駆け抜け!人類アンチ種族神 序章①
※この小説は、連載中の人類アンチ種族神のこれまでのあらすじを、ダイジェストにまとめつつ、描写や表現を加筆・修正したものです。
※この小説は、はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
これは、人間の種族神として誕生した若い神による、破壊と創生、そして審判と成長の記録である。
「ねえ!君はどんな神になるの?」
光に包まれた広大な空間で、丸い光の玉が、隣に浮かぶもう一つの玉に話しかけた。
「僕はねえ。地球という星の人間族の種族神だって!」
彼らは神の子。神になるべくして生まれた生命とは違う存在だ。
神の子は無数に存在する。次元、時間、場所、対象となる生物 と細かく割り振られる。
この神の子は、ある次元の地球の日本、人間の種族神となることが決められたのだ。
神の子は神になる前に、その種族に転生し生涯を経験しなければならない。掟に従い神の子は記憶を失い純粋な人の子として転生したのだった。
だが人の世は厳しいものだった。
二歳の春。――他人の不注意で信号無視の自転車が歩道に突っ込み、跳ね飛ばされた。
左半身は中程度の麻痺が残り、この傷が彼を生涯苦しめた。
中程度の麻痺は、外見にはほとんど傷が残らない。立つこともでる、ぎこちなくても歩ける。
だから大人たちは言った。
> 「努力が足りないだけさ」
> 「ほら、手を抜くな、怠けるな」
> 「泣くのは甘えだろ?」
左足が思うように上がらず、指先の感覚が半分しか戻らない、と訴えても
「できるはずだ」 と笑うだけ。健常な価値観で計った物差しは、彼の痛みを計測不能と切り捨てた。
十八で就職。体に負担の少ない軽作業を選んだ。それでも彼は人よりも頑張った。
脳裏に響く「手を抜くな、怠けるな」という大人の呪いが彼に休むことを許さないのだ。
だが、彼の上司は健常者だったが酷く怠け者であった。上司の怠け癖で度々止まってしまうライン。
ある時、経営者から大問題とされ、責任の追及を行った。
彼の上司は一番の働き者であった彼を「障害者だから」という理由で罪を擦り付け、彼は理不尽に職を失った。
二十二で再就職。次の職場は見下す視線と無言の圧が職場全体を湿らせていた。
「手が遅い」 「給料泥棒」――耳障りな陰口は、やがて彼は自分の心音と区別がつかなくなった。
そんな泥の底で、たった一輪の花が咲く。
家庭ができ、男の子と女の子が生まれた。
だが奇跡は長く続かない。
居眠り運転のトラックが妻をはね、死亡させてしまったのだ。
トラックの運転手も、自分の非を認めなかった。赤信号を妻が飛び出したと言い張った。
ーーそんなはずはない。
彼は何度も現場へ行って目撃者を捜した。そしてついに、現場近くの文具店から防犯カメラの映像を発見した。
青信号を渡る妻に、一切減速していないトラックが突っ込む瞬間を彼は深い悲しみを抑え何度も見返した。
だが、裁判でその証拠が使われることはなかった。
文具店の店主は、運送会社からの『謝礼』と、弁護士がちらつかせた『協力しない場合の不利益』に屈して、大切な証拠の映像を『誤って消去した』と証言したのだ。
裁判で彼はただ、妻への謝罪が欲しかった。すまなかったの一言でよかった。
だが会社も男も「保険が降りますので」と頭を下げただけで、その眼に感情はなかった。
正義は金で買われる。 その現実が胃の奥で錆びた鉄の味を広げ、胸を焼く憎悪に変わった。
妻を失った彼は、子供のために必死に働いた。寝食を忘れ妻の残したわが子のために身を粉にして働いた。
ある日、彼は朝から少し体が重かった。倉庫の奥で三十キロの段ボールを抱えていると、額を伝った汗が右目に入り視界が滲む。
そのときだ。胸のまん中を、赤く焼けたナイフでいきなり刺されたような痛みが走った。
「――っぐ……!」
荷が落ち、つぶれた箱からネジが散る。ひざが折れ、ほこりのにおいが鼻を突いた。
左手を伸ばすが、指先から力がすべて抜ける。心臓が一発ごとに強く打ち、そのたび視界のふちが暗くなる。
痛みは徐々に強くなり、彼は悟る。
――死ぬ? 今ここで?
恐ろしい。けれど同じくらい理不尽だった。
息が吸えず、口がぱくぱくと音もなく開くだけ。誰もいない倉庫に爪を立てても、助けは来ない。
ふざけるな……ふざけるな……!
胸を殴っても鼓動は弱まる一方で、世界の音が遠ざかる。ネジが転がるカラカラという音だけが、むなしく響いた。
涙は出なかった。かわりに熱い血が耳のうしろで波打ち、視界は真っ白に発光した。
「誰か――」
「子供たちの夕飯を……まだ作って……」
いや、せめて――最後に一目……!
心臓が、ひとつ、ぐしゃりと音を立てた気がした。次の鼓動は来なかった。
白い世界だけが残り、そして静けさがすべてを飲みこんだ。
(……おかえりなさい)
あの、丸い光の玉が再び彼に話しかけた。
次の瞬間、宇宙規模の記憶が洪水のように流れ込む。
彼は“神の子”であることを思い出した。
彼は人間としての人生を振り返る。理不尽と暴力、そして一片の希望さえも許されない人生だった。
彼の口から言葉が漏れる。
「人間の種族神か。ならば存分に破壊から始めるべきだろう。このクソ種族は守るべき価値から
作り出してやろう。面白い。実に面白い。あははははは」
純粋培養された『隣の神の子』は、変わり果てた彼の深く黒い感情に震え上がり、言葉を失っていた。
人類を最も憎む人類の種族神。
「人類アンチ種族神」の誕生の瞬間だった。




