表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖霊使いへの道  作者: 雪月葉
セントルイナ大陸編
40/132

終わった後の宴事

「……なんだ、これ?」

「……あぅ」

『これはまた……』

 ユクレステ達の下山してからの第一声がそれだった。

 目の前にはたき火が燃え、周囲にはキツイ酒の臭いが漂っている。地べたに座る人たちは食料を齧りながら笑っており、特に目に映るのが大量の樽の姿だった。五十はありそうなそれがなんなのかは考えるまでもなく分かるだろう。それらを開け、現在は皆既に宴会モードだ。

「わはははは! いやぁ、愉快愉快! おや、そこにいるは我らが英雄殿ではないか! ほれ、こっちゃ来て飲もう!」

 一応この集団のリーダーであるはずの長老が率先してハメを外していた。なぜこうなっているのか分からず、頼りになりそうな人物を探す。一番初めに目に止まったのは着物姿のリューナだ。

「かかかっ、その程度で儂に挑もうなど百年早いわ小童めが! 酒樽一本一気飲み出来るようになって出直して来い!」

『うぉおお! 里一番の大酒のみ、ギンジョーが潰されたー!?』

 生憎と飲み比べに忙しいようだが。酒樽一つ片手で持って美味そうに喉を鳴らしている。

「ぷはぁ! うーむ、やるな山の民。これほど見事な酒は久しく飲んでいなかったぞ。今度フォレスに言って作らせようかのう」

 つまみに干し肉を齧りながらそう呟いているのが聞こえた。ガンバレ父さん。

 あれは役に立たないと判断し、次にディーラを見つけた。ボーっとした表情で座っており、とても眠たそうだ。

「おーい、ディーラ」

「……ああ、ご主人? そっちは終わったんだ?」

「ああ、なんとかな。ところで、これは一体どうした……」

「じゃあ僕眠いから寝てくる。帰る頃に起して」

「えっ? お、おい!」

 主の姿を確認して満足したのか、ディーラはパタパタと羽を動かしてとっとと馬車の方へと飛んで行ってしまった。残されたユクレステは呆然とそれを見送り、近くの喧騒に視線を向ける。

「ふはははは! そしてこの聖霊使いの騎士たる私の必殺剣が炸裂したのだ! こう、ズバッと!」

 そこではユゥミィが気分よさそうに武勇伝を披露していた。全然身に覚えのない話だが、脚色注意、と言う事なのだろうか。

 顔が赤くなっているのを見ると、どうやら彼女は酔っているようだ。

「これ、どうしろと?」

「……お酒臭いです」

「あー、ミュウにはまだ早いからな、酒は」

「はい……」

 ついて来ていたミュウの頬が薄らと赤くなっているところを見ると、この場の酒気だけで僅かに酔いが回ってきたようだ。慌ててその場を離れ、近くにあった川辺へと退避する。

 すると、その辺りから香ばしい匂いが漂ってきた。

「おっ? おぉ、お帰りユッキー」

「……ユリト王子?」

「王子はなしでオーケーですよん。あ、ちょっと待っててね。……よーし出来た。ほらちみっ子どもー! 皿持って並べー」

 エプロン姿のユリトエスの声が川辺に伝わり、川で遊んでいた子供たちが、わー、と声を上げてやって来た。

「ほら慌てない慌てない、ちゃんと皆の分はあるから、横入りしよとするなよー。そんなことしたら少なくしちゃうぞー?」

『はーい!』

「ユリトさん、お皿です」

「サンキュー」

 素直に一列に並ぶ都合六人の少年少女たち。ユリトエスの隣で彼を手伝っている少女が幅の広い皿を差し出し、そこにパスタを分けていく。盛りつけが終わり、子供たちは思い思いの場所に散ってがっつき始めた。

『なにやってんのかな? これ』

「見た感じ食事風景なんだけど……」

 調理しているのが一国の王子様という点を除けば、見た通りである。ハテ、と首を捻りながらその光景を見ていると、ユリトエスが手招きしてきた。

「ユッキー達もおいでよ、ちょっと多く作ったから三人分は楽にあるよ」

「は、はあ」

『頂きます?』

「えと……ありがとうございます」

 三つの皿を受け取り、ユクレステ達も地面に座って食べ始める。

 恐る恐る口に含め、パッと目を見開いた。肉と野菜の簡単なパスタに、僅かに甘みのあるソースが絡まっている。結論から言えば、とても美味しかった。ちょうど戦闘の後だったので余計に腹が空いていたのか、ユクレステは一気に胃の中に収めてしまった。

 一心不乱に料理を掻き込んだ後、手を合わせてユリトエスに顔を向ける。

「ご馳走さまでした」

「はいお粗末さま。いや、見惚れるくらいの食べっぷりだったね、ユッキー」

 いい加減ユッキーは止めて貰いたいのだが、今はまた別の疑問もあるので後にしよう。

「あの、ユリト王子? ちょっと聞いてもいいですか?」

「だから王子はいらないってばー。ま、いいか。聞きたいことってなにさ?」

「はいはーい! なんで王子様がこんなに料理上手なの!?」

 この状況について詳しく聞きたい所ではあるのだが、それよりも先に頬っぺたにソースを付けたマリンが質問してしまった。おいおい、と視線で責めつつハンカチで拭ってやる。と、見ればミュウも口元にソースがべったりだ。いそいそと別のハンカチを取り出す。

 紳士たるもの、ハンカチ手拭いは三枚常備していなければならない。ミラヤの教えである。

「や、夜中に厨房に忍び込んで一人夜食作ったり食事抜きにされた時に料理作ってたら自然と出来るようになっただけだよ? ほら、育ち盛りの子供はたくさん食べたいじゃん?」

「そうなんだー。じゃあなんでこんな所で子供たちに披露してたの?」

「ああ、それは――」

「ユリトさん、私たちのために作ってくれたんです!」

 当の本人の言葉を遮るようにして、ユリトエスの隣でフォークを動かしていた少女が声を上げた。

「えっと……確か、マツノちゃん、だっけ?」

「はい!」

 どこかで見た顔だと思ったが、どうやら洞窟内で挨拶してくれた少女だったようだ。クマのような男であるドビンの似てない妹。ユクレステはそう記憶している。

 マツノは元気に頷くと、自慢するように胸を張って話し出した。

「ディーラさん達が戻って来て精霊を倒したって聞いた村長さんが宴会だー、ってお酒を飲み出したんです。そしたら皆そっち行っちゃって、私たち子供は放っておかれちゃって……そしたらユリトさんが遊んでくれたんです! お腹空いたって言った子のためにご飯も作ってくれて!」

 熱の入った話に驚きつつ、視線を向ける。

「へぇ……」

「えっ? なにその目?」

「いや、意外だなーって。王子様やさしー」

「なにその微妙に棒読み!?」

 別に他意はない。ただ単に、王族らしくないなと思っただけだ。

 ぐすんと涙を飲むユリトエスを横目で見て、取りあえずこうなった理由は分かった。結局はあの老人が喜びのあまり暴走したのが原因なのだろう。だが疑問は一つ残っている。あの酒樽だ。

「おっかしいな……来る時に酒を積んでたっけ?」

 食料は積んでも酒の類はそれほど馬車には乗っていなかったはずだ。それなのにあの大量の酒。一体どこから出現したのか、謎である。

「ああ、あれ? なんかあの洞窟の中に先祖代々の酒蔵があったらしくて、わざわざ掘り起こしてたみたいだよ。あの着物美人」

「何やってんのリューナさん!?」

 思わず大きな声を上げてしまった。子供達の視線が突き刺さり、若干居心地が悪くなった。

 そう言えばと思いだす。リューナの好物は多々あれど、特に目がないのが酒の類だ。果実酒、米酒、麦酒。おおよそ、酒と名の付くものを愛して止まないリューナ。彼女にそれを聞いたところ、龍と言う種族は総じて酒が好きなのだと言う。なんでも、酒のせいで人生を踏み外した龍は東域国には数多く存在するとか。いや、この場合人生ではなく龍生か。

 ちなみに、踏み外した、と言うのは酒を飲みべろんべろんに酔っぱらったところを退治されることだ。リアルに命をコースアウトである。

 きっとリューナはその驚異的とも呼べる酒に対する嗅覚で隠された酒蔵を探し当ててしまったのだろう。そして村の人間総出で掘り起こし、宴会にもつれ込んだ、と。

 余計なことを、と舌打ちする。

「んでもさあ、これから皆どうするのかな?」

「どうするって?」

 チュルン、とパスタを吸い込み、咀嚼しながらマリンが問う。なんのことか分からず、ユクレステは首を傾げた。

「だって山があの状態だよ? 動物達だって戻ってくるのに時間は掛かりそうだし、彼らの村も無残無残でしょ? 正直、復興するのかなり大変だよー?」

 マリンの言葉も最もだ。特にあの村の合った場所は大きなクレーター跡地みたいになっている。地面を均すだけでも一苦労だろう。最悪、もう少し洞窟暮らしを余儀なくされるかもしれない。

「そんなにひどいん?」

「まあ、軽く惨劇跡地ですよね。割とマジに」

 この場にはそこに住んでいた子供達がいるので詳しく言うのは気が引けるが、表情でその被害を予想することくらいはできそうだ。

「んー、領主様にお願い出来ないかな、そういうこと。色々融通して貰えたりしない?」

「それが一番ですかね。ただまあ、あんまり労働力には期待出来ませんよ? ただでさえ人手不足なのに、さっきの騒動でそっちを直さなきゃいけないですし」

「うぅ……」

 さっきの騒動、とは昼前にユリトエスを暗殺しようとしたもの達との戦闘行為のことだ。あの時魔術学校の屋根を見事に吹き飛ばしてしまったため、そちらの修繕もしなければいけない。ちょうど夏季休校中なため授業等がないのは不幸中の幸いだろう。それに修繕費用はゼリアリス国から出るらしいので、そこは安心だ。

 ミュウの口元を拭きながらどうしようかと思案する。前を見ればユリトエスも同様に首を傾げていた。

その隣では真似をしているのかマツノも同様のポーズだ。

「まあ、あれこれ考えてても仕方ないか。取りあえず俺は先に家まで戻って父さんと相談してきます。早めに決めとかないとダメでしょうし。ユリト王子はどうします?」

「余? まあ、そうだなー」

 んー、と首を捻って思案している。屋敷には護衛の騎士たちも居り、なにも言わずに出て行った以上戻った方が良いのだろうが……。

「……ユリトさん、帰っちゃうんですか?」

「えーやだー! ご飯食べたら遊んでくれるってゆったじゃん!」

「そーだそーだ! デザート作ってくれるってゆった! ゆったゆった!」

 周りからの大ブーイングが起こった。ユリトエスは困った顔をしながら、子供たちを安心させるように、にへらと笑う。

「分かった分かった。しょうがないなー、余も忙しいんだけどなー。でもここまで言われちゃしょうがないよねー」

「棒読み……」

「しっ、ミュウちゃん。放っておいてあげなさい」

 チラチラ盗み見てくるユリトエスに再度ため息が漏れる。どうせ元から戻る気もなかったのだろう。すぐ近くにリューナもいるし、安全は保障されているようなものだ。若干、酒という要因に不安を感じたりはするが、酒蔵一つの酒くらいならば問題ないだろう。

「はぁ……仕方ない。あんまり無茶しないで下さいよ? 子供達だっているんだから」

「分かってますって。そいじゃあ食後の後片付けしたらみんなで遊ぼうか。ふふん、余の美技を見せてやるゼ!」

「あ、ユリトさん、私も手伝います」

 不敵な笑みを浮かべ、汚れた食器を持ちマツノを連れて洗いに行った。それを見送り、ユクレステは立ち上がる。

「マリン達はどうする? 俺は一先ずディーラ連れて戻るけど?」

「あ、わたしも、ご一緒します」

「私もいいよー。ユゥミィちゃんはどうする?」

「……本人が楽しんでるんならほっといてもいいんじゃない?」

 遠くから聞きなれた笑い声が聞こえてくる。どうやら彼女は笑い上戸らしい。

 さて、帰るならばリューナに一声かけた方が良いのだろうが……酒の苦手なユクレステにはあの情況に飛び込むのはかなり気遅れする。それでもミュウに頼む訳にもいかないので、グッと腹に力を込めて覚悟を決める。

「マリン……もし俺になにかあったら、後は任せた」

「マスター……うん、分かったよ。いってらっしゃい、マイ・マスター!」

「え、え? ご、ご主人さま? マリンさん?」

 決意の表情のユクレステとそれを悲壮な覚悟で送り出すマリン。対してミュウにはさっぱり分かっていないようだ。

 重たい足を動かし、酒気と異様な雰囲気を孕む領域へと踏み込む。周囲からの視線を一身に受け、ユクレステは龍の座する地を目指し歩み始める。


 その後、周りから無理やり酒を飲まされ、結局馬車は潰れたユクレステに変わって眠たげに目を擦るディーラが手綱を握ってくれたのだった。




 それから二日が過ぎた。ガンガンと痛む頭を押さえ、領主である父に面会し、今回の顛末を報告した。途中、ユリトエスの護衛で来ていた老騎士に床に頭を付けて謝られたりしたが、概ね滞りなく時間が過ぎて行った。宴会をしていた人たちはあれからさらに丸一日飲み食いを続けていたらしく、確認のため見に来たゼリアリスの騎士達を交えての大盛り上がりだったらしい。


 父の采配によって、精霊に破壊された村を再建するための人材を派遣することまでは出来なかったが、資材の方は提供することになった。その代わり、まずはユクレステが破壊した学校を修繕してから、という条件付きでだが。それでもある程度の手伝いを約束してもらった訳なので、村の人たちは至って満足気だ。特にものを考えないような人達が多いと言うのも理由の一つなのかもしれない。彼らは今日も朝早くから作業に取り掛かっている。

 あれだけ飲んだにも関わらずもう動けるとは。山の民、恐るべし。ユクレステは半日もまともに立てなかったと言うのに。ユゥミィなんて今やトイレの住人と化していると言うのに。リューナの家からは今も聞くに堪えない乙女の嘔吐が続けられていることだろう。少し同情する。


「ん……」

 薄らと目蓋の裏から明りが見え、どうやら既に日は昇っているらしい。吐息を一つ、ゆっくりと目を開ける。

「……なに、やってんの。ミラヤ」

「……少し待って下さい」

 眼前に金髪の美少女がいた。それも、顔が超至近距離にある。

 ユクレステの冷たい声にダーゲシュテン邸のメイドであるミラヤは一度視線を外し、再度合わせてくる。ちなみにこの時顔の位置は微動だにしていない。

「では、お坊っちゃんの息を確認していた、と言うのはどうでしょう」

「…………」

 そんな今考えたと言わんばかりの提案にどうもなにもないのだが。それでもこの言い切った感の顔はイラッと来る。寝起きで力の入らない腕を持ち上げ、ミラヤを引き剥がすことで答えた。

「着替えるから出てって」

「いえ、お坊っちゃんの成長を確かめるのはメイドであるわたくしの役目。僭越ながら、わたくし目がお坊っちゃんのお着替えを――」

「はーいはいはい、いいから出てこうねー?」

 抵抗するミラヤだが、ミーナ族である彼女の体格でそれが叶うはずもなく退出を余儀なくされる。パタリと扉を閉め、そのまま声をかけた。

「おはようミラヤ。今日も一日がんばってね」

「……はい、お坊っちゃん。本日もこのミラヤ、粉骨砕身の精神でお坊っちゃんに奉仕していきます。お任せ下さい」

「うわー、なんか任せられなーい」

 苦笑する声が聞こえる。それでも優しげな声のユクレステに、ミラヤは嬉しそうに声を弾ませている。

 彼女にとって、ユクレステからの挨拶一つがこの上なく嬉しく感じているのだろう。

「そう言えばお坊っちゃん。この後お暇でしょうか?」

「ん? まあ、暇、かな」

 ユゥミィはトイレの住人、ディーラは散歩、ミュウとマリンは学校の工事を手伝いに行った。ユリトエスは謹慎中で屋敷からは出られず、リューナはその護衛。ちょっとした実験に手をつけたくはあるが、別に今日じゃなくても構わないため時間は空いている。

 ユクレステの肯定の言葉に、ミラヤはそれでしたら、と言葉を続けた。

「でしたら、わたくしの用事を手伝ってはくれませんでしょうか?」

「ミラヤの……用事?」

 扉を開ければ小首を傾けた彼女の姿があるのだろう。疑問したミラヤの言葉には縋るような声音が含まれていた。




『――――――――――(表現上不快な音が入るため文字を伏せさせて頂きます。ご了承ください)――――――――!?』

「いやー、なんかスゴイね。むしろヒドイ?」

「自分の限界を弁えず飲むからああなるのじゃ。まったく、情けない」

 トイレから聞こえる呻き声に苦笑しながら、ユリトエスはペンを回していた。ユゥミィと呼ばれているダークエルフの少女の醜態を憐れみながら、目の前の少女に声を掛ける。

「マツノちゃんは平気なの? なんか最後の方飲まされてたみたいだけど」

「はい、大丈夫ですよ? 良く兄達からお酒を貰うこともあったので」

 それもどうなのだろう。まだ十代前の少女に酒を渡すと言うのは、国が違えば違法になることもあるのではないだろうか。まあ、セントルイナは案外酒に関する法律は少なく、保護者が居れば飲んでも良いと言う事にはなっている。それにしても、

「ユゥミィちゃんよりも飲んでたと思うんだけどなぁ……村の人たちも二日酔いとかなってなかったし、元々お酒に強い民族なのかも。どう思います?」

「確かにのう。儂も最後の方は危ういところもあったし、人間にあそこまで迫られるとは思わなんだの」

 そうは言っても酒蔵の半分以上を消費したのはこのリューナなのだが。

 ユリトエスは顔を引きつらせ、トイレからの音に耳を傾ける。

「――――(表現上以下略)――――!!」

「うーん、ユッキー呼んであげた方がいいんじゃない?」

『――グッ、ソレ、ヤメ――』

 離れた場所から耳聡くユリトエスの言葉を拾ったようで、苦しそうな声が聞こえてきた。リューナが憐憫を込めた表情で頭を横に振る。

「一人の女性として、止めてあげて欲しい。流石にあんな姿を見せるのは酷じゃ」

「そうですね……私からもお願いします」

 マツノも同様らしい。ユリトエスには良く分からないが、女性心理的には放置が安定なのだそうだ。

「分かりましたよー。と、マツノちゃんもう出来てたの?」

「あ、はい。さっき終わりました、採点お願いします」

 パア、と笑みを見せてマツノは手元にあったノートを渡す。そこには簡単な計算問題がいくつかあり、ユリトエスは答え合わせをしていった。

 なぜこんなことをしているのかと言うと、ユリトエスの所にマツノが遊びに来たのだが彼は現在謹慎中の身。他の子と遊んでくれば、と言ったのだがユリトエスと居たいと言われ、そこでリューナがせっかくだからと計算ドリルを渡してきたのである。遊びに来たのに勉強なんて、とユリトエスは思ったのだが、そもそも勉強自体あまりしてこなかったマツノは逆に興味津津で願い出たのだ。

「お、全問正解。スゴイねマツノちゃん。さっき教えたことすぐに覚えちゃって。余なんて一つの公式覚えるのに一カ月は掛かるよー」

 勉強の時間に逃げ回るからそうなるのだが、分かっていないようだ。

「えへへ、勉強って面白いですね! 私たちの村じゃあんまりこういうの見てくれる人っていないんです。ちょっと前まではロインにぃ……じゃなくてロイン兄さんが教えてくれてたんですけど、あんまり教え方が上手じゃなくて……」

「ふぅん、余は勉強が面白いって感覚がさっぱり分からないけどなー」

「ふむ、マツノはゆーに似ておるのかもしれんな。あれも勉学を好んでおったし……ちなみに儂は実践派じゃ」

「ようはリューナさんも勉強は苦手、と。教師がそれで良いんですか?」

「人に教えるのは別じゃ。成果が目に見えるからのう」

 そう言ってテスト用紙に問題を書き込んでいくリューナ。夏休み明けのテスト用問題なのだそうだ。

「ま、それはともかく……。マツノがこのまま勉強に触れられないのはちょっと勿体ないかもね。頭の回転も速いし、案外魔法の才能とかもあったりして」

「かかか、確かにのう。まあ、厳密には魔法使いになるのに必要なのは頭脳ではなく魔力なのじゃが……小難しく考えられる頭はあると便利かもしれんな。ゆーもそういうタイプじゃし」

「魔法、ですか? うちの村だとあんまり出来る人いないんですよね」

「ふむ、ならばちょっと見てやろうか。これでもゆーを始めとした何人もの魔法使いを育ててきたのじゃ。才能の有る無しならばすぐに判断出来る」

「おっ、それ良いですねー。じゃあパッとやっちゃいましょー」

 そんなこんなで軽~く始まったマツノの魔力調査。だが彼らは知らない。その軽~い調子で始まったそれが、彼女の生活を一変させることになろうなどとは。

「……えっ? 逸材発見?」

 気軽に振った杖から現れた火の玉を見て、ポツリとユリトエスの口からそんな声が漏れた。こうして、ユクレステの妹弟子が誕生したのだった。

 その後、マツノは嬉しそうに頬を染めながらユリトエスにこう言うのだった。


「一人前になったら、私をユリトさんのお側で働かせてくれますか?」


気付けば四十話も投稿していました。そういえばもう半年近く投稿してるんですねー。我ながらよく続いてるなー。

それもこれも読者様のお陰ですね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ