3. あなたは..........
「こんにちは。Utafanマネージャーの桐原 雫と申します。」
扉の先にいた女性に、俺は固まっていた。
「春馬!紹介するね!私のアシスタント兼マネージャーの...........」
「もしかして.......桐原さんですか?」
雪乃が言い終わるより早く俺はその疑問を口に出していた。
「その声は......もしかして春馬くん?」
彼女、桐原さんは顔を上げると、俺の顔を見るなり笑顔を向けてきた。
「本当に春馬くんだった!一昨日ぶりだよね?」
「そうですね。あのときはお世話になりました。」
「え?え?へ?」
「大丈夫よ。春馬くんには恩があるしね。」
「あんなの気にしなくていいのに.........」
「そういうわけには行かないわ。私は君がいたから立ち直れたんだから。」
「ちょっと〜!」
俺が桐原さんと話していると、雪乃が大声を出して妨害してきた。
「なんだよ雪乃。」
「なんだもなにも二人は知り合いだったの!?」
雪乃は困惑した様子で俺達に向かって声を張り上げる。
何をそんなに慌てているのだろうか。
それはそうとこの世の中以外に狭いものだ。だって..........
「桐原さんは、俺がアイドルのことについて勉強するときに、一番に声をかけていろんなことを教えてもらったいわば先生だからな。」
そう。桐原さんは、俺の持つアイドルの知識の基礎を築いた人である。
あれは、まだ俺が本気で迷いなく雪乃をアイドルにしようとしていた時代。
◆ ◆ ◆
「俺の師匠になってください!」
中学二年生。
俺は、雪乃をアイドルにするという夢のために暗躍していた。
数々のアイドルライブを見て、ダンスや振る舞いを研究していた。
その中で、ひときわ目立つアイドル。その人こそ.........
「君、何を行っているの?」
当時の超人気アイドル、星宮 雫であった。
◆ ◆ ◆
「俺にアイドルになるための知識を教えてください!」
「?よくわからないけど君がアイドルになりたいの?」
星宮 雫の握手会において。
今までためてきた大量なお小遣いの半分を消費し、長い時間星宮雫と話す機会を得た俺は、星宮雫に弟子入していた。
「いえ、俺は幼馴染を人気アイドルにしたいんです。だから、そのために協力していただけませんか!」
この人は、今人気のアイドル。
これまでたくさん努力してきたんだろう。
だからこそ.........俺はその努力を知りたい。
アイドルになるために、いや、自分の夢を叶えるうえで努力は絶対に必要だ。
努力の量、質、方向は違うにしろ、今まで夢を叶えてきた人たちは少なくとも努力している。
アイドルに至っては、そもそもなれない人のほうが多いため、果てしない努力が必要になる。
だから.........
「俺は、どうしても幼馴染の夢を叶えてあげたいんです!お願いします!」
そう言って俺は、手を差し出した。
星宮雫の協力が得られればかなり夢に近づく。
現実的にアイドルになるという夢が見えてくる。
もともとダメ元であったが............
予想に反し、その手には温かい感触が刻まれたのだった。
◇ ◇ ◇
最初は、変な子だな〜って思っていた。
アイドルをやってきて、踏んでくださいとか、蔑んでくださいとか、特殊なお願いは概ねコンプリートしていたと思っていたけど..........
こんなお願いは初めてだった。
「よくわからないけど、君がアイドルになりたいの?」
正直言って、顔がとても整っていて好みだった私は、彼がアイドルになりたいかと思った。
でも、話を聞いてみるとアイドルになりたいのはどうやら彼の幼馴染らしい。
まさか、幼馴染とはいえ他人のためにここまでする度胸があるなんて.......
少しびっくりした。
「俺は、どうしても幼馴染の夢を叶えてあげたいんです!お願いします!」
そういう彼の瞳はどこまでも真っすぐで。
本当のことを話すと、私は彼に見とれていた。
もちろん善意として応援したいという気持ちもあった。
彼の心からのお願いに、叶えてあげたいと思ったのも本心だ。
だけど..........
何より、彼ともっと関わっていたいという本能的な感覚があって........
私は、気づけば彼の手を取っていた。
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