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聖霊使いへの道  作者: 雪月葉
セントルイナ大陸編
51/132

氷の獅子だyo!

 リベルの街を出て半日。ダーゲシュテンでは見る事のなかった針葉樹を眺めながら、整備された道を歩いていた。ゼリアリスでミュウ達と一緒に街道を歩いた時と比べて旅の仲間が四人増え、騒がしくも楽しい道中である。


「そろそろ陽も傾いて来たね。次の街までまだ掛かるだろうし、今日のところは野宿かな?」

 空を見ながらそう言うのはユリトエスだ。つられて見上げてみると確かに太陽が西の山に掛かって来ていた。

「そうだな、暗くなると危ないし、今から準備した方が良いか」

 辺りを見渡し、野宿に良さそうな場所を探す。ちょうど山道に差しかかった辺りなため、大きめな木を探してその下に陣取った。


『水はー……うん、あっちに降りていくと川があるみたいだね』

「ほう、ならばここは一つ……」

「そうだね、勝負といこうか」

「おおっ、楽しそうッスね! じゃあ勝敗は……」

「水を汲んで先に帰って来た人、ですね?」

 そう言うが早いか折り畳まれた容器を持って駆け出すディーラ達。ユゥミィやシャシャはともかく、ミュウも乗っているのには驚きだ。

 そんな彼女達を見送り、ミュウが背負っていた荷物から食材を取り出す。そんな中で、ふとたき火の方に視線を向けた。

「それで、ユッキー。なにそれ?」

「ふっふっふっ、まあ見てなって」

 もったいぶるように自分の荷物から小指程の小ビンを取り出し、たき火に中身を注ぎ込む。すると突然火が風となって辺りをただよい始めた。

「うわっ、なにこれ!? 急に暖かくなった?」

 まだ九月期の初旬とは言え、アークス国以北はもう肌寒くなっている頃だ。本日もひんやりとした空気だった。それが今、穏やかな暖かさとなっている。

「これ、ユッキーの魔法?」

「まあな。と言ってもディーラの手も借りてるんだけどね」

 小ビンをしまいながらニヤリと笑う。

「命名《イグニー・テント》。風の結界を張ってその中を温暖な気候とする魔法薬マジック・ポーション。魔法水に風と炎の結界系統の魔法陣を溶け込ませたんだ。火属性は苦手だったからディーラがいて助かったよ」

「へー、便利だねこれ。魔力とかは使わないんだ?」

「ああ。起動には火が必要なだけだからな。大体半日はつし、一夜くらいなら問題ないよ」

 その代わり消耗品であるのに加え、作成するにはそれなりの力量を持った魔法使いでなくてはならない。旅人が持つには少々値が張るのである。

「はー。まあ、僕らからしたら有りがたいよね。寒さに凍えずに済むってのは」

「違いない」

 さて、遠くからはなにやら騒がしい声が聞こえてくる。水を汲みに行った子達が帰って来たのだろう。

 先頭にはディーラとユゥミィが。その後ろからはシャシャがゼーハーと息を乱し、ミュウが心配そうに見守っている。

 結局一番乗りは、空を飛んで帰還したディーラだった。



 一週間後。

 ユクレステ一行は山間やまあいの関所を抜け、北の大国、リーンセラ帝国へと足を踏み入れた。山の山頂部は既に白化粧を終えており、平野部でも早い所では雪の降る場所が出ているようだ。これから向かうアリティアに一番近い街、クリストでは既に雪が積もっているのだと関所の兵士が言っていた。

 寒さもそろそろ本格的になってきている。防寒具をしっかりと着こみ、氷雪の街に向けて出発するのだった。


 と、意気込んで一時間後。

「さ、寒い……」

 既に脱落しかかっている一匹の悪魔がいた。

 分厚く長いローブを来て、短パンから長ズボンに着替えたディーラ。それでも右足の太ももの一部は露出させている。隙間から見えるのはユクレステとの契約紋。これだけは隠したくないと主張したのだ。

 それのせいという訳でもないのだろうが、元々寒さには弱いと明言していただけあり、震えの止まらない体を必死に両腕で抱き寄せている。

「なんだ、ディーラ。この程度の寒さでダウンとは情けない! 見ろ! 私は全然平気だぞ!」

「……ユゥミィの船酔いと一緒だよ。僕は寒いの大嫌いなんだから……」

 反対にユゥミィなどは全く堪えていない。マントをバッ、と広げ、ポーズまで取っている余裕っぷりだ。作りのしっかりとした薄緑のウール生地の上着に、下はひざ下辺りまでのスカートを穿いている。少し下半身が寒そうに見えるが、至って平気そうだ。

「まあ仕方ないッスよ。南方の人がこの辺りに来ると大体ディーラさんみたいな反応取るッスから」

 寒そうと言えば、シャシャもである。ローブも着て上着などはきちんとしているのだが、下半身はミニスカートである。靴下も白のニ―ソックスで、綺麗な素足が眩しい。

「……二人はなんでそんなに平気な顔してるの? 頭可笑しいの? 死ね」

「なんかスッゴイ不穏な言葉が聞こえた気がしたッス……」

「ちょっと気が立っているだけだ。気にしない方が良いぞ?」

 割と本気な殺気を受けて、ぶるると寒さとは別の悪寒に背を震わせるシャシャ。ユゥミィはもう慣れたのか気にも留めていない。

 気を取り直し、シャシャは頬を掻きながら言う。

「まあ、うちは実家が割と寒かったッスから。雪なんかは降らないんスけど、寒い日にはコロッと凍死しそうになるッス。まあ、それはシャシャの部屋が屋根裏部屋で薄布一枚しかないからなんスけどね」

「精霊に呼び掛けて冷たい空気を避けてるからな。火の精霊でもいれば暖も取れるのだが……まあ、いなくても元々ダークエルフは気候の変化に強いみたいだからな。問題ない」

「……シャシャは許す、色々不憫だから。でもユゥミィ、オマエは死ね」

「なぜ私だけ!?」

 しかし言うだけで留めている辺り、本格的に寒さに参っているのだろう。普段ならばここから取っ組み合いになりそうなものなのだが。

 やれやれと軽くため息を吐き、ユクレステはミュウに視線を向ける。

「ミュウは平気そうだな。寒いのとか結構平気なのか?」

「えと、あまり好きではないですけど……この洋服は温かいですから」

 彼女の格好は普段と変わらないメイド風の洋服だ。驚いたことに、この洋服には耐寒魔法なるものが掛けられていた。一時的なものならばいざ知らず、ほぼ半永久的に発動し続けるタイプの魔法に度肝を抜かされた程だ。この服の作者は一体どういう意図でこんな超高性能なメイド服を作ったのだろうか。

 そのお陰でミュウも快適そうなため、なにも言わないが。

「もう少し行ったところに山小屋があるみたいだから、取りあえずそこまではガンバろう、ディーラちゃん」

「……寒い」

 元気づけようとするユリトエスも寒いのは得意ではないのか、かなり厚手の服を身に纏っている。考えてみれば、ゼリアリスは南方に位置しているため、温暖な地域だ。そこに住む者として、寒いのが苦手なのは当然と言える。

「ディーラ、寒いんなら手、繋ぐか? 少しは温まるんじゃないか?」

「あっ、ズルイ! 私も主と手を繋ぎたいぞ!」

「シャシャも! シャシャもユー兄さんとラブラブ繋ぎしたいッス!」

「おまえ達は全然平気だろ?」

 騒ぐ二人を他所に、ディーラは少し悩んでいるように顔を伏せる。

「……ん、お願い、ご主人」

 しかしやはり寒さには勝てないのか、スルリとユクレステの左腕に腕を絡め、自身の体を押し当ててきた。

「あ、ちょっとぬくい」

「がんばれるか?」

「……ん、こうしてくれるんなら」

「よし、じゃあがんばろう」

 ディーラの頭を撫でる。それが心地良いのか、柔らかく表情を崩した。

「クッ、羨ましい……」

「うぅ、シャシャもぉ……」

「あはは……居辛い……」

 ユリトエスの助けを求めるような視線に急かされるように、ユクレステ達は先を急いだ。


『んにゅ……冬眠冬眠……』

 一方マリンは一人夢の中にいた。宝石の中の空間は一定の温度なため、寒さなどとは無縁の場所だ。それでも眠たくなるのは、魚類のさがなのだろうか。



 多少は整えられた道とは言え、起伏の激しい山道であることには変わりはない。左手側を見れば、霧のかかった崖がある。視線を眼下に向けてみても白いもやのせいで地面まで確認出来ない。一応、申し訳程度にはロープで危険を知らせてはいるが、一歩踏み外したら大変なことになる。そのため、ユクレステ達もより慎重に進んでいた。

「……天気が悪くなってきたな。これは、降りそうな感じか?」

「そッスね、雲も厚いし……ちょっと急いだ方が良いかもッス」

 太陽は既に雲によって隠れてしまい、辺りは少々薄暗い。さらに気温も低下しているのか、肌に刺す痛みも増している。

「……なんか、変だな?」

「どしたのユッキー?」

 白い息を吐きながらユリトエスが首を傾げた。

「いや、なんか……変な感じしないか? 空気がやけに濃いって言うか……」

 ユクレステ自身も漠然としたことしか分からないが、なにか勘に引っかかるものがあるのだ。やけに周りが静かであるとか、気温が急激に下がって来ているというのもある。それらを含めて、刻々と場が変化しているように感じる。

「ご、ご主人……寒い……」

「ん? ディーラ、どうし……ってぇええ!?」

 考えに思考を割いていると、腕に抱きついているディーラが震えた声を発した。どうしたのかと彼女に視線を向け、なにか言いたそうな視線と同じ方向を見る。

 ローブを捲り、そこに見えるのは黒いコウモリのような翼。そこまでならば見慣れたものだ。問題なのは、それが凍り付いていたということ。

「ディ、ディーラさん、羽が凍ってます……!」

「ちょっ、大丈夫か!? ユリト、タオルタオル!」

「う、うん!」

「……ざぶい……」

 涙目で縋るように見上げるディーラの姿。普段からは想像も出来ない姿だが、今はそんなことを観察している場合ではない。ユリトエスからタオルを受け取り、凍った羽を擦る。

「あふぅ……ちょっと暖かくなってきた……」

 徐々に凍ってパリパリになっていた羽が元の質感に戻っていく。滑らかな肌触りに戻ると、ディーラの反応が少し変化した。

「ん……あふっ……は、ぁん……。なんか、気持ち良い、かも」

「おまえね……」

 頬を染め、艶のある声が喉の奥から漏れる。

 とにかく羽の解凍は完了したようなのでタオルを動かす手を止めた。

「取りあえずはもう大丈夫みたいだけど……ディーラちゃん、寒さに弱過ぎない?」

 寒いの苦手とは聞いていたが、歩いているだけで羽が凍るとは思ってもみなかった。ついでにユリトエスはどうしてローブの下の羽が凍るのかと疑問に思う。

「む、流石にこれは僕も予想外だよ」

「そうなの?」

 ムッとした顔で頬を膨らませるディーラ。羽を弄りながら言葉を続けた。

「確かに寒さには弱いとは言ったけど、ここまで物理的に弱いはずないんだ。仮にも悪魔族だし。羽なんかは力の象徴みたいなものだからそうそう簡単に傷つかないはず」

「じゃあなんで凍ってるんスか?」

「知らない。って言うか知りたくもない。寒いし……ご主人、寒い」

「ああ、はいはい。……シャシャは平気なのか?」

 ギュウ、と抱きついて来るディーラを撫でながらふと彼女に質問をしたシャシャへと視線を向ける。現状、一番寒そうなのは彼女なのだし。

「シャシャッスか? ちょっと肌寒い感じはするッスけど、まあ問題ないッス!」

「すごいです、シャシャさん」

「エッヘンッス!」

 ミュウの言葉に気を良くしたのか胸を張っている。北国生まれだからか、それとも他の要因もあるのだろうか。とにかく元気娘は今日も元気である。

 そんな中、もう一人の元気娘の声が聞こえないことに違和感を感じて、ユクレステがそちらを向く。いつもならばディーラに対して憎まれ口の一つでも吐き捨てる場面なのだが、今のところそれもまだない。

「ユゥミィ? おまえもどっか凍ったか? 例えば耳とか」

 悪魔種と言えば羽、エルフ種と言えばその長い耳。ジッと彼女の耳を観察するが、特に問題はなさそうである。

「ん……。いや、問題ない」

「……?」

 ユクレステの軽口に無反応なユゥミィ。なにか可笑しな反応に、思わずディーラと顔を合わせる。

「本当に大丈夫か? なんか変だけど?」

「ご主人、ユゥミィが変なのは通常運転」

「失礼な! 私のどこが変だと言うのだ!」

 普段の言動かなぁ、とは二人の心の内。

 心の声が聞こえる訳ではないユゥミィはそこで一度怒りを鎮め、真面目な面持ちをした。

「いや、その……大した事ではないのだが……」

 どうにも言い辛そうなユゥミィの様子に、ユクレステ達が首を傾げる。

「どうしたんでしょう、ユゥミィさん……」

「なにか悪いものでも食べたのかな? でも今日の朝食は関所の食堂で出たライスカレーでしょ? 別に変な物は入ってなかったはずだけど……」

「あれじゃないッスか? 辛い物で酔う体質とか!」

「カレーは甘口に限ると思う」

「そうか? 俺はもう少し辛くても大丈夫だったけど……でもユゥミィもカレーは辛口派じゃなかったっけ?」

 小声での会議の結果。

「そっか、ユゥミィもカレーにはチキンって事だろ?」

「……なにを言っているのだ? 主」

 心底軽蔑した眼差しを向けられた。ユゥミィにやられると結構胸が抉れるのだが、必死に笑顔を貼り付ける。若干ひくついた表情になっているのだが。

 とにかくカレーの話ではなかったようだ。今もユゥミィは難しい顔をしており、忙しなく辺りを見回している。

 と、その時だった。

『……なに?』

 ミュウの胸元に下げられたアクアマリンの宝石から声が漏れた。今まで眠っていたマリンが目を覚ましたのだ。

「マリン? どうかした……」

「あ、主!」

 声をかけようとしたところにユゥミィが慌てたように声を出す。その表情はかなり焦っているようで、視線は頭上を見上げている。

「今度はなに……」

「不味い、来るぞ!」

「へっ?」

 なにが、と尋ねる時間は無かった。気付けばソレは、既に降って来ていたのだから。

「――!? 全員戦闘準備! ミュウ! ユリトを!」

「は、はい!」

 ユクレステの掛け声に即座に反応する仲間達。即座に抜刀するシャシャ、嫌々ながらもローブをはだけさせるディーラ、ユリトエスを守るように大剣を構えるミュウ。

 ユクレステもリューナの杖を相手に向け、油断なく観察している。

「なんだ……こいつ?」

 透き通るような外観の獅子がそこにいた。透き通ると言う言葉は比喩でもなんでもなく、事実獅子の向こう側が見えているのだ。ひんやりとした空気が獅子の体から発せられ、白い煙となって漂っている。

 ソレは、氷で出来た獅子だった。

「ちょっ、なにこの魔物さん! 魔物博士、ご教授お願いします!」

「魔物……? いや、こんな奴見たこともないぞ。それにこれはどちらかと言えば……」

 ひーんと情けなく泣いているユリトエスに律儀に返し、チラリとユゥミィを見る。彼女も分かっているようで、コクリと頷きながら首に掛けたペンダントを取り出す。

「主の考えている通りだ。こいつらは魔物じゃない……精霊だ!」

「おおっ! これが精霊ッスか?」

「見た目からして氷精霊……中級くらいか。で、それがなんでいきなり襲ってくるんだよ」

 基本的に精霊は人を襲うようなものではない。自然現象として現れ、時には人に被害を与えるかもしれないが、今の状況のように敵意を持つことはないはずである。

「……実はさっきから精霊が話しているのが聞こえたのだが……」

「話し? それで静かだったのか……。で、なんだって?」

「『おっ? あれ人間じゃね? 人間じゃない奴もいるけど人間もいるしやっちゃう? youやっちゃう? オーイエーやっちゃいなyo!』とかれこれ十分くらい歌っていたな。まさか本当に襲ってくるとは……!」

「それ先に言えよ! こうなるの事前に分かってたじゃねーか!?」

「し、仕方ないだろう! まさか本当に精霊が襲ってくるなんて思ってなかったんだからぁ!」

 とにかくこうなってしまっては仕方ない。低く唸氷精霊を睨みつけ、一度背後を見る。

「ここで迎え撃つとなると少し手狭だな……一度下がって戦い易い場所に誘導するぞ」

 多少の横幅があるとは言え、こうも狭い場所では剣もまともに振れない。特にミュウの大剣では同士討ちの可能性だって十分にある。少し戻れば広場のような場所もあり、そこならば戦うには持って来いだ。

 チラリとディーラに目配せし、その意図を察して頷いた。

「調子は出ないけど、殿しんがりは任せて」

「良し、なら後退を――」

「あ、あの~……主?」

「……なんか嫌な予感が。ユゥミィ、どうかし――」

 たのか。最後まで言い切れず、口の中で霧散した言葉である。

「とても恐縮なのだが……『Hey Hey 俺たちからは逃げられねーyo!』ってさっきから言ってたり……」

 その時頭上から先ほどと同じようになにかが降って来た。それは先ほどとは少し形の違う獅子の氷像。あちらが立派なたてがみを持ったオスだとすれば、こちらはメスの獅子だろうか。そして現れたのはその一体だけではなかった。

「あ、後……」

「もう良いから。ユゥミィの言いたい事は大体分かったから、取りあえず黙れ」

 吐き捨てるようなディーラの声。

 更に降って来た同種の氷像が二体。前後に現れ、都合四体の精霊に囲まれる形となった。

 既に青い顔のユリトエスは戦力にはならないため、彼を守りながらの戦いになるのだろう。現在の陣形を眺めながら、ハァとため息を吐く。

 その様子に怒られるとでも思ったのか、ユゥミィが縋りつくようにして顔を向けてきた。

「あ、主? これ、私のせいか? 私のミスだったりするのか?」

「……はぁ? んな訳あるかって」

 無造作に、しかし優しく頭をポンと叩きながら杖を構える。

「ちょっとしたエンカウントだ、良くあることさ。だからユゥミィ、頼りにしてるぞ?」

「主……」

「それにちょっと抜けてる方がユゥミィらしいしな。ユゥミィバカかわいい」

「よ、良し! 主がこうまで頼りにしてくれているのだ! 私の本気を見せてやろう! 解錠アンロック!」

 最後の所は小声だったので聞こえなかったようだ。内心ちょろいなー、とか考えているご主人さま。

 ユゥミィの一言によって灰色のペンダントが形を崩し、一瞬の後には銀色の鎧となった。

変身チェンジ!」

 腰に手を当てたポーズで得意の魔法を唱える。するとそこには全身鎧に身を包んだユゥミィの姿があった。

「ふははー! 聖霊使いの騎士の力見せてやる!」

「はぁ……寒いのに元気だね」

「まあ、それでこそユゥミィだしな」

 苦笑するディーラ。そうこうしている内に精霊達も戦闘準備を完了したらしく、低く唸っていつでも攻撃に移れるように重心を前に倒している。

「……ディーラ、ミュウと場所交代。ミュウは前方、ユゥミィは後方の精霊と対峙して。倒そうと思わなくて良いから。まずは相手の動きを制限して。ディーラはミュウの、シャシャはユゥミィの援護を頼む」

「了解」

「わ、分かりました」

 ミュウ達の返事を聞き終え、準備は終えた。となれば後は、

「……戦闘、開始だ!」

 剣を振るうだけ。



 ユクレステの号令と同時にミュウが動いた。前後からの挟撃に一度は驚いたミュウだが、それも今では気にも留めない。自身の主からの指示を全うする。そうすればなにも心配はいらないと信じているのだ。

「や、ぁああー!」

 体を捻りながら剣を横薙ぎに振るう。その際の衝撃は突風を作り出し、紙一重で避けようとしていた氷精霊のバランスを崩す。

「ファイア・スピア」

 後方からの火の槍が三本放たれ、その内の一本がたてがみ付きの氷精霊に直撃する。

「――――!」

 当たったのは右前脚。突き刺さった火の槍は氷をかすが、精霊は気にせず跳躍。その時には既に前足は復元されていた。

「まあそうなるよね、相手は氷。直すのは簡単、か。うー、それにしても本当に調子悪い……あれだけしか威力出ないなんて……」

 確かに放ったのは初級の魔法だ。それにしたって威力は低く、展開も遅い。ディーラの不調は思っていたよりも深刻なのかもしれない。

「っ!?」

 跳躍中の氷精霊に視線が行き、その隙をついてもう片方の精霊が鋭い爪をミュウに向けていた。爪を大剣で防ぎ、剣の後ろを蹴りあげることによって取り付いていた精霊を弾き飛ばす。そのまま頭上に向けて剣気を放った。

「剣気――空波!」

「――――!」

 空を掛ける剣の衝撃が氷像の体を砕く。氷の欠片が降り注ぐのを確認し、もう一方へと視線を戻した。

「突貫せよ逞しき炎、その熱き切っ先にて敵を燃やせ――ブレイズ・ランス」

 その一体に炎の槍が放たれる。轟と空気を燃やし、槍は氷精霊に衝突する。――かと思われた。

「むっ」

 氷精霊の側に先ほど砕いた氷の欠片が集まり、守るように壁となった。解けていく氷の壁、だがそれと同様に、炎の槍が凍り付いていく。それが完全に氷塊となると同時に砕け、ミュウ達に降り注ぐ。

「この……! 剣気――波壊!」

 当たる寸前に剣気の波が前方に打ち出され、つぶてを弾く壁となった。

「ああ、もう……本格的に絶不調だよ。ありがと、ミュウ」

「いえ、無事で良かったです。……ディーラさん、大丈夫ですか?」

 心配そうに見つめるミュウの視線に苦々しそうに顔を歪める。

「ミュウにまで心配されるとはね」

「え、えと……ごめんなさい」

「ああいや、別に怒ってる訳じゃないから。ただ……」

 爪を伸ばし、()()()()()。炎を纏った爪がミュウに迫っていた氷塊を弾いた。

「今回の主精霊、僕あんまり役に立ちそうもないかも」

 そう、駆けたのだ。翼を持ち、戦闘にもなれば縦横無尽に跳び回る悪魔族のディーラが、その二本の足で大地を踏んだ。その理由は、彼女の羽にあった。

「ディ、ディーラさんそれ……」

「ああ、うん。また凍ったみたい。全然動かない」

 先ほど同様、ディーラの羽に霜が降りていた。徐々に凍り付いて行く羽を見ながら、忌々しそうに舌打ちをする。

「とにかくさっさと終わらせないと。ミュウ、任せたよ?」

「はい……!」

 息を整え魔力を練る。上手く纏まらない力を無理やり抑え込み、詠唱を開始する。

「撃滅の大いなる焔、その灼熱の切っ先を構え、向かう全てを焼き潰せ――」

 ディーラの詠唱に合わせるように、氷精霊は周囲の氷を呑みこみながら巨大化する。人間程度だった先ほどと比べ、現在はクマよりも大きく見える。その巨体がディーラに向けて腕を振り下ろした。

「させませんよ……!」

 しかしその巨体による一撃もミュウの怪力によって阻まれる。大剣を掴むように氷の爪が重みを増し、それをさせじとミュウが押し返す。一進一退の力のせめぎ合い。

 それを先に終わらせたのはミュウだった。払うようにして腕を弾き、一歩後ろに跳ぶ。それを追うようにして氷精霊が前に出た。

「良い位置だね」

 しかしそこには既に、詠唱を終えたディーラがいる。

 マズイと、そう思った時には既に遅い。

「ザラマンダー・ファランクス。これだけ近ければ凍らせる暇もないよね? って訳で……い、け――!」

 眼前に光る赤い焔。それにより氷像は一瞬にして解けて消えた。


 炎が消え、残った焦げ跡には氷像はなかった。それを確認し、安堵の息を吐く。

「こっちは終わりですね」

「後は向こう。あっちは攻撃力に難があるから早いとこ助けに入らないと」

 戦って分かったが、氷精霊達は生半可な攻撃をしてもすぐに再生してしまう。ミュウとディーラならば一撃で粉砕することも出来るが、速さに重きを置いているシャシャや、ユゥミィでは少し厳しい相手なのだ。一応、ユクレステがいるのであまり心配していないが、早く終わらせるに越したことはない。

 そう思い、振り向いた。

「えっ?」

 そこには氷精霊によって吹き飛ばされたのか、ロープを超えて空中に身を投げた状態のシャシャと、

「ご主人さま!?」

 彼女を追って崖から飛び降りるユクレステの姿があった。

「――悪い! 先行ってる!」

「ちょ、えぇええ――!?」

 叫びながらも荷物の一部をユクレステに投げている辺り、ユリトエスもちゃっかりしている。

 霧に満ちた崖下に落下した二人を視認することも出来ず、呆気に取られる全員。

「――――!」

 ただ一体、空気も読めずに氷精霊がクマ程もある腕を振り上げている。

「こんのっ、邪魔だぁああー!」

「……死ね。うん、死ね」

「邪魔です!!」

 そんな訳だから、可哀そうな氷精霊はミュウ達によって粉微塵に砕かれる事になるのであった。


「うわっ、恐っ……」

 ただ一人、それを目撃したユリトエスは冷や汗を流しながら呟いた。

 ユニークアクセス数が一万突破しました! 読者様には感謝感謝ですね!

 そう言えば前回の更新で五十部投稿だったんですね。気付かなかった……もうこんなに投稿しているとは……総合評価も二百を超えてきましたし、これからが山場ですね。まだまだ続きますよー!

 良ければ感想、評価お願いします。

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