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静寂が音になるまで  作者: 山さん
四畳半と群青
6/10

静かな会話

読んでくださりありがとうございます。

今回は、ライブが終わったあとの夜。

翔琉とエミの、最初の会話が静かに続きます。

派手な展開はありませんが、

二人の間に“音の残響”が少しずつ生まれていきます。

演奏が終わって、照明がゆっくり明るくなる。

耳の奥でまだドラムの残響が鳴っていた。

ステージの前にいた客たちが口々に感想を言い合っている。

俺はカウンターの前で、氷が解けかけたグラスを見ていた。


「どうだった?」

隣で声がした。

エミは、グラスを持ったまま俺の方を見ていた。

「……すごかったです。

 なんか、体の中が音で埋まる感じで」

「その感覚、久しぶりに聞いた」

そう言って、彼女は笑った。

グラスの中の氷が、また小さく鳴った。


「音、好きなの?」

「はい。高校のとき、ギターやってました」

「今は?」

「もう全然……忙しいっていうか、

 なんか、やる気が出なくて」

「忙しいって言葉、便利だよね」

「え?」

「本当の理由を隠せるから」


その言葉に、少し返事が詰まった。

でも、彼女は責めるような言い方じゃなかった。

ただ、穏やかに、

“あなたはどうしたいの?”と問いかけてくるような目をしていた。


「……たぶん、怖いだけです」

「何が?」

「始めても、続けられないのが」

「うん、わかる」

エミはグラスを傾けた。

「音楽って、始めるよりもやめる方が難しいの。

 一度鳴らしちゃうと、どこかでまた聞きたくなる」


その声が、ライブの音よりも深く胸に残った。

店内の照明が完全に落ちて、

店員が「ラストオーダーです」と声をかける。

客たちが帰っていく中、

俺と彼女だけがまだカウンターに残っていた。


「また来るの?」

「……たぶん」

「たぶん、ね」

彼女は笑って、

テーブルに小さな名刺を置いた。

《BAR orbit》

電話番号と、小さく“Emi”と書いてある。


「音が聞きたくなったら、来なよ」

そう言って、彼女は店を出ていった。


残されたグラスの中で、

氷が一つ、カランと鳴った。

まるでその音だけが、彼女の声の代わりみたいに。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

第五話では、翔琉とエミの初めての会話を描きました。

彼女の言葉は、翔琉の心に“音の残響”として残ります。

次回、翔琉の日常が少しずつ変化していきます。

静かな生活の中に、“再び音を鳴らしたい気持ち”が芽生え始めます。

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