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聖霊使いへの道  作者: 雪月葉
セントルイナ大陸編
82/132

王族の邂逅

 セントルイナ大陸の中心に位置する、ルイーナ国。その王都であるルイーナの街から南東に下った場所に、ビゴーと言う荒野地帯がある。そこに立つビゴー砦は、普段ならばやる気のない兵達が雑談を交わしながら警備に就いている事だろう。しかし、今この時は違った。

 その場にいるだれもが厳しい顔をしており、年若い兵士などは真っ青で今にも倒れてしまいそうだ。

「……これはまた。厄介、だね」

「厄介どころの話じゃないわよ。ゼリアリス……練度はどうか知らないけど、数は流石ね。こちらと同等以上と見るわ」

 砦の上から双眼鏡を覗き、眼前の一帯を見渡す人物がいた。だれもが緊張している中、表にはそんな様子を微塵も出さず、それでも内心では一切の警戒を解いていない。

 彼は現在、このビゴー砦で全軍の指揮をする人物で、ルイーナ王の嫡子、アランヤード・S・ルイーナだ。彼の傍らには壮年の男性が一人と、燃えるような赤髪を二つに結った女性が鎧姿で並んでいた。

「さて、王子。これからどうします? 早速仕掛けますか?」

 壮年の男が試すような視線でアランヤードを見つめる。彼は苦笑し、肩をすくめて男に言葉を返した。

「……そうだね、太陽の一撃を防げる人材がいたら是非特攻してもらいたい所だよ。セレシア、行ってみるかい?」

「冗談。今の私一人じゃまだまだ勝てる気がしないわよ。そう言う事はもちろん、総隊長様にお任せするわ」

 そう言ってセイレーシアンは、ルイーナ国軍を率いる総隊長、フレンシボル・アイズを見た。彼もまた冗談ではないと首を振り、敵軍を睨みつける。

「セイレーシアンがああも簡単にやられている所を見ると、どうにも勝てるビジョンが浮かびません。それは多分、全員そうなのでしょう」

 浮足立つ兵士の理由は恐らく二つ。一つは、単純に国同士の戦争と言うものが初めてだと言う事。ルイーナ国では、山賊や魔物相手での戦闘は経験があっても、国対国の争い事はこの百年程無縁であった。そのため、必要以上に緊張してしまっている。

 それが大体五割。もう半分は――――相手方に最強との名高い太陽姫、マイリエル・サン・ゼリアリスがいるからだ。

 少し前に彼女はルイーナ国へ招待され、その席で期待の新人であるセイレーシアン・オルバールと一戦交えることになった。結果は、マイリエルの圧勝。剣同士の立ち合いではあったが、魔法を使用しても勝てるかは分からない。それほどまでに、強大な戦力なのだ。

 噂では一人で千人をも屠る事が出来ると言う。実際に、一騎当千の動きを見せているために否定の材料が生まれないのがさらなる問題である。

「…………」

 セイレーシアンは周りを見渡し、兵達の士気を見る。明らかに低い。今すぐにでも便所へと引き篭もってしまいそうだ。

 彼女自身、幾らか緊張の色を見せている辺りこの場の緊迫感が伝わって来るだろう。

 その中で唯一普段と同じ表情を保っているのが、ルイーナ国の王子であるアランヤードだった。

「とにかく、しばらくは静観だ。第一級警戒態勢は解除せず、魔法部隊は全て所定の位置に。今は待ちに徹して士気を上げなければそもそも戦闘にすらならない。セイレーシアン。君は万が一のために前線に。レイグ中隊長の補佐として小隊長に任命する。頼んだよ」

「了解」

 深く頭を下げ、スッと背筋を伸ばして去って行く。友人の晴れ舞台を見るような気持ちで彼女の背を送り、フレンシボルに声をかけた。

「アイズ隊長は私の補佐を頼もうかな。なにせ私も初めての戦場だ。なにかミスをすると困る」

「それを言えば私も似たようなものですが……。しかし王子ならば問題はないでしょう。人員の配置も策も、我々が考えるものとあまり変わらない。……いえ、一つだけ違いますが、それは……」

「まあ、問題はないよ。それでなんとか士気を上げなければ勝ち目がない。なぜかあちらさんはかなりのテンションだからね。戦争なんて仕掛けている訳だから、異様な雰囲気なのが普通なのかもしれないけれど」

 着々と築き上げられる戦場にため息を吐き出しながら、敵軍の様子を眺める。異様に昂った魔力が視認でき、取り分け巨大な塊が存在している。あそこにいるであろう、太陽を思いながら苦笑を浮かべた。

「やれやれ……一体だれだったっけ。太陽姫が公正公平である、とか言ったのは。その割には、ゼリアリスにかなり一方的な宣戦布告をされたけど」




 思い出されるのはつい先日。隣国ゼリアリスから仰々しい書が届いた時の事。書かれていた内容は、ゼリアリス国へ無許可で侵入し、賭博行為を行い、その過程で流通をストップさせゼリアリス経済に大きな損害を与えた、ルイーナの王族がいたということ。

 色々回りくどいような事が書かれていたが、それをアランヤードは一つの文章に纏め上げた。

 要は、とにかくルイーナのせいだから武力行使しますよ、と。

 セイレーシアンからはとても分かり易いと評判だった。他の者達は青い顔をして開いた口が塞がっていなかったが。

「ま、待ってくれ!」

 その後一番に名乗り出たのは、ロイヤード・アレイシャークティアラ・モーディナリディアナ・ルイーナ十二世。本名、ロイヤード・S・ルイーナ。アランヤードの叔父であり、手紙に書かれていたゼリアリスで好き勝手やった人物である。彼は青い顔をして玉座に座る兄、レイヤード王に向けた。

「兄上、確かに儂はコルオネイラで魔物限定の闘技大会を開いた! しかしそのための申請はコルオネイラの街長に届けたはずです! ベリゼルス王の許可も得たと言っていました!」

「……しかしこれには無許可で、と書かれておる。それに、関所を封鎖したのもおまえだろう?」

「わ、儂はそんなつもりは……ルイーナから来る王族を足止めするだけだと言っておったのだが……」

 声が小さくなるロイヤードを眺め、ルイーナ王は深々とため息を吐き出しながら言った。

たばかられたか……」

「えっ?」

 聞こえなかったのか首を傾げるロイヤード。アランヤードは一歩前に出て声をあげた。

「陛下。発言をお許し下さい」

「うむ」

「この一件、恐らく叔父上は騙されたのでしょう。許可を得ていると言うのもウソ、関所を封鎖したのも、恐らく叔父上の言葉をわざと拡大解釈しての事。最初から、叔父上は騙されていたのです」

「で、あろうな。私もそう思う。それも、恐らくはベリゼルス王の手の者だろう」

「つまりこの一件……初めからこうなる事を予想して、叔父上を唆したのでしょうか?」

「さて、な……。だが、一つだけ分かっている事はある」

 アランヤードの問いかけに首を振り、真っ直ぐに向いた瞳で南へと顔を向ける。その先にあるゼリアリスと言う国、そしてその国王の顔を思い浮かべ、低い声を上げた。

「もしそれがベリゼルス王の狙いだとすれば、戦争は避けられないだろう。あやつはそう言うやつだ」

 重たい空気に、ゴクリとだれかが息を飲む。緊張した場で、過呼吸気味のロイヤードが申し出る。

「わ、儂の首でなんとか収まりませんか! 兄上!?」

「叔父上! なにを仰っているのですか!?」

「わ、儂がバカな野望を望んだばかりに戦争などと……そ、それを防ぐためならば儂の首一つで済めば安い物だ! ええいっ、アランよ、離すが良い! だれぞ、だれぞ剣を持てい!」

「お、落ち着いて下さい! 元より敵国は攻め入るつもりだったのです! 今さら叔父上の首を差し出した所で無駄に終わるのが目に見えています! ってなんですかこのバカ力! 衛兵! 叔父上を取り押さえよ!」

 暴れるロイヤードを数人がかりで押さえつけ、なんとか彼の手の届く範囲から刃物を離す事に成功する。大声で泣く叔父の姿に、基本的には良い人なのになぁ、と思考した。

 その様子を見ていたルイーナ王は、ロイヤードの側に身を屈め手を取った。

「ロイヤードよ、優しいおまえにどうしてそのような醜態を晒させるものか。それに、おまえが死ねばあれらはどうなる?」

「えっ?」

 ルイーナ王が指差した先には、大型犬ほどの大きさの魔物がロイヤードの泣き声に反応して侵入してきた。片腕が斧のように硬質化したクマの魔物。巨腕熊族、アックスベア種に属する魔物だ。

「みゃーみゃー」

「お、おお……ベーちゃん、心配して来てくれたのかい?」

「きゅーん」

「あ、ああ大丈夫だよ。泣いてなんか、いないさ……大丈夫、だぞ」

 魔物を抱きしめ、心配させないように声をかける。その声が震えているのに気付いたのか、クマは静かにロイヤードの顔を舐め回した。

 このアックスベアは、あの大会の参加者の一匹だ。大会の後、なにを気に入ったのかロイヤードに付いて来た魔物で、名はべアックス君。数カ月で元の倍以上の大きさに成長し、今はロイヤードが大事に育てている。愛情を一身に受けて育ち、ロイヤードには非常に懐いていた。

 ブタのようなロイヤードとクマ型の魔物が抱き合う姿は異様ではあるのだが、ルイーナ王を始め周りの人間は皆瞳を潤ませている。

 たった二人、アランヤードとセイレーシアンは苦笑していたが。



 ロイヤードの件はともかく、強硬に戦争を始めようとしたゼリアリスには疑問しか浮かばない。特に疑問なのが、太陽姫が一軍を率い、そして異様に殺気立っているという事だ。まるでなにかの恨みでもあるかのように。

 どちらにせよ、戦いは避けられないと言うのは肌で感じている。しばらくは気が抜けない時間が続きそうだ。

「……とかく人は場に流される生き物だ。そして場とは生きている。まずはそれを掴み取る事から始めなければ」

 アランヤードの独り言は虚空に消え、彼の後ろにはフレンシボルが鋭い眼差しで控えていた。



 それから半刻。動きは突然に始まった。

「報告ー! ゼリアリス軍中央にて膨大な魔力反応! 敵軍の魔法攻撃かと思われます!」

「ああ、分かっているよ。ここからなら十二分に感じられる」

 砦の頂上で戦場を見下ろしていたアランヤードは、ゼリアリス軍から感じられる魔力に目眩がした。まるで戦場自体が高ぶっているような感覚。知らずのうちに声が震える。

「総員備えろ! デカいのが来るぞぉおおー!!」

 フレンシボルの絶叫が響き渡り、戦場に混沌が舞い降りた。


「魔力充填率八割……皆、奮起なさい! ゼリアリスに害を為す賊国ルイーナに裁きの光を落とすのです!」

 慌てふためくルイーナ軍を見つめながら、ゼリアリス軍を率いるマイリエルは周囲の魔法使いに檄を飛ばす。さらに高まる魔力を一身に受け、彼女は一段高くなった祭壇で頭上に剣を掲げた。

 魔法使い二十人。それも選り優りの者達のほぼ全ての魔力を己の魔力と同時に操っていく。

『満たせ、満たせ、満たせ。命灯る光の器を満たせ、鮮やかなる輝きよ』

 二十人が同時に詠唱を発動し、連唱詠唱を開始する。

 彼らの後押しを受け、マイリエルは特大の魔法陣を作って見せた。


「父なる光よ、今こそ顕現し皆に等しき安らぎを。其は鮮烈にして極光なる神の座する城、落ちし悪に徹底なる裁きを与えよ――」

 詠唱と同時に彼女が持つ剣から光が溢れ、空に向かって放たれる。光は一定の高度に到達すると弾けるように四方へと飛び散り、ゼリアリス軍の上空に四つの巨大な魔法陣が現れた。

 その異様におののくのはなにも敵だけではない。自軍からも驚きと畏怖の声が聞こえていた。


 戦略級極大呪文。それが今マイリエルが操っている魔法の名称だ。圧倒的な威力によって戦略レベルで被害を与える強力な魔法。しかしそれを放つには数人から数十人の補佐による連唱詠唱と、補佐の人数分の魔力を纏め上げる巨大な魔力の器を持った人物を必要とする。つまり現在、マイリエルは自身の魔力と同時に、二十人分の魔力を操っていることになる。

 もちろん、補佐をしている魔法使いも一流の者達だ。皆が皆、相当量の魔力を有している。それをいとも容易く操ってみせるのは、流石は最強の名を冠する者の力か。

 展開する魔法陣に膨大な魔力を注ぎ込み、マイリエルは最後の一文を口にした。


「ああ、我らはここにあり――――連唱(マクシズ)光の(ディアシャーレス・)殲滅魔法(オリュンピニオン)

 刹那、膨れ上がった魔力の光は巨大な魔法陣を発動させる。圧倒的な魔力の奔流が溢れ出し、四つの魔法陣からは極光が光線となって放たれた。

 一度発動してしまえば後にはなにも残らない。それこそが殲滅魔法だ。どれだけルイーナが魔法に関して優秀だとしても、マイリエルには絶対の自信があった。

 だからこそ──

「なっ──! この魔力は!?」

 突如として戦場に現れた巨大な魔法陣に驚愕の声を上げた。




『満たせ、満たせ、満たせ。命守る大地の器を満たせ、確固たる輝きよ』

 砦の屋上で一人静かに魔力を操るアランヤード。そのすぐ下の部屋では三十人もの魔法使いが連唱詠唱を唱えていた。追唱の魔法は即座に上層へとたどり着き、アランヤードが自身の力として昇華する。

「さて、太陽姫。君の思い通りにはならないと言う事を教えてあげよう。親友によって上達した魔力操作。簡単には越えさせてはあげられないよ」

 ゆったりとした動作で剣を抜き、床に突き刺す。レンガで造られた床にヒビが入り、同時に彼の足下から魔力の光が溢れ出した。

 そうして、言霊を手繰たぐる。

「母なる大地よ、今こそ顕現し地に住む汝の子らに祝福を。其は豊穣にして頑強な人を守りし国、攻めし愚者に絶対たる守護を見せつけよ――」

 唱えるはゼリアリス軍同様に、戦略級極大呪文。その中でも守りに特化した大地の力を借りた魔法だ。

 アランヤードの得意な属性は大地。人が生まれ、人を守護する母なる属性。目いっぱいの魔力を注ぎ込み、砦の前に巨大な魔法陣を描く。

「ああ、我らはここにあり――――連唱(マクシズ)大地の(ガイアミア・)絶対防壁(アズガルディオン)

 極光から一瞬遅れて展開された戦略級魔法はすぐさま発動した。魔法陣から現れた巨大な岩肌が砦を守る様に展開し、強力な魔力光で輝いている。

 輝く壁に極光が衝突し、凄まじい轟音が辺り一帯に響き渡った。


 アランヤードがここにいる理由。それがまさにこの状況のためだ。マイリエル姫による戦略級魔法による一撃決着。あり得ないような戦い方を、アランヤードは真っ先に警戒した。それを防ぐためには相応の準備が掛かり、ゼリアリス国はそんな時間を与えてはくれなかった。

 だからこその、アランヤードだ。歴代最大の魔力量を持ち、下手な悪魔族など歯牙にもかけない魔法の使い手。彼を知る者ならば、こう言うだろう。

 ――総合的な最強は太陽姫だったとしても、こと魔法に限って言えば最強なのはアランヤード・S・ルイーナだと。

 彼によって太陽姫の圧倒的な攻撃を防ぐ。それがこの戦場におけるアランヤードの役割だ。

「……良し、まずは第一陣はこれで良い。後は任せたよ、セレシア」

 極光が収まり、魔法を解く。光る大地は元の荒野に戻り、後には両軍が唖然とした顔で見つめ合っていた。

 交差する戦略級極大魔法を間近で見た。それも、二つの魔法がぶつかり合う場面をだ。まるでこの世のものではない戦いに、呆けてしまうのも当然だろう。

 だが、これだけで終わる訳ではないのだ。

「全軍、剣を取れ! 今のを見たか! 敵の攻撃は確かに強力無慈悲なものだった! だが我らが殿下の手により太陽の光もその輝きを失ったぁ! 顔を上げよ、剣を取れ! 我らの勝利をアランヤード・S・ルイーナ殿下にお捧げせよ!!」

『オ……オオォオオオオオ!!』

 フレンシボルの激励によってルイーナ軍が雄叫びをあげる。彼の言葉もだが、士気の上がった最大の要因は太陽姫の一撃を防いでみせたことだろう。勝てないと思っていた相手の攻撃を防ぐ。それだけで、ルイーナ国側の士気は上昇した。


「ハッ、流石は王子殿。常々思っていたが、普通じゃねぇな! てめぇら、見てたか!? あんなでけぇ花火で開戦だ、俺達も気合入れておっぱじめるとしようじゃねぇか!」

『うぉおおおお――!』

「オルバール! 付いて来いよ、あの王子殿にばっか良い格好させんな! 騎士隊の底力、見せてやろうぜ!」

「了解。元々あのバカにデカイ顔をさせる気はないですから。ああ、それとヘンミシア隊長」

 セイレーシアンが馬に跨りながら中隊長、レイグ・ヘンミシアに視線を流す。一見冷めたように見える彼女の瞳には、赤く燃える炎が宿っていた。

 魔法ではなく剣だとしても、彼女にはオルバールの血が流れている。ジルオーズ程戦闘狂ではないにしても、彼女もまた戦う事を自然なものと出来る人間なのだ。

「準備が遅いようなので、我々は先に行かせてもらいます。精々遅れないようにお願いします」

「ちょっ、おまっ! 俺の部隊だぞ!?」

 慌てて馬に飛び乗るレイグを一瞥し、セイレーシアンは戦場を駆ける。一番に前へと出たセイレーシアンの視線の先には慌てふためくゼリアリス軍がいる。どうやら、彼等の混乱は相当なもののようだ。この状況もアランヤードが狙ったのかは分からないが、なんにせよ今が好機なのは間違いない。

「……ユクレ。見ていなさい。私が貴方の帰る場所を、守ってみせるから」

 固く結んだ瞳の裏に愛しい男性を思い浮かべ、決意と同時に眼を見開く。眼前には、人の波が迫っていた。



「なるほど、流石はアランヤード王子。ルイーナ国でも一、二の魔法の使い手と言う噂は虚言ではないようですね。……ですが、戦はここからが本番です。全軍、抜剣! 眼前の敵を踏み潰し、完膚なきまでに叩きのめしなさい!」

 同時に、ゼリアリス軍にも動きがあった。マイリエルが少しの動揺も見せない姿に即座に落ち着きを取り戻した兵達は、すぐさま戦闘準備に取り掛かる。その様子を眺めながら、マイリエルはキッと唇を噛み締めた。



「オレは第三小隊長、ルックオ・スタン! その首もらったぁ!!」

 相手方から突出した騎馬を視界に納める。中々に強そうな男が巨大な槍を振り回して迫っていた。セイレーシアンはフッ、と口の端を緩め、動いた。

「なにっ!?」

 突き出された槍は空を切り、馬上にはだれもいない。慌てて周囲を見渡し――瞬間、彼の背に手が触れた。

破砕ブラスト

「グァアアア――!?」

 涼やかな声とは裏腹に、凄まじい破壊音が馬上に炸裂した。あまりの衝撃に馬は横倒しに倒れ、ルックオの着ていた鎧は粉々に砕け散る。

 それはただの破砕ブラストの魔法だった。しかし、セイレーシアンが扱えば破壊に特化した炸裂魔法へと変貌する。威力は見ての通り。人一人を卒倒させるには十分過ぎる。

 ふわりと地に降り立ち、右手で赤い髪を払って腰の剣を引き抜く。そして名乗りを上げた。

「不承ながらアランヤード・S・ルイーナの護衛役兼レイグ中隊小隊長、セイレーシアン・オルバール。斬られるか、砕かれるか……決めた者から前に出なさい! 出来るだけ要望通りに倒してあげるわ!」

 気合一声、セイレーシアンは剣気を纏い、左手をぶらりと下げて敵軍勢と相対する。


 合わせて一万を超える軍勢が、ビゴー荒野で衝突した。

この章で書きたかった場面⇒アランヤードとマイリエルのバカ魔力での魔法対決。

セイレーシアンも出せましたし。いやー満足しました!

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