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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

絶望刑

作者: いかやきいろらしきもの。

 精神にダメージが入るタイプのお話です。自己責任でお読みください。かなりキツいお話です。ホラージャンルです。あと他の作品とは一切関係ないです。




 俺は多田野ハント。普通の家庭に生まれて普通に育った中学二年生だ。


 毎日退屈でそろそろ自殺しようかと思っている。両親はクソで勉強しろとしか言わない。勉強しなくても普通の成績は取れてるのになんでことさらに机にしがみついて勉強しなきゃいけないんだよ。むしろほめてくれたっていい。俺は頭のいい子供なんだって。


 大した成功をしたわけでもない貧乏ではないが金持ちでもないそんな両親にうるさく言われる筋合いはないと思うんだよな。あーあ、完全に親ガチャ失敗だよ。


 もっと楽な人生なら良かった。そう、例えばアイツみたいに。


 教室の真ん中、飛び抜けた可愛い笑顔で友だちに囲まれている少女。


 彼女は公野未来。クラス一の美少女で頭もめちゃくちゃいい。両親ともに実業家で家もこの辺りでは一番の金持ちと来た。コイツの人生なら楽勝だろうに。


 いいことを考えた。クソな親に復讐して人生楽勝そうなアイツも絶望させてやれる。


 アイツを殺してやろう。


 準備は綿密に行った、なんてことはない。果物ナイフを片手に下校途中で襲う。


 公野は何度かこちらを振り返ったが怖がるでも逃げるでもない。こっちはナイフをぶら下げてるのに。なめられてんのか? 見つかったら失敗と思ったんだけどな。


 そのまま俺は小走りで彼女に近寄る。公野を刺す。そしてナイフをひねる。こうすると手術するのが難しくなるってなんかのサイトに書いてあった。


 公野が倒れる。仰向けに転がり、そして呆然とした目でこちらを見る。


 そして、ニッコリと笑った。


「有り難う」


 はっ? 有り難うってなんだ?! 背筋に冷たいものが走る。なんで? 絶望するんじゃないの? ハッピーな人生が終わるのに?


 動揺しているうちに周りにいた誰かが通報したらしい。最初から逃げるつもりはない。このまま刑務所行きだ。たしか少年犯罪でも死刑になるケースはあるらしいがひとりを殺したくらいなら死刑になるはずはない。


 そう、思っていた。




「……本件犯行は計画的であり極めて冷酷。社会的影響も極めて重大である」


 裁判官が書類に顔を落とし読み上げる。検察官はこちらを睨んでいる。弁護人が何かを訴えているがよくわからない。被告人は未成年であり未発達、好奇心からの犯行、などなど? しかし裁判官の目は厳しい。死刑? どうなるんだ、俺は。


「以上を考慮した上で、被告人を【──刑】に処す」


 ──刑。巷では絶望刑と呼ばれるシンギュラリティ後に新しくできた刑罰だ。


 ……絶望刑?


 …死刑でなかったのは良かったのか? そういえば最近は日本でも死刑反対の動きが強くなっていた。死なせるより生かして科学的に教育を施して自分の愚かさを理解させてその上で終身刑とするべきだと。


 なんだ? 絶望刑って。


 終身刑のこと?


 そのまま拘置所に戻される。数ヶ月か、拘置所の一室で待っていると、白衣の人たちがたくさん、寝台を押してきた。どうやらそこに寝かされるらしい。なにをされるんだ? やっぱり死刑なの?


 白衣の一人がおそらく麻酔だろう注射を腕に打つ。チクリとした痛みと冷たい液体の感覚。


 そこで、俺の意識は途切れた。




──────────



 私は生まれた。両親の祝福を受けて。


 これからどんな人生を送るのか、不安いっぱいで泣いた。


 両親は優しかったが心を少し病んでいるような気配がする。受験戦争が、とか厳しい人生を子供に送らせたくない、とか、それでも幸せのために、そういった言葉が聞こえた。


 幼少の頃はまだ両親は優しかったと思うが、次第に二人は家に帰ってくるのが遅くなっていった。どうやら仕事が忙しいらしい。うちは祖父母が裕福なために家は大きかったが、祖父母は子供のためにと家を明け渡して出ていったらしく、家にいるのはほぼ私だけだった。


 とても孤独で、悲しかった。


 小学校受験をすることになったが両親は自分の子供が出来が悪いと初めてそこで理解したようだ。いや、ほとんど人と触れ合うこともなく情報を得られる要素もなく賢くなる方が無理である。しかし両親は子育ての経験があるわけでもなく自分たちが忙殺されていることもありそう思わなかったらしい。そこから厳しい躾と勉強の日々が始まる。


 小学校受験は失敗し、私は両親から強い叱責を受けた。貴女のためなのに、幸せになるためなのに、そう言って。勉強しなくてはいけないのだ。


 私は家庭教師をつけられることになった。家庭教師は優しい男性のようで、両親が留守にしがちなのもあり家にいることが多くなっていった。


 彼は、小学生のうちは私を自分の膝に座らせるくらいだった。その頃はまだのんきに、優しいお兄さんなんだ、と思っていた。


 しかし、何年かするとだんだん体のあちこちを触られるようになっていた。気持ち悪い、恐ろしい。


 不気味に歪む家庭教師の笑顔を見て、恐ろしくて声が出なかった。


 中学生になる頃には、それはセクハラの域を超えていた。恐怖で声も出せず、そして両親にすがるのも怖かった。厳しい両親に何を言われるか分からず、ひたすらに恐怖した。


 最後まで手を出されるまでは行かなかったが暗く落ち込むことが増えた。そうすると両親は怒るのだ。いつも笑顔でいなさいと。笑顔でいなければ幸せは来ないのだと。


 幸せ、幸せとは何だろう。


 そうだった、多田野ハントの頃はこの子が幸せだと思っていたのだ、私は。


 成績が下がれば家庭教師は降ろされる。なのでセクハラ家庭教師は非常に厳しくなった。できなければなじられたし罰としてもっといやらしいことをされそうになったりもした。いつかレイプされるのかもしれない。


 恐ろしかった。辛かった。逃げ出したかった。しかし小学生の頃に一度家出をしたことがあるが両親はその時だけ優しくてあとは手間のかかる子と扱われていた。母親にはこんな子供なら生むんじゃなかったと言われていた。このままもっと見下され、不必要な物と扱われるのだろう。


 いや、そうか、このまま行けば私は俺に殺されるのだ。後ろをちらりと見てみると俺がついてきていた。良かった。もう終われるのだ。


 まて、本当にアイツは私を殺してくれるのか? 殺してくれなかったらどうしよう。嫌だ。このまま生きるほうが絶望だ。


 この先にはあのセクハラ家庭教師に襲われて更に両親から気持ち悪い物のように見られる未来しか見えなかった。そんなのは嫌だ。助けてくれ。


 その時、ドン、と体に衝撃が走った。


 熱い、熱い、熱い!


 いや、これは、俺が私をナイフで刺した痛みなんだ。


 良かった。


 笑う俺を見て、私は安心した。私は、公野未来は笑い返し、


「有り難う」


 と言って、目を閉じた。




────────




────────




───


──





 楽な人生なんて、無かったんだ。






 繰り返しますがこの物語はフィクションです。


 多田野ハント←ただの犯人。親ガチャってなんだ。


 死ぬ瞬間に幸福な人は誰もいません。殺人は害悪でしかない。



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