、りぃ~むぅうう!?」

「……取りあえずおまえはもう黙ってろ」

 ミュウに対しても無意味に不安を煽るシルフィードに嫌気が差したのか、アリスティアが顔の下半分を凍らせて代わりに言葉を引き継いだ。

「念のために言っておきますが、別に私たちが未来を知っていると言う訳ではないです。いかに主精霊と言えど、時の流れに逆らえる程、ことわりを外れた存在ではないですからね」

『それじゃあ、今のって――』

「ですが、冗談ではないですよ? この性悪精霊が言っている事は、多少言い方はあれですが事実ですし。――なぜなら、その選択の是非はあの方の観測に基づいているのですから」

「あの、方……?」

 一瞬アリスティアの瞳が揺らいだのをユクレステは見逃さなかった。それがどういった感情かは分からないが、彼女の心が揺れる程の相手であることを予想する。

 主精霊がそれ程までに敬意を表するモノ。それがなんなのか、思考の途中で遮られた。

「ユクレステ。それとその仲間たち。良く考えなさい。貴方の選択が未来を定める訳ではないとは言え、流れを作り出す可能性があるのは確か。夢を取るか、友を取るか。はたまた両方か。それを為せるかは、結局は人の意思の強さに拠るものでしかないのです」

 なにかを言いたそうにしているユクレステを視線で遮り、シルフィードの髪を引っ掴んでふわりと外へと出て行く。チラリと彼を盗み見て、ポソリと囁いた。

「数日の猶予を与えます。それまでに、おまえの選択を決めておくことです。……個人的には、二者択一にならない事を願っています」

 静かに瞳を伏せるのと同時に旋風が巻き起こり、次の瞬間には精霊の二人はその場から消えていた。後に残された者は呆然としたように一人の少年に視線を向ける。

「……選択だって? これが? こんなもの、選択にすらなってないじゃないか!」

「ご主人さま……」

「……どうするのだ?」

 吐き出すように言い捨て、ユクレステはバッと顔を上げた。主要な人物はまだ揃ってはいないが、今ここにいる人達にだけでも先に伝えておこう。

「皆、悪いんだけど、力貸してくれ」

 精霊達の言う観測者と言う存在が何者かは知らないが、最初からやるべき事など決まっているのだ。秘匿大陸へは行く。もちろん友も失わない。例えそれが、人知の及ばぬ相手による未来予測だろうと。

 聖霊(、、)の思い通りになどさせて堪るか。

「ちょっとこの戦争、止めてみないか?」

 決意の込められた瞳は、その場にいる者達を真っ直ぐに見つめていた。




 ジルオーズの屋敷があるジストの街から歩いて一日程の距離に天上への草原と呼ばれる場所がある。そこは風の主精霊、シルフィードの拠点とされる場所であり、そうそう簡単に侵入出来るような場所ではない。

 その草原の最奥に控える一つの神殿に、二つの強い力が降り立った。

「はぁい、到着~。ようこそ、私のお部屋へ」

「……殺風景ですね。普段からふらふらしてれば物が定着しないのは当然ではありますが」

 エメラルドの髪を持った美女と、透き通るような青白い肌の美少女。どちらも方向性は違うが、人間離れした美しさ、という点では共通していた。

 氷の主精霊アリスティアと風の主精霊シルフィード。二つの巨大な魔力に耐えきれず風の精霊が逃げ出し、突風が吹き荒れる。鬱陶しいとばかりに魔法使いのローブで口元を隠すアリスティアに、可笑しそうにシルフィードが言った。

「アリスちゃん、それそんなに気に入ってるのぉ? 確か昔、人間の着る物なんて美しくないってバカにしてなかったかしらぁ?」

「……それは昔の話です。今の人間はまあまあ着られる物を作ってると言うだけの話です」

「魔法使いのローブなんて三百年は変わりないと思ったけどねぇ? って、冷たい冷たい。いきなり凍らせないで欲しいんだけどぉ?」

「良いから黙れ。さっさと事を終わらせますよ」

 仏頂面をさらにムスッとさせてシルフィードを氷漬けにするアリスティア。照れているのだろうと勝手に判断して、主精霊としては年若い部類に入る彼女をニマニマと眺めた。

 言っても聞かないシルフィードは無視して、アリスティアは一つの杖を取り出した。手から放してもふわふわと宙に浮いている杖。それは、彼女達の契約者であるユクレステが愛用しているリューナの杖だった。

 実は先ほどこっそりと拝借しており、今頃杖が無くなった事に慌てふためいている事だろう。

 そんなこと気にもしない極悪精霊二体。その瞳は、紫水晶アメジストの宝石へと向けられていた。

「……そろそろ起きなさい、産まれたばかりの若き精霊よ」

 そっと手をかざし、精霊の力が宝石へと注がれる。それに反応し、宝石が紫色の光を放つ。その瞬間――

「――再起動、完了」

 バチバチと紫色の雷がシルフィードの神殿を駆け廻り、一際大きな紫電が広間の真ん中に突き刺さった。そこから現れた、一つの影。

「認識、完了。アナタ方ハ精霊デアルト判断シマス。疑問シマス。アナタ方ハ、マスターノ敵デスカ?」

 無表情ながらも、もし敵であれば容赦はしないと放電する。

 紫色の髪を二つに分け、歯車のような髪飾りで留めた少女。人間のようではあるが、彼女の肉体は人よりも人形のそれだった。球体間接に、金属のような腕。どこかチグハグな存在。それが、ユクレステが契約した雷の主精霊、オームの姿だった。

 以前の戦闘で失った腕も修復され、今の彼女ならば全力で戦闘を行えるだろう。まだ産まれたばかりの主精霊に負けるとは思わないが、わざわざ敵対するつもりは最初からない。アリスティアはシルフィードが余計な事を言わないようにさらに氷漬けにし、敵意は無いと肩を竦めて言った。

「私もこいつも、おまえと同じ、ユクレステと契約した主精霊ですよ。分かりませんか?」

「……観測終了。マスタートノ契約ヲ確認。申シ訳アリマセン」

「別に気にしないですよ。それだけおまえが契約主の身を案じていた訳でしょうし。このド腐れ風精霊よりもよっぽど信用できます」

「ぷはっ、アリスちゃん酷いわぁ」

「そんな事よりも単刀直入に聞きます。この問いに答えたくなければ答えなくても良いです。と言うか、おまえ達は喋れないように出来ているかもしれませんし」

「イエ、問題アリマセン。コノ身ハ既ニ魔導力収集機器型基礎機人デハアリマセンノデ。機密情報モ問題ナク提供出来マス」

「流石にそんなものはいらないですが……なるほど、精霊化に当たってそんな副作用が出るのですか。中々興味深い話ですね」

 オームのような存在を僅かに知るアリスティアが少し驚いたように目を開く。少し詳しく彼女を調べたくもあるが、それよりも気に掛かる事があるのだ。オームの事は後回しにしよう。

「それでぇ、なにを聞きたいんだったかしら? アリスちゃん?」

「おまえはもう少しふらふらした生き方を改めやがれですよ。まあ、風になにを言っても、それこそ文字通り何処吹く風なのでしょうけれど。……聞きたいことは二つ。一つは、あの方……聖霊様は今どこに?」

 僅かに緊張したアリスティアの言葉に、オームは質問の答えを探す。しかし、

「申シ訳アリマセン。検索結果ニ該当スル物ガアリマセン」

「……まあ、そうですよね。聖霊と言えばこの世界の神。そうそう簡単にあの方の行方を探し当てる事など……」

「ディエ・アース、ト言ウモノノ所在ナラバ分カルノデスガ……」

「…………ってそれですよ!?」

 聖霊。三百年前の聖霊使いによってその存在が表に出ることになった、この世界の創造主。その姿も、名前も人間には伝えられていないはずである。そんな存在の真名を百年振りに聞いて、アリスティアはつい大声で叫んでしまった。冷静沈着をモットーにしている彼女にしては珍しい失態だ。……果たして本当に冷静沈着であるかはさて置いて。

 聖霊、ディエ・アース。聖霊の名とはこの世界の名でもあり、普通の人間には秘匿されていたはずである。しかし、目の前の人形は精霊だ。聖霊の名を知っていたとしても不思議ではない、のだが……。

「一体おまえは、どこでその名を聞いたのですか? と言うか、おまえを作り出した奴は一体何者? 魔導力収集機器型基礎機人とやらを詳しくは分からないですが、その設計。まるで……」

「私ヲ作成シタ工房ハ、2ndト呼バレル場所。設計者ハ――――――――」

 オームの言葉を聞き、ついにアリスティアの瞳は驚愕に見開かれることになった。隣ではシルフィードが真面目な表情を作り、思案気に指をクルクルと回している。

 彼女の話を聞き終え、アリスティアは思わずハッ、と笑って凶悪に顔を歪めた。

「なるほど、そう言う事ですか……図らずも二つ目の質問に答えてもらえましたね。まだ分からない事はありますが、大まかの事情は理解出来ました。……ユクレステには感謝しておかなければいけないですね。こうしてある程度の情報を得る事が出来た訳ですから」

 歓喜の表情のアリスティアとは反対に、困ったような顔でシルフィードが呟く。

「そうねぇ……。でも、どうしようかしら? 止めた方が良くない? 今行かせたら、厄介極まりない事が起こりそうだけどぉ?」

「バカを言うなですよ。そんなもの、決めるのはすべてあいつです。私たち精霊が、人の意思を定めるような事を言うのは元来禁止されるべき事。一度契約したのなら、黙って好きにやらせるべきです。でなければ、これから先の道を進めるとは思いません」

「それほどまでに困難な道、なのね……。正直、少し可哀そうに思えるわぁ、あの子も、この時代に生きる者達も。秘匿大陸へ行きたいなんて、そんな事思わなければ……」

「言っても詮ない事ですよ。それに、そもそもまだあいつが行けるかも分からないですし……要は、全てがあいつの選択しだいになる訳です。それも、大きな大きな選択に」

 忌々しそうに舌打ちをするアリスティアと、小さく息を吐くシルフィード。オームは彼女達の様子に首を傾げていた。

二者択一オルタナティブ。どうしてもそうなってしまうのですね……」

「それが今の時代よ。そして、これからの時代でもあるけれど……」

「……良ク、分カリマセン」

「……今はそれで良いですよ。どの道、賽は既に投げられたのですから」

 空を見上げながら言ったアリスティアの呟きは、風に乗って飛んで行く。空に映る大気の階段が螺旋状に雲の果てまで伸びて行くのが見えた。その先をジッと見据え、精霊たちの会合は一旦の終わりを迎えるのだった。


色々と表に出せるのは嬉しいのですが、今まで脳内であやふやだったものをキチンと整理しないといけないのは難しいですね。

……まあ、オームを再登場出来たので、いいかなー。

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