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転生した伯爵家の私が公爵家御令息にビンタをしたら溺愛されたんですが

作者: 犬塚あゆむ

よろしくお願いします。楽しんでもらえたら嬉しいです。

 それはたまたまだった……社交界の日、テラスで涼もうと出て行ったのが間違いだったのかもしれない。


「お願いします、お願いします。婚約を解消していただきたく……お願いです……うっ、ひっ」


 女の子が泣いている、あれは……侯爵家の御令嬢。


「お前、何様のつもりだ」


 ひどく冷たい声で言い放ったのは公爵家の御令息……。泣くほど婚約解消したいなんてよっぽどじゃないの!?

 突然だが、私は最近転生して伯爵家の一人娘になったばかりなの。まぁよくある死んじゃった!! ってやつよ。だから婚約事情とかもまだあまり分からないしこの二人がどんな人達なのかも全然分からない。ただ……御令嬢の髪を引っ張り今まさに綺麗な顔を平手打ちしようとしているのは分かる!! なんて酷い男!! 許さない。私は二人に駆け寄って侯爵令嬢と公爵令息の間に飛び込んだ、結果、私がスーパー平手打ちをくらった。こんな暴力を女性に向けるなんて!! あまりに凄くて少し吹っ飛んだ。ビックリした。前世でもこんな事された事ないわよ……ふ、ふふふ、まさに『親父にもぶたれた事ないのに』ってやつね。そんな事考えている場合じゃなーい!! 私は慌てて立ち上がって侯爵令嬢に「大丈夫でしたか??」と聞いたけれどあまりの驚きにオロオロしている。もしかすると暴力は今日だけじゃなく日常的にあったのかもしれない、それで婚約解消を……。


「あなた!! こんな可憐な女性に何するの!! 婚約解消してあげればいいじゃないですか!! それとも何ですか?? 暴力を振るう相手がいなくなっては困るのですか!?」

「お前……伯爵家の一人娘だな」

「そうですが!! 何か!?」

「逆らうのか――」

「あー、あー、あー、そうやって脅すんですね、せこい男」

「お前、いい加減にしろよ」

「いい加減にするのは!! あなたなのよっ!!」


 そう言い放ち強烈なビンタをお見舞いしてあげた。公爵令息は吹っ飛んだ。あはは、いい気味!! 私はまだよく分かっていないかもしれない、それでも貴族社会で伯爵家の者が公爵家の方に暴力を振るうなんて事あってはならない事くらいは分かっている。さて、どうしましょうかね。


「おい」

「はい」

「お前じゃない、婚約は解消してやる」


 私が吹っ飛ばした事で真っ青になっていた侯爵令嬢は「ありがとうございます」と何度も頭を下げて去って行った。まぁ婚約も解消できるみたいだし良かった良かった……ん?? 本当に良かった?? 私、殺されたりしない?? 国外へ追放されるくらいならいいけれど……また死ぬのは嫌ね。


「えっと公爵家の御令息様……??」

「ユーリ・クリーガーだ」

「クリーガー様」

「ユーリでいい」


 アレ?? 何だか普通に話している。何故!?


「ユーリ様、私は伯爵家のミリアナ・リデルと申します」

「ミリアナ……リデル……」


 ひぃぃ、処刑方法でも考えているの!?


「もっと大人しい女性だと記憶しているが」


 まぁ、記憶が戻ったからね、前世の私が混ざっているのよ。


「そうでしたか、失礼しました。ただ……謝罪はしませんよ。ユーリ様」

「ミリアナ、お前……」

「罰なら受けますわ」

「いや、いい女だな。僕に意見したあげく頬をひっぱたいて吹っ飛ばすとは……面白い」


 あ?? なにこれ『おもしれ―女』ってやつですかな?? じゃあ助かったのかもしれない。


「ミリアナのせいで今夜のダンス相手がいなくなった。ミリアナが相手をしてくれるのか??」

「えっと、あのー……」

「ミリアナに断る権利はない」


 ん、確かに!! やってしまいましたな!!


「では」


 差し出された手を取るとダンス会場へ連れていかれて普通にダンスを踊った。しかも私はダンスが好きみたいだ。リードにもついていけたし楽しい、って気持ちが湧き上がってきたのだ。それにしてもこんなに紳士に出来るのね……驚きだわ。


「ミリアナ、僕は君に恋をしたかもしれない……」


 え、ドMですか、ユーリ様!?


「驚かせてすまない、僕にあんな風に間違いを指摘してくれた事、感謝する……誰も、何も言わなかったからな」

「なんだか悲しそうですね……ユーリ様」


 ユーリ様の頬に触れてみたら結構腫れていた……うっ。


「気にするな。僕が悪かったんだ」


 こんなにすぐに改心するものなの?? まさか騙されている!!


「何故あんな酷い事をされていたんですか??」

「あの女は僕を愛してなどいなかった。ただの一度も……婚約解消は僕も考えていたけれど向こうから言われて……何だか……少し色々あってな、カッとしてしまって。最低だったな、止めてくれて感謝する」


 なんだ、そんなに嫌な人じゃないじゃない。ホッとしたわー。


「僕は初めて自分から傍にいて欲しいと思う人に出会った、それがミリアナ、君だ」


 よく見ると何、この美青年!! こんな顔に傷でも付けたら罪だわ!!


「でもユーリ様と釣り合わないのでは?? こんな暴力女」

「ふふっ、確かにもう殴られたくはない」


 わ、笑えるんだこの人。本当に綺麗な顔。笑顔も素敵だわ。


「そうでしょう??」

「殴られないようにするんだ。ミリアナをどろどろに愛するよ」


 何その甘い、甘すぎる言葉ーーー!! ドキドキするっ。前世では二十歳だったけれど彼氏いない歴イコール年齢だったから。あんまり、その、やめてー!! とか思っていたら手を取られて手の甲に口付けされた。ひぃぃ。


「ミリアナ、何かやってみたい事や行きたい所はあるかい??」

「えー……街に行ってみたいです」


 屋台とかいっぱい出てるって聞いてからずっと行きたかったのよね。記憶が戻ってから意味が分からずずっと部屋に籠っていたからね……今日の社交界には絶対出なさいって言われたから来たけれど。


「デートをご所望ですか、僕のお姫様」


 で、でえとぉ……あ、駄目だ頭がパンクする。


「クスクス、可愛いな、ミリアナ。あんなに強いとは思えないほどに」

「その話はもうしないで下さいよ……」

「僕を落とした平手打ちだ、ずっと言うさ」

「ええー、ユーリ様は意地悪なんですね」

「君の心を僕でいっぱいにするまでは意地悪でも何でも言うよ」

「どうして意地悪で好きになるんですか!?」

「それもそうだけれど……君を困らせるのが楽しくて。可愛いから」

「ドMじゃなくてドS……」

「なんだいそれは」

「何でもないですぅ」

「こんなにも短時間で僕を夢中にさせるなんて、ミリアナは魔法使いだね」


 何、急にメルヘン。変わった人よね。でも何だか凄く私と相性がいい気が……する。


「では明日、街へ行こうか」

「そんなに急に!?」

「駄目、かい??」


 うっ、その目、やめてよー!! 子犬のような!!


「分かりました、分かりましたよ」

「じゃあもう一曲だけ……」


 私は差し出されたその手を取った。



■ ■ ■



 次の日、一応デートっぽい服を着て待っていた。メイド達が全部やってくれるって言ったけれど何となくデート服は自分で選んでみたかったからだ。そんなに深い意味はない。


「お嬢様、ユーリ・クリーガー様が到着いたしました」


 本当に来たーーー!! 急いで部屋を出てユーリの待つ応接間へ。


「やぁ、ミリアナ。とっても美しいし可愛いよ」


 え、何、本当に御令嬢に手を上げようとしていた人なの!? 混乱するわね。


「ごきげんよう、ユーリ様」

「ああ、ご機嫌だよ」

「ユーリ様の馬車で一緒に行ってもいいのですか??」

「もちろん、一緒に行く為に迎えに来たんだから」


 ん?? 何だかユーリ様お付きの使用人達が変な顔している……いや、そういう意味ではなく鳩が豆鉄砲くらったみたいな表情。もしかして……こんな扱いされるの私が初めて!? 何故なのユーリーーー!! はぁ、こんなに綺麗な人と歩くのヤダな。街に行きたいなんて言わなければ良かった……でも、屋台~。気になって仕方がない。前世と同じような食べ物があったら是非食べてみたい!!

 馬車に乗る時もしっかりエスコートしてくれた。流石公爵家の御令息……流れるように綺麗な所作に思わず見惚れる。そして馬車が動きだした時の事『DVする男は変わらないよー気を付けなよ』という友人の言葉を思い出してあわあわしだした。


「ん?? どうしたミリアナ」

「でぃっ、DV一生変わらないって!!」

「……でぃーぶいとは何だ??」

「暴力が日常的な人はずっとそのままって……いう……事ですわ」


 ハッ!! また子犬のような目を、ずるいわよ。


「信じてくれるかは分からないがあの時本当に叩こうなんて思っていなかったんだ……君が飛び込んできたから当たってしまったんだよ……」

「え、日常的に暴力を振るっていた訳では??」

「はぁ、そんな事したことない」

「そうでしたか……でも髪を引っ張るのもDVですからね!!」

「ああ、すまなかった……あの婚約者だった女性にも誠心誠意謝罪するよ」

「ユーリ様、私もすみませんでした。殴ってしまって……痛かった、ですよね」

「ああ、痛かったがそれで目が覚めた。ははっ、まるで物語の王子様だな君は。方法はロマンチックではないが」


 この世界にもそんな物語があるんだ。読んでみたい。


「そんな、王子様だなんて……恥ずかしいですわ」

「目を覚まさせてくれたんだ、ミリアナの我儘を何でもききたい」

「え……まぁたまたまですし別にいいですよ」

「何かないのか??」


 綺麗な瞳をキラキラ子どもみたいに輝かせて……じゃあ……


「私、物語が読んでみたいのですが。公爵家なら大きい書庫があるのでは」

「何だ?? そんな事でいいのか??」

「そんな事って、結構図々しいお願いだと思いますけれど」

「伯爵家にもあるだろう」

「規模が違うでしょう、大きくて広い、絶対。公爵家ですもの」

「ああ、そういう事なら構わないぞ。いつでも来いミリアナなら歓迎するよ」

「本当ですか!? 嬉しいですっ!!」

「う……ずるいな、その表情(かお)は……」

「え、何ですか??」

「可愛すぎると言っているんだ」


 なっ!? もう何なの本当にーっ!! この人私に吹っ飛ばされて頭打っておかしくなってしまったんじゃないかしら。まずい、責任取らなくちゃ。


「ミリアナ、君の好物を教えてくれないか」

「うーん……マカロンですかね」

「そうか!! では今日は美味しいマカロンの店に連れて行こう」

「本当ですか!? 嬉しいです」

「僕が嬉しいんだ、ミリアナが喜んでいるのを見るのは何より幸せだ」


 この人はもうこういう人になったんだ。諦めよう、諦めてこのキラキラと向き合おう。あと、好物と言われて干物が頭に最初に浮かんだのも内緒だ。だってこの世界に絶対ないじゃない。ミリアナの口にも合わないかもしれない。

 街について私よりユーリ様の方がはしゃいでいるように見えた。キョロキョロして「あれは何だ」とか「あの美味しそうなものを食べてみよう」とか「この宝石、ミリアナに似合いそうだ」と言って買ってくれたり……確かに、綺麗だけれどこれ以上この人の優しさや無邪気さを知ってしまうのが怖かった。


「ここのマカロンが美味しいんですの??」

「ああ、実は……その、僕の好物もマカロン……なんだ」


 恥ずかしそうに言うその顔は嘘を吐いているようには見えなかった。あまり言いたくないのに教えてくれた?? 何だか少し、嬉しいわねこういうの。


「誰にも言えなくて、一人だけに口止めして使用人に買って来てもらっていたんだ」

「そうなんですか……」


 なんだか、自由に生きる事が出来ないのね……公爵家だから?? 今日は息苦しさから解放されて欲しいと思ってしまった。


「分かりましたわ!! 今日は一緒にマカロンや美味しい物をたくさん食べましょう!!」

「ミリアナ……ありがとう……」


 目を伏せて頬を染めたユーリ様は可愛くて可愛くてどうにかしたくなった。どうにかって何!? はしたないわよミリアナ!!

 私もなんとか落ち着いてお店に入ると本当にたくさんのマカロンが並んでいた。


「ユーリ様、どれにします?? 楽しいですね!!」

「ああ、楽しい。ミリアナと見るといつもの菓子ではないようだ」

「もう、また恥ずかしい事言って……」

「ここはマカロン以外も美味しいんだ。マカロンが多めのティーセットにしないか??」

「はいっ!! すっごく楽しみです!!」

「ふふっ、こんな事で喜んでくれたのはミリアナだけだ」

「え……婚約者様は??」

「宝石やドレス等以外はどうでもいいって感じだったかな……街へも行きたくないと言っていた」

「そう、なんですか」

「もう婚約者ではなくなるんだ。ミリアナの口から婚約者とは聞きたくないな」

「失礼しました。分かりました」


 なんか……二人の間に本当に愛などなかったんだろうな、と思わせた。貴族社会では特に珍しい事ではない、むしろ初めから愛がある方が珍しいだろう。


「ユーリ様って使用人の方々とは仲良くしていますの??」

「……僕は、怖がられている」

「私にはたくさん笑顔、見せてくれますのに」

「えっ!? 僕は笑顔なのか!?」

「え、ええ。とても嬉しそうな、幸せそうな顔するなぁって思っていました」


 そっ、そういえば!! 噂で『氷の御令息』って聞いた事あるけれどあれってユーリ様の事!? とても綺麗な顔をしているけれど笑わない事で有名……だとしたら使用人達の今日の反応も分かる。でもあの夜も笑っていたけれど……。


「あの……また聞いてしまって申し訳ないんですけれど……どうして侯爵令嬢に暴力を??」

「あの女性は使用人に酷い暴言を吐いたりそれこそ暴力も……あの日見てしまってもう我慢できなくなったんだ……」

「それで『お前は何様だ』に繋がるんですね!! ああ、よく分かりました」

「ああ、婚約解消などどうでも良かったが……見て見ぬふりは出来ないだろう?? おそらく、僕と結婚したらそういう振る舞いが出来なくなるのが嫌だったんじゃないかな」

「可憐で大人しそうな女性だったのに……」

「人は見た目では分からないものだ」

「本当にそうですね。私、ユーリ様の事たくさん知れて楽しいです」

「そう、か?? 僕もミリアナの事を知れて嬉しい。何せ僕に意見し、怒鳴りつけ、吹っ飛ばした女性だからな……ぶふっ」

「ちょっ、ユーリ様!! もうっ!! ふふっ」


 笑いあえるその時間は何より甘い時だった。


「ミリアナは婚約者はいるのか??」

「今更じゃないですか?? いませんよ」


 もともとミリアナ・リデルという人物は変わり者だったのだ。婚約話なんて全部断ってきたしそのうちこなくなった。そのうえ転生者である私の記憶が蘇って引きこもりにまでなって……ミリアナの両親はさぞ頭を抱えていただろう。そういえばユーリ様が来た時リデル家の使用人も慌てふためいていた気がする……。


「なんだか私達、似た者同士じゃ……あっ、すみません、私なんかと一緒にして」

「いやっ、それはっ、いや、まぁ」


 なんか口元を手で押さえもう片方の手を顔の前で振っている。真っ赤だ!! 照れている!? という事は怒ってはいない。良かった。

 もういい時間になったので馬車へと乗り込んだ。今はユーリ様との時間が、空間が、空気が、心地良い。でも相手は公爵家の御令息、私なんて――――


「迷惑よね……」

「何がだ??」


 ヤバッ、声に……


「何でもないですよ」

「その顔は何かある顔だ」

「本当に……ただユーリ様と過ごす時間は楽しくて優しくて幸せだなと……そう思っただけで……」

「それが迷惑だと?? そんな訳ないだろう……嬉しく思う。僕も同じだから」


 自然と指が絡まり顔が近付く……というところでハッと気付く、いつの間にか伯爵家に着いていたのだ。そして迎えに出ていたメイドと執事があからさまに遠くを見ながらとぼけた顔をしている事に……恥ずかしい!! ユーリ様も気付いたのか頬を染めて気まずそうにしている。私はもうリンゴみたいになっている事だろう。


「また改めて申し込みに来るが……」

「え??」

「昨日の今日でこんな……そんなつもりで誘ったんじゃないのだが」

「あ、は、はい」


 口付け未遂の事かしら。今度は申し込んでから口付けするの?? こっちの世界ではそうなの!?


「僕と婚約して欲しい」

「はい……ってえ、ええ!?」

「一日でも早く婚約者になって欲しくて……誰かに取られる前に。僕だけの可愛い人になって欲しい」

「ふっ、ふふっ、こんな変わり者を愛してくれるのはユーリ様だけですわ!!」

「では……」

「はい、喜んでお受けしますわ」


 ユーリ様はとても嬉しそうに微笑んで優しく抱き締めてくれた。

読んで下さりありがとうございます。

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