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聖霊使いへの道  作者: 雪月葉
秘匿大陸編
119/132

美子への処遇

 夜月善十郎。夜月家現当主である夜月在斗の伯父にあたる人物で、これまでの体制を破壊し、新夜月派なる組織を作り上げた人物である。つい先日まで在斗を排除し、夜月を牛耳ろうとしていた。

 しかし、結果は失敗に終わってしまった。エレメント社の工場を手にしようとした所を後ろから奇襲された形で制圧されてしまったのだ。全ての人員が彼等の手に落ちるのには一時間と掛からなかった。その後、一時的に帰宅を許された善十郎は、すぐに関西にある取引先に連絡した。自分の立場を守るために、娘すらも取引の材料にして。


「と、まあそんな事を考えていたんでしょ? 色々と頑張っていたようだけど」

「な、なにを言っているのやら。オレにはさっぱり……と、とりあえず茶菓子でも」

 姪に対してヘコヘコと頭を下げる善十郎。高級ヨウカンを目の前にして、要斗いとはジロリと半目で睨みつけた。

「あたし、和菓子より洋菓子の方が好きなんだけど」

「ですよね!? おいコラテメェ! なにヨウカンなんか持って来てんだ! さっさとケーキでも買って来いやぁ!!」

「へ、へい!?」


 僅か三分足らずでケーキを購入して戻って来た。それらを並べ、今度こそ要斗は善十郎に向き直った。

「それじゃあまずはあんた達の処遇を言い渡しましょうか」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

「イヤ。夜月善十郎、島流し。監視付きの余生をお楽しみ下さい」

 一切の容赦のない言葉に善十郎は絶句する。ワナワナと震え、怒りの表情で言葉を吐き出した。

「ふ、ふざけるな!? オレはオマエ達の伯父だぞ! それを――」

「うっさいわねぇ。少なくともあんたには親愛の情なんて欠片も湧いているはずないでしょ? もう少しであたしや姉様までどこの馬の骨とも知れないクズ共に売っ払われる所だったんだから。生かして貰えるだけ感謝しなさいよ」

 鋭い眼光に善十郎は思わず後ずさる。

「こ、こんな事が許されるはずがない! オレにそんな事をすれば他の組の奴らが……」

「ああ、あんたと取引してるところ? それならとっくに潰してあるわよ? 既にあたし達の手の内にあるから、どれだけ虚勢張ってもムダ」

「…………え?」

「あー、なるほど。先にそっちを潰したんだ」

 呆気に取られる父に代わり、納得したように寝そべった状態の美子が答えた。

 部外者であるユクレステだが、彼女達のやり取りで大体の事情は察する事が出来た。彼等が制圧されて既に一週間が経っているのだ。その間に、善十郎達に味方する組織を掌握したのだろう。

「な、なにを言っている!」

「あーもう、うるさいわね。とっとと連れて行っちゃって」

「な、なんだ貴様ら!? オレを誰だと思っている! ク、クソォ!?」

 未だ理解せずに喚いているが、鬱陶しくなったのか要斗が指を鳴らす。すると全身黒ずくめの人物達が現れ、暴れる善十郎を連れて行ってしまった。


 黒子達が退場し、ようやく静かになったのでケーキへと手を伸ばす。

「さーて、これでやっと邪魔ものはいなくなったわね」

「えー、なになに? 要斗ちゃんってばそんなに私に会いたかったの? 人気者はこれだから困るなー」

「……あんた、良くそんな事言えるわよね? いっそ尊敬するわ」

「あはは、褒められてもこれ以上はお菓子は出ないよ?」

 座布団を積み上げて背もたれにしている美子にジト、と視線が向けられる。次いで、その隣にいたユクレステに。

「で、そちらさんはどちら様? 夜月の人間じゃあ無さそうだけど?」

「この人は私の学校の先生だよ」

「ユクレステ・フォム・ダーゲシュテンです。先生と言っても今日からの新人ですけどね」

「げっ、学校の先生なの?」

 苦笑しながら答えると、なぜか顔が引きつり若干距離を取られた。どうしたのかと美子へと視線を向ける。

「要斗ちゃんは教師が苦手なんだよ。なんたって不登校児の不良娘だから」

「だから! あんたがそれ言う!? 大体あんたらのせいじゃない!!」

「はて? 何の事やら。私は真面目に学校行ってたし。評価だって全部見事なA判定。で、要斗ちゃんは?」

「……ギリギリの、C」

 Cと言えば赤点ギリギリの評価のはずだ。美子はニヤニヤと笑い、さらにバカにした様子で口元を手で隠した。

「ぷーくすくす」

「っ、上ッ等! 喧嘩売ってんなら買うわよこの腹黒変態女ァ!!」

「と、とりあえず落ち着け、相手は病人だから! あとサトウ、挑発するな!」

 要斗は殺気と共にポケットから紙のようなものを取り出す。それが何かは分からないが、病人相手なのだから暴れられては堪らないと制止の声をかけた。

「チッ」

「ふーん」

 お互い顔を背けている辺り、やはり仲は良くないのだろう。心の中でため息をつき、チラリと要斗を見た。

「それで、君が夜月要斗さん?」

「あら? あたしの事知ってるの?」

「人伝に、だけどな。ディーラ曰く、久し振りに楽しめそうな相手だそうだ。どうやら獲物認定されたみたいだぞ? ご愁傷様」

 眠たげながらも嬉しそうな悪魔娘の顔を思い浮かべ、ユクレステは同情の眼差しを向けた。彼女にロックオンされた経験があるため、その厄介さは十二分に理解している。

 一瞬なんの事か分からず考え込んでいた要斗は、ディーラの名前を思い出して我に返った。

「ちょっと待ちなさいよ! あんたもしかしてあの悪魔の主人なの!?」

「えーと、まあ、うん。一応……」

「だったらもうちょっとちゃんと躾けておきなさいよ!? なにあいつ! 本気で身の危険感じたわよ!? もちろん生命的な意味で!」

「いやぁ、あいつを躾けるのはちょっと……流石に俺じゃあ力不足と言うかなんと言うか。自分の命が一番大事だよね? って事で」

 若干涙目の少女に対し、心苦しいとは思うがあっさりと首を横に振る。強い相手と戦う事を至上の喜びとする悪魔族に対し、戦いを自粛するような命令は出せない。もしそんな事を言おうものならばその矛先は確実にユクレステへと向かう。

 早い話、ユクレステとて自分の命は惜しいのだ。

「こ、こいつ最低だわ……!」

 変態とは言われた事はあるが最低と評されたのは初めてだ。ちょっとだけ傷ついた。


 ユクレステの心情など知らない美子は、ダルそうにしながら固い声を絞り出す。

「に、しても。随分と対応が早いよね。あれからたったの一週間で夜月のほとんどを制圧。今までの体たらくがウソみたいだよ。これが御子様のお力って奴?」

「まあ、ね。姉様が本気を出せばこんなものよ」

 そう言う彼女の表情はどこか引きつっているように見えた。だがすぐに不敵な笑みに変え、得意気に胸を逸らす。

「その割には随分長い間引き篭もっていたみたいだけど?」

「むぐっ」

 痛い所を突かれたと言葉に詰まった。そもそも、夜月在斗やげつあとが真面目に機能していればこのような事は起こらなかったのだ。その犠牲者である美子には色々と思うところがあった。

「引き篭もって、って?」

「あー、うん。ほら、さっき色々あって一枚岩じゃないって言ったでしょ? そこら辺に関わるんだけどー」


 そもそもの発端は、やはり十五年前。世界落ち(フォールアウト)によって世界が孤立した際に、要斗達の両親が亡くなってしまった事が始まりだ。当時はまだ幼い在斗ではなく、善十郎達が必死に動いてくれていた。滅びのすぐ側にいたお陰で争うという事が考えられなかったのだろう。だが、今から五年前。エレメント社によって魔力エネルギーが発表され、徐々に平穏を取り戻し始めるのと同時に夜月内で衝突が起こり始めた。

 一方は、この国を裏側から支えていた夜月が、今度はこの国を牛耳ろうという新夜月派の考え。もう一方は、これまで同様に支えていこうという御子派のものだ。

 それでもこの時はまだ水面下での争いで済んでいた。表立った争いになったのは、三年ほど前。十八になった夜月在斗が夜月の御子となってからだ。

 それでもまだ対抗は出来ていた。だがそれも一年後、御子である在斗が隠れてしまった事で大勢は決まった。なぜそんな事をしたのか、未だに謎のままだ。暗殺未遂によって恐れをなしたのだと囁かれているが、実際の所を知るには美子では遠過ぎる。目の前の少女ならば知っているだろうが、それを話すほど愚かでは無いだろう。

「あたしが呼ばれたのは、そのくらいの頃だったかなー」

 宙を見上げながら、美子は思い出す様に口ずさんだ。

「呼ばれた?」

「そ。うちのクソ親父、今の御子様を排除してあたしを代わりの御子に仕立てあげようとしたんだ。これでも夜月の血は濃いみたいだから。その頃から、何度か要斗ちゃんとやり合ったなー。その時はもう、ホントに簡単な仕事だったんだよね。罠には簡単に引っ掛かるし、思った通りの行動で自滅してくれるし。正直笑っちゃったよね。こんなのが夜月で巫女様なんて呼ばれてるのかって」

 ムッとしながらも反論しない所を見ると、要斗も分かっていた事なのだろう。ケラケラ笑う美子の言葉に耳を傾けていた。

「まあ、それも半年前からパッタリと勝てなくなったんだけどね。罠にもかからず、むしろこっちの裏を全て読み切ったような動き。そうすると自然、地力のある方に軍配が上がる訳で……。多分、あの頃から御子様が動いてたんだろうね。それをあのバカ親父に何度も忠告してやったのに、この有り様だよ。ホント、笑える」

「サトウ……」

 ハァ、と疲れたような吐息と共に目尻に涙が浮かんでいる。これまでの事を思い出したのだろうか。

「結局最後の最後には逆転されちゃったね、要斗。それで、これからあたしはどうなるの?」

 美子にとって気になるのはそこだけなのだ。ユクレステに説明した話は彼女にとって自分のこれからとは関係の無いものに過ぎない。重要なのは、この後自分はどうなるのかと言う事だけだ。

「……当然だけど無罪放免って訳にはならないわよ? あんたはこれまでに何度もあたし達の邪魔してきたんだから」

「知ってる。これから先、多分日の目を見れないだろうってのは何となく理解出来てるから」

「それってどう言う事だ?」

 ユクレステの疑問に、自嘲する様な微笑みを浮かべる。

「これでもあたし、結構な重要人物だから。放置されるって事はないと思うんだ。良くて監視付きの生活、悪くてどっかに幽閉される、とか?」

 チラリと要斗へと目配せをすると、彼女は重々しい雰囲気で頷いた。

「ええ、その通りよ。夜月美子。あんたの処遇を言い渡すわ。あんたはこれから夜月本邸の座敷牢に幽閉。あたし達の許しが出るまで、外に出る事は叶わない」

「……そっか」

 冷たく、底冷えのする言葉が発せられる。

 許しが出るまで、とは言うが、どの道許される事は無いだろう。つまり、一生牢屋暮らしと言う事。美子は諦めたように力無く横たわり、その言葉を受け入れた。

「親のバカさ加減には同情するけどね」

「同情するなら何とやら。下手に同情するの止めてくれる? 殺したくなるから」

「……あっそ」

 辛辣な言葉を受けても少しも怯まず、要斗はスッと立ち上がる。彼女の後ろには黒子達が現れ、今から彼女を連れて行く気なのだろう。

(少し、残念だな)

 近付く足音を耳に入れながら、美子は小さく吐息した。せっかく恋と言うものを自覚出来たのに、それも叶わずに余生を過ごさなければならないとは。

 自分でも陳腐だとは思うが、夜月美子は愛情に飢えていた。父に捨てられ、母は物心がつく前に亡くなった。その後、転がりこんだ親戚の家では厄介者扱いされ、誰からも愛される事が無かった。だからこそ、人から愛されたいと願い続けてきたのだ。例え無理強いした愛でも、自分をしっかりと見てくれるだけで満たされていた。

 けれど、

(本当の好きって、全然違うものだったんだなぁ……もっと早く、この人に出会えていたら良かったのに……)

 横目でユクレステを眺め、彼に対する温かな想いに心が沈んで行く。空虚な心に愛と言うものを覚えた。それを与えてくれた男性に、熱い吐息をする。

 もっとも、彼にはなにがなんだか分からないだろうが。

 それでも良いのだと、瞳を閉じる。


「……なんのつもり?」

「えっ?」

 苛立ったような声が聞こえてきた。声の主は要斗だろう。険しい声音に、美子は目を開いた。そこには――

「いやなに、勝手に話を終わらせてもらっても困るなー、と思ってさ」

 杖で要斗の道を塞ぐようにしたユクレステがそこにいた。苦笑したままの表情で、威圧するような瞳を受け切っている。警戒するような要斗を気にせず、ユクレステはゆっくりと立ち上がった。

「色々あったってのも、しがらみがあるっていうのも、聞いててよーく分かったよ。分かった上で言うぞ?」

 言葉を切り、そして一言。

「で、学校の方はどうするんだ?」

「……はっ?」

「え、っと……?」

 なにを言っているのだろう、と言う視線が前と後から向けられる。若干居心地の悪さを感じながら、コホンと咳払いを一つ。

「だから、学校だよ。そんな幽閉なんてされたら学校行けなくなるだろうが。そこんとこどうする気だ?」

「はぁ? あんたなに言ってんの? そんなもんやめればいいだけじゃない」

 バカにしたように鼻で笑う要斗。ユクレステはそんな彼女に呆れたような目を向けた。

「あのなぁ……。おまえ達が通ってるのはなんの学校だと思ってるんだ?」

「なんのって……魔法術のでしょ?」

「そうだ。この学校、授業料や修学旅行の積立金、その他もろもろ含めて全て学校側が負担しているのは知ってるよな?」

 彼女達の通う私立音葉魔法術特化高等学校は授業料は全て免除されている。さらに親元から離れて暮らす生徒に関しては補助金が出され、住む場所も提供される。もちろんそれら全てが学校側から支給される訳ではない。

「あそこの七割はエレメント社が出資しているんだけど、授業料その他を負担しているのが全てエレメント社だ。もちろん慈善事業で融資してる訳じゃないぞ? 卒業後、こっちの道で役立つ人材を育成するための先行投資ってのがエレメント社の考えだ。魔法術士なんかは引く手数多だしな」

 重要施設の警備や、護衛。セカンド・ファクトリーのような工科系に就職する事も考えられるだろう。

 とにかく言える事は、生徒一人が卒業するまでの負担をエレメント社が代替わりしているのである。

「それなのに勝手に止められるとなぁ。しかもそれが本人の希望って事じゃないのって問題じゃないか? つまりあれだ。サトウミコをやめさせるって事はその分エレメント社に借りを作るって事だな」

「うぐっ!」

 今のこの状況下で、無用にエレメント社に借りを作るのは得策ではない。ただでさえ以前の件でこちらは敵視されているのだから。

 考え込む要斗をしり目に、ユクレステは思考していた。生徒一人ではあるが、あの学校にいる以上身柄はエレメント社に属しているようなものである。そんな彼女を無理やりやめさせるというのは、あまり現実的ではない。もちろん、出来ない訳ではないだろうが、労力を考えてもマイナスの面が大きいだろう。

 この場を穏便に解決するのならば、好機はここしかない。

「そこで提案なんだが」

「な、なによ?」

 若干腰が引けている要斗。気にせずユクレステは告げた。

「俺がおまえ達に手を貸す、って言うのはどうだろう?」

「……は?」

「ちょっ、センセ、なに言ってんの?」

 驚く少女二人を前に、ユクレステは内心でほくそ笑んでいた。

「いや、言葉通り。手伝いって感じで、荒事くらいなら喜んで引き受けるよ。ちょうどそう言うのが好きな奴もいる事だし」

「……なに企んでるのよ?」

「そんな難しい事は考えてないぞ? 若干一名、ガス抜きさせてやらないといつ爆発するか分からないからさ。平和なこの世界だとどうしてもそこの所が心配で心配で」

 美子は疑問に首を傾げているが、ディーラと対面した事のある要斗には理解出来たのか小さく呻いた。

「そ、そんな事あたしの一存じゃ決められないし……ちょ、ちょっと待ってなさい!」

 携帯電話を取り出しどこかにかける要斗。それを眺め、よし、と頷いた。

 当然のことながら、ユクレステが言った事は全て本当では無い。ディーラのガス抜き云々は半分くらい本気だが、本命は少し違った。

 彼の目的は、夜月の御子である夜月在斗に接触する事だ。朝陽すら出し抜いた彼女がどんな人物なのか見て見たかったのだ。そして、彼女の知識の中に聖霊が存在するのか否か。それを知るために、ユクレステはそう言ったのである。

 それに、

「センセ、なんで……」

「いやまあ、一応今は生徒だし、叶の友達なんだろ? このまま黙って見ているのはあんまり気持ちの良いもんじゃないからさ」

 とまあ、そんな理由。彼女がどうかは知らないが、叶は美子を友人と見ていた。ならば、彼女の友人であるユクレステも出来る限り力になりたかったというのも事実だ。

「ま、気にすんな。これは俺のままだからさ」

「我が儘で危ない目にあってどうするの!?」

 少し怒ったような顔の美子に、ユクレステは苦笑して答えた。

「我が儘、だからだよ。我を通すって事はそれだけ責任や力が必要って事だから。俺はそれを示しただけだ」

「……っ」

 当然のように言ってのけた答えに、美子は気圧される。自由奔放に、我が儘放題に過ごして来た彼女には、少し眩しかった。


 やがて電話を終えたのか要斗が戻って来ると、ムスッとした顔のまま告げる。

「ふん。喜びなさい、姉様達からの許可が出たわよ」

「へえ、随分あっさりだな。もう少し揉めると思ったんだけど」

「あのバカが笑ってゴーサイン出したのよ! 権兵衛めぇ……!」

「権兵衛?」

 ギリギリと奥歯を噛み締める彼女の喉から怨嗟の声が発せられた。首を傾げるユクレステを見て、ハッと我に返る。

「……なんでもないわよ。とにかく、そう言う事だから。今日の所は見逃してあげる。なんかあったらこっちから連絡するから」

「了解。無茶な頼みを聞いてくれてありがとう。御子様にもそう伝えておいてくれ」

「ふん、っだ! ああそうだ、その女の事は全部あんたに任せる事になったから。連れてくなり首輪付けておくなり勝手にしなさい」

 不機嫌そうに顔を逸らし、大股で部屋を出て行った。その後ろを黒子達が慌ててついて行き、ボロボロの室内に二人だけが残される。

「やれやれ……なんとか繋がったか。それにサトウも無事みたいだし、俺にしては十分な成果だ」

 勝ち取ったと言うよりはこちらの願いを通してもらったような感じだが、認めて貰った以上はユクレステの勝利だ。若干腑に落ちないが、今はそれで良しとしておこう。

 そして、残る問題は。

「え、と……センセ?」

 顔を真っ赤にした状態の美子。

 さてどうしたものかと思考し、

「とりあえず……家に来るか?」

 結局、残された選択肢を選ぶのだった。

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