人類アンチ種族神Ⅴ《混乱と天才⑥_神の兵_中編》
この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
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大荻山剛三郎は、焦燥に駆られていた。
ここまでは、圧倒的な演算能力を誇る兵器の力で、UFBの特殊個体を蹂躙できていたはずだった。だが、直線的で読みやすかった怪物の動きが、突如として変貌したのだ。
AIの予測を超える機動力で「目」となるドローンを次々と破壊し、8機あった機体は残り2機まで数を減らした。
最強のAIは目を失って情報が不足、ただの箱に成り下がろうとしていた。
そしてその牙は今、大荻山の乗る装甲車(DD-24)へ向けられている。
本能的な恐怖が大荻山を突き動かした。「SUB11Fを手動に切り替えろ! 当たらなくてもいい! 直線軌道に弾幕を張れ! 特攻されれば20秒で接近されるぞ!」
度重なるAIの指示変更で右往左往していた副砲は、手動への切り替えでようやくその首振りを止めた。 といっても、狙いが定まったわけではない。高度な迎撃システムはただの『火を噴く筒』へと成り下がり、暴力的に弾丸をばら撒き始めたに過ぎなかった。
「よし、それでいい。戦車(YA-24)とのケーブル切断。我々は戦車を盾に後退する! 散開させていた一般車両も戻せ。もう囮にもならん!」
戦車に搭載されたSUB11Fは、本来なら精密なAI制御でドローンを撃墜するシステムだ。
手動での連射など想定外であり、残弾的にも排熱的にも30秒が限界だった。
さらに、AI本体を搭載している装甲車とのケーブル切断は、AIアシストの完全放棄を意味する。AIを前提にした兵装が、AIを切る。
誰の目にも明らかだった。戦車は、捨て駒にされたのだ。
慌てて後退を始める装甲車。それを援護すべく戦車が火を噴くが、手動の乱射が怪物に当たるはずもない。弾丸は怪物の回避行動の前に虚しく空を切り、時間だけが浪費されていく。
それは、まさに「死への時間稼ぎ」でしかなかった。
◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆
戦車内では、女性リーダーの鋭い怒号が響いていた。
「もっと右! 相手の切り返しをよく見て! 気合で食らいつきなさい! 主砲、弾種換装! L2炸裂弾よ、信管設定は1秒! 急いで、あと20秒で副砲が尽きるわ!」
しかし、重量級のSUB11Fを手動旋回させ、超高速機動する物体に直撃させるなど、土台無理な話だった。照準は遅れ、焦りだけが募る。
「クソッ! せめてAIのアシストさえあれば……ッ! 換装、急ぎなさい!!」
「あの老害はどうでもいい! でもね、後ろの同胞と民間人は守るのよ! 気合入れなさい!!」
悲痛な叫びも虚しく、SUB11Fは一発も命中させることなく、静かに弾切れを迎えた。弾幕が止む。
それを見透かしたように怪物は回避行動を止め、一直線に戦車へ突っ込んできた。
「今よ! 主砲、撃てェッ!」
「ズゥゥン!」
低い独特の砲撃音とともに、砲口から閃光が迸る。放たれたL2炸裂弾は瞬時に起爆し、無数の子爆弾をショットガンのように撒き散らした。
ーーこの至近距離!しかも直進コース!『点』ではなく『面』で叩けば落ちるはず!
女性リーダーの勝算は、一瞬で砕け散る。
「敵、直前で軌道変更! 上です! かわされました! ダメージなし!」
彼女の目が見開かれ、張り詰めた汗がこめかみを伝う。コンマ一秒の硬直。それを自らの怒号で無理やり断ち切った。
「回避! 全速で下がりなさい!!」
だが、その命令に車両はピクリとも反応しない。
「どうしたの、回避よッ! 上から来るわよ!!」
操縦士が、震える声で答えた。
「操……作、不能。管理者によるコマンド介入です……コマンドは、『自爆』」
女性リーダーが怒りと絶望に顔を歪めた、その時。
戦車の上部ハッチが飴細工のようにぐにゃりと押し潰され、車内にあの化け物が降り立った。
生じた衝撃波が、搭乗員たちを一瞬で肉塊へと変える。
◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆
数秒前。装甲車(DD-24)内。
「先生! いくら何でも見捨てるなんて!」
「うるさい! 女風情が口を出すな! それに、無駄死にはさせんよ。YA-24には機密保持機構があってな、私のコマンド一つで火薬庫を誘爆できる。……全弾薬で吹き飛ばせば、たとえ怪物だろうと無事で済むものか!」
「先生! 戦車の上から怪物が!!」
激しく揺れる車窓越しにも、炸裂弾の閃光を背に影を落とす怪物の姿が見えた。そいつは躊躇なく、戦車の直上から降下を始めている。
「死ね!!」
大荻山は愉悦に顔を歪め、自爆命令を確定させた。
数秒後。
直上から貫かれた戦車が、一拍も置かずに爆縮し、弾け飛んだ。逃げ場のない爆圧が分厚い装甲を内側から押し上げ、鋼鉄の巨体が粘土のように歪む。
裂けた装甲の隙間から紅蓮の炎が噴き上がると、それは驚くほど美しく、そして残酷に、すべてを粉々に爆散させて黒煙に変えた。
「がはははは! サルがぁ! 自ら檻に飛び込んで自殺しおったぁぁ!」
黒煙が風に巻かれ、燃え盛る残骸の中から「白いもの」が揺らめく。
「先生! ああ……あ、あれ!!!」
同乗していた愛人が、引きつった悲鳴と共に指さした。
大荻山は我が目を疑った。
あろうことか、怪物は上空で「女王」と呼ばれる個体と合流し、二人掛かりで戦車へ突入していたのだ。
当然、女王型はあの白いシールドを全方位に展開している。
やがて、傷一つないシールドをすり抜けるようにして、王と呼ばれる怪物が、ゆらりとその姿を現した。




