人類アンチ種族神Ⅴ《ターニングポイント②》
この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
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R連隊研究室で偵察ドローンが撮影した映像を見ながら、変人研究者篠原涼音の解説を防衛大臣の大仲晴彦が聞いていたところ、一人の官僚が慌てて研究室に入ってきた。
それは、大荻山が死亡し、私有シェルターの脱出部隊が全滅してから、僅か数分後の出来事だった。
「大仲大臣!!緊急事態です!」
大仲は急いで官僚の元へ駆け寄ると、声を抑えて尋ねた。
「何があった?UFBか?」
「いえ、タラメアです!」
「タラメア?まさか核か!!」
「いえいえ、あの、舞岡議員が独断で……」
事の真相はこうだった。先ほど前触れもなくタラメアの使節団が埼玉の臨時内閣本部を訪問。しかも武装したまま暫く滞在するというのだ。そんな暴挙が許されるはずがない。国際的にも非難されるべき事案で、あり得ない話だった。
だが、使節団の言い分は「この国の舞岡議員の強い要請により、UFBと戦う同盟国の現状を視察に来た」ということだった。
舞岡議員は使節団の案内役として常に同行しており、話を聞くこともできない。国会にも「同盟国アドバイザー」という形で出席する意向で事実上、本会議の場で外交戦略についての話し合いは不可能になったというのだ。
大仲は愕然とするとともに、あまりにも節操のないタラメアに怒りが沸き上がった。
「同盟国でも武装して内閣本部に滞在するなどあり得ない!防衛大臣として即座に退去を要請する!!この非常時にタラメアまで相手にしていられるか!!」
つい、声が大きくなる。すると研究室の吊り下げ式のモニターにAI画像の男が現れた。AI男は無機質な合成音声で話し始めた。
「篠原です。大臣、まずは冷静に。舞岡議員の独断とはいえ、建前上はお招きした客人です。対処を誤れば代償は大きい。彼らの狙いは明白です。自衛隊の監視です。まずは情報の秘匿です。この研究所の場所を悟られてはいけません。ここには多くの秘匿情報が……」
プツン
突然映像が切れた。
入れ替わるように、入り口の方に、信じられない光景が現れた。
「ミチニ マヨッテイタラ ナニヤラ スゴイ トコロニ ツキマシタ。コンニチハ ミスター大仲」
官僚は座り込み、その人物の名前を口にした。
「タラメア使節団のリーク大佐ッ」
その様子を見て、リーク大佐は親しげに声をかけた。
「ココハ ドコデスカ?」
大仲がすぐに矢面に立った。
「リーク大佐。あなたはタラメア合衆国の情報部配属のはず。見当はついているのでしょう。そもそも入り口や通路に多くの警備兵がいたはずですが、道に迷うなんて不思議ですね」
リーク大佐は悪びれる様子もない。
「オー! キョウダーイ ココハ ドコデスカ?」
明確な煽りに大仲は乗らなかった。
「どうやって、というのはやめましょう。ここには外に出せない情報があります。つまり秘匿施設なのです。同盟国とはいえ、防衛大臣として立ち入りを許可できません!」
リーク大佐は退く気配もなく話を続けた。
「ハーン? キョウダーイ ココハ ドコデスカ?」
「大佐。そのウソくさい日本語もやめていただきたい。私は防衛大臣です。あなたのことは存じております」
リーク大佐の声のトーンが変わった。
「なら話は早いですね。何度要求しても怪物の情報を出さない!あんたは、いやこの国は合衆国の友人だろう?ならば情報を共有すべきだ。今すぐに。これはタラメア大統領の言葉だと思ってもらって構わない」
大統領の言葉。つまり断れば同盟に亀裂が入る。大仲の一存ではさすがに判断できない事案であった。だが、リーク大佐は「今見せろ」と譲る気配はなかった。
1分… 大仲は言葉に言葉を重ね、この場をしのごうと脳をフル稼働させていた。沈黙が続いた。
しびれを切らした大佐が沈黙を破った。
「大臣。この国にはあなたの家族もいる。”同盟国”として、居場所も把握している。大丈夫、怪物の情報をくれれば”友人として”我が国が安全を保障しよう」
「さぁ友人よ。情報を今すぐ開示してくれ」
大仲の顔がこわばった。
「ぬうう」
つくろう言葉は見つからず、絞り出した声は感情だけが前に出た絞りカスのような声だった。
そこへ篠原が現れた。胸には「山口」と書かれたプレート。どうやら状況を察して偽装したようだ。
そして、わざとらしく大声で叫んだ。
「きゃぁぁ!こんなところに外人さんが!オラこわいだぁぁ!」
そういうと、手元にあった資料を取ってはバラバラに裂いてリーク大佐に投げつけた。
そばにいた、R連隊隊長、足立昭介は仲原香三佐にアイコンタクトを送った。
すると、仲原も暴れだした。
「こら!山口!山口さん!落ち着いて!!こちらは使節団のリーク大佐よ!怖くないわ!」
そう言いながら、手元にあったUSBメモリーなどの記録媒体を破壊しては投げつけ始めた。
足立も黙って見ているようで、足元に転がってきたSSD記録機器などを踏みつぶした。
大仲も気が付いた。
ーーこれは整理された情報を乱雑に混ぜることで時間を稼ぐ作戦だと。
そして同調した。
「仲原!山口!何をしている!今すぐヤメタマエ!」
当然止まることはなかった。
だが、茶番は長くは続かなかった。リーク大佐は胸元につけた銃のホルダーを見せ、大きな声で場を制した。
「小細工はやめろ!山口とかいう女!室長の篠原を連れてこい!」
山口(篠原)はぺたんと尻もちをついた。
その瞬間、再びモニターが映り、AI画像の男が現れた。
「室長の篠原です。初めまして。私は秘匿扱いのためこの姿で失礼する。情報はすぐにお渡しします。その代わり、この研究室のことは内密にお願いしたい。できないときは私が全て消去し、私も死にます」
大佐は初めて表情から余裕が消えた。
篠原の噂は大佐も知っていた。タラメアの分析結果としても常識がない人物である。全データを本当に消しかねない。その不安が思考を鈍らせる。
答えを聞かず、AI篠原は進めた。
「あなたを信頼しましょう。後ろの大型モニターに我々の解析結果を表示します。ご自由に撮影してお持ち帰りください。カメラは山口がお渡しします」
すると山口(篠原)がポケットからデジタルカメラを取り出すと、大佐に手渡した。
大佐は山口を睨みつけるとーー
「この女、やはり冷静じゃないか。このリークに馬鹿な芝居をするなんて、いい胆力だ。お前、タラメアに来るか?」
その言葉に、後ずさりし、また座り込む山口(篠原)。
それをみて上機嫌な大佐はデジカメの電源を入れる。すると、大型モニターにUFBの情報が映し出された。
AI篠原が補足した。
「そのデジカメは研究所用のものです。記録画像は3時間で自動消去されます。モニター情報を撮影したら、手早く本国へ送信されるとよいでしょう」
映し出されたUFBの情報を見て大仲は驚いた。
(③へ つづく)




