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聖霊使いへの道  作者: 雪月葉
セントルイナ大陸編
26/132

番外編 狼少年のおしごと 前編

 我が輩は風狼である。名はヒュウ、兄妹分にフウとロウという風狼がいる。実際は同一人物(魔物)なのだが、訳あってこうして三匹の姿を取っている。主であるウォルフとは長い付き合いであり、以心伝心の間柄であることは間違いないだろう。

 そんな私たちは現在、ゼリアリス国に来ている。冒険の国と呼ばれるこの国は、冒険者ギルド発祥の地であり、様々な遺跡が点在する。一攫千金を狙うには持って来いの国なのである。

 今回、我々はその遺跡の一つを調査する依頼を受けた。ハードボイルド我らはそんな依頼を片手間に片づけ、ゼリアリス名物の猫飯ネコマンマに舌鼓を打つのだった。


 ……いや、そのはずだったのだが。


「ちょちょちょぉおおおお!? 助けて! 助けて! ヘルプミー!?」

「黙っていろ! こっちだって必死なんだ! 大体貴様が余計な真似をしなければ……!!」

「お願いだから喧嘩は後にしてぇええ! あたしまだ死にたくないんだよぉおお!?」


 現在森の中を爆走中。なぜこうなったのだろうか、風狼の三匹は同じ思考でこれまでの経緯いきさつを思いだしていた。



 ――――七時間前。ゼリアリス国王都、冒険の街、ゼリアリス。冒険者ギルド本部。


「どういうことだ! この依頼はギルドが発注したものではなかったのか!?」

 夏の暑い日中、魔法によって空気が冷やされたギルド内で白髪の少年の怒鳴り声が響いていた。

 声の主であるウォルフは依頼書をカウンターに叩きつけ、受付の女性に睨みを効かせていた。

「も、申し訳ありません~! 確かに依頼書は本物で、ギルド印も間違いなく本物です。ですがそんな依頼、こちらでは把握していないんですよ~」

 ただでさえ鋭い目をさらに尖らせるウォルフに、受付嬢は半泣きで対応している。

「クソッ! どういうことだ……ここまで来るのにも安くない金を払ってるんだぞ! もっとしっかり探せ!?」

「ですから~! もう五回は全てのご依頼を確認したんですよ~!」

「ならなぜないのだ!」

「し、知りませんってば~」

 流石に不憫に思えて来るが、だれも助けようとはせずその場にいる冒険者たちは見て見ぬ振りを決め込んでいた。その理由の一つに、彼の周りに座る風狼の存在があるのだろう。魔物の中でも危険度の高い風狼かぜおおかみ、それを従えるような人間に関わろうとする気概の冒険者はいないようだ。


「まーまー、そう恐い顔しないでさ。落ち着こうじゃない。そんな眉間にしわ寄せて女性に凄むなんてダメと思うよー」

 そんな大変な情況の中、場違いな程に軽い声がかけられる。たった今出入り口の扉を開き、入ってきた一人の少年。黒い髪と琥珀色の瞳が印象的だった。彼が声をかけた人物なのだろう。

 ウォルフはギロリとその少年を睨みつけ、威嚇するような声で唸った。

「だれだ、貴様。今こっちは取り込み中だ、ガキは引っ込んでいろ!」

「あははー、え? ちょ、この人なんかスッゲー恐いんだけど?」

 少年は引きつった笑みでウォルフの眼光を受け、冷や汗を流しながら彼の手元に置いてあった依頼書を掠め取る。

「おいっ! なにをする!」

「いやはははー。うーん、と……うん、問題なし。初めまして、ウォルフさん。それじゃあ依頼の話に、移りましょうか?」

「……なに?」

 訝しげな視線に応えるように、少年は朗らかにニッコリと笑みを作った。

()()()()()、ウォルフさん。この度は余……じゃなかった……僕の依頼を受けてくれるようでありがとうございます」

「はっ? 待て、まさかこの依頼……」

「ええ、僕がお願いした物です。どうもギルド内でちょっと見落としがあったみたいですね、すみません」

 チラリと先ほどの受付嬢へと視線をやる。涙目の受付嬢は、首を横に振ってなにかを表しているようだ。違いますよぅ、とかそんな所だろう。

 怪しい少年ではあるが、自ら依頼者を名乗っているところを見ると関係者であることは間違いないだろう。警戒の目は緩めず、少年と言葉を交わす。

「依頼内容は遺跡の調査、だったはずだが……この辺りにそんなものがあるのか?」

「まーまー、取りあえずここじゃあなんですから少し場所を移動しましょう。もう一人の方はもう着いてますから」

「なに? もう一人いるのか? そんなこと聞いていないが……」

「そう言うのも含めてのご確認です。もちろん依頼は強制ではありませんし、こちらの話を聞いてから決めて下さって構いません。……如何ですか?」

 挑発的とも取れるような態度の少年に、ウォルフは知らずのうちに笑みを浮かべていた。

 面白い、そう言うように。

「分かった、場所を移せばいいんだな?」

「話が早くて助かります。っと、そうだった」

 ふと思い出したように少年はカウンター越しに佇む女性に顔を近づけ、

「お騒がせしました。この後もお仕事をガンバって下さいね」

 彼女の両手を握り、ブンブンと振る。なにか言い返そうとした女性だったが、手に渡されたものを見て動きを止めた。

「今回の件はどうぞご内密に、それではよろしくお願いします」

 ニッコリと笑みを残して去って行く少年。ウォルフは彼の後ろから憮然とした声を上げ、続いた。

「ふん、中々つまらない手を使うんだな。そんなにバラされたくないことなのか?」

「んー、別に法に触れるようなことをしてる訳じゃないんですけど、そんなものよりこわ~い従妹がいるんで出来れば知られたくない、ってのが本音ですよ」

 困ったように笑いながら言う少年の瞳には、なんとも言えない感情が渦巻いていた。



 裏路地にある一つの店。ウォルフはそこに案内された。看板などは出ておらず、店名は分からないが店頭には様々な物が売られていた。オモチャからカードゲーム、その隣にはドクロマークのラベルが貼られた薬品など。

 それらを横目に見ながら、ウォルフと風狼たちは店内へと入って行った。

「どうぞこちらへ。狭い店ですがゆっくりとおくつろぎを」

 少年に案内された先には丸テーブルとイスが二つ置かれていた。急ごしらえに置かれたのか、品の入ったテーブルが乱雑に壁際へと押し込まれている。少し訝しんでみるが、それより先に声を掛けられた。

「へぇ、あんたがもう一人の冒険者なの? 世界は狭いのねぇ」

「……?」

 声の主は既にイスに座っており、挑発的な視線を投げかけて来る。まるであちらはウォルフのことを知っているような物言いに、彼自身は首を傾げた。

「まさかあんたとこうした形で出会うとは思ってもなかったわ。でもまあ、今回はお仲間ってことだし以前のことは水に流して」

「すまないが、少しいいか?」

「って、なによ! 人が話してる時に割り込まないでくれる!? ……で、なに?」

 はぁ、と息を吐き出して問うてくる。だから、言ってやった。


「だれだ? 貴様」


 場が凍った。今までしたり顔でウォルフに話しかけていた少女の顔が急激に赤く染まり、今にも爆発しそうである。あ、これはマズイかも、と思った時には既に遅かった。

「は、はぁああああーー!? なに言ってんのあんた!! もしかしてこのあたしのことを忘れたとか言うんじゃないでしょうね!?」

「ああ、忘れた。と言うか、知らん。会ったことあったか?」

「なっ、なっなぁあああ――!」

 激情に任せて罵声をまくし立てているが、ウォルフの記憶にはこのような少女は記憶になかった。

 茶色の髪を肩の辺りで結っており、魔法使いが着るようなマントを身に着け、傍らには長い杖が一つ。辛うじて魔法使いということは分かるのだが、それ以上の事が思い出せない。うーむと記憶を手繰っているところ、苦笑気味の少年が声を上げた。

「ま、まーまー。今は取りあえず落ち着いてってば、これからお仕事の話とかしたいからさ。ね? ね?」

 宥めるような声を二人に、正確には少女の方へと向ける。依頼主からの言葉だからかようやく大人しくなった。……未だにウォルフを睨んではいるが。

「じゃあまずはお二人の確認から始めましょうか。ウォルフさんと、アミル・カートリッジさんでよろしいですね?」

「ああ、そうだ」

「……そうよ」

 少女の名はアミルと言うらしい。その名を元に再度検索をしてみるが、やはり記憶に浮かばない。こうなるとあちらが一方的にこちらを知っているという可能性が出て来るが、ウォルフはそこまで悪名が轟いたことは今のところない、はずである。

「ではこちらも自己紹介を。余は……コホン。僕はユウト・ルナリス。ただの考古学者です」

 二人の冒険者を見渡し、少年はニッコリと胡散臭い笑みを浮かべるのだった。



さてこのユウトと名乗る少年。実は偽名である。とある人物が己の立場を悟らせぬために名乗った偽名なのだが、それはまあ置いておこう。

 ユウトは簡単に仕事内容を説明した。


 第一に、遺跡の調査。今回の依頼はその同行者を募ったとのこと。遺跡探索のため、腕の良い魔法使いと剣士(ついでに鼻の利く狼系の魔物がいれば万々歳)を募集したのだ。ユウト本人は戦闘などの荒事において全くと言って良いほどに役に立たない。そのため、いざとなったら彼を守るために動かなければならないだろう。


 第二に、探索を開始する時間。ユウトには少々厄介な事情があり、明日の朝までに探索を終えなければならない。そのため今すぐ遺跡まで行き、一夜中歩き回らなければならない。


 第三に、報酬について。報酬は一人二百万エルで、前金として十万エル、依頼を終えたら残りを払う。一日の仕事とすれば悪くない額であり、前金だけでも十分馬車代の元は取れるだろう。


 以上を説明し終え、ユウトは二人を見回して確認する。

「そう言う仕事になる訳なんだけど、どうかな? 僕としてはこれ以上開示する情報はないんだけど」

「ふん、なら一つ質問させてもらおうか」

「ええ、どうぞ?」

 小首を傾げる少年に向かって、目つきを尖らせて尋ねる。

「その遺跡がどこにあるか、また危険性はどの程度だ?」

「ああ、そう言えばそれ言ってなかってけ。ごめんごめん、忘れてた」

「いや、そこ一番大事じゃない」

 非難するようなアミルの視線に、そう言えばと頷く。別に情報を出し渋っていたとかではなく、純粋に忘れていたのだ。失敗失敗と頭を掻きながら地図を広げて見せた。

「えっと、場所はここですね」

 細い指で示した場所は、ゼリアリスから徒歩で一時間ほど離れた場所にある森。森自身が内包する魔力によって方向感覚をズラされ、普通の人間を惑わせる場所。通称、

「迷いの森、か」

 噛みしめるようにその場所の名を口にし、ふ、と口元が緩んだ。

 聞けば、ユクレステとミュウが出会った場所がまさにこの迷いの森だそうで、可笑しな偶然もあるものだと笑ってしまう。

「だが、迷いの森に遺跡があるなど初めて聞いたぞ? どこからの情報なんだ、それは」

「うん、そこは王家縁の場所らしくてね。今まで調査の許可が下りてなかったんだよ。それに王家に伝わる『とある物』がないと遺跡の入り口も開かないらしいんだ」

「だから冒険者が探索したという話は聞かない、という訳か」

「ついでに言うと危険度はそこまで高くはないかな。一応魔法の森だから植物系の魔物が出るには出るけど、わざわざ領域テリトリーに足を突っ込まなきゃ襲ってくることはないし。もし襲ってきてもお二人の実力なら問題ないんじゃないかなー?」

 胡散臭そうにユウトを見る。あははー、と間の抜けた笑みを浮かべており、なにを考えているのか測りかねないでいる。

「あ、じゃあ次あたし質問! もし宝物なんかが落ちてたらどうするの? 貰っちゃっていいの?」

 アミルの言葉は遺跡探索において決めておかなければならないことだ。もしかしたら今回の依頼の報酬よりも値の張るアイテムを見つけられるかもしれない。そういった物をどう扱うのか、セコいと思われるかもしれないが遺跡探索をする上では重要な事でもある。

 まあ今回の場合、ユウトが持つ『ある物』がなければ遺跡自体に入れないので、優先権は彼にあるのだろうが。

「あー、別に構いませんよ、そちらで山分けしてもらっても」

「えっ! マジ!?」

 意外な言葉に目を輝かせるアミル。表情に出しこそはしないが、ウォルフも地味に嬉しそうだ。

 その喜びように水を差すようで気が引けるが。

「悪いんだけど、そこまでお金になるようなものは多分ないかと。元々王家の管理地であるのに加え、過去に何度も兵が派遣されてたから目ぼしい物は城の宝物庫じゃないかな?」

「うぇ~、そうなの?」

「さらに言えば、あの遺跡に落ちてるものは大半がガラクタで、金銭的価値のあるものはほとんどないと思うよ」

 さらにテンションの下がることを言われアミルは不満顔だ。それでも依頼金は相当なものなので、宝物が無くても元は取れそうではある。

「質問は以上かな? それじゃあ、どうする? 僕からの依頼、受けてくれる?」

 ニッコリと笑みを深め、二人を眺め見た。

 ウォルフは少し考えながら脇に控える風狼たちに目を配らせる。

(遺跡調査ならばヒュウたちがいれば格段に楽になる。報酬も中々だ。となると、後は……)

 ジッとユウトを睨む。どうにも胡散臭さの消えない彼だ。外見からなにかの武芸に秀でているという訳ではなさそうだし、魔力においても大したものはない。物理的な彼の危険性は限りなくゼロに近いだろう。

 ただ、少しの懸念もある。匂いがしないのだ。いや、人間の臭いであることは確かなのだが、それを覆い隠すように感じられる。なにか香水でも使っているのだろうか。それにしては無臭で、ヒュウたちですら判断が着いていない。

 どうしたものか。

 思考を進めていた所、横合いから声が上がった。

「いいわ。その依頼、受けようじゃない」

 杖を片手に不敵な笑みを浮かべるアミル。ウォルフは驚いたような顔でそちらを見る。

「貴様……アルミ、だったか? いいのか?」

「だれが金属よ! アミルだっての! ……良いも悪いも、そのために高い金出してここまで来たのよ。ここで受けなかったら大赤字じゃない!」

 なるほど、道理である。ウォルフは以前の優勝賞金があるのでそこまで切迫している訳ではないが、あって困る物でないのもまた事実。

 彼女の答えを聞き、ウォルフも覚悟を決めた。

「オーケーだ。オレも受けるとしよう」

「そっか! ありがとう、助かるよ! あ、ノリー! 紙とペン持ってきてー!」

 二人の返事にユウトは笑みを持って返した。店主に誓約書と万年筆を持って来させ、自身の名前を書く。それに倣うようにして二人も名前を書き、こうして契約は完了した。

「それじゃあ時間もないことだし急いで行きましょう。前金をお渡ししておきますので、なにか必要であれば買ってきて下さい。僕は迷いの森の入口で待ってますから。」

 時間がないというのは本当なのだろう。地図を仕舞い込んだユウトは店に置いてあったバックを手に取り急ぎ出て行った。ウォルフたちはその後ろ姿を見送り、イスから立ち上がる。

「とりあえず、必要そうなものを買って行きましょうか。一日だけだからそんなに大荷物で行かなくてもいいのは嬉しいわよね」

「……そうだな。行き先が魔法の森ならば最悪食糧も確保出来る。必要なのは傷薬くらいか」

「私は魔法薬マジックポーションも欲しいわね。出来れば魔力回復薬マナ・ポーションも。確か近くに魔法店があったような……」

 開け放たれた扉から外を覗こうとしたその時、この店の店主であろう少年が二人の前に立ちはだかった。

「そんな時はノリエのお店をどうぞ!」

 背の低い少年のような店主が頼まれてもいないのに近くの棚から薬品入りのビンを持ってくる。

「これは良質な魔力回復薬マナ・ポーションです。精製過程からビン詰めまで全て職人の手作業で作られていますから回復量が従来のなんと二倍! そしてこちらの薬草は魔法の森で自生している特別な薬草で作られており、そんじょそこらの傷薬とはまったくの別物となっております! 武器防具が必要であるならばこちらの風切りの槍などいかがでしょうか? 魔力の少ないどなた様でも言葉一つであなたも魔法使い! 他にはこちらの――」

「えっ? あ、あのあたしは向こうで買うから……」

「おっとお客さん商売上手だね! それならこちらの魔法薬マジックポーションもお付けして、さらに包丁とまな板もセットでお付けしましょう!」

「え、その……なんで包丁?」

(今のうちだな。ヒュウ、行くぞ)


 どうやら押しの弱そうなアミルに焦点をい合わせたようだ。ウォルフは気付かれないように気配を消し、静かにその場から立ち去った。風狼が憐れみの視線を向けていたことを、アミルはついぞ知ることはなかった。




 ウォルフが迷いの森にたどり着いた時、先に着いていたユウトは食事中だった。砂糖をこれでもかとまぶした揚げパンを頬張り、こちらに気付いたのかぶんぶんと手を振る。

「お早いお着きですね。食べます?」

「……いや、結構だ」

 ココアパウダーに埋まったパンを差し出しながら言うユウトにやんわりと断りを入れ、周囲を見渡す。もう一人のパーティーメンバーであるアミルの姿は見当たらず、恐らくまだ捕まっているのだろう。若干の憐みの気持ちを込めながら吐息した。

「美味しいんだけどなぁ、甘くて。おっ、わんこ達も食べる?」

「おい、勝手に可笑しな物をやるな」

「わん!」

「お、いい食いっぷり」

「ロウ!」

 三匹の内の一匹、ロウが蜜の掛かったパンを飲み込んだ。他の二匹は嫌そうな顔をしているが、どうやらロウは甘党らしい。

「ふう、ごちそう様。やっぱ外で食べる甘パンは最高だね。わんこもそう思うだろ?」

「わん!」

 一抱え程もあったパンを一人(と一匹)で全て食べ終え、指についた砂糖やココアパウダーやチョコレートを舐めとる。よくもあれだけのものを腹に収めるものだと思っていると、もう一人の冒険者がやってきた。

「ちょっと! なんであたしを一人で置いて行ったのよ! あの後あの店主に色々売りつけられて大変だったのよ! おかげで前金がパアじゃない!」

「そ、そうか。それはその……悪かったな」

 正直そんなこと知らん、と切り捨てようかとも思ったのだが、その姿は憐憫を誘うほど。ユウトは苦笑している。

「あー、ノリは根っからの商売人だからお客さんを見るとどうしてもねー。座右の銘は金さえあればなんでも買える、って感じの子だから」

「随分性格のひん曲がった子供ね!」

「いや、余も実際困ってるんだよ? ちょっとトイレ借りたら金寄越せ、閉店後に遊びに行ったら場所代、金寄越せ。お金好きにも限度があるよ」

 そのくせ商魂たくましいから始末におえない。かなりグレーゾーンなことまで構わずやるのでユウトとしても困っていた。まあ、助かる面の方が多いので特になにも言わないが。最近では人身売買にまで手を出そうとしてるとか。そこまでやってしまうと真っ黒になるのだが、どうするつもりだろうか。

 ウォルフは先ほどの店主の様子を見てユウトの言葉に納得する。と、少し気になる言葉があったのを思い出した。

「……余?」

「えっ!? あ、いや、世、ね? 世! 世間様も困ってるんだからもうちょっと別のものに目を向けてもいいのにねー? 例えばー……あ、愛とか?」

 とっさに考え、それはないなと自己完結。少なくともあの強突く店主がラブ・アンド・ピースなんて言い出したら気味が悪くてしょうがない。

 話題を逸らすために迷いの森を指差した。

「と、とにかく全員そろったことだし出発するとしましょう! ここから先は迷いの森、魔法使いのアミルさんには期待していますよ。わんこ達にも!」

「ま、任せなさい。依頼主クライアントのご期待に添える程度には頑張るわ」

『わん!』

 自信たっぷりに胸を張るアミルと元気よく吠えるヒュウたち。特にロウは先ほどパンをもらったことによりやる気もアップしている。計らずしも餌付けに成功たようだ。

 不安げにそれを眺め、ウォルフはため息と共に思う。

 なにも起こりませんように、と。

 ただ残念なことに、往々にしてそのようなフラグを建築して無事であるということは、古今東西探して稀であることを彼が知るはずもなかった。


少し長くなってしまったので分けることにします。

今日か、遅くても明日の夜までには更新できるかと。

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