恐怖と敗北
光が収まり、痛む体を支えながら立ち上がると、目の前には惨状が広がっていた。
「つぅ……ディーラ?」
爆発によって露出した地面と、辺りに転がる仲間達。すぐ側には、爆発から身を守ってくれたのかディーラがボロボロの姿で見つかった。
「だ、大丈夫か!?」
「…………」
返事は無い。傷は大して深くはないが、意識を失っているようだ。
「手加減はしました。しばらくすれば意識を取り戻すでしょう。他の方々も同様です」
声の主は、至って平静。当然のことのように凛とした姿勢で立っている。そこでようやく、ユクレステは目の前の人物に恐怖を覚えた。
自分たちが弱いとは、思ってはいなかった。曲がりなりにも二体の主精霊と戦い、勝ちを拾って来たのだ。最強であるとは言わないまでも、歯牙にも掛けられないとは思いもしなかった。だがこの状況はどうだ。パーティーで一番素早いシャシャが速さで負け、一番の力を持つミュウが力で負けた。防御力には自信があったユゥミィが一撃で沈み、ディーラと二人掛かりの魔法を一蹴された。
強いとは、常々聞いていた。アランヤードからセイレーシアンが敗れたと聞いた時は、剣に重きを置いたタイプだと思っていたのだが、蓋を開ければ魔法ですらユクレステやディーラよりも数段上にいる。
桁が違うとは、この事だ。
自然に腕に震えが走る。それが恐怖によるものだと理解し、振り払うように杖を握りしめた。
「もう止めにしましょう」
マイリエルが剣を納めて言った。ユクレステの震えを読み取ってのことだろう。太陽の名に相応しい温かな声で諭す様に言う。
「今の戦闘で分かったでしょう? 貴方達では私には勝てません。圧倒的に、力が足りないのです。そこの悪魔族の方はまだなにかを隠しているようですが、他の方々では私に傷一つ付けられません。特に、貴方一人では話にもならない」
「……」
分かっている。自分が弱いと言う事は。
主精霊との戦いに勝てたのは一重に仲間がいたからだ。もし一人と言う条件であったのなら、試練を百度行っても一の勝ちは拾えない。それだけ非力だと言う事は理解している。少なくとも、理解しているつもりではあった。
「ユッキー。別にユッキーが弱い訳じゃない。ただ単に、マイリとの差が途方もなく大きいと言うだけの話。天災に人間一人、パーティー一つでどうにか出来るはずがないでしょ? つまりはまぁ、そういう事」
「ユリト、貴方は私を地震や台風と同じだと言いたいのですか?」
「間違って無いじゃん?」
「あ、貴方は私をなんだと……」
非難の目を向けている彼女の姿を見れば、ただの少女にしか見えないのだが。
とは言え、確かに勝てはしない。それほどまでの大敗だ。ユリトエスもああ言っているのだから、ここは素直に負けを認めよう。
「はぁ……分かりました、俺の……」
「まあ良いでしょう。ユリト、帰ったらしばらく謹慎ですからね?」
「うぇ? マージでー?」
言葉が詰まった。
なんだろう。目の前のやり取りが、ただの軽口を言い合っているだけの言葉のやり取りに違和感を感じた。傍目から見れば仲の良い従兄妹同士の会話。その、はずだ。
「お父様にもお説教をしてもらいますからね? 覚悟していて下さい」
「えぇええー。ダブルお説教は勘弁して欲しいんですけど……」
「ダメです。自分の仕出かした事を反省なさい」
素っ気なく言い捨てるマイリエル。その様子を眺め、
「さあ、帰りますよ。ユリト」
「はいはい、分かりましたよ。マイリ」
違和感の正体が分かった。
放しかけていた杖を再度握り締め、ユリトエスとマイリエル、二人の王族の間に立つ。
「……どういうつもりでしょうか? ユクレステ様?」
「ユッキー?」
睨むマイリエルとキョトンとした表情のユリトエス。二つの視線に晒されながら、ユクレステは落ちていた刀を鞘に収め、腰のベルトに差した。
「少し早いんじゃないですか? 俺はまだ、ギブアップしてませんよ?」
ユクレステの発言にギョッとしてユリトエスが声を発する。
「なに言ってんのさ、ユッキー。他の子達がもう戦闘不能なんだから試合は負け、それで良いじゃん。無茶して怪我増やすこともないよ」
「私も同意します。貴方一人では私には届かない、それが分からない程愚かではないでしょう?」
そんな分かり切った事を今さら言われても困るのだ。ハッ、と吐き捨てるように笑みを見せ、口を開く。
「それならさっさと俺を斬って行けばいい。違いますか?」
「……それが望みであるならば」
スラ、と長剣を抜き放ち、切っ先をこちらに向ける。その動作だけで潰れてしまいそうなプレッシャーに、最早笑い声しか出ない。
「ユリト、ちょっと下がってろ。すぐに終わるから」
「自分が負けて、って?」
どうやら彼にはこの後の展開が分かっているようだ。いや、彼でなくとも、分かる。彼我の戦力差はそれほどなのだから。
しかし、ただでは終わらせたくない。仲間達と戦って、皆が全力で向かったのだ。自分だけギブアップでの敗北などしたくはない。それに、
「ムカつくんだよな」
「はい?」
「あの目が」
「ユッキー? なに言って……」
後ろからの声を無視する形で前進し、凶暴な笑みがマイリエルの視界に入る。不愉快そうに見つめ返し、剣を一閃。
「っ!?」
剣の衝撃がそのまま刃の形を保ってユクレステの側を抜ける。右の腕から薄らと赤が滲むのを視界に入れた。
「今のが見えなければ、私と相対する意味などありません。諦めなさい。無用な傷をつけたくはありません」
公正公平である太陽姫のお言葉は、すんなりとユクレステの胸に落ちて来る。それを聞き、あえて言う。
「嫌だね」
「……そうですか」
ハァ、と聞き分けのない子供を相手にするような表情だ。ユクレステは恐怖に震える腕を必死に抑えつけ、口を開いた。
「マイリエル様、一つあなたに問いたい」
「……聞きましょう」
微かに首を傾げた動作のマイリエルに、更なる言葉を投げかけた。
「そんなにユリトが恐いんですか?」
「っ!?」
その言葉は確実にマイリエルを捉えていた。
「へっ? 余?」
なんの事だか分かっていないユリトエスの声を無視し、狼狽する彼女の言葉を聞く。
「……なんの事でしょう? 意味が、良く分からないのですが」
「あなたは……あんたは、今までユリトを名で呼ぶ時に目を合わせていたか? 少なくともこの場ではあんたは一度も目を見て名を呼ばなかった。それだけじゃない、二人共、どこか距離があるんだ。実際に話す立ち位置も、心の距離も」
仲が良いと思って聞いていた二人の会話も、今ではすれ違いが良く分かる。マイリエルはユリトエスと話す時、決して気を許さないのだ。まるで敵と対峙している時のように。
「あんたからはユリトを警戒しているように感じる。恐れている、そんな風に」
「…………」
「だからあんたはユリトを一つの場所に縛り付けているんだろう? 恐いから、気を許せないから。それは、なんでだ?」
押し黙る彼女の瞳には、あらゆる感情が渦巻いていた。困惑、疑念、恐怖。それらを見つめながら、ユクレステは言った。
「ユリトを避けているあんたの言葉なんて薄っぺらだ。信用できない。だから俺はこのままユリトを帰したくないんだ。どうなるのか分からないから」
不敵な笑みを浮かべてはいるが、内心ではすぐにでも謝りたいと思っている。だって目の前の少女からは透明なまでの殺意が滲み出ているのだ。ゆっくりと、広がって行くように。冷や汗を流しながらその様子を観察する。
その様子に苦笑を示したのは、話の中心人物であるはずのユリトエスだ。
(凄いなユッキー、良く見てるねー。そして、良くマイリを前にしてそれだけ言えるね。余は無理無理、だってそんなこと言えば――)
――マイリエルは本気で殺しを許容する。
優しげな眼光は既に無く、なにも感情の見えない瞳でユクレステを視界に入れる。ゾクリと背を震わせ、駆け巡る悪寒に吐き気がした。
「……貴方に、なにが分かるのですか?」
「ぅ……」
明確な恐怖と死の影に言葉が出せない。体は動かず、彼女の一挙手一投足に怯えの色を見せる。
「貴方が、私とユリトの関係に、口を出せるとでも思っているのですか?」
「ちょっとマイリ! 落ち着いて! ああもう、ユッキーも早く謝って! じゃなきゃ殺されちゃう!」
本気で焦っているユリトエスを見れば、彼の言葉が冗談でも大袈裟でもないのが分かるだろう。賢い選択は、彼の言う通りに謝罪すること。情けなく、地面に頭を擦りつけて先の言葉を撤回する。それが一番穏便な解決方法。
けれど。
「……悪い、ユリト。おまえとの旅、続けられないっぽい」
ここまでやっておいて、ただ謝るのは、格好悪いじゃないか。
引きつった笑みでユリトエスに視線を向け、右手にリューナの杖を。左手にコクダンの杖を持つ。カチカチと歯が合わさる音が耳障りだが、止められない。ならば、と左手で自分の頬を殴りつけた。
「痛ぅ……さぁて、準備万端だ。やってやるぞ、太陽姫!」
「正気? 殺されるよ!?」
「まあ、そこは太陽姫さんの理性に掛けてみるよ。だからまあ、下がってろ。万が一にも巻き込むと危ないし」
一瞬で斬られて終わる確率の方がずっと高いのだが。
左手の杖をぶらりと下げ、右手の杖をマイリエルへ向ける。
彼女も剣を構えた。今までは自然体で構えもしなかったマイリエルが、本気で剣を振ろうとしている。その事実に、アランヤードの言葉が甦った。
『二十打ち合えなかったよ。多分、切り札を切っても勝ちは拾えないだろうね』
ユクレステの知る限り、セイレーシアン以上の剣の使い手は知らない。今日この日、太陽姫を見るまでは。そんな彼女が、本気で剣を振るう。考えただけで、ゾッとする。
「…………」
隙は無い。プレッシャーだけで、押し潰されそうだ。外へ逃げる魔力すら己の肉体に還元している。頑丈さに定評のあるユクレステだが、今の彼女の前では藁束と変わりはないのかもしれない。
対峙しているだけで気力を持って行かれている気分だ。早々に、勝負を決めなければならない。
互いの距離は六メートルはある。詠唱は……不可能か。
覚悟は決まった。
「っ、ストーム・エッジ――」
「終わりです」
一歩が、見えなかった。気付いた時には眼前に鈍い輝きを放つ長剣があり、その向こうでは透明な殺意の瞳があった。振り切られた剣先は反射的に後ろに跳んだユクレステの額を掠め、赤い血がパッと地面を濡らす。
バックステップ中に発動した魔法で薙ぐようにして牽制し、左の杖から砲撃を放った。
「ストーム・カノン!」
「良く避けましたね。では、次はどうでしょう?」
クン、と加速して砲撃を抜け、剣気による強力な斬撃が放たれる。
「ス、ストーム・バインド! バレット・ストーム!」
振り下ろすだけの一撃に地面が陥没し、弾き飛ばされながらも並列での呪文を発動する。風が鎖となってマイリエルの体を拘束し、そこに風の魔弾を叩き込む。
「……」
だが本当に拘束しているのか疑問に思う程あっさりと風を断ち切り、一振りの風圧で弾丸を消し去った。
主精霊ですらこれほど理不尽な戦いはしないだろう。恐怖の色濃い思考で必死に勝ち筋を定め、二つの杖に魔力を込める。
「バレット・ストーム! ストーム・ランス!」
「面倒ですね……」
剣を振ることもせず、己に掛けられた強化の魔法、その余波で二つの魔法を消滅させた。それを終えたマイリエルは剣を眼前に立て、呪文を唱える。
「ディアシャーレス・ブレイク」
「っ!?」
膨大なまでの魔力が地面に浸透する。地形を破壊し、面制圧を主とした魔法が放たれた。
「ぐ、あっ!」
地面から光の柱が突き出し、ユクレステを焼いていく。必死に逃げ惑うその姿を冷めた目で見るマイリエルは、止めを刺すために剣を構えた。
光が収まるのと同時に行動を起こす。
「へっ」
「――っ!」
その姿を見て、ユクレステはニヤリと笑った。
「ストーム・ウォール!」
痛みに耐えながらも詠唱していた一つの魔法。正確には、同属同種の並列魔法。
「なっ!?」
本来ならば相反作用によって消え去るだけの魔法が、彼を中心とした二メートルの魔法を消失させた。光る大地も、風の盾も。そして彼女を守る、強化の魔法すらも。それが、同列魔法
二メートルの円形にポッカリと空いたその空間で、ユクレステは動いた。
二つの杖を両手から放し、刀を鞘から引き抜く。そのまま流れる動作で眼前まで迫ったマイリエルを――
「グッ――」
「あ……」
大地に赤い華が咲いた。ビシャ、と水を撒き散らしたような音と共に、赤い液体が地を染める。それを成した人物は、呆気に取られたように己の体を確認した。
「血、が……」
白いドレスに降りかかった赤い血が、染みとなってドス黒く変色する。自身の持つ長剣からは血が滴り、切り裂いた少年が倒れながら言葉を吐く。
「ち、くしょう……やっぱ、届かない、か……」
ユクレステの同列魔法。それは、相手だけでなく自分に掛かっている魔法ですら例外なく消し去ってしまう諸刃の剣。普段自然と纏っている魔力による防御能力ですら例外なく消し去り、普段以上のダメージを負う。
マイリエルの強化魔法を解除することは出来たのだが、そもそも肝心の剣の腕では彼女に勝てるはずもなく、振り切る速度で既に負けていた。ならば、同時に剣を振ろうと届くはずもない。
だが、マイリエルにも衝撃があった。
「…………」
頬に触れれば、血が指先に付着する。ドレスを見れば、血が染みとなる。剣を見れば、銀色の刀身には赤がこびり付いている。
マイリエルにとって、己の体に相手の血が付着するのは初めての事だった。どれだけ人を斬ろうと、魔物を斬ろうと彼女の纏う魔力が血を通さない。どれだけ動こうとも汚れが付く事を許さない。戦闘において、鉄臭い液体をこの手に触れるのは初めての事だった。
呆然と自身の状態を見て、ハッと顔を上げた。
「ユ、ユリト……わ、私は……私は……」
彼女の後ろにはユリトエスが立っていた。青い顔をして、倒れ伏すユクレステへと駆け寄った。
「うわっ、スプラッタ……結構傷深いな。早く治療しないと。マイリ」
「っ!?」
ビクリと肩を震わせる。怒られた子供のように体を震わせ、ギュッと目を瞑っている。ユリトエスは吐息をしながら、彼女の頬に付いた血を拭い取った。
「大丈夫、まだ生きてる。だから、早く彼を治療しないと。確かマイリ、治癒魔法って使えたよね? お願いだ。ユッキーにそれをかけてくれないかな?」
「う、あ……ですが、ユリト。私は、また……」
「また、じゃない。まだユッキーは生きてる、助けられるんだ。ここにいるのは余の友達なんだ。父さんじゃない。だから、お願いだ。彼を、助けて」
縋るようなユリトエスの瞳になにを思ったのか。マイリエルはソッと右手を差し出した。
「彼の力は光にして癒し、主たる精霊は御身を助くものなり――ヒーリング・ディアシャーレス」
魔法の発動と共に光がユクレステを覆い、徐々に傷を塞いでいく。
この世界において、治癒魔法を行使できる人間は少ない。元々現象を起こすのが魔法であり、治療という行為は本来は魔法にはないものである。あるとすれば、それは二つ。水と光属性の上級魔法、その中でも特に一握りの、主精霊を使役する魔法にそれがある。
つまり、治癒魔法を扱えるのは水と光の主精霊と契約した、精霊使いに限られるのだ。
マイリエルは幼い頃に光の主精霊、ディアシャーレスと契約しており、治癒魔法を使える数少ない存在なのである。
ユクレステを覆う光が収まると、痛々しい傷が残ってはいるが出血は止まっている。治癒魔法は成功したのだろう。
その様子にホッと息を吐き、マイリエルに向き直った。
「ありがとう、マイリ。ユッキーを治してくれて。余の初めての友達だから、死なせたくなかったんだ」
「ユリト……あの、怒ってないのですか?」
おずおずとした問い掛けに、ユリトエスは苦笑しながら応える。
「んー、もしこれが初めの戦闘で起こってたら、怒ったかもしれないけど……今回は、ユッキー公認だったし」
そもそも、自分は止めたのだ。それなのに突っ込んだのはユクレステ。彼の気持ちは非常に嬉しいのだが、出来れば命は大事にして欲しい。最後の突撃なんて斬られると分かって踏み込んでいたのだし。
だからきっとここでマイリエルを怒れば、ユクレステの思いを無視してしまう。
「だから怒りません。でもマイリ、お願いだからあんな事でキレないでよ」
「あんな、こと?」
「君が余を恐がっていること。一歩引いていること」
「……っ!」
ビクリと肩を振るわせ、下を向く。やれやれ、とその様子に苦笑し、自分の荷物を肩に掛けた。
「マイリが余をどう思っているのか、それは良く分かっているよ? だから、もうこのままで良いと思う」
時間はもう戻らないのだから。そう呟く彼の言葉は、風に乗って消えていく。さあ帰ろうと促すユリトエスの背中を見つめながら、震える声を発した。
「ユリト。貴方は、私たちが憎くないのですか? この十年、貴方の気持は分からないままです。彼の言う通り、十年の負い目が貴方に対しての恐怖に繋がっているのなら、私は――」
「それも含めて、このままだよ。マイリ」
くるりと振り向いての笑みは、どこか困った風な表情だ。黙ったままのマイリエルに手を差し伸ばしながら、ユリトエスは言った。
「それに、少なくとも君に憎しみを持つほど性格は捻くれてないつもりだよ? なんたって君は、太陽なんだからね?」
「……ずるいです」
そっと手を合わせ、マイリエルが潤んだ瞳で睨みつける。聞こえていない振りをしたユリトエスを連れ、寝そべっていた飛竜へと乗った。
マイリエルの腰に手を回し、チラリとユクレステ達を盗み見る。
「……ありがとう、ユクレステ。余の、友達」
くすりと微笑みを浮かべた瞬間、ふわりと体が地面を離れるのを感じた。
「ユリト。先ほどは、ああは言いましたが……」
「うん?」
飛竜の背でマイリエルが不機嫌気味に呟く。
「私も、いつまでも貴方に負い目を感じて恐れるのは嫌です。性に合いませんから。だから……」
「ああ、うん。待ってるよ。せめて、レイサス様と式を挙げる頃にはなんとかしてねー」
「なっ!? あ、貴方はまたなにを――」
からかうような言葉は見事にマイリエルの動揺を誘った。頭に浮かぶのは、人の良さそうな笑みを向けるアーリッシュの賢王。彼の顔を思い浮かべながら、ユリトエスは笑う。
(レイサス様、マイリを幸せにして下さいよ? もし、それが叶わないと言うのなら……さて、どうしよう。もしこの子を物扱いしようものならば……)
クスリクスリと、喉の奥から笑いがこみ上げる。向かう先は果たしてレイサスか、それとも伯父であるベリゼルスか。
今はまだ、分からない。
「聞いているのですか、ユリト!」
「はーいはい、聞いてるよ、マイリ。それよりお腹空かない? どっかで郷土料理でも食べてこうよ。確かこの辺りにコラーゲンたっぷりの美肌効果が期待できる料理があったはずだよ」
「美肌……い、いえ! 急ぎ帰ります! ええ! ……で、でもこの子もずっと飛び続けていましたし、少し休息を取るのも良いですね。それに服も汚れていますし、これは仕方ないですね!」
「そんな全力で言い訳しなくても……めんどくさい子だなぁ」
本日二度目の更新です! ノっている時ってびっくりするくらい早く書けたりしますよね? 新章も始まりましたし、良いスタートを切れました!
最近地味にお気に入り件数が増えていっているので、それ効果もあるかもしれません。これからもよろしくお願いします!
感想、評価もお待ちしていますよー。