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聖霊使いへの道  作者: 雪月葉
セントルイナ大陸編
34/132

再会とお願いと

「ご主人にお願いがある」

 バリバリと煎餅を食べる音を出しながら目の前の悪魔はそう言った。

 古今東西、悪魔の誘惑など碌なものではないということは、あらゆる書物を通して知っている。だがそもそもこの悪魔と自分は、仮とは言え既に契約を交わしている。その点で言えば、可笑しな負債を課せられるようなことはないだろう。

「で、で、これは一体どういうことなの? マスター?」

「と言うかだれだこいつは。それより主! 体調は万全だぞ! これで置いて行かれることはないのだな!?」

異常種イレギュラー、人魚、ダークエルフ、極めつけが悪魔族。龍種の儂が言うのもなんじゃが、随分と濃ゆい面子を引きつれておるのう」

「ご主人さま、お茶のおかわりをお持ちしました」

 向かい合うユクレステと悪魔。それ以外にも数人の少女たちが煎餅をバリバリと食べながら二人の様子を伺っていた。

「あーもう! うるっさいぞおまえら!! そのバリバリするの止めなさい!」

 ユクレステの一喝により煎餅は戸棚に仕舞われることになった。

 ちなみに、その後に出てきたのは羊羹ようかんだったそうだ。



 一言で言えば。

 ゼリアリス国の王子、ユリトエス・ルナ・ゼリアリスの命を狙った者達には逃げられてしまった。悪魔族、その中でも高位の実力を持つロード種を相手にするのを危険と判断したのか、即座に撤退していったのだ。傷を負った者、気絶した者もいつの間にか回収されていたところを見ると、敵も先の連中だけではなかったのではと考えさせられる。もしディーラが助けに来てくれなければどうなっていたことか。

 とにかくそんなこんなで王子を救出し、無事屋敷まで送り届けることに成功した。その後は老騎士がユリトエスをもの凄い形相で叱っていたのだが、そこまで付き合う義理もないユクレステは早々にディーラを連れてリューナの家へと退避したのだった。


 そんなこんなで、現在はのんびりとお休み中である。

「ふー。お茶が美味い……」

「なんかホッとする味だよねー。ちょっと苦いんだけど、さっぱりするって言うか……」

 宝石から出て縁側で緑茶を啜っているマリン。ユゥミィやミュウも穏やかな顔でくつろぎ、リューナがそれを見ながら優しげな笑みを浮かべている。

 何と言うか、

「平和だ……」

 街の喧騒も、先ほどの暗殺未遂もなかったと思えるほどにのんびりとした時間だけが過ぎて行く。このまま昼寝でもしてしまおうか、そんな考えが頭を過ぎった。

「ねえ、ご主人。僕の話、聞いてた?」

「んにゃ、全然」

 しかしそうは言っていられないようだ。今も非難の視線を見せるディーラの姿がある。

 片側だけが膝までしかないズボンを穿き、二つの金属製のベルトを胸に巻いた悪魔っ子。別れた時よりも少しだけ伸びた赤い髪を弄りながら、彼女は再度お願いを口にした。

「助けて欲しいことがある。力を貸してくれないかな?」

 無気力に出された言葉は簡潔にそう言い、口は閉じられる。待てどもその次の言葉が出されず、結局ユクレステが問う羽目になった。

「はぁ~。とりあえず、分かった。オーケー。おまえの願いだ、もちろん聞くよ」

「……いいの?」

「当たり前だろ? おまえは俺の仲間なんだから。断る理由なんか何一つないよ。ただ、だれを助けるのかとか、何で力を貸すのかとか、まずはそう言ったことを教えてくれないか?」

 あっさりと出されたオーケーサインに少し驚きながらも、ディーラはコクンと頷きポツポツと説明を始めた。

「助けて欲しいのは僕じゃなくて、リーダー達」

「リーダーって言うと……」

「あの盗賊トリオー?」

 ぐでー、と仰向けになりながらマリンが話に加わった。ミュウも彼らのことを思い出したのか顔を上げ、その時いなかったユゥミィは首を傾げながらフォークを動かしていた。

「そう。正確には、リーダー達の住んでいる場所の人たち。訳あって今絶賛遭難中なんだ」

「はっ? 遭難?」

「そうなん」

「…………」


 こほん。

 若干照れたように頬を染め、咳払いを一つ。

「でも住んでいる人たちってことは、街とか村のことなんじゃないの?」

「詳しいことは僕は知らない。ただ、昔いた村の人たちが全部遭難しているんだって」

「全員が? それってどういうことさ?」

 首を傾げるマリン同様、ユクレステも疑問していた。あの盗賊三人組み、ロイン、ナッツ、ドビンが遭難しているというならばまだ分かるのだが、彼女の言葉から察するにかなりの数が被害にあっているとみていいだろう。

「自然災害、って話だったんだけど……」

 そこで少し考えるように言葉を切り、ユクレステに顔を向けた。

「多分、だけど。あれは精霊の仕業だと思う」

「……精霊だって?」


 ディーラが言うにはこうだ。

 このダーゲシュテンの西に位置する山々の一つにエスト山と呼ばれる山がある。標高は然程高くはなく、緑が多く穏やかな気象の場所だ。だが数カ月前よりエスト山で異常気象が発生した。一つの山を覆うように、雷が落ちたのだ。それからは空が狂ったように落雷を吐き出し、登ることも降りることも出来なくなってしまった。それに被害を受けたのが、ディーラが言っていた村の人たちだ。

 山に住む民族であった彼らは異変を察知してすぐに下山を試みたのだが、今一歩間に合わず、命からがらに洞窟へと身を隠した。幸い、大きな被害を受けずに済んだ彼らだが、すぐに新たな危機に直面した。食糧が底をついたのだ。

「まあ、当然だね。着の身着のまま、食糧なんて大して持って逃げられなかったんだから、一週間と経たずに食べ物がなくなった。でも外の雷は止む気配はない。みんな飢え死にを覚悟したみたいだよ?」

 コテンと可愛らしく首を傾げ、一息つく。お茶で喉を湿らせ、再度淡々とした口調で続きを言った。

「そんな時に、僕が彼らのところに現れたんだ。魔界からこっちの世界に移動する際、大怪我を負ってね」

 無意識にかディーラは両手を抱くように腕を擦った。両腕に描かれた刺青に指を這わせ、吐息する。

「もしかして前に言ってた借りってのは……」

「そう。僕は彼らに命を救われたんだ。わざわざ残り少ない水や薬を使ってね。子供たちに至っては隠し持ってたお菓子までくれてさ」

 くす、と小さく微笑みを見せた。

 だから借りなのだ。命を救われた借りは、同じく命を救って返すのが悪魔であるディーラの道理。それを返すまでは、例えどんなことがあろうとも他の場所に行く訳にはいかない。

「怪我事態はすぐ直ったよ。二日も寝てれば大抵の傷は癒えるし。その後は彼らに食料を持ってったりしたかな。これでも悪魔だし、魔法で雷をやり過ごすことは出来た。最初は山に住んでいる獲物を狙ったんだけど、雷の影響で全然いなくてね。人間の街に行こうにもお金? とかのシステムがよく分からなかったからだれかに一緒に来てもらうことになったんだ」

「それが、あの人たちなんですか?」

 ミュウの言葉に頷き、微笑する。

「そう。一応魔法で守れはしても確実じゃないし、危険だってことは言い含めておいたんだけど、子供や年寄りにそんなことはさせられないって半ば無理やり。バカだよね、ホント」

 その言葉にしばし唖然とするユクレステとマリン。ただのバカキャラだとばかり思っていたのだが、聞いてみるとなんと村の英雄ではないか。

 ふと、当時のことを思い返していたユクレステが声を上げた。

「って、ことは……あの時の盗品って……」

「もしかしなくても……」

 震えるような声でマリンと顔を見合わせ、顔を青くする。

「そうだね。食糧を買うために盗んだものだよ」

 考えていたことを即座に肯定され、思考に過ぎる過去の自分。

 ラッキーとばかりに盗品を貰い受け、その金で豪遊し、色々と買い揃え……。

『うわぁあああああああああ――!?』

 思わず絶叫する二人。これではまるでこちらが悪役のようではないか。いや、事実彼らからすれば悪役そのものだったのかもしれない。危険を冒してまで盗んだものを、村の人に食べ物を買うためのものを横から掻っ攫われ、おまけにボコボコにされてしまった。

 まさに極悪人。

『――ぁああぁあああああ!!』

 ゴロンゴロンと畳で転がりまわるユクレステとマリン。未だ良く分かっていないミュウとユゥミィは驚き、一歩引いた。

「別に気にしないで。最初に悪事を働いたのは僕達。なら、そのしっぺ返しが来るのは当然のこと。殺されなかっただけマシだから」

 その気遣いが逆に心に響く。

 ジクジクと痛む胸の辺りを押さえながら、二人は苦しそうに呼吸を繰り返す。

「そ、それで……お願い、とは?」

 ようやく入った本題に、ディーラはうん、と頷いた。

「これは僕の予想だけど、あの山のどこかに雷の精霊がいると思う。それをなんとか出来れば、あの異常気象はなんとかなる。でも流石に僕一人じゃどうにも出来ないし、せめてもう一人、上級魔法を使える人が欲しかったんだ」

「な、なるほど……精霊を沈静化させるために戦力が必要な訳か。でもそれなら盗賊たちじゃあダメだったのか?」

「弱いから無理」

「あ、そう」

 一瞬で切り捨てられる彼らが可哀そうだった。まあ、ユクレステも彼女に同意見だったが。

「本当なら一対一でやり合いたかったんだけど……流石にそれは無謀だから。精霊は魔物一匹でどうこう出来る相手じゃないしね」

「それはまあ、そうだろうなぁ。俺も風の精霊とはあったことあるけど、あれは勝てる気がしなかったし」

 しかもユクレステの場合は押し問答の末に契約をしてもらったに過ぎない。それに契約と言っても従えている訳ではないので精霊使いを自称することも出来ないでいる。いずれは、とも思うのだが、学園在籍中にはついぞそのような機会は得られなかった。

「だがその精霊がどの程度の力を有しているのかにもよるのではないか? 規模からして中位以上は確実だが、上位精霊であれば戦い方にもよるが、悪魔族である貴様ならば勝てそうなものだが……」

 そこで端にいたユゥミィがようやく口を開いた。今までは全然分からない話だったので黙っていたのだが、精霊と言えばこの子の専売特許でもあるのだ。ディーラは彼女の言うことも最もだと頷き、けれど、と続ける。

「正直に言うとね、分かってるんだ。僕の契約している炎の主精霊(ザラマンダー)が教えてくれてる。相手の正体。ご主人にも確認してもらってからにしようと思ったんだけど」

「俺にって……まさか!?」

 チラリとユクレステを眺め見て、ハッとその意味に気付き声を上げた。

「多分、だけど。いや、ほぼ確実なんだろうけど、お相手も、主精霊。僕の炎の主精霊(ザラマンダー)と、ご主人の風の主精霊(シルフィード)と同じ、最上位クラスの精霊だよ」

 愕然としたままの表情で固まるユクレステ。見ればユゥミィも驚きに目を見開き、マリンですら難しそうに顔をしかめていた。

 一人分からないミュウは首を傾げ、その言葉を繰り返す。

「主精霊?」

「主精霊ってのは精霊の分類上、最上位に当たる精霊のことだね。下位精霊、中位精霊、上位精霊。そのさらに上にいるのが、各属性の精霊の主、主精霊。魔法使いが使う上級魔法はこの主精霊の力を借りるもので、本来は上位精霊を代役として契約するものなんだよね?」

 ミュウの疑問に答えたのは彼女が知らない少年の声だった。部屋の入口に目を向け、そこに立つ人物に視線が集まる。黒い髪に琥珀色の瞳。ゼリアリスの王子様がそこにいた。


「やっほー、なんか面白い話してんね? 余も混ぜてくんない?」

「ユリトエス王子……? なんであなたがここに……」

「や、なんか向こうは難しい話ばっかしててつまんないからこっちに遊びに来たんだ。ちょっと命狙われただけで大袈裟過ぎなんだよ、まったく」

 一国の王子が命を狙われれば大袈裟にもなるだろうに。憮然とした表情を見るに本気でつまらなかったのだろう。

「いや、それにしてもここの領主様は良い人だね。わざわざ案内してくれたよ。エイゼンにも見習って欲しいよ、ホント」

 鬼の形相をしていた老騎士を思い出し吐息する。

 父フォレスがユリトエスをここに送ったということの意味をユクレステは理解していた。生半可な護衛をつけるよりも、リューナの側に置いておいた方が危険はないと判断したのだろう。

「ほれ王子様よ。立っていては邪魔になるからどこぞへ座れ。儂の家に入った以上、特別扱いはしないから覚悟しておれ?」

「ういっす姉さん! 大人しくしてまーす!」

 いつの間にかいなくなっていたリューナがもう一つ湯飲みを持ってユリトエスの背後から現れた。

 既に一発貰っているのか大分素直だ。一瞬見えた後頭部のコブを見て見ぬ振りをして彼女に問いかける。

「リューナ。ディーラの言ってることだけど……」

「西の精霊の話かえ? そうさのぅ……確かに少し暴れておる感じはあるが……雷の精霊、か」

「なにかあるのか?」

 考えるように顎に手を当てるリューナの動作に疑問を向けた。

「いや、雷の主精霊は以前消えたのじゃよ。それ以来、現れることがなかったのじゃが……」

 ふむ、と首を捻る。

「恐らく今回の件、ただの主精霊ではなさそうじゃな」

「っていいますと?」

「なぜお主が聞く……。先ほど言ったが雷の主精霊が消えたのは三百年ほど前、その後新たに主精霊が現れなかったということは以前の主精霊が存命だったからじゃ。それなのに急に今になって現れるとは、少々きな臭いのう」

「ならば数カ月前に消滅した、というだけでは?」

 ユリトエスの問いにハテと疑問するリューナに、ユゥミィが尋ねた。

「それも可笑しな話じゃ。それでは消えた雷の精霊は今までどこに行っていたと言うのじゃ?」

 今度はユゥミィが唸る番だった。

 ただの偶然、という線は拭い切れないが、それで済ませていいものか。相手は主精霊で、もしかしたら戦闘になるかもしれないのだ。慎重過ぎるくらいが丁度良いのかもしれない。

 チラ、とディーラを見る。

 押し黙り、それでも強い光りが瞳に宿っている。もしここで断ったとしても、きっと彼女は責めないだろう。それほどの相手なのだ。

(でもそうなった時は、どうなる? 十中八九一人で精霊に挑むだろう。そうなったら、ディーラは……)

 いかに悪魔族とは言え、主精霊が相手では分が悪い。怪我だけでは済まないかもしれない。それでもきっとディーラは引かないだろう。それが、悪魔という種族だから。

「……よし、決めた」

 湯呑みを置き、ディーラを見る。ピク、と顔を上げ、視線が交わった。数瞬の交差、それはユクレステが瞳を閉じることによって終わりを告げた。

「ミュウ、ユゥミィ、マリン。山登りの準備をしておきなよ」

 次に目を開いた時には、

「これからちょっとスリリングなハイキングに出かけるからな」

 ユクレステは笑顔でディーラを見つめていた。

「わ、分かりました!」

「登山か。ふむ、少し勝手は違うが、自然であるには変わりない。そういう場所ならば私に任せておくといい!」

「まー、準備と言っても私はいつも通りに宝石の中だしねー」

 それに倣って頷く彼の仲間達。思わずディーラは聞いてしまった。

「いいの? きっと、危ないよ?」

「今更だよ、ディーラちゃん。それに、その精霊をなんとかしないとマスターと合流出来ないんでしょう? それなら私はマスターの仲間として全力でお手伝いするだけだよ。…………後、以前のことの罪滅ぼし的な感じで」

 ボソリと呟かれたマリン言葉はユクレステにしか届かなかったようだ。二人は思わず視線を外す。

「仲間が増えるのは良いことだからな。私も全面的に同意しよう。それに雷の精霊と言うのも見てみたいし」

「わ、私もディーラさんや皆さんのために、がんばります……!」

「キミ達も……」

 ミュウとユゥミィもやる気を見せ、

「いよーっし! それじゃあ皆でレッツゴー!」

 ユリトエスも既に用意された荷物を背負って西の山を指差していた。

 ……。

「待って下さい、なんであなたも行くみたいな感じになってるんですか?」

「えっ? 行っちゃダメなの!?」

「当たり前だろ! あんた王子だぞ!?」

 行く気満々なユリトエスだが、他国からの重要人物を危険な場所に連れて行く訳にもいかない。もしなにかあれば責められるのは父なのだから。

「そんなぁ!? せっかく面白そうなことになってるのに一人だけ仲間外れは嫌だい!!」

 ユクレステは泣きつくユリトエスを説得しようとするが聞こうともせずに彼の足にへばり付いている。

引き剥がそうにもどこにそんな力があるのか、中々放せない。

 やがれようやく観念したのか、ユリトエスはため息交じりに呟いた。

「だってさー、ここに居ても危ないってのは同じなんだし、それなら色々遊んだ方が得じゃん?」

「危ないって……今度はちゃんと騎士の人たちもいるんだから危険はないだろ?」

「騎士の、ねー。それはどうかなー?」

 自嘲するような笑みに違和感を覚えるが、すぐにへらへらとした笑い顔に戻った。

「……良いじゃろう。それならば儂が共に行こう」

「リューナ?」

「精霊の方はお主らに任せるとして、この王子の護衛ならば引き受けよう。それならば危険はないじゃろう?」

 成り行きを見守っていたリューナが口を挟み、ユリトエスの護衛を申し出る。こういうことに関しては静観の構えを取る彼女にしては珍しい対応に、ユクレステは首を傾げてしまう。

 だが彼女にそうまで言われてはもう拒否することも出来ず、仕方ないかと頷いた。

「分かったよ。でも、危険な場所には行かせないからな? なにかあって困るのはこっちなんだから」

「りょーかいりょーかい! いやー、楽しみだなーハイキング」

 ウキウキとスキップしながら外に出るユリトエス。ユクレステは、チラリとリューナに視線を送った。

 リューナも同様にこちらを見て、なにやら神妙に頷く。どうやら、なにか考えがありそうだ。ならば、後は彼女に任せるのが得策だろう。


 後は、こちらの準備だ。大体の荷物はミラヤに言ってこの平屋に移動させてある。重量のある大剣と鎧は倉庫にあるが、持って行くとしたら大剣だけだろう。正直、ユゥミィの鎧は今回持っていくつもりはない。

「えー! なぜだ主! それでは騎士たる私が活躍出来ないじゃないか!!」

「文句があるならあの鎧を一人で持ってからにしてくれ! もちろん山に登る時もあれ着てな!」

 大体雷がバンバン振っているところにあんな金属の塊を持っていけるか。尚もぶーたれるユゥミィを何とか説得し、ようやく準備は整った。


「ディーラ、案内頼むな?」

「ん、任せて。と言っても、街の入り口に三人が馬車を用意しているからそこまでだけどね」

「ま、また馬車なのか……主、また膝枕を頼んだ……」

 一応父親に事の説明をしたのち、屋敷を出た。途中、老騎士がユリトエスを探していたが、既に彼は屋敷を脱出している。可哀そうだが、これから街の捜索へと繰り出すことになるだろう。

 港とは反対の西口付近にやってくると、近くの草むらに隠す様にして小さな馬車が置かれていた。

「んあ? 遅かったなディー。こっちは荷物を運ぶのは終わった…………あ?」

 馬の世話をしていた一人の男性がディーラと、その後ろに立つユクレステを視界に収めて固まった。そしてプルプルと震え出し、なにかを叫ぶ――

「おや? なんだ、いつぞやの旅人ではないか」

 ――前に、なぜかユゥミィが口を開いていた。

「……ユゥミィ、知り合い?」

「む? ああ、前に何度か話したことがあっただろう? ほら、私に名剣エクス(仮)バーを交換してくれた心優しい旅人だ。いや、奇遇だな、こんな所で会うとは。……して、主が言っていた盗賊とはどこにいるのだ?」

「……ああ、うん。なるほど」

 ん? と首を傾げるユゥミィに、目の前の男性はあんぐりと口を開けている。彼の名前はロイン・カタル。以前、迷いの森でミュウに空高く吹き飛ばされた盗賊であり、そして世間知らずのユゥミィから有り金とエルフが作った高級弓を騙し取った詐欺師であった。

「んなっ!? なんでおまえらがここにいるんだよぉおお――!?」

 ユゥミィの言葉で一拍遅れてしまったが、ロインは驚愕の叫びをあげるのだった。

 PVが三万を突破しました! 日々PVやユニークが増えるごとにニヤニヤしています、皆さまありがとうございます! そんな訳で早いペースでの投稿になりました。まあ、なんとなく調子が良かっただけなんですけどね。

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