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聖霊使いへの道  作者: 雪月葉
セントルイナ大陸編
81/132

外伝 王と王子の謀

 アーリッシュ城のとある部屋の前で、一人の少年が暗い顔をしている。

「やれやれ……鬱だなぁ」

 これから起こる対話を面倒だと思うのは、仕方のないことだろう。なにせ、彼が最も苦手とする相手との謁見なのだ。

 再度ため息を吐き、ユリトエスは扉の前でうな垂れた。頼みの綱であったマイリエルも、エイゼンに連れられてどこかへ行ってしまい、結局一人で彼等の相手をしなければならないのだ。

 マイリエルも無理やり連れ戻したのだし、もう少し責任をもって世話をして欲しい。ユリトエスは寂しいと死んでしまう動物なのだから。

 冗談めかした思考を切り上げ、覚悟を決めて扉をノックする。

「伯父上ー。入りますよー」

 返事を待たずにガチャリと開き、部屋の中へと侵入する。長い机とイス、それから数点の調度品しかないさっぱりとした部屋に二人の人物が座っていた。

 一人はこの城の主にして、アーリッシュ国の王。レイサス・エア・アーリッシュ。優しげな風体だが、ユリトエスは彼が苦手だった。なにを考えているのか良く分からない人物だからだ。

 そんな評価を下せばマイリエル姫からおまえが言うな、と責められそうであるが。

 そしてもう一人。ゼリアリス国の王、ベリゼルス・サン・ゼリアリスだ。ユリトエスにとって、苦手な人物……いや、嫌いな人物と言っても過言ではないだろう。それはあちらも同じようで、不機嫌そうな顔のまま、ふん、と悪態を吐いた。

「ようやく帰ったか、愚か者が。オレに隠れてコソコソコソコソと……お前は黙ってオレの言う通りに動いていればいいんだ」

 開口一番ひどい言われようだ。

 大体、なにを怒っているのかユリトエスには理解不能である。元々非は向こうにあるのだから、逃げ出すくらいは許して欲しい。ほんの少しでも懐の広い所を見せればもうちょっと従順に対応しても良いのに。もっとも、命を狙う刺客を放置している時点でベリゼルスの事など信用もしていないが。

 伯父の罵詈雑言などいつもの事なので、ユリトエスはすぐに彼の小言を意識から外して吐息した。

「別に余だってそろそろ良い年なんだし、勝手にどこ行こうが一々聞いて来ないで下さいよ。年頃の女の子でもあるまいに」

「ああそうだな。年頃の女の子はこちらの言う事はちゃんと聞く良い子だからな。お前とは違って」

「はっはっ、でもマイリは勝手に余を探しにきましてけどねこんちくしょう。良い子ならもうちょっと手綱握ってて下さいよ! 特にレイサス様! あんた婚約者でしょ!?」

「ははは、私はマイリエルには自由に過ごして欲しいだけさ」

 ニコリと白い歯を見せて微笑むレイサスは、無難な言葉で煙に巻く。ちぇ、と呟いてからユリトエスは再度ベリゼルスを見た。

「それで、精霊は見つかったか?」

「……さあ、なんの事でしょう? 余にはなにがなんだか……」

「つまらん問答は止めろ。お前がなぜ旅に出たか、それもエイゼン達から姿を眩ませて旅に出たのか、分からないオレだと思っているのか? さあ、出せ」

 無言でベリゼルスを見る。今にも襲い掛かって来そうな様子に、ぶるりと背を震わせる。

 どうでも良い話しなのだが、ユリトエスはベリゼルス達が二人っきりでいるのを何度か目撃していた。それを見る度に、この二人、実は出来てるんじゃないのだろうか、と邪推したものである。

 今度国中に言い触らしてやろうか、と少し不埒な事を考えた。


 それはともかく。ユリトエスは仕方がないとため息を吐き、ポケットから宝石を一つ取り出してベリゼルスに投げ渡した。

「ほう、なるほど。確かに、力は十分か。良くやった、褒めてやろう」

 キラキラと虹色に輝くそれを見つめベリゼルスの、口が三日月のようにつり上がる。ユリトエスは嫌そうに口元を引きつらせ、どーも、と小さく呟いた。

「でもそれだけ有ったって無駄でしょ? 鍵も、扉も見つかってないんだから。ここの紛い物じゃあ開かないのは実証済み。どうするつもりさ?」

「クク、無駄な事は止めるんだな。そう言って揺さぶっているつもりだろうが、オレには通じんよ」

「…………」

 押し黙るユリトエスを見てさらに機嫌を良くしたベリゼルス。懐から灰色の石を取り出し、見せつけるように掲げた。

「知らない、とは言わせんぞ。以前迷いの森の遺跡に冒険者を連れて向かったそうだな? その時に持ち出しただろう。初めの鍵、アルファ・キーを」

 ウォルフ達と連れ立って調査に行った遺跡。そこへ侵入するために必要だった鍵がそこにあった。もちろん、ユリトエスはそれを良く知っている。ちぇ、と口にし、肩をすくめた。

「はいはい、分かってますよー、だ。……でも扉の方は本当に知らないんですけど?」

「お前に言うと思っているのか?」

「ですよねー」

 ベリゼルスからすれば、ユリトエスは断じて味方ではない。むしろ、同じ場所を目指す敵としてしか認識していなかった。それでも生かし、ある程度の自由を許しているのは、彼が自分の役に立っているからに他ならない。認めたくはないが、秘匿大陸へ近付くために知識を持つ彼が必要なのは確かなのだ。

 見せる手札は最小に、ベリゼルスは憮然として言い捨てる。

「オメガ・キーもジルオーズが所持していることは分かっている。現在レイサスの配下が強奪しに行っている。近日中には鍵も揃うだろう」

「……ジルオーズ、ね」

 ふと浮かんだのは共に旅をした少年達の姿。恐らくきっと、厄介事に巻き込まれるであろう旅の仲間達に心の中で合掌しておく。

「話はこれで終わりだ。オレはこれからやる事があるためゼリアリスに帰るが、貴様はもうしばらくアーリッシュで休養していると良い。……次に会う時は、オレが秘匿大陸へと赴く時だ!」

 ベリゼルスはそう言い、高笑いを残して部屋を出て行った。残されたユリトエスは、疲れた様子で呻く。

「ったく、あのクソジジイめ……」

「ああ、そうだ。これを言っておかなければな」

「うわー伯父上超カッコいいー!」

 少しの間も置かずに戻って来たベリゼルスに黄色い声援なんかを送ってみた。特に効果はなく、気持ち悪いと吐き捨てて言う。

「お前は良くオレに貢献してくれたよ。必死にもがく姿は今思い出しても笑いが込み上げる。……手の平の上で、よーく踊っていたよ」

 そして閉められる扉。カツカツと遠ざかる音を聞き、完全に聞こえなくなるのを待って顔をあげた。

「んのっ、クソ野郎!」

 机に向けて拳を振り下ろし、ガン、と殴り付けた。

「……いたいいたい……」

 が、そこは貧弱なユリトエス。半泣きで手をさする羽目に。その様子をニコニコと見つめていたレイサスと目が合い、愛想笑いを浮かべる。

「あ、あはは……いやー、あの人の性格の悪さにも困ったものですよねー」

「君も大概だとは思うけどね」

「うぐ……」

 さらりと言われた言葉がユリトエスの心を抉る。暗に、おまえもベリゼルスと同じだと言われた気がしたのだ。

「で、でもレイサス様も結構人が悪いとか言われません? ってか、実際あの伯父上と悪巧み出来るんだから相当根性ひん曲がってると思うんですけど」

「はは、まあそれくらいでないと王族なんてやっていられないさ」

 どこまでも爽やかに言うレイサスに、一瞬尊敬の眼差しを向けてしまった。すぐにハッとなって頭を振り、この状況を思い出す。

 レイサス王との一対一の状況は、ユリトエスにとって珍しいものだった。大体はマイリエルがいたり、先ほどのようにベリゼルスが同伴していたため、こうして彼と二人で会話をしたことがなかったのだ。彼等がなにを考えているのか探るにはちょうど良いタイミングかもしれないが、彼がベリゼルス王を裏切るとは考え難い。

「……そう言えばレイサス様って伯父上とは結構長い付き合いなんですよね?」

「うん? そうだね、かれこれ二十年以上……言ってみれば第二の父のような人かもしれないね」

「実際に今度お義父さんになる訳ですけど」

「うーん、どうだろう? 以前にマイリエルと話をしていたら無理やり乱入してきたんだけど、嫌われているのかな?」

「いやー、それは多分あの人が親バカってだけじゃないですか?」

 気落ちしている彼の表情を見ると少し可哀そうに思ってしまった。

「それはともかく、これでようやくマイリも落ち着くかな。余としてはあのジャジャ馬っぷりが落ち着いてくれれば言う事なしなんですけどねー」

 話題を逸らすように笑みを貼り付けつつ、ユリトエスの頭には従妹の姿が浮かんだ。

 なにかとユリトエスを怒るマイリエル。結局のところユリトエスが悪いのだが、あの傍若無人っぷりには色々と思うところがある。

 ちょっと風呂に入る時間を間違えたくらいであんなに怒らなくても良いのに、と思考。ちょうどその時マイリエルが入浴中で、タオルもなしに立ちあがって、それを真正面からみてしまっただけなのだ。それなのに城の浴場が全壊するくらい暴れなくても……。

 思い出された記憶に顔を引きつらせる。あの時のマイリエルは、それこそ戦悪魔ヴァルキリーだった。

 きっとレイサスも彼女の尻に敷かれるんだろうなぁ、と同情の眼差しを向ける。

 その様子に気が付いたレイサスは、いつもと変わらぬ爽やかな笑みで言った。

「そんなに心配そうな顔をしなくても大丈夫さ。彼女の事は大切にするつもりだから」

「いや、余の心配事はそっちじゃないってゆーか……むしろ」

 あなたが心配です、との言葉は、霧散する。

「彼女は私にとって……ひいてはこのアーリッシュ国並びにゼリアリス国にとって必要な子だからね。大切には扱うよ」

「……ん?」

 彼の言葉に、ユリトエスの中で疑問が膨れ上がる。それがなにか理解するより先に、レイサスは立ち上がり軽く頭を下げた。

「さて、それじゃあ私はこれから用事があるので失礼するよ。君も、しばらくはゆっくりとすると良い。ベリゼルス王が一体なにをするのかは知らないけど、体は休めておいた方が良い」

「あ、はい。そうします」

 善意の言葉なのだろう。ユリトエスはコクリと頷いた。

 笑みを浮かべて去るレイサスの後ろ姿を眺め、ふぅん、と息を潜める。

「……そっか。あなたは、そう言う人か」

 平坦な声で呟き、温度が上がる心を落ち着かせる。しばらくジッとしていたユリトエスは、不敵な笑みを見せていた。

「マイリ……ごめん」

 部屋から出る際に呟かれた小さな言葉だけが、だれもいない一室に残された。




「お父さん……」

 ユリトエス・ルナ・ゼリアリスは夢を見ていた。

(ああ、懐かしい光景だ。しかし、今この時にこの夢を見るなんて出来過ぎてるね。まったく、神様とやらがいるんなら全力でぶん殴ってやりたいよ)

 事実聖霊と言う存在がいると言う事をユリトエスは知っているため、この発言は確信を持っての言葉である。

 苦々しげに呟き、すぐに夢の続きの観照に戻った。

 夢の中のユリトエスは、今よりもずっと小さく、幼かった。パッと見て三、四歳くらいの年齢だろうか。泣きじゃくり、だれかに詰め寄っているのが見える。それを迎えている父と思しき男が、やせ細った体で彼を抱きしめて頭をなでた。

「どうしたんだい? ユリト、そんなに泣いて。男の子は簡単に涙をみせちゃダメなんだぞ?」

「だって、だってあいつが……」

「ああ、またあの子に苛められたのかい? 仲良くしないとダメだよ、彼女はユリトの妹なんだから」

「ちがうもん! だってあいつ、いっつもぼくやお父さんのことバカにするんだよ!?」

 妹、と言われ幼いユリトエスは顔を上げてブンブンと首を振る。よほど嫌なのか、体を放して全身を使って嫌だと評している。顔は真っ赤で、そんな彼の様子に父は苦笑し、少し強引に息子の頭をぐりぐりと撫でつけた。

「そんな事はないさ。あの子はたまに僕の所に来るけど、とっても良い子だよ? ユリトと仲良くしたいのにって言ってたし。きっと照れているだけさ」

「……そう、なの?」

「いつも言っているだろう? お父さんは?」

「……ウソつかない」

「うん、その通り。僕はユリトにだけはウソを言わないよ。だって君はこの世界で唯一の、僕の家族なんだから。だからユリトも、家族に対してはウソを言っちゃあダメだからね?」

 儚げな父の表情を見て、幼いユリトエスは小さく囁いた。

「……ウソをつくのはダメなことなの?」

「絶対にダメとは言わないよ? 家族のための、優しいウソっていうのもあるからね。でも、やっぱりウソよりも本当の事を話せれば、それが一番だと思うんだ。ユリトは、ウソつきなのかい?」

「…………ちょっとだけ」

「じゃあ、僕にウソをつきたいって思う?」

「ううん、そんなことある訳ないよ!」

 息子の素直な言葉に優しげに笑み、頷いて見せる。

「それならそれで構わないよ。ウソをつきたくないと思えるようなら、きっとユリトはだれよりも心優しい子になれるから」

 幼い我が子をギュッと抱きしめ、彼の背をポンポンと叩きながら歌うように声を届ける。優しい音が耳に触れ、夢の中のユリトエスは眠たげに目を瞬かせた。

「優しくて、賢い子になって欲しい。そんな、僕らの願いを……君はちゃんと受け取ってくれているんだね。母さんも、きっと君を想っているよ」

「お母、さん……?」

「……そうだよね? 僕の、愛しい人……」

 言葉はどこへ向けられたのか。幼いユリトエスにも、今夢を眺める現実のユリトエスにも分かりはしない。ただ幸せな光景が、確かにそこにあった。

 現実が近付く感覚を受け入れながら、ユリトエスは意識が覚醒するのを待っていた。



「…………」

 ふと目が覚め、ユリトエスはむくりと体を起した。ボーっとした頭で、今の今まで見ていた夢を必死に思い出す。それから洗面台へと向かい、頭から水を被った。

 ジャブジャブと水を頭にかけ、床を濡らすのも構わず後ずさる。後ろの壁に背を預け、ユリトエスは手で顔を覆って吐息した。

「……なんて、悪夢……」

 目が覚めて一番に感じたのは、幸せだったあの頃を思い出す幸福感などではなく、自身を苛む虚無感。同時に、これから見据えるべき未来が否定されたような感覚。どちらにせよ、ユリトエスにとって最悪なものだったのは確かだ。

 父は死んだのだと、必死に言い聞かせる。今この場にいるのが幼いユリトではなく、ユリトエス・ルナ・ゼリアリスだとも。

「こんな……なんで、今になって……。これじゃあ……」

 振り向き、ゴッ、と壁に額をぶつける。赤くなりジクジクとした痛みが広がるが、そんなことでは気を紛らわすことも出来ない。絞り出すような、掠れた声が喉の奥から漏れた。

「…………決意が、にぶる……」

 父は優しかった。だれに対しても。それは敵であるベリゼルスに対しても同様だった。それなのに、ベリゼルスは優しさにつけ込み、否定し、捨てた。だからこそ、ユリトエスは優しくなどならないと決めたのだ。ベリゼルスにも、マイリエルにも。それなのに、決めた矢先にあんな夢を見るなんて。あれではまるで、父に責められているみたいではないか。

 顔を上げ、鏡の中の自分を見る。思わずユリトエスは笑ってしまった。

「はは、ひっどい顔してるよ……まったく。せっかくの美男子ユリトくんが台無しだ……」

 目を閉じれば、思い出してしまう。父が死んだ、あの日の事を。

 鉄臭さが充満した一室。壁や床には赤がベッタリとこびり付き、生温かい液体に塗れながら泣き喚いた。それを遠巻きに眺めているベリゼルスと、くしゃりと歪んだマイリエルの顔までしっかりと思い出せる。

 ふぅ、と大きく息を吐き出し、肺の中を空にした。

「もうちょっとなんだ……だから」

 一度瞑目し、次々に浮かんでくる顔を消していく。こんな自分を仲間だと言ってくれた、初めての友人の顔が思い浮かび、守りたいと思った少女の顔が浮かぶ。瞳を開き、それらを全て消し去って、ユリトエスは普段の表情で顔を上げた。

「もう、後戻りは出来ないんだ」

 決意の込められた瞳には、一切の揺らぎは存在していない。

 素早く着替えを終え、ユリトエスは扉を潜り外に出る。


「おはようございます、ユリト。珍しいですね、貴方がこんなに早く目を覚ますなんて。今日はゼリアリスに帰る日なのですが、雨なんて降られたら困ってしまいます」

「おはよう、マイリ。余だって偶には日の出前に目が覚めることもありますよ、極稀にだけど。そんな事で一々雨なんて降ってたらお天道様も大変だよ」

 部屋を出た所でばったりマイリエルと鉢合わせ、朝の挨拶と一緒に冗談が交わされる。クスクスと微笑むマイリを見て、一層ユリトエスの表情は穏やかになった。

「さーて、せっかく起きた訳だし……どうせマイリもこれから訓練でしょ? ちょっと見ていっても良いかな?」

「えっ!? ユリトがですか!?」

 普段ならば訓練や勉強と名の付く事からは極力避ける彼とは思えない申し出に、マイリエルは驚いたようにポカンと口を開けた。せっかくの美人が台無しである。面白いのでこのまま放置するが。

「たまーにはね。で、良いかな?」

「ええ、もちろんです! どうせなら一緒に剣を振りますか? そうすれば少しは気が晴れるかもしれませんよ?」

「……気が晴れるって、なんで? 別に落ち込んでなんていないんだけど」

 彼女の言葉にギクリと鼓動が大きく鳴る。平静を装っての問いかけにマイリエルは小さく息を吐き、人差し指でユリトエスの額を指差して言った。

「頭。大丈夫ですか?」

「……え? それってもしかしなくてもバカにされてる?」

「バカになんて、少しもしてませんよ。だってユリトはバカですから」

「あ、なるほど。少しじゃなくて全開でバカにしてるわけだねわーん、これは泣いても良いよね?」

「ああもう、そうではなくて……」

 ポウ、とマイリエルの人差し指が薄く光り、赤くなったユリトエスの額に押し当てる。次の瞬間には痛みは引き、白い肌が黒い髪に隠れていた。

「バカのユリトですが、寝起きで頭をぶつけるほど間抜けではないでしょう?」

 どうやら、彼が額をぶつけた事を察しての言葉だったらしい。そう思い納得しようと頷き、

「まあ、そんな事は抜きにしても、貴方とは長い付き合いですから。そのくらいは分かりますよ」

 やっぱり分からなかった。

 では訓練場で、と言い残して去って行くマイリエルを眺めながら、再びブルーな気持ちになった。

「マイリにすら見破られるとかちょっとショックなんですけど……あーあ、この調子じゃあ先が思いやられるよ。ちょっと気合を入れ直すためにマイリに手解きしてもらおうかな……いやいや、それはないない。余はまだ死にたくありませんよ」

 一瞬考え、すぐに頭を横に振る。ユクレステパーティーを一方的にほふった姿を間近で見ていたユリトエスは顔を青くして身を震わせた。

「とは言え、余がそんな事を考えるなんてね。それこそ雨どころか槍や魔法でも降ってきそうだよ。あはは、もしかしたら戦争が起きるとか? 流石にそれはない、かな?」

 自分で言った事に笑いながら、ユリトエスは訓練場への道を歩き出す。


 ――それから数日。ゼリアリスはルイーナに対して宣戦布告を行った。


さて、これで次回から次の章に入る事が出来ます。それに伴い、まずはルイーナ国でのお話となります。ユクレステ達は一回お休みしてもらって、メインはあのお二人で進行します。

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