5. 気配り完璧じゃん..........
「す、すごいな。」
俺は圧倒されていた。
何にって?
そんなの受付のお姉さんの豊満な胸、ごほんごほん。
もちろんこのどでかい建物にだ。
今、俺はUtafanの本社に来ている。
外見はとても高い高層ビル。
中に入ってみれば中央は吹き抜けになっており、この建物の高さを実感する。
程よく植物が植えられており、雰囲気もいい。
壁には、たくさんのアイドルのポスターが張ってあった。
「「...........」」
「...........」
なんだろう。
雪乃と桐原さんからとてもジトッとした視線を向けられているんだが。
もしかして俺がお姉さんの胸見てたのバレてる!?
あ、なんか視線が一層険しくなった。
やっぱふたりともアイドル関係だし、視線とかには敏感なのだろうか。
それより、気をつけます。気をつけますから人を殺せるような視線で見ないで.........
「それより早く受付しようぜ?」
俺は二人より先を歩いて提案する。
明らかな話題そらし。
100%バレていたが、渋々と言った感じで雪乃と桐原さんも歩き始めた。
◆ ◆ ◆
それから受付やら登録やらあいさつ周りやらをして結構疲れた。
本題の社長との対面がまだだと言うのに。
「春馬?緊張してる?」
雪乃が俺を心配そうに見てくる。
しまった。態度に出ていたか。
雪乃は周りの感情を読み取るのに長けている。
まあ、その力がついた理由はとてもいいものではなかったが.........
アイドルとしては必要な能力だろう。
「春馬くん。はいこれ。」
桐原さんは、雪乃の言葉を聞くなり俺に栄養ドリンクを渡してくる。
桐原さんも桐原さんでとても気遣いができて、用意周到。
さりげなくフォローしてくれるので、とても助かっている。
「ありがとうございます。」
こういうちょっとしたところに桐原さんの性格が出ていると思う。
「それより春馬くん。」
「?なんです?」
「その........急で申し訳ないのだけど、私のこと名前で読んでくれない?」
「へ?」
予想外の提案だった。
俺にとって、桐原さんは師匠で、年上で。
何より、名字呼びは桐原さんからの提案だったからだ。
「どうしてですか?」
「私達って、もうかれこれ5年くらいの付き合いじゃない?だからそろそろ名前呼びでもいいかなって。それに........」
桐原さんは含みを持たせて小さく、でも確かにいった。
「2人が仲いいの見てると........うらやましいなって......」
その一言で、俺は納得した。
桐原さんは高校1年生でアイドルになった。
俺の想像にはなるが、多分あまり学校にも行けてないし、友達もたくさんいたとは考えにくい。もっとも、桐原さんが普通の子だったら、友達100人も夢じゃなかったかもしれないが。
まあ、要するに。
桐原さんはそういう関係に憧れているってことだ。
「わかりました。雫さん。」
「呼び捨て。」
「へ?」
「よ・び・す・て。」
圧がすごい。
でも、年上の人に呼び捨てはちょっと..........
「.................」
「し、雫//。」
「ッ!なに?春馬。」
圧に負けてつい呼んでしまったが.......
やばい。眩しい。目が......目がああああああ!
桐ごほんごほん雫は当然ながら容姿が整っている。元アイドルだしね。
そんな雫が俺が呼び捨てで呼んだ瞬間にパァッ!!って花が咲いたような笑顔を浮かべた。
こんなの可愛すぎてみてらんねぇ。
しかもドサクサに紛れて俺のこと呼び捨てにしてるし。
雫は、大人びていて冷静なイメージが強いのだが、こういうギャップがすごくかわいい。
これももともと雫が人気だった理由のひとつである。(春馬ペディア参照)
そんなふうに俺と雫がイチャイチャしてると
「春馬。」
雪乃が俺を強制的に自分の方に向かせた。そして呼び捨てで呼んできた。それに俺は......
「どした?」
「なんで照れないの!」
「だって慣れてるし。」
「だったら........」
何を思ったのか、雪乃は抱きついてきた。
いやなんでだよ。
「雪乃、離れてくれ。」
「なんで?もしかしてドキドキするから。」
そういって雪乃はからかってくるが......
「ああ、そうだよ。ドキドキしてどうにかなりそうだから離れてくれ//」
「! ふ、ふーん。そうなんだぁ。」
そういって雪乃は抱きついていた手を離す。
その顔はさくらんぼのように真っ赤に染まっていた。
「ふたりとも。」
そんなふうに戯れていると、雫から声がかかった。
それと同時に気づく。
眼の前にどんと構えられた。
重厚そうな扉の存在に。