煙草を吸わない愛煙家、異世界へ飛ぶ③
『さて、そろそろ準備をするとしましょうか。』
「準備?」
『はい、異世界に行く準備です』
そう口にすると女神はどこからともなく太くて長い何かを出して火をつけたのだった。
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煙草を吸わない愛煙家、異世界へ飛ぶ③
「女神様、それってもしかして...」
俺は女神様が手にしているものを知っている。ここでは[巻物]とでも言おうか。詰まりに詰まった長くて太い[巻物]
それは正に俺が求めている必需品であり嗜好品だ。
『はい、貴方の考えている通りの物ですよ。一緒に一服いかがですか?』
俺はその女神様の一言に感動と嬉しさ混じりな声で2つ返事した。
「はい!是非お願いします!是非!是非」
色々な事がありすぎて忘れていたが俺は家に帰る途中で死んでしまいここに来たのだ。いつもは仕事から家に帰り風呂や飯を済ませた後でゆっくりと頂くが今日はまだ一度も吸えていない。別に無くても大丈夫なのだが目の前あるとなると話は別。しかも女神様が巻いてくれた物なんてどんな味がするのか気になってしょうがない。俺は恐れ多くも女神様に歩み寄った。
「ホントにご一緒してもよろしいのですか?」
俺は今更ながらに尋ねる。ここまで来てアレだが厚かましすぎるのもどうかと思ったのだ。まぁ正直社交辞令みたいなものなので断られるとは考えていないが
『もちろんですよ、元より貴方の為に巻いてきたといっても過言じゃありません』
女神様は笑顔で俺に答えた。俺の為にとか言われたら嬉しいしなんなら惚れてしまいそう。こんな、美しい女性がスモーカーでしかも俺の為とか抜かすんだもん、そう思っても仕方ない。
ボッッ
先端に何かしらの方法で火をつける女神様。そして大きくその巻物を吸い込むと綺麗で濃厚な煙を吐き出した。
俺はその光景を眺めながらふとある事が気になった。
「女神様、そういえば準備とはなんの事なのでしょうか?」
女神様はもう一息煙を吸い込むとまたふぅーっと綺麗な煙を吐き出し俺に巻物を手渡してくれ答えた。
『勿論、異世界に行く準備ですよ』
俺は巻物を受け取り同じように深く煙を吸い込んだ。
一日ぶりに吸い込むそれは正にこの時の為に頑張ったといえる。最高の味、至福のひとときだ。しかも、女神様が巻いてくださった物だ。美味しくないわけが無い。
「ゴホッゴホッ!これは、ゴホッ、めっちゃくちゃ美味しいですね!」
俺は盛大に咳き込みながらその味に感動と感激を覚えた。
こんなに咳き込むのは久しぶりだ。しかも濃さがレベチ
一息吸うだけで今まで吸ってきた物とは格が違う正に神レベル。
『貴方の世界で使用されている物より遥かに質がいいと思います。なにせ、我々の住まう場所で取れたものですから人間には少し濃すぎたかもしれませんね』
俺はもう一息吸い込み息を止めて肺に溜めてから再び吐き出した。正直濃すぎるも何も初めて食らった時よりも100倍は食らっている。
「女神様、そんな神聖な物をありがとうございます。正直初めて吸った時よりもブリブリです笑」
『私もこうして人間と一緒に吸うのは初めてなので新鮮で凄く楽しいですよ。しかも、この品種は私のお気に入りなんです。味も匂いも最高で納得いくまでとことん突き詰めた私の自身作です!』
highになってるかなのか女神様は急に饒舌に語った。
でも分かる気がする。自分の好きな趣味がマイナーであまり周りに人気が無いからこそ同じ趣味を好きな人が相手だと気持ちが爆発してしまう現象。それに加えhighになっているのだ。多少饒舌になるのも頷ける。
「女神様がお作りになられたのですか!?それは結構貴重な品を頂いたのでは?本当にありがとうございます!」
俺は改めて女神様に向き直り感謝を伝え2人でその太く長い巻物を吸い終えたのだった。
「ご馳走です!最高のひと時でした!」
『礼には及びませんよ、私も凄く良いひと時でした。さて、ここから準備に移りますが、何か要望はありますか?』
「要望ですか?」
『はい、出来うる限りの最善は尽くしますよ』
ほう成程。さっきも、もの凄く美味しい巻物を頂いたばかりなのに次は要望か。正にいい事尽くめな気がするがこれは異世界物で言うところの定番なやつか。チートの能力貰えるとか最強武器が手に入るとかそっち系のアレだ。これは、慎重に答えた方が良いと思考を回す。そこでふと気になった。流石に無理だとは思うが一応聞くだけ聞いてみようかと思い女神様に聞く。
「女神様が一緒に異世界に行ってくれる的なのは無理ですか?笑」
あの、某すばらしい世界に於いて主人公がした普通なら思いつかない選択。別に連れて行ったから何かある訳では無いが少し気になったので聞いてみた。女神はその質問に対して少しだけ驚きの表情を見せ答えた。
『流石に私が一緒にというのは無理ですがその代わりに女神メリエルの名において貴方に加護を授けましょう。』
すっと 前に手の平を出して俺の方向に向ける。そして瞬く間に光が俺を包んでいく。暖かいような冷たいような包まれているようなそうでないような不思議な感覚に襲われる。
暫くすると光は収まり次第に消えていった。
『これで、加護は授けました。私が行けなくて申し訳ないですがそんなことをすると世界のバランスが壊れてしかいませんのでご了承ください。』
俺は自分の体を見る。とくに変わった様子も無く力が漲るとか体が軽くなっとかの変化も無い。
「ありがとうございます女神様!無理を言って申し訳ないです。ちなみに加護ってどのような効果があるのでしょうか?」
『あちらの世界に行ったら分かると思いますが、1番の特徴は私の作るヤサイを召喚できることですね。』
「え?さっき吸ったあれですか?」
『はい、全42種の内好きなものを1日3個召喚することができます。他にも簡易的な物や道具もありますのでそれも含めると100種類以上のアイテムが召喚可能です。』
なんという魅力的な加護なのだろう。恐らくあの言い方からすると他にも効果はあるんだろうけどどんなチートよりもチートだろこれは。まず女神の作ったものを召喚できるって時点でやばい気がするがアイテムの種類が豊富すぎる正に神対応。
「そんな加護チート過ぎますよ笑それにしても異世界では喫煙という文化はあるのですか?」
『いえ、恐らく煙草といったものは無いので浸透はしていないと思いますが加護の影響でそこら辺の違和感はあまり持たれないと思いますよ。』
なんとも手厚い加護なのだろう。喫煙文化が無いと言うところに多少の不安は抱くが女神様の加護があればそんな事はお構い無しらしい。うん、これは素晴らしい。ところ構わず吸ってもなんの問題も無いだろうしましてや喫煙文化がないなら咎められる事は一切ないだろうし天国にも等しいかもしれない。
『では、あともうひとつ貴方に異世界で生き抜く力を授けましょう。』
そう言うと女神様は再び手の平をコチラに向け光が俺を包む。加護だけに終わらずまだ力を下さるなんて凄い優しい女神様だ。
「加護も頂いたのにありがとうございます!因みにどんな力なのですか?」
この現象にも慣れた俺は光に包まれながらでも構わず女神様に話しかけた。
『神代魔法、古代魔法を含む<失われた魔法>達を貴方に授けます。』
「<失われた魔法>ですか?そんなもの使えるようになって大丈夫なんですか?」
俺は当然の疑問を投げかけた。失われた魔法と言うからには今から行く異世界にはそれが存在しないのだろう。そんなものをおいそれと使うと問題になったり悪目立ちしてしまそうだがそれだけは避けたい。
『異世界に行く貴方にとってはこれくらいが丁度いいかと。
それに、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ色々と。』
「はぁ〜...」
そうは言われてもとばかりに情けない返事をする俺を気にもとめず女神様は笑顔で首を少しだけ傾けた。
『では、準備もできた事ですしそろそろ時間も時間なので送り出しますね。』
「え?そんな急に?まだ聞きたいこと色々あるんですけど」
俺は今から行く異世界の事について全く何も聞いていない。正直どんな状況でどんな世界観なのか。何も知らない状態で全く知らない土地に放り出されるなんて怖すぎる
『大丈夫ですよ、貴方は貴方の生きたいように気ままに楽しめまば良いのです。何も心配はいりませんよ。』
「そうは言われても...」
俺の不安なんて露知らず、女神様はさっきと同じ様に手の平を俺の方に向けた。
『今日は良い時間を過ごせました、また機会があれば一緒に吸いましょう。では、貴方の旅がより良いものになるように祈っていますよ。お気をつけて行ってらっしゃい』
そう女神様が告げるとその言葉に返答する暇もなくパァーっと今までよりもさらに激しい光に包まれ俺の意識は遠のいて行くのだった。