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聖霊使いへの道  作者: 雪月葉
セントルイナ大陸編
13/132

魔物使いのお仕事

 仕事クエストが決まり、ホクホク顔でギルドの外へと出る。内容はなんてことはない、簡単な魔物退治と薬草の採取だ。この二種のクエストは魔法使い専用のクエストなため、難易度の割に報酬が良いのである。魔物退治は剣や槍など、物理攻撃の効かないスライム族、薬草採取も魔法使いにしか分からない種類の薬草だ。剣士職の人間には難しくても、魔法使いにとっては楽な部類に入る。どちらもコルオネイラからそれほど離れていないため、夜までには帰って来れるだろう。

 杖や回復用の薬を用意し、いざ街の外へと向かう。

「ま、待ってくれ! いや待って下さいお願いします! 見捨てないで!?」

 とそこに切羽詰まったような声が届いた。ガチャンガチャンと耳障りな音に負けないくらいに大きな声で、必死だ。

 一瞬それを無視してしまいたい衝動に駆られる。

「ああっ! 挟まった! だ、だれか助け――その前に待ってー!」

 そうも言えないのが面倒だ。背後を振り返って見れば、予想通りギルドのドアに突っかかった甲冑フルプレート姿のユゥミィがいた。なぜまた着たのか謎だが、彼女の表情が兜によって隠れているため顔色はうかがえないが焦っているのだろう。じたばたと身体を暴れさせ、壁がミシミシと音を立てている。

 流石にこれ以上財布を軽くされては堪らないため、嫌々ながらも助けに入ることにした。

「あーもう! あんまり動くな! ほら、そっち少し屈め!」

「す、すまない……こうか? あいたっ!?」

 やや乱暴に引っ張り出す。ようやく落ち着いたのか、ふぅ、と安堵の吐息が聞こえた。

 そして顔を合わせ、思い出したように詰め寄る。

「頼む! 私のマスターになってくれ!」

「はぁ……」

 先ほどから何度も何度も頼んでいる言葉を再度吐き出し、頭を勢いよく下げた。

 本来ならば一も二も無く頷くようなこの状況で、ユクレステは困ったように表情を崩した。目の前には、バランスを崩したせいで転がっているユゥミィがいる。

 どうしたものかと、本日何度目かのため息を吐くのだった。



 ダークエルフの少女、ユゥミィ・マクワイアが世事に疎いということは理解した。あれから二、三の質問をした結果、どうも彼女の知っている情報というのが数十年ばかり遅れている。恐らく、それだけ彼女のいた里が外界と接していないということなのだろう。そんな彼女に対して懇切丁寧な説明を繰り返すこと数十分。ようやく、ことの重大さに気付いたようだ。

「で、ではこのままでは大会に参加することもクエストを受けることすら出来ないのか!?」

「まあ、そう言うことになるかな」

「そ、それではどうやって金を稼げばいいのだ! 人間社会は金がなければ生活できないと聞くぞ!?」

「あ、それは知ってるんだ。一応、買い取りをしている店もあるだろうから、なにか売れば金は出来るけど……持ち物は」

「夜逃げ……いや、家族には内緒で来たから金目のものは……」

 彼女の持ち物はどこか汚れたようなものばかりで、荷物もないに等しい。売れるような物など、あるにはあるが……。

「最悪その鎧でも売れば?」

「そんなこと出来る訳がないだろう! この鎧はうちの家宝だ、食うに困ったからと言って売ってみろ! 末代までの恥だぞ!」

 ユゥミィが売るつもりもないので、それも出来ない。まあ、探せばバイトの一つは見つかりそうなものだが、目の前の少女がまともに働けるとも思えない。

「――そうだ」

 やがてなにか思いついたのか、ユゥミィが声を上げる。なにかを期待した表情でユクレステを見つめていた。

「……なに?」

「いや、確か先ほど聞いたのだが、マスターがいれば大会には出られるのだったな。ついでにギルドのクエストも受けられる。つまり、この私にマスターがいれば万事解決、といった訳だ」

「そりゃあ……そうだけど」

 自身満々の彼女が爛々と輝く目を向けながら話している。言葉と彼女の雰囲気からなにを期待しているのか分かってしまう。けれど先を促さないことには話は進まないだろう。次に吐き出される言葉を待ちながら、ユクレステも色々と頭の中で考えを巡らせる。

「つまり、だ。キミが私のマスターとなれば全て解決して――」

「ごめんなさい」

「あっれー!?」

 思考を働かせた結果、結論としてそうなった。無論、ユクレステにとっても損のない取引きではあった。……いや、既に損はあったのだが。金銭的に。

 ともかく。彼女の実力がどうかは分からないが、自分であれだけ騎士になると豪語しているのだからそこそこの実力はあるのだろう。既に上級魔法を使用できるのだから、それは間違いない。魔物使いとして喉から手が出るくらいには優良物件なのだろう。

 しかし、彼女の目的は大会に出場するということ。そのためには受付を通らなければならないのだが、既にユクレステはミュウのマスターとして受付を済ませてしまっている。原則大会に出場出来るのは一人のマスターに一体の魔物のみ。もう一人、ユゥミィを出場させることは出来ないのだ。


 そう何度も言っているのだが、

「あーもう、放せってば! ローブが破れる!」

「お願いだから待って! 行かないで! 私を捨てないで!」

「人聞きの悪いこと言ってんじゃない!」

 必死にユクレステを掴むユゥミィ。流石に周りの目が気になってくる頃だ。

「分かった、分かったよ。目ぼしいマスターを探してやるから!」

 とどのつまり、ユゥミィに必要なのはユクレステではなく、大会に出場するためのマスターなのだ。であって一時間、それだけの関係なのだから当然だろう。しかしそれでも、ユゥミィは首を横に振っている。

「そ、それは嫌だ……」

 蚊の鳴くような小さな声なため聞き逃しそうになったが、確かにそう答えた。

「えーっと、なんで?」

「うぅ……だ、だって……」

 両手を合わせてもじもじとしている全身甲冑。手が放れたので逃げることは可能だが、先ほどと違った様子を見せるユゥミィを無視できるはずもなく。

「私は、その……人見知りなのだ」

 ポソリと囁かれた言葉の意味を反芻し、思わず、

「うそつけぇえええー!」

 叫んでしまった。

「う、うそではないぞ! 私はあれだ、知らない人が近くにいるだけで過呼吸になるくらいのアレだからな!」

「自慢して言えることじゃないし今の今までそんな素振りちっとも見せてなかったじゃねーか!」

「う……さ、流石に言い過ぎた。だが、あまり人付き合いが得意な方ではないのは事実だ! 知らない相手にそこな御仁、なんてとてもではないが言えない!」

「言ってただろーよ!」

 兜を引っ掴み、ポコンと引っこ抜く。中身の顔は真っ赤になっており、周りの目を気にして顔を伏せてしまった。

 この仕草を見れば人見知り、と言えなくもない? いや、この状況は人見知りじゃなくても恥ずかしいかもしれないが。

「確かにそんなようなことは言ったかもしれないが、それもちょっとテンションが上がってのことなんだ! だってその……森を出て久しぶりに、風の匂いを感じたから……」

 彼女の言葉にピタリと動きを止めた。今ユクレステの胸にあるのは、驚きと感心の感情だ。

「そう言えばエルフ系の種族は精霊に敏感なんだっけか」

 ユゥミィの言う風の匂い、という言葉に心当たりがあった。それは、ユクレステが現在契約している、風の精霊のことだ。

 エルフ族は森の奥で精霊と共に暮らしている。精霊を常に感じているのだ。それが突然感じない、もしくは極端に精霊の力が弱くなる世界に出たとすれば、それはとても心細いことだろう。そんな時、目的の街から精霊の匂いを纏った存在に出会ったとしたら、どんな気持ちを抱くだろうか。魔法使いという職業の旅人は少なくないが、精霊と契約した人間となれば話は別だ。

「……まあ、こいつは勝手に出た訳だし自業自得だろうけど」

「なんだ?」

 小首を傾げる少女を半目で睨む。

「おまえってなんの上位魔法が使えるんだ?」

「私か? 私は木属性の魔法が使えるぞ」

「なるほど、また珍しいものを」

 木属性の特性は『流動』と『停滞』。相反する、対立特性の魔法だ。このうち、『流動』は風魔法も含まれるため、恐らくこの辺りに反応したのだろう。

 自称人見知りの少女は、つまりこう言いたいのだ。

『風の精霊と契約した自分と近しい人となら契約してもいい』

 そう言うことなのだろう。

「はぁ~。だから言っただろ? 俺はもう出場受付してるの。おまえを連れて出場できないんだって」

 幾分か優しく言葉をかけ、諦めるように促すが、それでも嫌だと首を振る。そしてついにはこんなことを言い出した。

「契約してくれないんだったらこの場で叫ぶぞ! 襲われるーって叫ぶからな!」

 涙目で必死な猛攻。だがそんなことで焦るようなユクレステではない。ないのだが……

「分かった、分かりましたよ。なんか考えてやるから、取りあえずここから移動するぞ」

 既に周囲の眼が痛いってレベルではないので、これ以上厄介事に巻き込まれる前に場所を変ることにした。

 ただ、一連の出来事を最初から見ていた人たちは可愛そうな子を見るような視線でユゥミィを見ていたような……。

 多分きっと、それは気のせいではないのだろう。



 コルオネイラを出てしばらく歩いた場所に件のスライムが出没するらしい。目撃情報を元に、ユクレステは探索を開始した。道中、ユゥミィが鎧を着替え、引きずり始めたのを見て置いて行きたい衝動に駆られたりもしたが、一応二人仲良くあぜ道を歩いている。

「ぜー、はー……あ、主。ちょっと手伝ってくれても……」

「嫌だ。魔法使いは筋肉を酷使するような仕事はしたくありません。そういうのは騎士様のお仕事です。あと、契約するなんて一言も言ってないからな」

「そ、そんな殺生な……手伝わなくてもいいから、せめて契約を……」

 汗をダラダラと流している姿を見ると、よく今まで旅してこれたなと感心してしまう。何日の旅かは分からないが、苦労したことだろう。それでもその鎧を手放さない気概は買うのだが。

「仲間になるのは別にいいけど、大会に出場できないんだぞ? それじゃあ意味がないんだろ?」

「当然、だ……」

「なら俺との契約は止めといた方がいい。いくら契約が一生物じゃないとしても、おまえが納得して契約しなきゃ意味がない。少なくとも、俺はお互いが納得する契約じゃなきゃ契約はしない。それが魔物使いとしての俺からの忠告だ」

 仲間になるならお互いに苦恨を残さず。

 ユクレステは魔物と契約するにはまずそれを前提として考えている。だからこそ、ディーラと真正面から戦い合い、ミュウの傷を受け止めると決めた。マリンとの契約だって一年という長い時間をかけて絆を築き上げ、契約に至ったのだ。

 ユゥミィとの契約では彼女の望みが叶えられない。故に、ユクレステは契約を止めるように言っている。

「…………」

 と、聞いているのかいないのか、ユゥミィがボケっとした顔をこちらに向けている。

「……なんだよ」

「いやぁ、珍しいなと思って」

「はぁ?」

 なにが可笑しいのか、クスクスと口元を押さえて笑う。

「だってそんな考え方、今の人間達はしていないだろう? 魔物の方だって同じだ。契約なんてそんな堅いものじゃないし、里の皆もそこまで真剣に考えた者はいなかった。大体、契約用のアクセサリなんか

が売っている時点でご察しだ」

「そりゃあそうかもしれないけど、俺は自分勝手に契約するのが好きじゃないの」

 巷に溢れる魔物使いたちの考えを否定する訳ではないが、ユクレステにとって魔物との主従契約は神聖なものなのだ。だからこそ、お互いの中で納得をしてから契約に望みたいと考えている。

 それこそが、彼の目指す存在ものの姿だから。

「なんたって俺は、聖霊使いになるんだからな」

 いつものようにそう宣言。それだけで目標が明確に定まった気がする。

「聖霊、使い? 精霊じゃなくて、聖霊?」

「上位魔法の精霊じゃなくて、神様を従える方の聖霊」

 ユゥミィも聞いたことくらいはあるのだろう。キョトンとしながら尋ねて来る。ふと、ダークエルフにはどう伝わっているのか若干の好奇心がうずく。それよりも先に、彼女はなにかを考える仕草を一つして、すぐに動く。

「うん、やっぱり私と契約をしてくれ!」

「はい? いや、さっきの俺の言葉聞いてた?」

「無論だ。大会に関しては私に策があるから大丈夫だ」

 自身満々に言ってのけるユゥミィに不安しか感じられない。

「そして今の一言に私は感銘を受けた! 聖霊使い、いい響きじゃないか!」

「は、はぃいい? なにが? なんの話!?」

 グイグイとユクレステに近寄り、ガッシリと肩を掴まれる。彼女の顔がすぐ目の前にあり、身長が同じくらいなせいか鼻が触れ合うほどに接近されていた。視線を下へと向けると薄手の服が汗で身体に張り付いている。小ぶりだが形のいい胸がちょうど視界に入るという絶好のポジションに、ユクレステの頭が少し揺れた。

「聖霊使い……三百年前に突如として姿を現した伝説の存在! そう、伝説の存在!」

「なんで二回言ったし」

 大事だったのだろう、彼女にとっては。

「伝説に挑戦する新米冒険者、それに付き従う仲間達! そう、そこに騎士という存在は必要不可欠なのだ! この私みたいな!」

「いや、御免被ります結構です」

「大丈夫だ、安心しろ。なにも騎士の登用を諦めた訳ではない。そう、私は今まさに聖霊使いの騎士になる!」

「あ、ダメだ。こいつちっとも聞いてないや」

 その後ガクガクと身体を揺すられながら長々となにかを説明しているようだったが、長い上に要点の分からない話が多数だった。

 要約すると、『伝説って言葉に憧れます、是非ともお供させて下さい。そうすれば私も伝説の騎士の仲間入りだぜヒャッハー』だそうだ。

「なにせ聖霊使いの仲間に騎士王と呼ばれる人物がいたのだからな。是非ともあやからねば!」

 まるでかつての聖霊使いが連れていた仲間のことを知っているような口ぶりである。

「ん? 知っているぞ?」

 ちょっと待て。

 そう叫ぶと同時に、彼らの周りに無数のなにかが出現した。

 場所はコルオネイラ近郊の川原。ちょうど、スライムが発生すると言われていた場所だった。



 スライムの中でも特殊なウォータースライム。液体状のスライムで、大きさは一メートル弱。だが複数のスライムがいれば合体し、際限なく巨大化する極めて厄介な魔物だ。特に厄介なのは物理攻撃が一切効かないといったところだろう。これが別のスライム、例えば粘性の高いグリーンスライムやレッドスライムならば多少なりともダメージは入るのだが、ウォータースライムは彼らと違い完全な物理攻撃が無効だ。水を斬ることができなければ、ウォータースライムを完全に倒すことは出来ない。

 それ故に、このクエストには魔法使いが必須と言われている。

「ああクソ! 興味深い話が聞けるとこだったのに……まあ忘れてた俺も悪いんだろうけどさ」

 やれやれと愛用のリューナの杖を取り出し、手始めとばかりに腕を振るう。

「暴発せよ振動――衝撃インパクト!」

 手近にいたスライムが二匹纏めて吹き飛び、地べたに飛び散る。だがそれだけで倒せるはずもなく、飛び散ったスライムの破片が川に飛び込むと元の姿を取り戻していた。

 ウォータースライムの厄介な点はこれだ。いくら外観の部分を削ったところで、水があれば復活するのは容易なのだ。ちまちま削っていては焼け石に水だろう。

 そうこうしているうちに、続々とスライムたちが集まって来る。流石に一人で相手をするには厄介そうなので、付いて来ている鎧娘にも頼ることにした。

「この場合、水はどっちなんだって話だけど……まあそれはいいか。ユゥミィ! 後で報酬を分けてやるから手伝ってくれ!」

 だが返ってきたのは沈黙。

「…………あれ? ユゥミィさん?」

 応、なり嫌だ、なりなにか言って欲しい。ちらりと横目で彼女の姿を確認しようとする。

 残念ながら失敗に終わったが。

 いや、どこかに行ってしまったのかどこにもいないのだ。ユクレステ一人置いて。

「あ、あれれ? どこ行ったんですかー?」

 辺りに声をかけるが返事はない。ただうぞうぞと蠢くスライムが距離を詰めてくるだけだ。

「そ、そりゃ手伝うとは言ってなかったけどさー! ええいチクショウ! 突撃せよ気高き風、その鋭き切っ先で敵を穿て!」

 後ずさりながら口早に詠唱を行い、その魔力に反応してかスライムが一斉に活性化する。飛びかかって来るスライムを避けながら、呪文が完成した。

「ストーム――」

「ハーハッハッハッハ! 無事かそこの少年!」

「ラン……えっ?」

 完成した魔法を解き放とうとした瞬間、だれかの大声が辺りに響き渡った。そのせいで集中が途切れ、風の槍はただのそよ風となって霧散する。

「この私が来たからにはもう大丈夫だ! 私はユゥミィ・マクワイア! 聖霊使いの騎士なり!」

 呆然とするユクレステと、そんなこと知ったことかとユゥミィ。

 今のが名乗りであったのだろう。岩の上でポーズを決めたユゥミィは、満足したのか笑みを深めてビシッと親指を天へと向けた。

「ゆくぞ悪漢め! とう!」

 岩の上からクルクルと回転して飛び降り、無駄に高い身体能力を見せつける。そして立ち上がりながら、一つの呪文を唱えた。

 それは彼女が得意とし、そしてなによりも夢を追い求めた末の結晶。

変身チェンジ!」

 左手は腰に添え、右手は左斜め前へと突き出す形を取る。瞬く光、やり切ったように笑うユゥミィ。

 正直ぶん殴りたい。だがそれも今は止めておいた方がいいだろう。なにせ、光が収まったそこには、

「――変身完了! ゆくぞ悪党!」

 白銀の鎧を身に纏ったユゥミィがいるのだから。

 ……今殴れば高確率でユクレステの腕の方がダメージを受ける。

「まあ、戦ってくれるならなんでもいいけどさ」

 一連の行動を見て若干やる気がそがれた。面倒そうに破砕ブラストを使いスライムの動きを制限する。新しいユゥミィが現れたことによりスライムたちの標的が代わり、問題なく捌ける数になった。

「んじゃあまあ、さっきの続きだ。突撃せよ気高き風、その鋭き切っ先で敵を穿て――ストーム・ランス」

 風の槍をスライムに突き立てその衝撃で数匹のスライムが霧散する。魔力による攻撃をその身に喰らい、ウォータースライムは呆気なく消滅した。

「さて次は……」

 次のスライムを的にしようとして、チラと横を見る。実力はあるようなことを言っていたので問題ないと思うが、念のためだ。

「…………」

 視線が向いた先に、ユゥミィは確かにいた。ただ、

「や、やめろ! 取り付くな! 私の鎧になにをするこの痴れ者め! くっ、ならば私の聖剣技を見せてやる! ん、しょ……お、おもたい……」

「……なにやってんだ、あいつ?」

「てやっ! あ、あれ? 斬れてない? なんで? あ、ちょ、待って待って! ごめんなさいやめて兜は取らないでぇ!」

 見事にスライムたちに組み伏せられていた。

 初めは一匹のスライムが足にへばりついたのだ。それを躍起になって外そうとして剣を持ち上げるが、大剣と分類していい種類の剣はそう簡単に振るうことが出来ず、なんとか振り下ろした剣もウォータースライムに効くはずもなく地面に突き刺さった。その後あれよあれよとしている間に別のスライムが遅い掛かり、今や仰向けに倒され鎧も半分以上がスライムに取り込まれた形となっている。

「や、待って! そんなむぐぅ――!」

 器用にも兜を脱がせたスライムは人間の腕くらいの太さにした身体の一部をユゥミィの口へと押し込んだ。無理やり口に侵入され、息苦しさのせいで目の端に涙が零れる。その間にもスライムたちはユゥミィを取り込もうと合体を繰り返している。

「んん、ぅぐ、ふむぅー!」

 そろそろあれな光景になりつつある。流石にそろそろ助けてあげよう。

「やれやれ……重圧なる風雲よ、眼前にそびえる高きものを暴力の嵐によって吹き飛ばせ――ストーム・カノン」

 彼女の鎧の強固さは既に知っている。それに彼女自身そこそこ丈夫である。それならば、とこの呪文をチョイスしたのだが……

「あぁあああー!?」

「あ、やべ。ちょっと強過ぎたか?」

 スライムたちを消し飛ばし、川へと吹き飛ぶユゥミィを見ながら、少し反省。


 次回からはもう少し手加減できるようにしようと思いました。

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