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22.寿命を延ばしてやった

(相変わらず美味しくない……)


 そんなことを心の中で呟いてしまうが、本当は逆だ。お昼ご飯は美味しい。そもそも、村にいたときのお昼ご飯なんて、間引きした野菜を煮たスープとか、その辺で捥いだ果物とか、ひどいときは水だけだった。それを考えると、今日、私の目の前にあるリゾットにサラダ、飾り切りされたリンゴはご馳走レベルだろう。


「お嬢様、紅茶のお替りはいかがですか」


 斜め後ろにジェインが控えているだけの、ぼっち飯でなければ。

 いや、いいのよ? 別にぼっち飯でも。でも、相変わらず何を考えているのか分からない無表情なメイドに監視されているような状況でなければ!

 やっぱり、美味しい食事って、周囲の環境(シチュエーション)が大事なんだな、と嫌でも分かる。


「やっほー、アイリちゃん。ランチの後は暇かな?」


 葬式のような昼食をようやく終えようとしたところで、ノックもせずに食堂に飛び込んできたのは、午前の真面目仕様をどこかに落っことしてきたリュコスさんだった。


「しなければならないことはないけれど、読書にふける予定よ」

「うん、じゃぁ、ちょっと散歩に行かない?」


 なんだか話を聞いてもらえる感じがないのを、どうしたらいいんだろうか。


「午前中は慣れない採寸で疲れたから、一人でゆっくりしたいの。遠慮しておくわ」

「そんなこと言わないでさー。オレっち、大事なこと忘れてたんだよ」

「……何を?」

「覗いたことをご主人様にバレたら、殺されるって☆彡」


 もういっそのこと殺されてしまえばいいのでは? という言葉はさすがに飲み込んだ。そこまで物騒なことを願っているわけではない。でも、それなりの制裁は受ければいいとは思ってる。


「だから、オレっちと散歩しない?」

「『だから』と付ける理由が分からないわ」

「ご主人様に黙っててくれるなら、オレっちが情報流すからさ☆彡」


 その口調の軽さに思わずジト目で見てしまった私は悪くない。どこに自分の保身優先で主の情報を洩らす使用人がいるんだろう。いや、ここにいるんだけど。


「そういう交渉持ち掛けてくることも、バレたら殺されるような話にならないの?」

「そっちは別に? アイリちゃんに関わる話でなきゃ、ご主人様は寛大だし」

「それはそれでどうなのよ……」

「ま、いいじゃん。アイリちゃんだって、知りたいことがたくさんあるでしょ? だから」


 私はリュコスさんの前に手のひらを向けて、止まらないお喋りをやめさせた。


「わかったわ」

「じゃ、後で――――」

「しばらくライに話すつもりはない。でも、今日は休みたいから、リュコスさんと散歩はしない。これでいい?」

「えぇと、オレっちの寿命がちょっと延びただけってこと?」

「……そうかもしれないわ」


 私は、あえて否定はしなかった。ライがリュコスさんにとってそんなに厳しい主人なのかなんて知らない。でも、リュコスさんが流そうとしている情報のことも気になる。ライはなぜか秘密主義だから。


(ちょっと、冷静になって考えた方がいいわよね)


 午前中の採寸で、心身ともに疲れている自覚があるので、今は休息をしたかった。



☆彡 ☆彡 ☆彡



「く……、いやでも、一日二冊で抑えておかないと、絶対にもったいない!」


 私は図書室で一人悶えていた。昨日の続き――リグイ国建国記を4巻まで読み終えたところなのだけれど、非常に気になるところで、以下次巻!となってしまったのだ。でも、自分で決めたルールを一度でも覆してしまうと、ずるずるとなし崩しにルール破りが常習化されそうなので、ぐっと我慢する。うっかりマイルールを破れば、一日中この図書室にこもり切りになる自分が見える。ここは我慢。


「あとは、今後の展開を想像して時間を潰すべきよね! うん、それがいい!」


 5巻目に伸びかけた手を引っ込め、私はぐっと拳を握りしめた。

 そういえば、昨日は高いところにあったこの本なのだけど、今日は低い棚に移されていた。


(ライには落ちかけたことは話してないから、ミーガンさんかしら?)


 今度会うことがあったらお礼を言おう、と心に決め、私は後ろ髪を引かれながら、図書室を後にした。

 部屋に戻ると、私は鏡台の前にすとん、と座る。化粧品の類はほとんどなく、そこには両親の姿絵が飾ってある。


「……なんだか、一週間前は考えもしなかった状況なんだけど、とりあえず私は元気よ。お父さん、お母さん」


 ザナーブとの結婚からどう逃げるか。それしか考えていなかったことを考えると、今は考えることだらけで頭がキリキリする。


「ライの勢いに流されたら楽なんだろうけど、ここで流されちゃダメな気がするのよね。直感だけど。……あと、倫理的にも」


 無意識に胸元の指輪をいじったところ、ふと気が付いた。この指輪って、アデルの手がかりになるんじゃないだろうか、と。

 チェーンをたぐり、服の下から引っ張り出すと、指輪をじっくりと見る。銀の台座には、文字なのか模様なのか判断がつかないけれど、ぐるっと彫り込まれているように見える。赤い石には目に見えて分かる手がかりはないけれど、もしかしたら分かる人には分かる何かがあるかもしれない。


(やっぱり、ライに見せてみるべき……?)


 どれだけ私が見つめても、赤い石が深く濃い闇を内包するように、怪しい輝きを湛えているだけだった。



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