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聖霊使いへの道  作者: 雪月葉
秘匿大陸編
110/132

遠足には弁当と襲撃がつきものである

 本日の朝礼はかなり気合の入ったものとなっていた。

 ユクレステも制服に着替え、工場長と思われる男性が話しているのを聞きながら欠伸を一つ。既に船を漕いでいるユゥミィが隣にいるため、欠伸程度ではあまり目立ってはいないようだ。

 さて、今日はついに魔法学校の遠足の日である。身元がハッキリとしているとはいえ、異物である少年少女達を工場内に入れるのはやはり緊張するのだろう。それが魔法術士の卵であるのも、余計な要因の一つとなっているのかもしれない。

 しかしユクレステ達にとって見れば魔法使いなど見慣れたもので、さほど緊張するようなものではない。もちろん警備の観点からは警戒するが、相手はあくまで魔法使い見習いだ。彼らがなにかを起こすとは思わない。

「ほいじゃあガンバレよおめぇら。ワシはこれからゲームを……」

「させませんよ? クキ、今日はサボれないようにワタシがきちんと見張りますから。サボったら、蹴りますから」

「ぐっ……シェル、おめぇもおったんかい」

「もちろんです。これでも学園の理事長ですから。それではユクレさん、お仕事頑張ってくださいね」

 いそいそと逃げ出そうとしたクキはあっさりとシェルーリアに掴まり、引きずられて行った。

「えー、はい。シェルさんもお気をつけて」

 ニコリと微笑んで去って行く彼女達を見届け、ユクレステは仲間へと向き直った。

「それじゃあ今日も昨日と同じ組み合わせで。マリン、なにかあったら知らせてくれよ?」

『まっかせてー』

「……」

「……」

 元気なマリンとは反対に、ディーラとユゥミィが疲れきったような顔色で移動を開始する。ミュウはそれを心配そうに眺めていた。

「お二人とも、大丈夫でしょうか……」

「んー、大丈夫だろ? 一緒に勉強してたミュウが平気なんだから」

 なぜ彼女達があんなにも疲弊しているのかと言うと、昨日にユクレステ主催の日本語習得講座が開かれたからだ。途中シェルーリアも加わり、三時間の授業が展開された。その程度で、と言ってはならない。ユクレステもシェルーリアも、スパルタなのだ。

「そう、ですね」

 それについて来たミュウはかなりの猛者であると言えよう。

 そんな話をしながら担当場所に辿り着いたユクレステ。現在の時刻は八時過ぎ。今頃は魔法学校に生徒が集まり始めていることだろう。



 魔法学校から魔力生成工場まではバスで一時間程度の道のりだ。班ごとに分かれて席につき、思い思いの時間を過ごしている。

 その一角で、普段から眠たそうな顔をしている叶は余計にダレた表情で外の景色を眺めていた。

「……変わらないなぁ」

 右を見ても左を見ても、見えるのは鈍色の煙突に工場ばかり。市の一帯が魔力生成のための工場であるので、この変わらない景色も仕方ないことなのだろう。それでも、申し訳程度の緑を見ると逆に居た堪れない気持ちになる。

 この景色に似たような場所は今や日本中どこにでもある。それだけの事をしなければ、この世界は存続出来ないのだ。

「んふふ、憂い顔の美少女ってのも絵になるものねー。どうかした? かなえっち」

 ボーっとしている所に前の座席から美子が顔を覗かせてくる。班こそ違うようだが、バスの席は近かったようだ。差し出して来るチョコ菓子を受け取りながら、顔を動かした。

「なんでもないですよ。ちょっと寝不足なだけです」

 ふあ、とだらしなく大口を開ける。それに反応したのは隣の席に座る加代だ。なにやら興奮した様子で詰め寄って来る。

「分かります! 分かりますわ!? 愛しい殿方を想い、眠れぬ夜を過ごしたのですわね!? 夜はこわいけれど、あなたを想えば素敵な一時に早変わりと言うやつかしら!?」

「いや、違うから。借りたビデオが今日までだったから昨日のうちに見ておかなきゃならなかったんですよ。宇宙からの侵略者、全三部作。帰ったら返しに行かないと」

「あ、それ私も見た事ある。あのB級具合が面白いよねー」

「そしてついに二人は夜の闇に(うんたらかんたら)――」

 約一名が暴走する中、彼女達の乗るバスは音葉の工場へと入って行った。


 簡単な身体チェックを終えた生徒たちは工場内へと案内され、案内係と思しき女性の前へと集まった。ぶかぶかの白衣を着ており、見ようによっては自分達と同年代にも見えてしまう女性は人懐っこい笑みを見せている。

「みなさんこんにちはー! 私、玉飼世美子と申しまして、本日皆さんのご案内を担当させて頂く事になりました! 実を言いますと私、子供のころは学校の先生になるのが夢でして、本日御案内役を指名された時は嬉しくてですね――え? あ、はい。先に進めろ? 分っかりましたよー。……お母さん、草葉の陰から見守っていてね……」

 とろそうな見た目に反してマシンガンのような言葉の連続に、生徒一同唖然としている。

 職員の一人が世美子に軌道修正を促し、臨時担任である羽生真次郎にペコペコと頭を下げていた。

「あ、あなたが先生様ですね! どうもよろしくお願いします!」

「え、ええ……」

 ガッシリと手を取った世美子の行動に目を白黒させながら、コホンと咳払いをして生徒たちへと向き直る。

「あー、そんな訳でこれから見学になる。各自ちゃんと見とくよーに。今日の事をレポートにして出してもらうからなー」

 気だるげな猫背のまま、真次郎は生徒たちを引率して行った。それに続く様に叶達の班も移動を開始する。

「えっと、すみません」

「はい? どうしましたー、学生さん?」

 叶は部屋を出る際に扉付近にいた世美子へと声をかけ、持っていた袋を取り出した。その中には恐らく日常ではまず着用しないであろう、魔法使いのローブが収まっている。バスを降りてから盗み見るように人を探していたのだが、敷地が広大なだけあって人を一人見つけるのも難しい。結局目当ての人物は見つからず、直接渡すのは諦めて職員の人に渡してもらおうと考えたのだ。

「お待ちなさい! いいんですの? 愛する人に会わなくて! いっそサボって探しに行けばいいと思いますわ!」

「ダメに決まってるでしょうに。……あの、こちらにユクレステさんっていう人がいると思うんですけど……」

「あーはいはい、いますよー。ユクレステ・フォム・ダーゲシュテンさんですよね? あの人達の持つMMCには多少気になる所もあって良く覚えてますねー。あ、もしかして彼女さんとかですか?」

 なにを言っているのだろうかこの人は。いや、正確にはこの人達は、か。恋に恋する加代は分かっていた事だが、この女性も中々おかしな思考をしているようだ。即座にウキウキとした彼女へと否定の声をかける、

「はっ? いえ違いま」

「その通りなのですわ!!」

「いや、待っ」

「まあまあ! いいですねー、学生さんは青春真っただ中ですからね! あ、でもごめんなさい、今彼はお仕事中なので……。あ、でもお昼は皆さん中庭で取られるはずですから、多分会えると思いますよー」

「だから別にそういうのじゃ」

「そうなのですか!? 良かったですわね、天星さん! 出来ればその方にもお伝えして頂けますかしら?」

「ええはい! そう言う事なら任せておいて下さいな! これでも私、恋の乱獲キューピッドと呼ばれていますからね!」

 だから待てと。

 叶の反論は絶妙な調子で遮られ、彼女達は本人を置いてけぼりにヒートアップしていく。助けを求めてよその班へと視線を向けるも、そこにはニヤリと笑う美子の姿があるだけである。あまり関わりになりたくない類の笑みだ。

 一応、昼休みに接触できるという情報は聞き出せたが。どうにも不安が残ってしまう。


「そう言えばご主人さま、カナエさんとはいつ会うんですか?」

「ん、あー、そう言えばその事伝えてなかったな……。まあ、昼食をここらで食べるそうだから、その時にでも会いに行こうかな」

 一方で、こちらは警備中のユクレステ。周囲に気を配りながらミュウと雑談を交わしているのだった。



 魔法高校恒例行事である魔力生成工場の見学とは言え、学生達がその全てを目にできる訳ではない。『外側』にある魔力加工部までは見られたとしても、中心部にある生成部へは原則許可されないのだ。謎の多いエレメント社の中でもトップシークレットのその現場は、これまでに一度も外部の者の目に触れた事はなかった。

 しかし、今年になってその原則が書き換えられた。今回、魔法学校の生徒たちは午前中に加工部での見学と、簡易的な魔力加工を体験し、午後には工場の中心に位置する生成部へと案内される手筈となっている。多方面からの要望と、エレメント社社長である月見里朝陽の判断によって今年から解放されたのだ。

 もちろん、全てを見せる訳ではないが、それでも初めての試みのため学生だけでなく教員達ですら興奮を隠せていなかった。

「くぁ……ねみぃ……」

「先生……」

 羽生真次郎と言う教師以外は。

 普段通りに眠たそうな表情で大欠伸を披露し、生徒達から呆れの視線を浴びせられている。それでも気にせず、真次郎は自分が受け持つ生徒達に指示を出した。

「あー、今から一時間、昼休みだ。飯食うなり遊ぶなり勝手にしろ。一応言っておくが、この中庭部分からは出ないように。邪魔になるからな」

 時刻は十二時半。昼食の時間だ。昼前の見学で火照った頭を冷ます様に、生徒達はレジャーシートを敷いてお弁当を取り出している。それを見ながら、真次郎は手近な生徒に声をかけた。

「おーい、天星。ちょっと他のクラスを見に行ってくるからあと任せた」

「いや、私に任せないで下さいよ。と言う訳で千佳野さん、よろしく」

 投げられたパスをそのまま後ろにスルーして、叶は荷物から弁当箱を取り出す。

 不満がないのを疑問に思いながら振り向くと、そこには分かっていますわよと言わんばかりの表情で加代が頷いていた。

「……ええ、こちらは私に任せて行ってらっしゃいな。あなたの――愛する方の待つ場所に」

「チッ、まだその設定生きてたのか。……あー、千佳野さん? 団体行動を乱すのはいけないと思うので、はい。それにユクレステさんがどこにいるかも分からない訳だし……」

「あっ、いました! ユクレステさんは現在Aブロックにいますから行ってみてはどうでしょう?」

「こっちもいたんだった……」

 叶としてはこのまま世美子に荷物を届けて貰えばそれで良いのだが、キラキラ光る二対の瞳がグイグイと背中を押して来る。せめて弁当くらい食べさせてくれと頼むが、噂の彼と一緒に食べて来いと追い出されてしまった。


「ああもう、この誤解は一体いつになったら解けるんだか……ユクレステさんのローブを返すだけだってのに」

 お弁当を片手に、もう一方にローブの入った紙袋を持って世美子の言っていた道を歩いて行く。矢印の先にAと書かれた案内板を見上げる。

「大体、ユクレステさんだって仕事が見つかった訳だし、私と会う機会だってなくなるだろうにねぇ」

 そう考えると、少々寂しい気はするが。

「……寂しい?」

 そこまで思考し、はて、と疑問の表情を浮かべた。

「……たった一日くらいしか会ってないのになに思ってるのかね、私は」

 一晩の寝床を提供したとは言え、丸一日と一緒にいなかった相手に対して思う感情ではないな、と首を振った。

 まあ確かに、異性として話し易い人物であったのは確かだ。柔らかな雰囲気と、紳士的な態度は今まで出会った人にはないものだが、そこまで入れ込むのは叶の性格からして考えられない事だった。

 クールと言うよりは物事に対して執着がないのか、特段なにかに入れ込むような事が無かった彼女には未知の感情である。

「……ま、いっか。とりあえず今日でユクレステさんとも最後だろうし、とっとと渡して戻ろう」

 一度首を横に振り、叶はダウナーな雰囲気を振りまきながら歩を進めた。

 ほんの僅かに感じる胸の痛みに気付くことなく。



 学生達が楽しげに昼食を取っている頃、魔力生成工場の外側にとある一団が集結していた。それはなにかを警戒するように動き回り、小さな声で会話をしている。

「――――」

『――――』

 通信機らしきものに指示を出し、チラリと集まった面々を盗み見る。そして、凶悪そうに笑みを浮かべ、

「――行くぞ」

 行動を開始した。



「お腹空いたなー」

 一方こちらは中庭の西側を警備中のユゥミィ達だ。ワイワイと美味しそうに昼食を取っている学生達を眺めながら、涎を垂らしながら呟いている。

 そんな相方をしり目に、ディーラはくぁ、と欠伸を一つ。

「そろそろ交代の時間だし、もうちょっと我慢しておきなよ」

 チラリと中庭に設置された大時計を眺めた。時刻は十二時半をとっくに過ぎている。

『んー、やっぱりいないみたいだね、こっちには』

「なにがだ?」

 マリンの視線は学生達へと向かっており、知り合いがいないか調べていた。もちろん、知り合いと言うのは叶のことだ。

『叶ちゃん、こっちの組にはいないんだね。残念、せっかく暇潰しが出来ると思ったのに』

 残念そうに呟き、ディーラはああ、と叶の事を思い出した。

「来てるの? 今日」

『そうみたいだよ? ほら、一昨日マスターがローブ忘れてったのをわざわざ返してくれるらしいよ。良い子だよねー』

 それはまあ、と思い出されるのは、わざわざ一晩寝床を提供してくれた事だろうか。あんな事、普通は許してくれないだろう。懐が広いのか、なにも考えていないのか、ディーラからは良く分からない人物だと感じていた。

「むぅ~、そんな事よりも交代の人はまだなのか? お腹空いたー!」

「ユゥミィうるさい」

 なにも考えていない筆頭に呆れのため息を見せ、頬を膨らませるユゥミィの視線を無視しながら時計へと再度目を向ける。既に本来の交代時間から十五分が経とうとしていた。

『……ねぇディーラちゃん、ちょっとおかしいと思わない?』

「そうだね。ここの人達、時間を厳守するタイプだし」

「なんの話だ?」

 首を傾げるユゥミィはいつも通りとして、ディーラはマリンの疑問に頷く。そして自然と警戒の色を強くして外側へと目を向ける。

 瞬間――

「来た」

 遠くから爆発音が響き渡った。それも一度では終わらず、二度三度と同じような爆発音が聞こえる。爆発物が使われているのだろう。

「な、なんだこの音!?」

「爆発!? どこかで事故が起きたのか?」

「い、いや待て! なんだか銃声が聞こえないか!?」

 突然の事態に学生達が色めき立った。怯えの色を濃くし、教員の言葉も聞こえていない程。教師の方も混乱しているのか、まともな指示が出せないでいる。

 そんな中で、ディーラは大きな欠伸を繰り返した。

「ようやく来たね。どうやら、暇は潰せそうだよ、マリン」

『あははー、こういう暇潰しの仕方はごめんなんだけどね?』

「うぅ……お腹空いたのにぃ」

 マリンとユゥミィも通常運転で、緊張感とはまったくの無縁だ。だが、それも当然の事だろう。

 この世界の人達にとって、襲撃などあまり出くわすようなものではない。特に学生であるならば余計にだ。しかし、彼女達の住んでいた世界には魔物と言う存在が同じ大地に住んでいる。城壁のない小さな町や、強力な魔物が住む地域の近くにある街などでは常に危険と隣り合わせ。突然の襲撃というのも良くある話である。

 特に彼女達は魔物であり、住処への危険度は人間とは比べ物にならない。そんな彼女達は、ただの襲撃程度で今さら慌てるような事はないのだ。

『ま、これもお仕事だからさ。ちゃっちゃとやっちゃおっか』

「ん、了解」

 腰を上げ、ディーラの視線はユゥミィへと向けられる。遠くからの銃声が段々と近付いており、耳の良いユゥミィが外側の工場にある一点の壁を指差した。

「来るぞ」

「ん、ユゥミィはあっちの子達の肉壁をよろしく」

 言い方に若干の引っ掛かりを感じるが、すぐに諦める。どうせ今に始まった事ではないのだし。

「さ、て――試させて貰おうかな」

 ポケットに手を突っ込み、そこにしまっていた物を取り出して起動する。先日、世美子経由で朝陽から渡された、この世界の魔力媒体――MMC。

 教えられた通りに指を滑らせ、一つの魔法を開いた。

「これで後は魔力を込める、んだったっけかな?」

 ディーラの魔力が体中を駆け廻り右手に収まったMMCへと流れて行く。それは、この世界の人間では扱えない程に大量の魔力。

 この世界の魔法は小さな魔力で効率的に魔法を発動するものに過ぎない。それは元の魔力が決して多くないこの世界の人間が考えるのに当然な魔法だろう。だが、彼女は違う。

「……へぇ、これだけで発動できるんだ。詠唱破棄の魔法よりも簡単だね。ただ魔力を込めるだけで発動できるんだから」

 ディエ・アース、そして彼女の故郷である魔界。そこでは強大な魔力を扱うのは当然であり、効率的で連続した魔法を使う者は少ない。だからこそ、

「――――でも、これだけじゃあつまらない」

 悪魔族でも上位の実力を持つディーラにとってみれば、この世界の魔法はあまりにも物足りない。

 確かに、効率と言うのは重要だ。少ない魔力で最大の結果を、そうすれば以前に戦った戦車、ギーゴイルが展開した防護障壁のように凄まじい強度の結界を展開する事だって可能だ。

 だがそれだって、本当の暴力の前には崩れ去る。

「灼熱の焔、紅き力を燃え上げろ。ブレイズ・ランス改め――」

 ボウ、と炎が現れた。MMCを通して魔力によって発生した炎を、さらに魔力の炎で上書きする。自然の炎が魔的な炎に呑み込まれると同時に、ディーラはそれを手に取った。ニィ、とつり上がった笑みを見せ、振りかぶる。

「焦るな! 標的はすぐそこ――だ?」

 ちょうどその瞬間、先ほどユゥミィが指差した壁が破壊された。それを確認するより早く、

「い、け――スカーレット・ランス!」

 炎を飲み込んだ炎の槍を投げ放った。血のように赤い槍は破壊された壁の向こう側へと突き刺さると、瞬時にして爆ぜた。大小の槍となった炎は一斉に周囲へと破裂する。

「な、なんだぁ!?」

「あちぃいいー!」

 飛び散った炎は侵入者達へと踊りかかり、パッと燃えあがった。

 魔法による魔法術への上書き。圧倒的な魔力と、それを操る類稀な才能を有した彼女だからこその芸当と言える。

「ふむ、まあまあかな。上級魔法には及ばないけど、使い方次第ではまあまあれそう。……ま、そんな訳で」

 MMCに登録された魔法術に触れ、左手へと持ち直すと空いた右手にナイフ状の魔晶石を取り出した。炎のように赤く光る魔晶石を侵入者達へと向け、つま先でトン、と軽く地面を叩く。

「この世界でどこまで出来るのか。試させてもらおうかな」

 気負いもなく、ただ当然の事のように悪魔の少女は言ってのけた。



 その反対側で――

「わあぁああ!? なになに? 一体なにが起こったの!? なんで突然爆発が――」

 ユクレステを探していた叶の眼前が突然爆ぜた。煙を手で払いながら涙目でそちらを向き、硬直する。

「おい! 学生が一人いるぞ! どうする!?」

「チッ、なんでこんなとこにいるんだ! 今は昼飯だろう!?」

「弁当も手に持って……ハッ、まさかこの子ぼっちって奴なんじゃねーか?」

「なにぃ!?」

 壁に出来た穴からガヤガヤと十数人の男達が銃器を携えて現れた。男達は驚きに固まった叶をジロリと眺め、声を合わせて言う。

『ぼっち可哀そう……』

「だれがぼっちですか!」

 憐みの視線が癪に障ったらしく、吠える叶。実際には当たらずとも遠からずな彼女の境遇なのだが。

「ふん、ここにいたのか」

「――て、えっ!?」

 男達の中に見知った顔が現れ、思わず声を上げる。

「天星叶、ちょうど良い。今日こそは俺のモノになってもらおうか!」

「美濃先輩?」

 入学してからやたらとちょっかいをかけて来る魔法術学校の二年生、美濃孝明が男達に混じってそこにいた。

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