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静寂が音になるまで  作者: 山さん
四畳半と群青
4/10

湯気とチラシ

読んでくださりありがとうございます。

今回は、翔琉が“静かな日々の中で初めて少し動く夜”を描いています。

何気ないきっかけが、彼の世界に最初の音を落とします。

夜のラーメン屋は、昼よりも少しだけ落ち着いていた。

客の数は多いのに、みんな黙って食べている。

テレビのニュースと、麺をすする音だけが響く。


「翔琉、注文入ったぞ」

川原さんの低い声。

「はい!」

鍋にスープを注ぐ音が、湯気の向こうで跳ねた。

火の匂い、油の匂い、汗の匂い。

それが混ざって夜の空気になっていく。


深夜十一時を過ぎたころ、客足が途切れた。

まかないを食べていると、カウンターの端にいた常連の男が、

会計のついでに一枚の紙を置いていった。


「ライブハウスでやるんだとよ。若いやつらが出るらしい」

「へえ」

興味があるような、ないような声が出た。

「お前、ギター持ってたよな?」

「一応……弾いてないですけど」

男は笑って、手を振って出ていった。


残ったチラシには、

《下北沢 SLOTH LIVE 3/14 OPEN 19:00》

という文字と、

見たことのないバンド名が並んでいた。

赤いインクが指先に少しだけ移った。


「そろそろ閉めるぞ」

川原さんの声で我に返る。

「はい」

チラシをポケットにねじ込み、

床を拭きながら、

その紙の端がカサッと擦れる音を聞いた。


帰り道、原付きのエンジン音がやけに大きく感じた。

風が冷たくて、夜の街が妙に明るい。

ポケットの中のチラシが、何度も太ももに当たる。


“行く理由もないけど、

 行かない理由もない気がする。”


信号が青に変わっても、

しばらくその場でアクセルを開けなかった。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

翔琉の静かな生活に、ようやく“音の種”が落ちました。

次回、彼はそのチラシをきっかけにライブハウスへ足を運びます。

初めての“出会い”が、彼の時間を少しずつ動かしていきます。

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