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人類アンチ種族神Ⅳ《復讐ⅱ 前編》

弁護士である私は、あの日の記憶を繰り返していた。


——神災。


空が裂け、黒いモヤが都市を包み、人々が焼かれ、逃げ惑い、倒れた。


あの日、私は二人の国会議員とともに、訴訟に関する打ち合わせをしていた。

騒動が始まるとすぐにSPが議員を近くの国有シェルターへ誘導を始めた。

同席していた私もこのシェルターへ同行を許され、命を拾った。


シェルターは外見は大きめの雑居ビル。地上部が3階あり屋上にはヘリポートもあった。

3階は「通信室」と「ヘリの備品の格納庫」、2階は「いくつかの会議室」と「大ホール」、1階は「侵入者に備えた検疫施設」

地下は5階もあり、こちらが本命らしい

地下1階は「応接室」「SPの待機部屋」など、こまごまとした部屋

地下2階は「一般用の居住スペース」

地下3階は「食糧庫」「医療室」

地下4階は「議員やその関係者の住まうVIP居住スペース」「武器庫」

地下5階は「発電室」「監禁室」「浄水施設」

このシェルターですべての生活が完結する、国有シェルターの1つだった。


本来なら、この施設は国会議員とその親族のみが入れる。彼らの指紋が登録されておりパスワードを入力すると

その指紋を読み取り、指紋とパスワードが一致するとシェルターの扉が開く仕組みだ。


私が到着したときには、議員の親族が数名程、先に避難していた。


その中に「婆様」と呼ばれる婆様がおり、どうやら議員の母親で議員を含む親族の仕切り役として

議員以上に厚遇されていた。


やがて、続々と議員の他の家族もやってきた。その頃はまだ秩序があって、議員とその家族以外の人間

つまり私のような部外者も、同行していればシェルターに入ることができた。


だが、生存者の救助で扉を開けるたびに怪物に襲われる危険があり、二日目からは完全に閉鎖された。


そして議員の「婆様」を頂点とする一族は当然のように、私やSPたち、そして初日に逃げ込んできた数十人の一般人を下僕のように使い始めた。


私は不安になって懇意にしていた議員に尋ねた。

「もし私の家族がこの近くにいたら、シェルターに入れてもらえるだろうか?」


収容定員は250名。200人以上の余裕があった。

だが返答は、冷たく「No」だった。


扉を開ければ怪物が入り込む可能性がある。一般人のために銃弾の浪費は許されない——それが、彼らの線引きだった。

この議員の汚職を法廷で無関係の人物に擦り付け、助けてやった恩は感じていないらしい。


次に、一族を束ねる「婆様」に同じことを訊いた。

彼女は考える素振りもなく「開ける利点はない」と言い捨てた。


私は「婆様」にも過去に恩を売っていた。彼女の孫が半グレを殺したとき、「事故死」として無罪を勝ち取った。だがその記憶もないらしい。


——恩など、もはや価値を持たない。私は確信した。


三日目、婆様の指示でシェルター内の区画整理が行われた。

危険な地上部を一族以外の避難区域とし、私たちはそこで寝起きすることになった。


地上階には空調もなく、怪物の咆哮と人々の断末魔だけがこだましていた。 SPすらも動揺を隠せず、恐怖と憔悴しょうすいで暴動が起きるのは時間の問題だった。


そのとき、衛星通信が奇跡的に信号を拾い、携帯電話が使用可能になった。監視当番だった私は、真っ先に妻や愛人にショートメールを送った。

「麻布の金物センターへ来い。シェルターがある」

それだけだ。


すると、妻と、数人の愛人から返信があった。

それぞれ、自分の位置とシェルターまでの所要時間が書いてあった。概ね数時間後に到着するようだ。


だがこのままでは、到着してもシェルターの扉は開かれない。

そこで私はあるSPに話を持ちかけた。

「このままでは恐怖で暴動が起きる。SPであるお前たちは議員やその一族を守らねばならない。だが相手は数十人の一般人だ。混乱すれば、SP側にも死傷者が出る。お前たちはそれでも命令に従って死ぬのか?それを避けるためには、一族から主導権を奪うしかない」


SPは少し相談すると。

「報酬次第では、協力してもいい。先生のような“交渉のプロ”が指揮を執るなら、むしろ安心できますよ」

と快諾した。どうやら、弁護士として鍛えた交渉術が功を奏した。


——こうして私は、SPを掌握した。


議員たちは、SPに騙されて地下へ誘導され、監禁された。 彼らは知恵も話術もあり、万が一この場を切り抜ければ、SPたちを再度掌握し、私の支配を覆しかねない——その危険性があった。


婆様も同様に排除すべき対象だった。

一族の象徴としての立場をもち、彼女の言葉は民衆の心を一つにまとめる力を持っていた。

私がこの場所を制圧し、王として君臨するためには、彼女の存在はあまりに大きすぎた。



しかし、婆様は疑り深く応じなかった。

時間が過ぎる中で、先に監禁した議員の姿がみえないと、異変を察知しはじめた。

徐々に「婆様」とその一族がざわつき始める。


ーー駄目だ。話術では「婆様」に勝てない。それならーー


私は武力制圧を決断した。 「婆様の足を撃ち抜け。護衛の男も関節を外して無力化しろ」


乾いた銃声。悲鳴。混乱。


空気は一瞬にして塗り替えられた。

それは、支配者の交代を告げるようだった。


だが婆様は、まだ声をあげた。

「冷静に!我らは名門の血族。選ばれし者だ。恐怖に屈するな——誇りを持て!」


その言葉に、一族の目が輝きを取り戻しかけた。


私は強い焦りを感じた。ここで婆様に場を支配されれば、再び一族が団結してしまう。


「ババアを殺せ。婆様の一族の男は全員射殺しろ」


SPは淡々と動いた。

あのうるさい「婆様」の額に丸い穴が開くと、目から赤い液体が噴き出した。

同じように、一族の男たちも、あっという間に崩れ落ちた。


「死体は外に捨てろ。議員の目に触れさせるな。ババアの一族の女や子供も全員目撃者だ。シェルターの外へ追い出せ」


反論の声はなかった。


扉の前で、一人の少年が振り返った。

鋭い眼差し。殺意に満ちた目。


その母親が同じ目をして吐き捨てた。 「婆様の無念は忘れない。生き延びて、お前の家族、友達、すべてを皆殺しにしてやる」



この目を法廷で何度か見た。狂人の目だ。失うことを恐れず、冷静に計画的を練って目的達成のために手段を択ばない狂人の目。


——直感が危険信号を送る


私は直ぐにSPにインカムを通じて指示を出した。


「外に出たらすぐ殺せ。見逃すな」


数時間後、私の家族が次々とシェルターに到着した。もちろん外の死体は怪物に殺されたと説明した。


家族を救出し、排除すべき一族がいなくなったあと、私が最も警戒すべきは監禁している議員たちの反撃だと考えていた。

彼らは言葉で人を操る力を持っている。もしSPたちが議員側につけば、この王国の支配は崩れる。そうなれば私の家族が危険だ。

その危険を未然に防ぐため、SPたちには遠隔操作式の小型爆弾を首に装着させた。


首に爆弾を装着されたSPたちは、ただ黙って頷いた。


連絡が付いたすべての家族が到着した頃、私はようやく地下1階にあった応接室の高級なソファーに腰を下ろす。


——俺の王国が、完成した。


そして、第四日目が明けた。


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