あの時、恋した女子高生がそこに。夢で声をかけてくれた女子高生は、ずっと好きだったあの子……
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
緑の深い森の中、遠くに見える彼女は女子高生だ。彼女の方へ向かっても手が届かない、そんな存在だった。9回も見たら分かっている。もうその子には届かないということぐらいは。でも俺は必死に追いかけている。いつか必ず君に触れることができると信じて。
10回目にも同じ夢を見た。だがこれまでと違って彼女の声が聞こえたのだ。
「涼太くん……こっちに来て……」
俺の名前を知っているのか? そう思いながら彼女の方へ走る。しかしどうしても届かない。あと一歩のところだったのに。
11回目にはさらに彼女に近づくことができた。あれ? この声はどこかで聞いたことのある声だ。そしてあの姿……セミロングヘアをなびかせている女子高生は……どこかで見覚えがあるぞ?
「涼太くん……もうすぐ会えるよ……」
俺だって会いたいよ……君に会いたい。
12回目。とうとう女子高生の彼女の目の前まで辿り着いた。俺は目を見開いて驚く。
「麻里奈……?」
彼女は高校時代の同級生だった。ずっと彼女に片想いしていたが、高校卒業と同時に音信不通になっていたのだ。
「麻里奈……どうしてここに?」
「涼太くんに、ずっと会いたかったの……」
「俺も会いたかったよ……!」
俺はもう30代だが、目の前にいる麻里奈はあの時の女子高生のままだ。彼女をぎゅっと抱き締めた。
「俺、君の事が好きだったんだ。何も言えないまま卒業してしまって……後悔してた」
「涼太くん……私も涼太くんのこと、好きだったよ」
「麻里奈……!」
キスをしようとしたら……目が覚めてしまった。悔しい。次こそは。
13回目。森の中で女子高生の麻里奈と追いかけっこをしながら走り回る。
「捕まえた!」
「やだもう……涼太くんったら。手加減してよね?」
「だって麻里奈、足が速いだろう?」
「フフ……」
そして彼女とキスをした。夢のはずなのに柔らかい感触で俺は夢中になって抱き締めた。
14回目。
「涼太くん……私、今度は海に行きたい」
「え……どうやって?」
「こっちだよ!」
森の中を抜けたその先には、何と砂浜があった。空と海が青々としている。
「すごい……」
「ほら……涼太くん! こっちだよー!」
「待てよ、麻里奈……!」
どうにか彼女を捕まえると麻里奈が言う。
「ちょっとだけ海に入ってみようよ」
「え?」
彼女は靴と靴下を脱いでバシャバシャと海に入って行った。俺も裸足になって後を追う。彼女に水をかけられたので俺も水をかける。
「キャハハ……」
「こらっ……やったなー?」
ここは2人しかいない世界……このまま2人で永遠に共にいよう……そう思っていた。
15回目。そういえば最近すぐに眠くなってしまうんだよな。早く麻里奈に会いたいからだろう。彼女は海の側におりブルーのビキニ姿で待っていた。
「どうしたの……? その格好」
「えへへ。持ってきちゃった。涼太くんの分もあるよ」
俺も水着に着替えて海に一緒に飛び込む。空が綺麗で海面も輝いている。水しぶきさえもキラキラと空に煌めくようでロマンチックだ。
海で水のかけ合いっこをしながら俺たちは幸せなひとときを過ごしていた。夕方になり海から上がってロッジに向かう。ここで彼女と2人きり……胸の奥がドキドキしてくる。ロッジの外を見ると空には綺麗な星が一面に広がっていた。
「綺麗……涼太くんと一緒にこの景色が見られるなんて」
麻里奈が感動している。
「そうだね、俺も嬉しいよ」
そう言って2人で唇を重ねた。そのままロッジで俺たちは……ついに結ばれたのだった。
翌朝、気づくと俺たちは裸のまま並んで寝ている。布団の中で彼女が抱きついてくる。髪を撫でながら幸せを噛み締め……俺たちは再び眠りについた。
※※※
「こんにちは」
「こんにちは……どちら様でしたっけ」
「麻里奈の母です」
「ああ、高校時代の……」
「はい……もうあの事故から15年経ちました」
「そうでしたね……」
「まさか涼太くんがこんなことになるとは」
「はい……脳の疾患でした。知らない間に悪化していたようです。涼太は麻里奈ちゃんの事故のことをずっと受け入れられませんでした。まだどこかで生きていると……ずっと言っておりました」
「そうだったのですね」
「最近は病院で『麻里奈と海に行った』なんて言って、私のことも認識してもらえずでして……」
「それは母親としてお辛いですね」
「はい……ですが、麻里奈ちゃんと楽しく過ごしている夢でも見て、本人が楽になれるなら……それで良いかなと」
「そうですか……麻里奈もきっと天国で喜んでいると思います」
「そうなのですね……」
「では私はこれで失礼します。またお話しましょう」
そう言って女性は葬儀場を後にした。
終わり
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