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第19話 大義と犠牲①

 シャムディの不思議な祈りの言葉が終わった直後、リーヴィズと私を待ってくれていたのか、背後から、会議室をそろそろ撤収するというフォールズの声が聞こえてきたので、私たちは話をやめて、部屋を出た。


 ホテルの係員であるアンドロイドたちによって綺麗に片づけられ、明かりも消された会議室に佇む、金銀や真鍮で作られた荘厳な調度品たちは、ロンドンの街の明かりに照らされて、夜空の銀河のように煌めいていた。それらは、二二世紀を目前にして、忘れられているようでありながら、人間だけでなく、機人という昔ながらの集まりが好きな存在によっても、引き続き使われていたため、これからもその磨かれた輝きを失うことはなさそうであった。


「ところで、タバコをくださったあなたのお名前を聞いていませんでしたね」


 私が佐々木ジローという名前の個人投資家であることを紹介したところ、シャムディは、「もしかして、今日の会議の場所代も資金提供してくださっているのですか?」と、真面目な顔をして聞いてきた。


 私は、シャムディが一介の個人投資家にどのようなイメージを持っているのか分からなかったが、少なくとも非常にいいイメージを持っているのだと知り、このような考え方をする人もいるのだと思うと、世界の広さを感じた。


「そういえば、時空の歪みの先から、超文明が到来した場合、巨大な恒星は皆、ブラックホールにされるとか、全ての存在が原子レベルに分解されて仮想現実を作るための部品として使われるとか、そこまで絶望的なことが生じる可能性もあるかもしれないですね」


 リーヴィズは、フォールズとシャムディ、そして、私と一緒に歩きながらエレベーターに向かっているとき、そんなことを言い始めた。


「まあ、その前に、少しくらいユニークな存在かどうかを調べてもらえるのではないでしょうか。少なくとも、思い出を十分に回想するくらいの時間はあるのではないかと思いますが」


「そうかもしれないな。だが、本来は十分に対抗できた方が良い。電子ビームに対しても、それを無力化し、分散させるような技術があった方が良いのだろう。結局は、組織化された軍隊に対抗できるのは、組織化された軍隊だけ。超未来の技術や思想に対抗できるのは、超未来の技術や思想だけということか。虚しいな」


「虚しいですが、本当に他の宇宙との回廊が開いた場合、ポラストが仮想現実内で未来を作り出したことは、科学者が成し遂げた偉大な成果になるでしょう。そして、その技術を現実世界で成り立たせるためには、リーヴィズさん。あなたの会社の力がどうしても必要になるでしょう」


「それはそうだね、教授。俺としては、TBL社の下働きみたいになる部分があるのは納得いかないが、この件は現実世界の防衛がより重要だ。そういう意味では、だらだらと未来を迎えることで、仮想現実に重きが置かれ、TBL社の方が幅を利かせる世界になったかもしれない未来よりは、俺にとってはマシなのかもな」


 リーヴィズとシャムディのやり取りが続くと、フォールズが私に、「ずっとこんな感じなのか」と、広々とした大理石造りのエレベーターに乗った際に聞いてくれた。


「そうですね。バルコニーにいた間は、ほぼずっとこんな感じでした。こんな議論のために、文明は存在するのかと思うと、何だか虚しいですよ。それこそ、お金を左から右に動かして生き続けるのが、人生であるくらい虚しいです」


「ジローは元気そうだな。何よりだ。私は、もうこの長さの会議はくたびれるよ」


 フォールズがそう言うと、エレベーターは、なぜか上の階に向かって上がり始めた。


 私は、フォールズがボタンを押し間違えたのかと思い、色々と不安を感じてしまったが、リーヴィズが意識内会話で、「間違いじゃない。表情に出てるぞ」と注意してくれたので、単に、「また、スイートルームで紅茶をご馳走になれるのか?」と、リーヴィズに聞いてみた。


「さすがに、紅茶よりは良いものをおごるよ。これから忙しくなるだろうからね」


 リーヴィズがそう言ったとき、到着したのは、スイートルームのある最上階だった。


「でも、僕ができることは、これ以上、何もないと思う」


 私が何となく、役に立てるといいとは思いつつ、できることが本当に思いつかなかったので、現実に声に出して伝えると、フォールズの方から、「これから未来を加速していくにあたって、ミシェルちゃんの閃きは重要になる。君には、ミシェルちゃんと友だちであることを活かして、彼女の出身世界との架け橋を頼みたいんだ」と言ってきた。


 その言葉に、リーヴィズも頷いており、シャムディもノリで、「ミシェルちゃんは、ドアホック教授だけが話し相手だとつまらなさそうだから、絶対にその方が良いですね。でも、ジローさんの給料は誰が払ってくれるんだろうな」と言って、リーヴィズの方を見ていた。


「さすがに、ミシェルちゃんと友だちであることに給料は求めませんよ。ただ、TBL社か、国連か、どこか分からないですが、ミシェルちゃんの出身地である仮想現実との友好大使に任命して欲しいですね」


 私の言葉に、三人とも笑ってくれた。そして、なぜかパーティーの用意がしてあるスイートルームに案内されたが、私自身は、自分に用意された役割について、何だか妙だと思っていた。


 ただ、これから半永久的に続くかもしれない人生の中で、何百年かくらいは、そのような時間があるのも悪くないのかもしれないと思いつつ、私は華やかな喧騒の中へと入っていった。

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