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聖霊使いへの道  作者: 雪月葉
セントルイナ大陸編
62/132

休息のクリスト

 パタパタと雪道を走る音がする。冒険者ギルドのカウンターに寄り掛かって寝ていた受付嬢のエルーネ・シフォンはその音で目を覚まし扉の方を見やる。すると想像通り、元気良く開け放たれたそこからは二人の可愛らしい少女が入ってきた。

「エルーネさーん、クエスト終わったッスよー。確認お願いするッス!」

「はーい、今行きまーす」

 寝起きの頭でよろよろと建物から出たエルーネの目に飛び込んできたのは、大人の男性よりもずっと大きなトカゲだった。この辺りに群生しているスノウリザードに近しいそれは、キングスノウリザードと呼ばれる、いわゆるこの辺りのボスである。今回の依頼はそのキングスノウリザードの狩猟だ。なんでも、こいつに野生の獣が襲われ、捕れなくなってしまったのだとか。

 その仕事を終えた二人の少女は、仕事上がりの一杯で喉を潤しながら彼女の査定を待っていた。

 念のために言っておくと、酒ではなくミルクである。

「……はい、確認しました。確かにキングスノウリザードですね。ではこちらが報酬となります」

「どうもッス!」

「あ、ありがとうございます」

 元気良く返事をするシャシャと、控えめに頭を下げるミュウ。まるで正反対な彼女達だが、その実力はエルーネも良く分かっている。かれこれ二週間程の付き合いでしかないが、ギルド職員として接した中で十分に見せて貰ったのだから。

「そう言えば、まだ良くならないんですか? ここら辺の風邪は性質たちが悪いですからねぇ。あなた達も気を付けてくださいよ?」

「はーい!」

「はい……」

 そう、二週間だ。この街に来て、既に二週間以上が経っていた。一週間前にお祭りを楽しみ、その五日後に氷の主精霊、アリスティアの試練を受けた。それから三日。今もこうしてこのクリストの街に滞在しているのには、理由があるのだ。



「ぶえっくしょーい! うぅ、喉痛い……」

 宿の一室、三つあるベッドに三人の人物が横たわっていた。一人は黒髪の少年、ユリトエス。もう一人は褐色の肌を持ったダークエルフの少女、ユゥミィ。そして最後の一人は、一番しんどそうにしているユクレステだ。

 ユクレステは顔を赤くし、朦朧とした意識で両隣りの風邪引きさんに声をかける。

「だ、大丈夫か二人とも?」

 おー、とか、あー、とかの返事を聞き苦笑する。ユクレステの風邪の原因は、間違いなくアリスティアに氷漬けにされたことだろう。少しの時間とは言え凍らせられ、急激に体温を奪われたせいだ。それに対し、二人の風邪の原因はこうだ。

 ユリトエスは、あれから皆が帰って来るまで本当に宿の前で待っていた。雪も降って寒い中、無事戻って来るのを信じて待っていてくれたのだ。そしてユゥミィは、二日前に行ったマイアとの芸談が原因らしい。なんでも、夜中に二人で広場に雪像を作っていたのだとか。これでマイアは元気なのだから恐れ入る。バカはなんとやら、という言葉を見事に表した者と、覆した者に分かれた訳である。

 そんなこんなで既に三日。ユクレステはベッドから動けずにいた。その間、他の面々は風邪がうつると困るので別行動中。ミュウとシャシャは冒頭の通りギルドの仕事をしてお金を稼ぎ、それにくっ付く形でマリンが同伴している。アリスティアとの戦闘の後、完全にだらけ切っているマリンは日がな一日寝て過ごしているという。本人曰く、久し振りに真面目モードになったから疲れちゃった、とのこと。実際に体を動かしていない癖に、とは思うが、一応今回の功労者であるのは確かなのでなにも言えずにいた。

 ディーラはあの後薬の副作用が出たのか、とにかく暑くて仕方ないと言っていつもの服装で山に遊びに行っている。胸に金属製のベルトを二つ巻き、右半分が短パンとなったズボン姿を見ているとこちらが寒くなってしまう。


 ぼんやりと仲間達のことを考えていると、部屋の扉がガチャリと音を上げた。だれが入って来たのかと首だけをそちらに向ける。

「…………」

「うぇ? アリスティア様?」

 部屋に入ってきたのは、氷の主精霊であるアリスティアだった。試練の時に見たような大人の体ではなく、以前祭りの時に現れた子供の姿をしている。露出の高い服を着て、その上にボロボロのローブを羽織った姿でユクレステのベッドへと近付いた。

「ど、どうしたんですか?」

「……いつまでも動きがないからどうしたのか気になっただけです。まさか、風邪なんかをひいてるとは思わなかったですよ」

「あはは……」

 あなたのせいですけどね、とは言わないでおく。両隣りのベッドからアリスティアに対してのツッコミがないところを見ると。二人とも眠ってしまったのだろう。少し羨ましく思いながら、重たい体を起こした。

「えっと、すみません。なんのおもてなしも出来ず」

「良いから寝ていなさい。弱っている相手にお茶を淹れろとは流石に言わないですから」

「それは、助かります」

 ポテ、と倒れるユクレステに布団をかけてベッドに腰掛ける。

「…………」

「…………」

「えっと……」

 アリスティアはジッとそのまま顔を眺め続けた。無言に耐えられなかったのか、ユクレステはしどろもどろに声を上げる。

「そう言えば今日は窓から入って来なかったんですね? 部屋も寒くなっていないし」

「要望があれば今からでもやってやりますが?」

「あー、今日はちょっと勘弁……」

 そしてジー、と。

 なんなんだ、と内心首を傾げることしか出来ない。

 しばらくしてようやく視線が外され、その先にはユクレステの杖が立て掛けられている。チョイ、と指を折り曲げるとつむじ風が巻き起こり、杖はアリスティアの手に収まった。彼女は杖の先に取り付けられた透明な水晶に指を這わせ、言葉を紡いだ。

「一応、今回来たのはこれがちゃんとしているかを見に来たという理由もあります」

「あ、そうなんですか」

 試練を終えた後に渡された、アリスティアの氷水晶。氷で出来てはいるが精霊の加護のお陰で溶ける事はなく、主精霊から力を貸してもらえるものだ。オームの時の紫水晶アメジストと似た効果があるようだ。

「良いですか? 精霊を従えるということは簡単なことではありません。私たちを従えるに足る精神力が必要不可欠です。少しでも心を違えれば……私たちはおまえを見限ることもあるのです。十分注意しなさい」

 真剣なアリスティアの表情に一瞬気圧されるが、すぐに気合を入れ直し正面から見つめ返した。

「……分かってます。でも、それはあんまり心配してませんよ。聖霊使いになって秘匿大陸へ行く。それを諦めるくらいなら、死んだ方がマシです」

「そうですか。……まったく、やはり氷漬けにして飾っておきたいですね」

 頬を朱に染め、なにやら物騒なことを呟いている気がしたが、気のせいだと思い込むようにする。

「それよりも、です」

 コホン、と咳払いをして再度アリスティアがユクレステの顔を覗き込んだ。

「おまえは秘匿大陸へ行きたいそうですが、どこまで知っているのですか?」

「どこまで……? えっと、それは秘匿大陸への行き方のことですか? それなら、精霊の力が必要だとは聞きましたが……」

「……それは一体だれに?」

「そっちにいるユリトからですけど……」

 布団から手を出して隣のベッドを指差す。当のユリトエスは就寝中で、時折苦しそうに呻いている。悪夢でも見ているのだろう。

 チラリと盗み見るようにしてユリトエスは視界に納めたアリスティアは、ふん、と鼻を鳴らした。

「あいつは……何者です?」

 一瞬、どう言おうかと悩んだユクレステだが、別にこの少女に本当の事を言ったところで不都合にはならないだろうと判断した。

「ユリトエス・ルナ・ゼリアリス。ここよりずっと南に位置するゼリアリス国の王子様ですよ」

「ゼリアリス……ああ、なるほど。そういうことですか。確かに、それならば精霊のことを知っていても不思議じゃあないですね」

 納得したような表情に、今度はユクレステが疑問を見せた。

「それって、どういう……?」

「簡単な事ですよ。三百年前に現れた大地、秘匿大陸――そこへ行ったのですよ、ゼリアリスの人間が」

「えっ……?」

 事も無げに言い放った言葉に絶句する。そんな話、一度も聞いた事がなかったのだ。思わず立ち上がりかけ、すぐにアリスティアに押し倒される。

「寝てろです」

「あ、いやその……ほ、本当なんですか?」

「嘘を吐く理由はないですね」

 嘘だと思われたのが不愉快だったのか、ちょっとむくれたように口を尖らせる。

「今から大体二百年前、おまえと同じ秘匿大陸へと行こうとした男がいたのです。名前は……忘れましたが、そいつは秘匿大陸へ辿り着くために様々な遺跡を調べ、また自分でも同じように遺跡を作り始めました。とは言え、たかだか人間の寿命程度では届かなかったようで、結局その子供が秘匿大陸の地を踏むことになったようですが」

「そ、その人はどうなったんですか!?」

 興奮に上気する頬にひんやりと冷たい手が置かれる。それを行っているアリスティアは面白そうに頬を引っ張りながら、妖しく微笑み首を振った。

「さあ? 結局帰って来なかったそうですが……良いとこ、野たれ死んだのではないですか?」

「そう、ですか……」

 秘匿大陸へと渡った人物の足跡が途切れてしまい、残念そうにうな垂れる。だが納得したこともあった。なぜゼリアリスに聖霊使いの手記が残されていたのか。それは、秘匿大陸を目指した王が探し当てたものが代々伝わっていたのだろう。

 そしてなによりも、ユクレステは喜んでいた。

「……随分嬉しそうですね?」

 首を傾げそう問うアリスティアに、満面の笑みを以て応える。

「それはそうですよ。だって秘匿大陸へ行く事が出来るんだって分かったんですから!」

 聖霊使いにしか到達できない大陸であると言われ続けて来た秘匿大陸。今それが、現実に手の届くところに存在している。それが分かっただけでも大変な収穫だ。ユクレステは感謝の意を込めてアリスティアの手を握った。

「ありがとうございます、アリスティア様! これで俺は、躊躇ためらい無く前に進めます!」

 突然手を握られ、なにを思ったのか口元をつり上げて笑みを見せる。

「ほう、つまりおまえは私に感謝しているのですね?」

「はい!」

「なら対価をもらいましょう」

「……えっ?」

 ニヤリとした笑みを前に、ユクレステの体が固まった。その間にもどうしようかなー、と楽しそうに口ずさんでいる。正直これはマズイ事態なのではないだろうか。もしも対価として凍らせて来るようならば……。

「さて、やっぱりここはあれですかね」

「ごめんなさい! 氷の置物だけは勘弁して下さい!!」

「……まだなにも言ってないのですが?」

 どうやら早とちりだったらしい。

「そうですね……うん、決めました」

「あ、あのー、出来れば手加減して頂けると嬉しいのですが……」

 ベッドから立ち上がってユクレステの額を指先でツンと押し、ニコリと微笑んで言った。

「今から私のことはアリス、と呼ぶのです。それを対価としてあげましょう」

「へっ? そんなので良いんですか?」

「良いから。早く呼びなさい」

「えーっと、じゃあ……」

 どこか気恥ずかしさもあって視線を泳がせ、コン、ときを一つ。それから、

「これからよろしくな? アリス」

 仲間にするような言葉遣いに、にんまりと笑みを作って応えた。


「ええ、よろしくするのですよ」




 それから二日。ユクレステ達の体調も完治し、再び旅立つ日が来た。知人友人に声をかけ、世話になった礼をして街の入り口に集まる。ぐるりと全員を見渡し、声をかける。

「結構長くいたよなー。二週間くらいかぁ」

『だねー。マスターやディーラちゃんが倒れなければもう一週間は短縮できたんだけどね』

「マリン、それは言わないお約束。……それよりご主人、寒い。あれはもうないの?」

「あるけどあげません。もう精霊もこっちに敵意を示してないから羽が凍ることもないだろ?」

「でも寒いし……じゃあせめてくっ付かせて」

「はぁ……ま、それくらいなら別に良いけどさ」

 ぎゅ、と腕に抱きついて来るディーラをそのままに、話を続ける。

「で、次の目的地なんだけど……先日、もう一人の精霊の居場所が分かりました。なので、そこを目指します」

「ふむ? だれかに聞いたのか?」

「一昨日アリスが教えてくれたんだよ。その時おまえとユリトは寝てたけど」

 そうだったか? と首を傾げるユゥミィを放置し、次なる精霊の名を告げた。

「居場所の分かった精霊は……風の主精霊、シルフィードだ」

「シルフィード……確か、ご主人さまが契約している精霊……ですよね?」

 控えめに確認をしてくるミュウの言葉に頷く。

「まあな。正直、俺はこいつのことすっごく苦手なんだけど、アリスが言うに秘匿大陸へ渡るなら絶対にシルフィードの力を借りなきゃならないんだってさ」

「んー、じゃあ仕方ないッスね。で、どこにいるんスか?」

「シャシャにとっては、馴染みの場所かな」

「……それってまさか」

 嫌な予感に顔を歪める。ユクレステは気まずいながらもしっかりと頷き、目的地を口にした。

「次の目的地は、アークス国シンイスト領。超危険区域に指定される、天上への草原だ」

 奇しくもシャシャにとっては里帰りになるだろう場所。そして、風に愛された者が帰る場所。シルフィードが住むのには絶好の場所である。


「で、さっきから上の空だけど……どうした? ユリト」

「ん? いやちょっとね。そろそろかな、って思ってさ」

 首を傾げるユクレステに、ユリトエスはなんでもないと言って笑ってみせた。



 そうして旅立ちった彼らと、ちょうど同じ日。賢王レイサス・エア・アーリッシュが住まうアーリッシュ城に一つのしらせが届いた。ある一室に佇む一人の少女と、その少女に膝をつき頭を下げている老騎士が一人。

「……それは、本当ですか?」

「ハッ! 全て自分の不手際です、申し訳ございません! 如何なる罰も甘んじて受けましょう!」

 老騎士であるエイゼンは額が付きそうなくらいに頭を下げ、緊張した面持ちで次の言葉を待った。しばらく顎に手を添えていた少女、マイリエル・サン・ゼリアリスは、優しげな笑みを老騎士に向けた。

「いえ、良いのですよ。エイゼン。貴方は良くやってくれています。今回の事だって、あれの我がままに付き合って下さったのですから。感謝こそすれ、罰を与える訳がないじゃないですか」

「マイリエル様……クッ、なんとお優しい……このエイゼン! 身も心も姫様に捧げますぞ!!」

「ふふ。大袈裟ですね、エイゼンは」

 ソッ、と手を差し伸べ、エイゼンを立ち上がらせる。感動に打ち震えるエイゼンを宥めながら、報告を再度脳内に再生した。

 彼からの報せは一つ。従兄でありゼリアリスの王族の一人、ユリトエス・ルナ・ゼリアリスが旅行先から帰還する船の上から消えていたと言う事。いや、実際は船に乗るよりも前にいなくなっていたのだろうと推測する。これでも十年以上も寝食を共にした存在だ。彼の考えはある程度理解できる。それが喜ばしいかどうかは別として。

 ダーゲシュテンの領主に問い合わせたが、彼は知らなかったのか可哀そうな程に慌てていたらしい。それが演技かは分からないが、エイゼンの話によればとても演技には見えなかったそうだ。人の良いことで有名なダーゲシュテンの領主ならば、嘘ではないのだろう。

 では、ユリトエスはどこへ消えたのか。

「……エイゼン。確かダーゲシュテンのご子息は旅に出たと言いましたね? どこへ向かったのですか?」

「ハッ。ユクレステ・フォム・ダーゲシュテン殿はリーンセラ国に向けて出発したそうです。なんでも、クリストの街を目指したとか」

「そうですか……」

 怪しいとするならば、彼だ。ユリトエスが頼るほどの人物かは分からないが、常から、旅をしてー自由になりてーなどと言っている彼の事だ。ユクレステに便乗する可能性は高い。

「……エイゼン。今すぐに飛竜を一匹用意して下さい。出来るだけ強く、速いものを選んで」

「飛竜を、ですか? ハッ。了解しました! すぐに用意させます」

 大急ぎで部屋を出ていったエイゼンを見送り、マイリエルは再び思考の海へと沈んで行った。考えるのは、先ほどの報告のことだ。

(おかしい。本来ならばもっと早く報せが届いていなければならないはず……仮にも王子が行方不明になったと言うのに、この対応の遅さは不自然です。それに、お父様が知らないはずもないのに、なんの対策もされない……どういうことでしょうか?)

 疑問と不満が渦巻く。確かに父とユリトエスの仲はお世辞にも良いとは言えないが、それでもこんな長期間放ったらかしにして良いはずがない。今すぐ父の所へ行って問いただしたい気持ちはあるが、下手をすれば捜索自体を止められかねない。ここは報告するより先に動いた方が無難だろう。

 マイリエルはそこで思考を区切り、外へと向かった。飛竜舎からエイゼンの怒声が聞こえたからだ。

「エイゼン。一体なにをしているのですか?」

「姫様!? いえ、その……飛竜を探しに来たのですが……」

 チラリと飛竜舎を盗み見るエイゼン。つられる形でそちらに向くと、一匹の飛竜を除いて全ていなくなっていた。

「……これは一体、どういう事ですか? 説明を」

「は、はっ! その、実は……」

 飛竜の世話をしていると思しき一人の兵士がしどろもどろに説明する。なんでも、突然飛竜隊で大規模演習を行う事になり、今朝から郊外の平原に向かったのだとか。

「あの子は、つれていかなかったのですか?」

 またもおかしな感覚を覚えながらも、一匹残った飛竜を見る。他の飛竜よりも大きく、また鋭い視線が歴戦の強者を思い起こさせる。

「はっ! あの飛竜は先代アーリッシュ王の飛竜でして、先王以外には懐かないのです。それで、一匹だけあそこに……」

 なるほど。確かに我が強そうな顔つきをしている。そしてなにより、速そうだ。

 マイリエルは他の兵士に用意させた食糧とマントを身に着けると、こちらを威嚇する飛竜へと近寄った。

「マイリエル様!? 危のうございます! お下がりください!」

「心配しないで、エイゼン」

 止めようとするエイゼンに片手を上げて制止し、飛竜を見つめる。普段と変わらず優しげな雰囲気の中にあるプレッシャーが飛竜に向けられた。

「――ッ!?」

 知らずのうちに平伏している自分の体に驚きながらも、飛竜は目の前の少女から放たれる力に打ちのめされている。弱い人間を背に乗せることなど耐えられないと思ってきた飛竜は、出会って数分でこの少女を主と定めた。

 背を向け、マイリエルはそこへ軽やかに跳び乗った。

「少し城を留守にします。お父様たちに知らせておいて下さい」

 エイゼンの返事を待たずに飛竜は翼をはためかせ、空に飛び上がった。力強い羽の動きが徐々に速さを増し、数秒後にはマイリエルは空を駆っていた。

「まったく、あの王子は……捕まえたらお説教ですね」

 頭に思い浮かべた従兄の顔は、何度も見て来たように小憎たらしかった。



 飛竜が飛んで行ったのを確認し、レイサス王は苦笑していた。隣にはゼリアリス国の王であるベリゼルス・サン・ゼリアリスが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。

「文字通り、飛んで行ってしまいましたね? ベリゼルス王?」

「まったく、あのジャジャ馬め……これだから黙っていたのに」

「まあ、仕方ないでしょうね。これ以上情報を止めておくのも無理そうでしたし。……それより、今は鍵についてでしたか」

 ニコリと柔らかな笑みのレイサスは、首元からなにかを取り出した。灰色の石が埋め込まれたペンダントだ。

「ああ、そうだったな。二つはここにある。そしてもう一つ、場所は見つけ出した。が……」

「なにか?」

 押し黙ったのを見て疑問するように首を傾げる。それに応えるように、ベリゼルスは忌々しそうに口を開いた。

「ふん。残る一つの鍵はジルオーズが所有しているらしい。それも、家宝としてな」

「……なるほど。それは確かに、苦労しそうですね」

「事実、苦労している。奴らは確かに強力だからな」

「では、どうされるので?」

 レイサスの言葉に、ベリゼリスは凶悪な笑みを浮かべる。それは直接顔を合わせているレイサスでさえ恐怖を覚える表情だった。

「なに、既に種は撒かれている。後は、収穫するだけだ」


やっぱり日常系の話だと結構捗りますね。地味に目標にしていた一日更新を達成! これがこの先も続くかどうかは皆さま次第! ……なんて言ってみたりして。無理の無いペースで頑張って行きますので、これからもよろしくお願いします。

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