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08.アデルと私

「きゃっ」


 道が悪いのか、馬車はときどき跳ねるように揺れる。私は手にしていた指輪を落としそうになって、慌ててぎゅっと握りしめた。

 むき出しのままで持っていると、また落としそうで危ない。残念ながら、額縁に一緒に押し込んでいた革紐はボロボロになっていたので、指輪を指にはめておくことにする。あの頃は人差し指でも少し余るぐらいだったのに、今は小指がちょうどいい。赤い石が目立つので、内側に回して隠しておけば、シンプルなピンキーリングにしか見えないはず。石が指輪の土台に埋め込まれているようなデザインで助かった。


『ねぇ、アイリ。少しだけかくれんぼをしない?』


 アデルは、よく、かくれんぼで遊びたがった。

 人見知りをするのか、不思議と私以外と遊ぶどころか会おうとさえしないアデル。その結果、遊ぶときはいつも二人だったから、どちらかが鬼でどちらかが隠れ役だった。


『アデル、いつもどんな場所に隠れているの?』


 アデルはかくれんぼが上手で、彼女が隠れるときは決まって、その姿を見つけることができなかった。待ちきれなくなったアデルが、隠れ場所を移動するときにしか、私はアデルを見つけられなかったのだ。


『内緒。でも、アイリは目が良いから、いつか見つけちゃうかもしれないね』


 そう言って笑うアデルは、自分と同い年とは思えないほど、大人びた表情を見せた。


(そういえば、アデルは香水もつけてたっけ。だから余計に大人っぽく見えたのかも)


 アデルとよく遊んだ6歳の頃、香水なんてものの存在を知らずに、不思議な匂いのする子だな、と思っていた。かくれんぼをするときに、一際その匂いを感じたから、私が見つけるのを待っている間に、植え込みに咲いていた花の匂いが移っているんだろうと。


「あれ?」


 思い出を懐かしく反芻していた私は、首を傾げた。

 アデルが隠れていたときはともかく、鬼役で私を探していたときも、その匂いが強くなっていなかったっけ? 茂みに隠れているときにも、小さな足音とあの香りがして、アデルが来たんだと息を潜めた記憶がある。


(隠れ終わるのを待って十数えている間にも、香水を付けなおしていた、とか? 隠れているときも暇で香水を……?)


 だとしたら、相当なおしゃれさんだ。

 街にいた他の子たちと一線を画すような、大人びた雰囲気の子だったけれど、それこそ大商人とか貴族とかの子なんだろうか。

 どちらにしても、彼女に選ばれて一緒に遊んだあの頃は、そんなこと考えもしなかった。他の子じゃなくて、私を選んでくれたっていう喜びも大きかったし。

 ただ、遊ぶのが二人きりだったから、かくれんぼをするにしても、一緒に隠れ場所を探してくすくすと笑いあう、なんてことができなかったことは残念だった。


(考えてみたら、アデルについて知っていることって、少なすぎるかも)


 とりあえず結婚前に逃亡することばかり考えていたけど、アデルを探す手がかりが少なすぎると気づき、私は肩を落とした。


(街に戻れば、誰か覚えている人がいるかしら? あれだけ綺麗な顔をしていたのだし、きっと大丈夫……よね?)


 少しどころではない、大きな不安を感じ、私は大きなため息をついた。

 そういえば、一度だけ、アデルが大人数人に囲まれているのを見た気がする。あのときは、確か、アデルが隠れ役で……


「っ」


 ずきり、とこめかみが痛む。慣れない馬車で緊張して体がおかしくなっているんだろうか。あの使者の言う通り、少しだけ寝ておこう。相手の邸についてからも、やっぱり緊張するだろうし、今のうちに体を休めておいた方がいいよね。

 私はゆっくりと目を閉じた。



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