ひとりぼっちだと思っていた
私はいつだってひとりぼっちなんだと思ってた。私は自分の気持ちを表現するのがヘタで、こんな私に友達なんてできるわけがないと、ずっとそう思ってた。
学校での休み時間には、いや、時間あればいつでも、私は本を読んでいた。本さえあれば、私は寂しくない、そう思っていた。
「ねえ、私と友達になってくれない? 永近さん」
そう、私に声をかけてきたのは、クラスメイトの浜中あかり。クラスの中では割りと目立つ、なんだかこの地域の中では有名な権力者の娘で、上品な佇まいの子だ。
私は中の下くらいの家庭の子で、悪目立ちすることはあっても、評判のいいものではない。なんでこんな私に声をかけてきたのか、不思議だった。
「……浜中さんは、なんでわざわざ、私なんかと友達になりたがるの?」
「んー? そんな大層な理由なんてないけど……強いて言えば、髪かな?」
「髪?」
「そう。私の髪って、ちょっと癖っ毛で、跳ねてて、色もなんだか明るめでしょ? 地毛なんだけどね? 日本人でも遺伝でこういう色にもなるんだよ。でもさぁ、永近さんの髪って、すごく……濡羽色みたいな、キレイな黒で、サラサラしてて、キレイで……羨ましくて。煎じて飲みたいくらいだよ」
そう言われて、私は少し戸惑った。
「えっと、つまり、私の髪が好きだから、私と友達になりたいって?」
「まあ、そうだね」
浜中さんのことは上品なお嬢さんという第一印象だったが、どうやらちょっと違うらしい。
「……永近さんは、髪が好きだから、じゃ、嫌だった?」
「嫌っていうか……普通はそんなこと、思っても言わなくない?」
「そう? 永近さんの髪がキレイなのは事実だし、キレイだよって言われたら私は嬉しいと思うんだけど、永近さんは言われたくないの?」
「ん、ん……いや、キレイって言われるのは、嬉しいよ」
「そうだよね! じゃあ、そう伝えることはなにもおかしくないよね?」
勢いに気圧されて、私は頷いていた。
「よかったー。あ、で、本題だけど、友達になってくれるよね? 永近さん」
「あー……友達になるなら、名前で呼んでほしいな」
「……じゃあ、……下の名前はなんて言うんだったっけ?」
「さおり」
「さおりさん!」
「……さんはちょっとむず痒いけど、まあなんでもいいや」
「じゃあ、私のことも名前で呼んでね、さおりさん。私は浜中あかり!」
「あー、じゃあ、あかり、って呼ぶね」
「呼び捨て……?」
「え、呼び捨てダメだった?」
「いやっ、呼び捨てむしろ嬉しいの! 今まであんまり呼び捨てで呼んでくれる友達はいなかったから……! さおりさんは、呼び捨て慣れてるの?」
「慣れてるっていうか……あんまり友達自体がいないから、名前で呼ぶような子があんまりいなかったし、わからん」
「そっかぁ〜……」
あかりはため息を吐いて、顔を上げた後、窓から空を見上げた。
「ねえ、さおりさん、私たち、きっといい友達になれるわ」
「そうかなぁ……」
「そうよ! 私、さおりさんとはきっと親友になれる気がするの。あぁ、ねえ、見て、虹がかかっているわ! きっと私たちのこれからを祝福してくれてるのね」
はしゃぎながら虹を指差すあかりの後ろ姿を、私はとてもキレイだと思った。
〈了〉