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聖霊使いへの道  作者: 雪月葉
秘匿大陸編
117/132

先生は魔法使い

 私立音葉魔法術特化高等学校に新しい先生がやって来ました。

 普通にどこからか推薦され、普通に近くのアパートに引っ越して、普通にやって来たその先生は、実は普通じゃない所がありました。

 それは……。

「あの、質問なんですけど……なんで先生は杖なんて持ってるんですか?」

「ん? それはほら、俺って兼業で魔法使いやってるから」

 先生はなんと、魔法使いだったのです。


「……いや、なんで?」

 一人叶はポツリと呟くのだった。


 *


 突然の担任発言にクラスは大混乱であった。とは言え今は朝のホームルーム中。それもすぐに収まり、ユクレステへの質問に移る。

「あの、担任ってどういう事ですか? 羽生先生はどうなさったんです?」

「あー、ハギュウ先生は現在病気療養中だそうです」

 このクラスの元臨時担任の羽生真次郎。彼が先日の遠足の時に騒ぎを起こした中心人物であるという事は限られた者にしか知らされていない。一般生徒である彼等は、ただ一身上の都合で、としか聞いていないのだ。

「そうですか」

 どこか納得のいかない顔をしている女生徒が、不承不承といった様子で頷く。

「えっと、君は……イトウハルカ、か。確かクラス委員長だったっけか? これからよろしく頼む。なにぶん、担任って言うのは初めてだから色々と手を貸してくれると助かる」

「は、はい。学級委員長として、担任の手伝いをするのは当然ですから」

 ニコリと学級委員長である伊藤遥へと微笑みを向ける。それが見事に直撃し、遥は思わず赤面してしまった。

 その様子に周りからはオオ、と歓声がこぼれていた。鉄の女と呼び声高い学級委員長の遥の意外な表情に、男子学生達は囃し立てている。

 子供っぽい、とそれを眺める叶の目には、顔を真っ赤にして怒鳴り散らす遥の姿があった。

(なにやってんだか……って、本当になにやってるんですかユクレステさん!)

 もう会う事は無いだろうと考えていた矢先の再開に、思わず頭を抱えてしまう。それに気付くはずもなく、ユクレステは苦笑しながら騒いでいる男子を注意している。

「はいはい、君たち。女性をからかうのは感心しないぞ?」

 そう言ったのも、女性とはからかえば数倍の暴力で返すものである、と体に刻み込まれているからだ。流石は学生時代にセイレーシアン含む女子生徒から某王子様共々ズタボロにされた経験のある人は違う。謎の説得力が垣間見えた。

 それを知らない遥は、庇われたのだと勘違いをして余計に顔を赤くしてしまった。

 元々彼は貧乏とは言え貴族であり、礼儀作法などは厳しく躾けられて来た。そんなユクレステは女子生徒達から見れば紳士的に見えなくもない。教師と言う付加価値がプラスされて余計に高評価になってしまっているのだろう。

「取りあえず、他に質問とかあるか? まだもう少し時間あるし、答えられるものなら答えておくけど」

 その問いに、クラス中の視線が叶に向いた。

「はい!」

「えーっと、千佳野加代さん? どうぞ」

 勢い良く手を上げる女子生徒。その質問はと言うと……。

「天星叶さんとはお付き合いをしているのでしょうか――むぐ!?」

「ちょっと待とう。色々とちょっと待てコノヤロウ」

 突然なにを言っているんだこのアマは、とばかりに加代の口を塞ぐ事に成功する。叶は愛想笑いを浮かべながらズルズルと教室の端へと引きずって行った。

 首を傾げるユクレステをよそに叶の小さくもドスの効いた言葉が加代へと向けられる。

「いきなりなに言ってんですかあんたは!」

「あら、だって気になるんですもの」

「こんの、恋愛テロリスト……!」

 イラッとしながら彼女の腕を万力のような力で締め上げる。これには流石に堪えたのか、ギブギブと手を叩いていた。

「なんか良く分かんないけど、あんまりやり過ぎるなよ。っと、そうだ。俺は基本的に魔法術の戦闘訓練を見る事になってるから、そこらの事で相談がある人は三階にある教官室に来るように。他に質問はないな?」

『ないでーす!』

 子供か、と内心思いながらも頷き、チャイムが鳴るのを聞いて教室から出て行った。

 それを見送りながら、一斉に教室中から叫び声が上がった。

「今の先生かっこ良かったね! 見た目若いし、美形だし!」

「うんうん! 外国人なのかな? でもちょっと日本人っぽくもあったし、ハーフとか?」

「王子様みたーい!」

 声の主は大体が女子生徒達だが、男子生徒達も集まって新任教師について話している。

「戦技教官って事はやっぱり強いのか? ってか、戦技教官って今までいたっけ?」

「前までは一応しんじろー先生が兼任してたはずだけど。まあ、あの先生めんどくさがって全然相手してくれなかったよな」

「ククク、って事は俺も本気でやれるって事か……腕が鳴るぜ!」

「ああ、オレのこの右手に封じられし悪魔の力がようやく解放出来ると言うモノ……」

 盛り上がるベクトルは違うが、男女共にテンションがウナギ登りだ。一歩引いた位置にいた叶は、うわぁ、とさらに後ずさった。

 可笑しな熱気が渦を巻き、近寄る事すら躊躇われる。

 いつの間にか加代も女性陣に加わってキャイキャイと騒いでおり、一人叶だけが取り残される形となっていた。

「おっはよー、ってうわっ、なに? どしたの皆?」

 その時後ろのドアがガラリと開き、1‐C最後の一人が現れた。

 染めた金髪を肩口辺りで纏め、分厚いコートに顔を埋めている。マスクを着用し、顔は真っ赤に染まっていた。

 叶は遅刻してきた少女に近付き、声をかけた。

「ミコっち、遅刻ですよ。……と言うか、大丈夫ですか? 顔凄い赤いですけど」

「あーうん。ちょっと熱出しちゃって……この一週間ずっと寝込んでた。で、なにがあったの? 皆私に気付いてすらいないんだけど。ちょっち寂しい」

「いや、新しい先生が来たってだけなんですけどね」

「なーる」

 見るからに具合の悪そうな状態の美子を心配しつつ、先ほどの出来事を一言で説明する。それだけを聞いて納得したのか、もういいやとばかりに机へと倒れ込んだ。

「あ、ダメだ……地面が回ってる……」

「こんな状態で学校に来るから……。休めば良かったじゃないですか」

「や、流石に一週間以上休むと授業に追い付けなくなるし……」

「意外に真面目ですよね、ミコっちって。髪染めてるのに」

「染めてるのなんて関係ないじゃーん。カナエっちだってそんな頭してるくせにー」

「あたしのは地毛ですけど」

「あれ? そうなの? まーどーでもいーじゃーん」

 クラクラと頭を揺らしながらブツブツ言っている姿を見ると心配になってくる。

「……ってか、今あんまり家にいたくないしー」

「えっ?」

「あ、なんでもないよー?」

 苦笑し、なんでもないとパタパタ手を振っている。少しだけ違和感を覚えた叶だが、それよりも本格的にヤバそうな美子の方が先決だ。保健室へ行く事を促し、一人だと心配そうなので付いて行く事にした。

 あわよくば一限目をサボれないかな、なんて淡い期待を持ちながら。

 叶の方が不真面目代表のような気がしてきた。



 結局保健室から追い返され、ちゃんと授業を受けた叶は現在、四時限目の授業の準備を行っていた。

 制服の上着を脱ぎ捨て、近くのロッカーに乱雑に押し込む。スカートのホックを外し、青色のジャージを引っ張り出した。更衣室は暖房完備のため寒くは無いが、素肌を晒す事には少々抵抗がある。例えそれが同じ女性同士であろうと、なんとなく気恥ずかしいのだ。

 さっさと学校指定のジャージ姿に着替えた叶は、ポーチを腰に付けて更衣室から出た。中にはMMCが入っている。

 次の授業は魔法術を使用した戦闘訓練。すなわち、ユクレステが教える教科である。

 クラスの生徒達は本当に教えられるのか不安に思っていたようだが、その点に関しては叶は心配していなかった。

 なにせ、叶は既に彼が戦う姿を見ているのだから。

「と言うかどんな授業をするんだろ? いつもは簡単な魔法術の使い方くらいしかやらなかったし。まさかいきなり実戦しまーす、とかにはならない、よね?」



「とりあえずまずは全員俺と戦ってみようか。その方が現状が良く分かるし」

『…………』

 ポカーン、と全員の口が塞がらずにいる。まさか本当に叶の予想が当たってしまうとは思いもしなかった。

「え、えぇと。それは、その、ユクレステ……先生を相手に私達が順番に戦うって事でしょうか?」

 唖然とするクラスメイト達に代わって叶がおずおずと手を上げる。

「ん? いや、違うぞ」

 良かった、違ったようだ。流石にユクレステと言えど、唐突な戦闘は行わないようだ。

「正確には、俺対おまえ達全員だ。多分、それでもちょうど良いだろうし」

『…………』

 さらに呆然。

 残念、違わなかったようである。

 だが、まさか一クラス全員とだなんて予想の斜め上である。流石の叶も頭に手を当てた。

『ふ、ふざけんなー!』

 そしてようやく再起動を果たした友人達は顔を真っ赤にして叫んだ。

 それもそのはず、一クラスを相手にたった一人で十分だと言ったのだ。音葉高校に通っている以上、少なからずエリート意識を持っている少年少女達は怒りの形相で睨みつける。

「ど、どういう事ですか先生! 私達をバカにしているんですか!?」

「えっ? い、いや、別にそんな気はこれっぽっちもないんだけど?」

「じゃあなんで全員でなんて――!」

「あ……? ああ、そういう事。取りあえず落ち着け、イトウ。ちゃんと説明するから」

 怒りに声を荒げる遥を宥め、コホンと咳払いをした。

「えっと、戦闘って言っても斬った張ったをやろうって言ってるんじゃないんだ。おまえ達のMMCの扱いと発動速度を確認するための、言わば確認作業ってやつだな」

「確認作業、ですか……」

 ムスッとした男子生徒に苦笑して頷き、ユクレステは話を続ける。

「そゆこと。やる事は簡単で、一番手軽な魔法術……今回は魔法弾を俺に向けて撃つだけ。で、俺はそれを撃ち落とす。時間は三分。一発でも当てればおまえ達の勝ち。な? 簡単だろう?」

 聞いていた叶はなるほど、と納得した。彼にはバカみたいな並列起動の魔法術がある。それを扱えば、学生レベルの魔法術に対応する事は可能だろう。だが直接ユクレステの戦いを見ていない他の生徒達はまだ納得していなかった。

「でも結局俺達の魔法術を防ぐって事だろ? それはちょっと舐めてるんじゃねえのか?」

「だよな? いくら魔法弾って言ったって一度に二十もやられれば防げるはずないじゃんか。障壁でも使うのか?」

「でもそれだと撃ち落とすって事にはならないんじゃない?」

 ブツブツと話している彼等から一歩離れ、叶はユクレステを盗み見る。なにやら納得顔で頷いており、小さな声を拾う事に成功した。

「そっか、さっきの授業もみんな勘違いしてたんだな。なんであんな親の仇を見る様な眼で見られてるのか不思議だったんだよ。いやぁ、納得納得」

 どうやら犠牲者はこのクラスが最初と言う訳では無いようである。

 ハァ、と小さくため息を吐く叶であった。


 結局クラスの話し合いの結果、逆上のぼせ上がった新任教師の鼻をあかそうという事になった。叶にそういった話が来ないのは、戦力に数えられていないからなのだろう。それは別に良いのだ。どうせ自分は落ちこぼれだし、そうでなくてもあの数の暴力に敵うとは思ってもいない。

 叶はやる気になっている生徒達を冷めた目で眺めながら、開始の合図を待っていた。

「それじゃあ始めるぞー。その線から前には出ないように、危ないからな」

 白線から二十メートル程離れた位置で手を上げているユクレステ。MMCは構えておらず、左手首の腕環に右手を添えている。

「あれ? ユクレステさん、MMC変えたのかな?」

 ふと疑問に首を傾げる叶。周りの皆は既にMMCを操作しており、彼女も慌てて画面に触れた。

 発動するのは最も簡単な魔法弾の魔法術。エネルギーとしての魔力を無造作に球体集め、撃ち出すものだ。

 速い人など既に完成しており、今か今かと目をギラつかせている。一方で叶は未だに展開まで行かずにいた。

(んっとに、遅いなぁ……。って言うか、前より遅くなってない?)

 ようやく出来た魔法術を現状に維持する。叶が完成したのを見ていたのか、そこでユクレステは頷いた。

「それじゃあ始めるぞ? 十秒後にタイマーがなるから、それが開始の合図だ。いいな? いくぞー」

 側に置いていたタイマーを操作し、ゆったりとした動作で所定の位置に着く。まったく気負った様子の無いユクレステの姿に、一部の者はさらに苛立ちを募らせていた。だが叶には関係の無い事だ。なにしろ、今は魔法術を維持するだけで精いっぱいなのだから。

(あ、あれ? ホントなんでこんなに下手になってるんだろう? まだ一学期の方が調子良かった気がするんだけど……)

 思考する叶をよそに、無情にも電子音が響き渡った。



「行くぞ――!」

 誰が発したのか。男子学生のうちの誰かだろう。

 気合の入った声だが、魔法術においては気合いの有無で威力が変わる訳では無いので意味は無い。設定された威力通りに放たれる無色の魔法弾。それが都合二十三、たった一人の人間に向けて放たれた。

「ふむ、まずはこんなもんか。MMC……ウルズの腕輪、起動」

 魔法術の向かう先の人物は、然して焦る事なくそれを見守っている。スッと指先を魔法弾の群れに向け、思考と同時に発動させた。

 瞬間――

「んなっ!?」

 二十三の魔法弾が全て撃ち落とされていた。

 やった事と言えば簡単だ。彼等と同じように魔法弾を展開し、並列思考による同時発射で相殺したのだ。だがなにをされたのか分からない生徒達は驚愕に目を見開き、思考を停止してしまった。

 そこへさらに魔法弾が撃ち込まれる。

「四転、そのまま継続射出」

「きゃあ!?」

 白線の上に着弾し、石灰が土と共に舞い上がる。そこでようやく我に返った生徒達は急ぎ次の魔法弾を展開、発動する。

「こ、このぉ!」

「たかが一人なんだ! 数で押せぇ!」

 怒声と共にさらなる魔法術を放つ生徒達だが、展開速度が違うために同時とはいかないようだ。

 冷静にそれを見定めながら的確に撃ち落としていく。一つの無駄も無く、最小の魔法弾で制圧している。

「く、くそ! こうなりゃあ――踊る炎(ダンシング・フレイム)

「お、おい!」

 どれだけやっても覆らない状況に苛立ったのか、一人の学生が別の魔法術を使用してしまった。

 空中に現れた小さな種火が踊るように燃えあがり、ユクレステへと殺到する。

「一転、水盤アクレイン・ホール

 だが少しも気にせずMMCに指示を出し、水の障壁を作り出して炎を呆気なく消滅させた。

「三転、二十三の魔法弾、再装填、と。こら! 勝手に別の魔法術を使うな、カトウ! 減点だからな!」

「うげっ、バレた!?」

 怒鳴りながらも少しも揺れない魔法術。始まって僅か一分で、叶達は自分の負けを悟ったのだった。



 ちょうど三分が経ち、結局ただの一撃も当てる事が出来ずに初めての訓練は終わりを告げた。それに比べ、ユクレステは隙あらば的確に白線の位置を撃ち抜き、今では見事な穴が出来ている。もしこれを直接生徒達に向けられていたらと思うとゾッとする。

「ま、最初はこんなもんだな。前のクラスも似たようなもんだったし」

 総評はそんな感じで終わった。その後は魔法術の的確な使用についての説明をしてユクレステの授業は終了となった。

「まさかこの私があんな子供扱いされるなんて……」

「いやまあ、あの人は色々と規格外だと思っておいた方がいいと思いますよ?」

 ズーンと沈みこんだ加代に慰めの言葉を投げかける。彼女は一年生の中でも上位の実力者だったため、一方的にやられた事が許せなかったのだろう。

「それに動揺して普段よりも展開速度が遅れてしまいましたわ……結局五十回しか発動出来ませんでしたし」

「ははは……」

 それを言ったら叶など三分の間に五発しか撃てなかったわけなのだから、加代の十分の一だ。

 流石にもう少し練習した方が良いなとMMCを起動させる。ちょうどMMCの魔力バッテリーも空になってしまったため、新しいものと交換しなければとポケットに手を突っ込んだ。

 その時、知らずの内に魔法術の起動画面に触れてしまっていた。

「へっ?」

 ブルブルと突然MMCが震えだし、頭上に炎が現れる。

「あ――」

 マズイ――!

 そう思っても体は咄嗟には動かない。硬直した叶へと炎が降り注いだ。思わず目を瞑る――

「カナエ!」

 グイ、と力強く腕を引かれ、次の瞬間、炎が眼前で止まる。そこには炎を受け止めるように手の平を頭上へと向けたユクレステがいた。

「あっつ――っの!」

 払うようにして炎を地面に放り捨て、持ち突風で散らす。

「ユ、ユクレステさん?」

 腕の中に抱き止められていた叶は自分の体勢と助けられた事に混乱し、ペタリと座り込んでしまった。ユクレステは彼女の手からこぼれ落ちたMMCを拾い上げ、電源を落とす。それからジト、と半目で睨みつけた。

「あのなぁ、バッテリーに魔力が残っていなくても余剰魔力で術が発動する事だってあるんだから、ちゃんと電源落とすか待機状態にしてから他の事をしなさい。下手したら火傷じゃ済まないんだぞ?」

「あ……ご、ごめんなさい!」

 確かにそうだった。MMCの取り扱いは慎重に行わなければならないなんて、一学期の最初の授業で習うような事では無いか。半年以上使って慣れていた事もあり、疎かになってしまったようだ。

「気軽に使っていようと、そいつは間違いなく怪我をさせる事の出来る武器だ。それを忘れないように」

「は、はい……」

 もっともな説教にしゅん、とうな垂れる。

「ほら、立てるか?」

「大丈夫、です」

 差し出されたユクレステの手を取り、ギュッと力を入れる。その時、僅かに眉をしかめた。どうかしたのか、と考え、手に触れる感覚が少し変な事に気付く。異様に熱を持っているのだ。

「って、火傷してるじゃないですか!?」

「ん? あー、通りで痛い訳だ。杖無かったし、さらに詠唱破棄じゃあ装甲魔法も全然展開出来てなかったか」

「きゅ、救急車ー!?」

「いや、そこまで酷くないから。水で冷やせばすぐ治るよ」

「水ですね! じゃあ海行きましょう!」

「ここからどれだけ離れてると思っていますの!?」

 焦った様子の叶とは正反対ののんびりとした言葉は、彼女には届いていないようである。テンパる叶にツッコミを入れ、加代はユクレステの手を取った。

「……これくらいなら大丈夫ですわ。保健室に行って処置してもらって下さい」

「別に放っておいても平気だと思うんだけど?」

「ダメですわ、先生。例え小さな傷だろうと油断は禁物ですもの」

「炎とかは割と慣れてるんだけどなぁ。あと水とか木とか」

 主に仲間達のせいで。

「木ってなんですの……とにかく、天星さん? 先生を保健室に案内して差し上げなさいな」

「うっ……分かりました、私のせいですからね」

 目に見えてしょんぼりとしている叶。少し落ち着いたようだ。

「それじゃあ……先生、こっちです」

「あ、うん。道案内頼んだ、カナエ」

 それじゃあ、と生徒達に言い残し、ユクレステ達をその場を後にした。残っているのは加代を含めて女子が数名。彼等が見えなくなるまで手を振り、校舎に消えたと同時に――

「み、見ましたか皆さん! だ、だき、抱き合っていましたわよ!?」

「危ないところを見落とさず、しかも自分が怪我するのも厭わずに……凄い! マンガ見たい!?」

「見て見て! 思わず写真に撮っちゃったよー! 明日の記事のトップはこれね!?」

「あ、そう言えばあんた新聞部だったっけ?」

 キャイキャイとガールズトークを始めるのだった。

 翌日、叶は校内に張り出された新聞に頭を悩ませる事になるのだが、それはまた別の話である。

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