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静寂が音になるまで  作者: 山さん
四畳半と群青
7/10

残る音

読んでくださりありがとうございます。

今回は、エミと出会った翌日。

翔琉の中に残る“音の余韻”を描いています。

日常は同じように続くのに、

心だけが少し違う方向を向き始めます。

朝、目覚ましの音がやけにうるさく感じた。

いつもなら二度寝してから慌てて起きるのに、

今日は一度で目が覚めた。

夢を見ていた気がするけど、内容はもう覚えていない。

ただ、胸の奥が少しざわついていた。


原付きで大学へ向かう道、

信号で止まるたびに昨夜の会話を思い出す。

「音が聞きたくなったら、来なよ」

その言葉が風の音に混じって聞こえた気がした。


昼休み、学食の窓際。

**多田仁ただ・じん湯浅広大ゆあさ・こうだい**が、

いつものように恋バナで盛り上がっていた。

俺は相づちを打ちながら、

紙コップの水の中の気泡をじっと見ていた。

仁が「おい、聞いてる?」と言う声も遠くに聞こえた。


午後の講義、ノートの端に何気なく線を引く。

その形がギターの弦みたいに見えた。

音を出す気なんてなかったのに、

頭の中でコードの形を探していた。


バイトの時間になり、

ラーメン屋の裏口に入る。

湯気の向こうで川原さんがスープを混ぜていた。

「おう、今日も来たか」

「はい」

短いやり取り。

それだけで、昨日までの夜とは少し違って感じた。


閉店後、まかないを食べながらポケットの中を探る。

あの名刺が、折れ曲がったまま入っていた。

《BAR orbit》

“Emi”という文字が、ぼんやりと光に反射する。


スマホを開いて、地図アプリに店名を入れてみた。

検索結果が出て、駅から徒歩十五分と出たところで、

指が止まった。


“行く理由も、行かない理由も、

 どっちもある気がする。”


画面を閉じて、名刺を財布にしまった。

そのまま、外の夜風に当たりながら煙草を一本吸った。

口の中に残る苦さの奥で、

昨夜の氷の音がまだ鳴っていた。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

第六話では、翔琉の中で“音の余韻”が残り続ける一日を描きました。

次回、彼は再び夜の街へ向かいます。

もう一度“音”を確かめに行くために。

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