人類アンチ種族神Ⅴ《ターニングポイント⑮_4.5/5 神の毒》
この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
時は現在にもどる。
篠原に説得され、渋々同席した足立と仲原。そこへ神がやってきた。
神はすぐに足立と仲原に気が付き、即座に状況を理解すると「やられた」と興味深そうに不敵にほほ笑んだ。
だがヴァロンの眉間には大きなしわが出来ていた。
余裕のある神とは違い、少し低い声で篠原に語り掛ける。
「おい女。この方は貴様ら人間の種族神である。こざかしい小細工で手を煩わせることは不敬だと思え。神が選んだ候補を潰した上に護衛を付けて待ち受けるとは神の代わりに私が罰を与えてやろうか」
それに答えたのは篠原ではなく、神だった。
「いいんだ、ヴァロン。篠原の良さはこの場をコントロールする計画力。そして僅かな情報から大きな理解を得て相手の立場を越えてくる観察力と思考力。各候補の良さは確かにあった。とくに大荻山は、神の代行者として独裁的な立場になれば
素晴らしいスキルセットの持ち主だった。だが、篠原の才能はその力を発揮させる前に芽を摘むところにある。これが強いんだ」
その話を聞いて足立が思わず小さくうなずく、その姿を仲原が厳しい目で睨みつけ、足立は目をそらしてごまかした。
神は饒舌に篠原に促した。
「なぁ篠原、私が渡した僅かな代行者関連の記憶で、どこまで推理したのか、言葉にしてみてよ。私は神だから思考を読もうと思えば読めてしまう。だから隠す必要はない。篠原の口から能力を証明すれば、まぁヴァロンも黙るだろう」
篠原はいつもの調子で話し出した。
「ではぁ、最初にぃ。隊長と仲原さんはぁ保険ですがぁ、この場で私が死ぬ確率は0%ですぅ。ずっと疑問に思っていたのですぅ。神様たちは転移や記憶の操作が可能ですぅ。つまりチートどころか万能に近い存在だと思いますぅ。本当に人類に試練を与えるだけなら
こんな戦争ごっこをしなくても、大仲大臣や、足立隊長、仲原さん、そして私のような対抗勢力の急所を殺すか、記憶を奪って廃人にしてしまえばいいはずですぅ。ではなぜ、それをしないのか?答えはルールにあると思いましたぁ。
大種族神様の件をみてもぉ、神の世界にもルールがありますぅ。そのルール内でしか神様は動けない。だからぁ、こんな方法を取るのですぅ」
ヴァロンの目に一層の力が入る。
「女。神は確かに万能だ。何を疑う余地がある」
篠原はゆっくりとヴァロンに向かい、彼を下から覗き込むように尋ねる。
「万能ならぁ。なぜ代行者を捜しているのですかー?」
一言でヴァロンの視線が一瞬揺らぐ。篠原はその様子を観察し確信したように進めた。
「それはぁ。きっと神様が寝ていると不都合があるんですぅ。なんでしょうねぇ。サーチちゃんたちがぁ出来なくてぇ、神様しかできないことですよねぇ」
篠原は人差し指を唇に当てて口を閉じると、二、三秒ほど目を閉じて神の記憶を再度観察し整理すると、パッと笑顔になって結論を出した。
「エーテルですぅ!神様の記憶に大種族神様の審判のシーンがありましてぇ。神様はエーテルを3眷属に大量に流し込み、強制的に竜化させたと・・・」
「これぇ。裏を返せば、3眷属の皆様は自分で竜化できない。つまりぃ、エーテルを大量に生み出せるのは神様のみ。神様が眠るとぉ眷属の皆さんはエネルギーの供給が絶たれてしまう。
そんなところですかぁ?。ねぇ神様」
神は余裕の表情のままヴァロンに話しかけた。
「な、面白いだろ?ヴァロン。この感じだと、他にもいろいろ感づいてそうだぜ?まだ続けさせるかい?」
ヴァロンは足立と仲原を僅かに目の端でとらえると。
「いえ。これ以上は。代行者としての素質はゼロではなさそうです」
口調は穏やかだが、明らかにヴァロンの表情は厳しい。
篠原はこれを見て、神の方へ振り返り、満面の笑みのまま切り出した。
「証明は出来たようですがぁ、私が代行者になるかどうかはぁ、実はまだ迷っていますぅ」
ヴァロンが小声でうなる。
「……対立候補を潰しておいて保留?神を相手に、よくもそこまで言えたものだ。」
神は余裕のまま、優しく篠原に微笑んだ。その表情は、少なくともサーチの知る神が人間へ向けるものではなかった。サーチはこの光景に違和感と困惑を覚えヴァロンに人間側に聞こえないようにエーテル通信で尋ねた。
「ヴァロン。あの神様が、ここまで好き勝手に立ち回る彼女に激昂しないのは何故でしょう?まさか他の代行者候補が決まっているのですか?」
「いや、代行者には、神との相性適正がある。我らの神と適正のある代行者は世界レベルでも数人のはず。それはない。だが、神は彼女を代行者にするつもりだ。いや、彼女が代行者になれば他はどうでもいい。そう見えるな」
「そうですか、神様の余裕は本物のようです。交渉の状況としては悪いはずなのに……」
「サーチ、神に怒りの感情が見えたらすぐに知らせてくれ。神のために我々が人間どもを守らねば。私があの男の軍人(足立)を、サーチは女の軍人(仲原)を、ベルガンは篠原を守れ。分かったな」
3眷属が目くばせを交えて交信している姿を見て、少し嬉しそうな神。そのまま本題に入る。
「迷っている?交渉としてはイマイチだなぁ。その演出をするのならば大荻山は残すべきだった。全員脱落させたら、本気度がバレちゃうだろ。で、代行者になる条件はなんだい?人類の保護はダメだよ。試練を課して守るべき種族か引き続き観察してくれないと困るからね」
「大荻山はぁ、実はちょっと想定外でしたぁ。自滅はすると思いましたが、まさか神の情報を他人に口外して信じてもらえると思うなんてぇ、雑でもいいので、相手の反応を一手先まで想像すれば、意味のなさに気が付くと思ったのにぃ」
「予定よりも早く退場してしまったのでぇ、ちょっと焦りましたぁ」
その笑顔はスッと消えると篠原はトーンを落として神へ告げた。
「な・の・で、単刀直入に言いますねぇ。足立隊長と仲原三佐、この二人も代行者にしてください。私ってぇ人類を導いたり裁いたりするタイプじゃないんですぅ。神様ならご存じだと思いますがぁ観察とか実験が私の長所なんですぅ
ということで、足立隊長がぁ試練を作ってぇ私が観察してぇ、仲原三佐が執行する。代行者の役割を分担していいならぁ代行者になってもいいですよぉ」
この発言に反応したのは意外にもベルガンだった。
「おいおい。調子にのってるのか?神聖な代行者を、お友達と分担したいだ?てめぇ。こっちが本当に手を出せないと信じているのなら、指の1・2本折って分からせてもいいんだぜ?」
ヴァロンは表情を変えず、サーチの通信網に意識を乗せた。
「止めろベルガン。こちらの格が下がる。だがもう今さらだ。だったら脅すのなら指ではない。目だ。目を潰すと言ってみろ」
ベルガンは腕をすぅっと上げると篠原を指さした。そして
「えーっと、ああ、それとも、その大きな瞳を、潰して差し上げた方がよいかな?」
篠原は咄嗟に後ずさる。だが、何かに気が付くとヴァロンに向かって、わざと大きな声で言い返した。
「足立隊長!大発見ですぅ!三眷属は音声以外の通信手段を持ってますぅ!」
ヴァロンが思わず口を挟む。
「何を根拠に!まだ、何か駆け引きでもしたいのかな?」
篠原はヴァロンに振り向くと、ニヤリと笑って言い返した。
「特攻隊長君はプライドがあって真っすぐなんです。思考回路は感情と直列で繋がっていますぅ」
「でもぉ、今の発言は感情とぉ行動の間にぃ。観察と思考が入っていますぅ。」
「咄嗟に出る言葉は人格がでますからぁ。この中であれば、これはヴァロンさんの思考回路ですぅ」
ヴァロンの顔が一層険しくなった。
その瞬間、神が声をあげて笑った。
「あはははは。一本取られたな。さて、本題だ。代行者の分割は不可能だ。複数の代行者が対立した場合、神の戦争が始まってしまう。それは世界の終焉だ」
「だが、足立、仲原両名の寿命を代行者とリンクすることは可能だ。本人の同意があれば……だけどな」
篠原が笑顔のまま神の方に振り返る
「同意ですかぁ。そこはぁ強制的にぃできませんかぁー?」
神もまた笑顔で返す。
「出来る。だが、あまたの生命が等しく持つ権利を同意なく奪うことは、その人物に死ぬこと以上の苦しみを課すことになるが、よいのかな?」
篠原は、足立と仲原にゆっくりと視線を送りその表情を観察した。
「隊長はぁ、右の口角が下がってますぅ。仲原さんはぁ、まぁ説明するまでもなく、怒ってますねぇ。はぁ」
視線を天井に向ける篠原、誰に向けるわけでもない言葉が漏れた。
「まぁ、死ねないというのは、普通に嫌ですよね。私ですら孤独な200年は正直さびしい。でもこの瞬間が人類のターニングポイント。間違えるわけにはいかない…かぁ」
覚悟を決めた篠原は神に向けて答えた。
「いいですよ。代行者を引き受けましょう。神様相手に交渉してみましたがぁ、今回は負けを認めますぅ!」
こうして翌日「人神融合の儀」と呼ばれる代行者への権能付与の儀式が行われた。




