1. プロローグ
「春馬!絶対私をアイドルにしてね!」
それは、俺がまだ幼き頃にした大事な大事な約束。
◆ ◆ ◆
「ふぁぁ〜。」
朝の寝覚めというのは非常に大事だ。
このときの気分によって、今日一日の気分が決まると言っても過言ではない。
心地よく起きれれば今日一日機嫌よく過ごせるし、逆に起きてもきつかったら今日一日曇り模様。
だが...............
「雪乃...............。」
今日の俺は、そのどちらでもなかった。理由は単純。大昔の夢を見たからだ。
可香谷 雪乃。
それは俺の幼馴染である。
俺の初恋の人であり、大事な約束を交わした相手。
雪乃は、俺たちが小学6年生のときに他県に引っ越してしまった。それからは連絡を取り合っていないが、元気にしているだろうか。
あれからもう7年がたった。
俺は今、地元の大学に通っている。そこそこ偏差値の高い学校で、俺の偏差値的にもかなり絶望的で、高校のときは一生懸命勉強したものだ。まあ............
「はぁ、理想見過ぎだよな。俺。」
俺、絲鞋 春馬がいい大学に入ったのも、一生懸命勉強したのも結局は雪乃のためなのだ。
雪乃をアイドルにするという約束。その約束を俺は律儀にも守ろうとしている。
雪乃が引っ越していくとき、
「春馬!私、絶対帰ってくるから。だからまた会ったときは、私をアイドルにしてね。」
「ああ、約束するよ。」
「うん!約束!」
雪乃の小さい頃からの夢はアイドルになることだった。
だから、その時の俺は本気で雪乃をアイドルにしてやろうと思っていた。
そのために一生懸命勉強した。勉強もアイドルについての知識も。
アイドルを生み出す時点でアイドルの知識は必須。
いい大学に入って就職できれば、アイドルになるための資金も稼げる。
そう思っていた。いや、今も思っている。
「いつまでも引きずっているべきじゃないのかもな。」
高校生になってから、アイドルを生み出すということは現実的ではないと理解した。
それから今日この日まで、何度諦めようかと考えたことか。
でも、俺は諦めきれずにいる。
あのときの雪乃の笑顔を思い出すと、どうしても放り出す気になれない。
雪乃は帰ってくるのか。
はたまた俺のことをおぼえているのかすら怪しいというのに。
「学校いかなくちゃ...........」
うじうじしても仕方ない。雪乃のおかげでいい大学に入れたのは事実だし。
雪乃が帰って来なくても、いい大学に入って安泰に暮らせばいい。なにも俺の未来は閉ざされたわけではないのだ。
◆ ◆ ◆
俺は、学校の近くに一人暮らしをしている。
個人的には実家ぐらしのほうが良かったのだが、学校の位置的に実家からは通えないと断念したのだ。
そのため、毎日3食自分で作っている。
今日の朝ご飯はフレンチトーストだ。
ボウルに卵と牛乳そして砂糖を入れてかき混ぜる。今日は朝の夢のせいでボーっとしてしまって、砂糖を入れすぎたような気がするがまあいい。甘い分には構わないからな。
最後にパンをさっきのもとにつけてフライパンで程よく焼く。
俺の部屋いっぱいに甘い香りが広がる。
俺はそのパンをさらに乗せ、椅子についた。
「いただきます。」
俺は、ひとり手を合わせ、朝食を食べ始める。
うん。我ながらいい出来だ。いつもより少し甘いが、それもまた一興だろう。
フレンチトーストを食べ終え、俺は私服に着替える。
バックに参考書と筆箱、お菓子や水筒などを入れ、窓の戸締まりなど確認する。
「よし、いくか。」
そういって靴を履き、玄関の持ち手に手をかけたとき............
ピンポーン
インターホンが鳴った。
このまま出てもいいのだが、万が一押し売りや不審者だったら嫌なので、俺は渋々靴を脱いでインターホンに出に行く。
はあ、今日はついていないな。
「はいはーい、どちらさ...........」
言葉を失った。世界の時間が止まったような感覚だ。
なぜなら............
そこに写っていたのは、ずいぶんと大人びたようすの可香谷 雪乃その人だったからだ。
前言を撤回しよう。
今日の俺は.............ついてるのかもしれない。
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