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46.「おめでとう」を深読みするな

「あ」

「お?」


 昼食後、散歩に出た私が遭遇したのは、残念ながらリュコスさんではなくミーガンさんだった。


「こんにちは。収穫ですか?」

「あぁ、夕食に使おうと思ってな」


 庭園ではなく菜園で、トマトを3つばかり捥いで手に持って立っているだけなのだけど、ミーガンさんがそれをやっていると、トマトがすごく小さく見える。


「疑問だったんですけど、ここにいる人数を考えたら、材料が少なくないですか?」

「……あぁ、そうだったな。無事に主は本懐を遂げられたのだったな。おめでとう」

「っ!」


 さらりと祝福されると、無事にライが私の血を吸ったことに対してなのか、それともライと体の関係を結んだことに対してなのか、判断できなくて困る。いや、ミーガンさんのことだから、裏はないはず、うん。

 私はほんのり熱を帯びてしまった頬を手で覆いつつ、本題に戻ることにした。


「え、っと、そのことはいいですから、えぇと、そう、食事のことです」

「あぁ、ここの食材のことだったな。基本的には二人分だ。無論、来客があればその限りではない」

「……え」


 予想よりずっと少ない人数を答えられ、私は続ける言葉を失う。

 二人ということは、私とライの分しか作っていない、ということに他ならない。以前、リュコスさんは自分で調達するという話を耳に挟んだから、私たち二人に加え、ミーガンさんとジェインで四人分と思っていたのに。


「ミーガンさんとジェインは、どうしているんですか?」

「ジェインのことは主から聞いたか?」

「はい、傀儡と呼ばれる存在ということは聞きました」

「なるほど」


 ミーガンさんは、手を止めて大きく息を吐いた。まるで、やるせなさをやり過ごすように。


「傀儡は生きているように見えて既に死んでいる存在だ。食事も排泄も不要な行為だ」

「え、それならどうやって」


 なにがしかのエネルギーを取り込まないと、動くことはできないんじゃないか、そう考えて私は疑問を口にする。けれど、続く適切な言葉が見つからない。「どうやって生きているのか」「どうやって動いているのか」どちらも不適切な気がして。前者は、死者だという傀儡の定義に対して、後者は人間にしか見えないジェインに対して使ってしまってはいけない気がして。


「普通は外でうろついてるのと同じように、耐久力が落ちれば端から崩れていく、いや、腐り落ちていく、というべきか」

「……」


 想像して思わず口元を手で覆った。そんな私の様子に気がついたのか、「女性の前で言うべきことではなかったな」とミーガンさんが謝罪してくる。


「いえ、大丈夫です。おそらく、ライの傍にいるためには必要な知識でしょうから。ミーガンさんも、私が知っておくべきだと思ったから、教えてくれたんでしょう?」

「……主は幸せ者だな」


 だから、そういうセリフを、ちょくちょく挟むのはやめて欲しい! ライがずっと私に惚れていたとかいう話を思い出すから! 照れるやら恥ずかしいやらで、なんだかいたたまれないから!


「話を戻そう。ジェインが朽ちない理由は、彼女を傀儡にした当時の当主の手によるものらしい。詳しいことは知らないが、特別製の傀儡なのだろう」

「それなら、ミーガンさんは?」

「うむ?」


 ミーガンはその青色の瞳をぱちくりさせた。


「そもそもミーガンさんって、何歳ぐらいなんですか? 外見は以前に会ったときから変わらないように思うんですが」

「主以外の男に興味を持つのは、あまり褒められたことではないな。後で主からお叱りがありそうだ」

「い、いや、別に、ライはそこまで狭量じゃない……ですよね?」

「どうだろうな。何年も直接会うことを禁じて離れたまま、あれだけの熱量を抱えていたのだ。心を通じた今は、他の男に関心を向けるだけでも嫉妬の対象になるだろう」

「なるだろう……? いやでもだって」


 そこまで嫉妬深い? いやそんなことはないよね?と自問自答してまごまごする私を見ていたミーガンさんが、ふ、と口元を笑みの形に引き上げた。


「まぁ、アイリ様の疑問に答えるなら、『自分も死者のようなものだから、そもそも年齢の概念を当てはめていいか分からない』となるか」

「え、別に幽霊とかじゃないですよね?」

「そうだな。見ての通り実体はある。まぁ、詳細は省くが主とは魂の契約を交わしているから、主を裏切ることはない。そこは安心していいだろう」


 魂の契約。なんか、聞くだけで物騒というか不穏な単語なのだけれど、これ、詳しく聞いたらドツボに嵌まるやつですよね。私もそろそろ学習してる。予備知識とか覚悟とかなしに深く突っ込むと、とんでもない精神的衝撃を受けるってね。ジェインの件がまさにそれよ。


「あぁ、リュコス殿のことならご心配なく。食の好みが偏っているから自分が調理する必要はないだけだ。彼は紛れもない生者であるがゆえに」

「……そうですか」


 なんかライとの関係に対する揺さぶりと、想像以上の真実に、精神的にくたくたになった私は、もはや頷くことしかできないでいた。色々と一遍には消化しきれないわ。



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