九話 襲来の黒
-サルベルス帝国 指定外戦域-
雑兵を処理し、制圧を進めるアッシュたち。
作戦開始から30分程度経つが、余りにも呆気ない戦況に戸惑う者もいた。
「アッシュくん、どうやら他の戦場を似たような状況みたいだよ」
「ドレイク以外も特記戦力を出してたみたいだし当然かもしれないが…違和感があるな」
違和感。
大々的に戦争を望むと言っておきながら、これ程までに呆気ない状況は余りにもギャップがある。
当然その違和感を多数は覚えていたが、一部の人間は覚えず、むしろ一方的な戦況に調子づいていた。
《このまま敵本拠地まで制圧しちまおうぜ!》
《おいバカ!まだ命令は出ていないぞ!》
オープン回線で提案した傭兵は、制止の声を振り切って先行した。
結果、彼は堕ちた。
爆発音が響いた。
赤黒いエーテルの弾丸が先行した傭兵のステラフレームを捉え、貫いていた。
《なっ…!?敵は何処だ!?…ぐぁ…!?》
ドンッ、ドンッ、と連続して爆発音が響く。
紅黒い魔力の残光。
アッシュは前の戦場で、その似た光を見ていた。
【敵本陣のエーテル反応を解析しました…デッドフェイスです】
フェルの報告を聞き、アッシュはすぐさま友軍に情報を共有し警戒を強める。
「ここに来たか…!」
「とんだ貧乏くじだよ!」
大物に勇み戦果を上げようとした傭兵もいたが、無謀を犯した者はすぐさま撃墜される。
《全機防御体制を取れ!》
今回の総隊長ベルガーが命令してすぐ、『デッドフェイス』の暴威は放たれた。
紅黒い閃光と化した『デッドフェイス』が、大剣を片手に突撃。その余波で8機のステラ・フレームが損傷し行動不能になった。
「おいおい…なんて出力してんだい!?」
「デタラメだよな!本当に!」
《作戦目標を更新、最優先目標はデッドフェイスの撃破!敵本陣の制圧はその後だ!》
ベルガーによる迅速な判断もあり、混乱は多少治まったが圧倒的な力に絶望する兵も少なくなかった。
《ヒィ!来るな!来るなぁ!!》
《巻き込まれる…!?!?うおああああああ!!!》
通信にも乗る悲痛な叫び。
1、2、3と破壊の化身留まることなくドレイク軍のステラ・フレーム撃墜していく。
《全軍へ通達!我々でデッドフェイスは対処する!奴は特記戦力級だ、被害を抑えることを最優先にしろ!》
『剛将』ベルガーが通達してすぐ、彼の機体『シグルド』は僚機『ヴィガー』を3機連れデッドフェイスへ突撃した。
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「よもやここまでの力とは…侮っているつもりはなかったが想定以上だったな」
「ドレイク社の特記戦力『剛将』ベルガー、評価通りの対応の速さだな」
「『評価通り』とはな…光栄と言うべきか見くびるなと言うべきか判断に困るが、その物言いは後者のようだ」
数度の衝突の後、互いが様子を見合う瞬間の会話。ベルガーは『評価通り』と言う言葉を頭の隅に残し、僚機と共に攻撃を再開した。
緻密に練られた戦術連携。
一分の隙もない攻撃に、Bランク相当の傭兵でも直ちに撃墜されているであろう。しかしその対象はデッドフェイス、その黒い機体は軽々と猛攻を躱し、レーザー魔法で反撃すらしてみせる。
「流石と言うべきだろうな、隙のない連携だ」
「ほう、評価通りではなかったのか?」
デッドフェイスに乗る男は静かに、唇で弧を作る
「ああ、評価通りに優秀だ」
デッドフェイスの乗り手が言った直後、戦域上空から多数の物体が飛来。着地した物体からベルガー達が見た事の無いステラ・フレームが展開した。
「これは…結社の新型か!」
見た目からライフルやブレードを武装していることはわかるが、そうした装備を含めて一切データにない機体。
特徴的なのは円筒状の頭部。
そして降ってきたステラ・フレームの見た目が、完全に同じ事。
《報告、他戦域にも同一の機体が多数出現!》
「…なるほど、聞いた事は無かったが結社製の量産機と言った所か?」
「その通りだ」
「なぜ、そのようなものをテロリストに貸し出している?」
「答える義理はない」
デッドフェイスに乗る男の冷たい声から、これ以上の質問には一切答える気がないことはベルガーもすぐにわかった。
デッドフェイスという突出した脅威の対応は必要だが、今この戦場には新型の量産機という未知の脅威がある。
ベルガーはその対処の為、デッドフェイスを単騎で対応せざるを得なくなった。
「キース、全軍の指揮をお前に委ねる。グリフとヘンリーも連れてあの量産機共の対応に入れ」
「っ!?…了解!」
ベルガーの忠実な副官は、その信用から異を唱えることなくデッドフェイスの周辺から離脱する。
デッドフェイスは離脱する機体を追いかけることもせず、シグルドと相対したまま。
「追いかけんで良いのか?」
「必要ない、俺の目的はお前だ。『剛将』」
『デッドフェイス』の紅いバイザーが、強く光りブースターが火を噴いた。
ガギンッ、と金属のぶつかる音が響く。
シグルドの持つアサルトブレードと、デッドフェイスの持つ大剣がぶつかった音だ。
衝撃が響く。
機体がすれ違い、翔んだ先でぶつかり、激しく衝撃波を出しながら火花を散らす。
赤と黒の、実弾と魔法が入り乱れる応酬。
2機の周囲はエーテルと弾丸の暴風域と化していた。
────その横で、アッシュ達の戦場もまた新型の量産機により混乱を強いられた。




