五話 斬姫
本日2本目の投稿でござる。
-宗主国ヤマト 指定戦場-
デイブレイクとG・ディボーターが戦っていた頃、両社の特記戦力3名は上空で激闘を繰り広げていた。
「あちゃ〜、ありゃバケモノっすよ先輩」
「我々はそんなバケモノと戦う必要がある訳です。気を引き締めていきますよ」
明るく、砕けた口調の女の声は『序列12位』、『ピスケース』のパイロット、リーン。
神経質な声で話す男の声は『序列11位』、『アクアリス』のパイロット、レントだ。
2人とも名の知れた傭兵で、Aランクの実績もある実力者だが、その2人を持ってしても『ミコト』という人間はバケモノと言わせしめていた。
2人で連携を取り、設置式のトラップやエーテルミサイル、魔法によるホーミングレーザー等、あらゆる攻撃を行うがミコトの駆る『ムラクモ』は止まらない。
その身の刃であらゆる攻撃を斬り伏せ、更には遠間から刀を振るう。
「…『一輪』」
『一輪』、刀を横一閃にして繰り出される、飛ぶ斬撃。斬り裂く力を宿したエーテルが飛翔し、アクアリスへ迫る。
「ッ!?その距離から届くとは、実際に対面すると恐ろしいですね」
「データより50M以上は飛んでるっすね!」
間一髪の所でアクアリスは回避、すぐさま攻撃を再開しながら、距離の維持を続ける。
「データとの相違については凡そ理解しました。リーン、私があの斬撃は持ち受けます、貴女は射撃に専念してください」
「了解、弾をばら撒くっすよ!」
ピスケースは攻撃の密度をさらに上げる。
両手のライフル、腰のランチャー、肩のミサイル……そして、『背部のビット』
「『チェインビット・ピスケス』、展開っ!」
オールレンジ兵装、ビット。
自律機能があり自動で敵を追尾、エーテルによるビーム射撃や取り付けられたブレードで攻撃する機能を持っている。
そして『ピスケース』の展開したビットは名を『チェインビット・ピスケス』。
ピスケース用に開発された4基のビットで、通常のビットより大型の物になっており、連結する事で出力が上がる機能を持つ。
上下左右、四方を囲むようにまとわりつくビットの射撃と、正面からくるエーテル兵器の銃火がムラクモに迫る。
「…少し面倒」
ミコトが呟いた瞬間、ムラクモは大きく後退しながら『一輪』を放つ。ビットの射撃は虚空を撃ち、他の攻撃は『一輪』に呑み込まれ相殺となった。
「…『双葉』」
続く『双葉』、『一輪』と同じように飛ぶ斬撃を二刀で行い、交差した斬撃を飛ばす技。
交差した斬閃はピスケースに放たれた。
「させませんっ!『アブソーブ・アクエリアス』!」
『アブソーブ・アクエリアス』
深い青色のエーテル球体を展開する、『アクアリス』の専用装備。
この球体には攻撃を吸い寄せ無力化する性質に加えて、限界はあるがエーテルを吸収し、自機のエネルギーへと転換する能力を持つ。
顕現した球体は交差したエーテルの刃を吸収し、アクアリスのエネルギーへと変換される。
「素晴らしい魔力です!私の力として活用させていただきます!」
アクアリスが青白く輝き出力が増大し、そのエネルギーのまま魔法陣を展開した。
「リーン、一気に攻めますよ!」
「了解、集中砲火っすね!」
追尾するミサイルにホーミングレーザー、高出力のビーム、そして展開した魔法陣から放たれる無数のエーテル弾に連結したピスケースのビット。ギアの上がった射撃攻撃の数々。
対するムラクモは静止し、刀を振るう。
「…『散花』」
ムラクモを覆うように重たく鋭い3本の斬閃を放つ技、『散花』。その筋に飛来した攻撃が触れた瞬間、エネルギーが拡散され、エーテルの花弁が舞い散る。
「…終わらせる」
ムラクモの双眸が光り、音を置き去りにして飛翔する。
「ほんとに私達と同じ生き物なんすか!?」
「ランク上は同じAランクのようですがね!」
1体1であれば既に死んでいる。
その力の差をレントとリーンは否応なしに理解させられる。どれだけの攻撃を浴びせようが、その全てを斬り伏せて猛追してくるムラクモの存在感、その圧力は、死神と対面しているのかと錯覚するほどだ。
死神は迫る。
そして手始めにとでも言うように、刀はアクアリスへ振るわれた。
「…『枝垂花』」
放たれた神速の4連撃、『枝垂れ花』。
刀は音もなく振るわれ、アクアリスの手足を斬り落とした。
「なっ…!?」
「先輩っ!!大丈夫っすか!?」
そして死神は残る標的への刃も止めない。
「…『咲月』」
「やばっ!?」
すれ違いざまに振るわれる5連撃は『咲月』。
ピスケースはビットを展開して迎撃しようとしていたが、ムラクモは4基全てを斬り払い、一刀でピスケースを斬り捨てる。
ピスケースは腰から下を失い、墜落を始める。
「いやぁ……ホント化け物っスね…」
「命があるだけ良かったですね…離脱しますよ、リーン」
「了解っす、次は絶対に」
その身に刃を振るわれた2人は幸いにも命はあり、離脱術式で退散。
機体は光の粒となり、ストレージ内のデータへ変換された。
「…終わった」
敵の主力を単独で相手取り、圧倒して見せたミコト。他の戦局もアッシュやマークの存在もあり押されていたアドバンス社は程なくしてリザイン、重工とアドバンス社の戦争は幕を閉じた。
◇
-宗主国ヤマト 指定戦場-
戦争の終了が告げられ両軍が撤収する中、突如として遥か上空から紅黒い閃光が迸る。
「っ!?シールド出力、最大!」
【障壁術式を拡張展開します!】
それが攻撃だと気付いたアッシュとフェルは最大出力で防御を展開。自身の周辺に居る機体も覆うように、ドーム型のバリアが形成された。
その直後、上空で拡散した紅黒いエネルギーの一部がデイブレイクの展開したバリアと衝突し大気を激しく揺らす。
超高出力のエーテル攻撃は戦場へ無差別に降り注ぎ、重工、アドバンス社関係なく被害を与えられた。
「フェル、この反応は…!」
【はい、黒い機体と一致しています!】
通常は起こりえない、戦闘終了後のイレギュラー。数ヶ月前にアッシュが遭遇した、『黒いステラ・フレーム』。今行われた大規模な攻撃は、エーテルの反応を確認すればその機体が行ったことが見て取れた。
《ここに宣言する》
複数の声が広域音声で戦場に響く。
《我々は真の戦争を望む者》
《ルーラーによって管理された、まやかしではなく》
《殺し合い奪い合う、真なる闘争を望む者》
《我ら深淵を望む者》
《偽りの戦争に興じる愚者に、真の闘争を強いる者なり》
高らかな宣言が終わり、黒いステラ・フレームが地上に舞い降りる。
黒く鋭く、禍々しさを感じる造形。
手足は獣の爪のような形をしている。
装備しているのは先程閃光を奔らせた長銃身の大型ランチャーと、大剣を背部にジョイントしてある。そして左腕、肘から手首にかけては小型のキャノン砲が装着されている。
「対象、戦域のステラ・フレーム」
黒い機体のパイロットの声が響き、背中の大剣を右手で構え、ディボーターへと斬り掛かる。
「今すぐソイツから離れろ!」
アッシュは叫び、斬られようとしていたディボーターと黒いステラ・フレームの間に割って入り、抜刀したブレードで攻撃を防ぎ、鍔迫り合いになる。
「お前、一体何者だ?」
「『デッドフェイス』」
「何故こんな事をした」
「先程の音声の通りだ」
冷たく、無感情にも思える男の声。
『デッドフェイス』。アッシュが過去に戦った黒いステラ・フレームで、逃げられてしまった相手。
その時も今回と同じ様に申請戦争の直後に襲来して来たが、その時はここまで大規模な破壊行動は無く、デイブレイクと1対1で戦うだけだった。
「テロリズムという事だね、デッドフェイスとやら!」
「その通りだ」
「ならばその歪んだ性根を、私が叩き直してやる!」
デイブレイクとデッドフェイスが鍔迫り合う中で、マークはデッドフェイスにバスターのランチャーを向ける。
「フッ!!」
「っ!?マーク、下がれ!」
デッドフェイスはデイブレイクのブレードを流し、神速でバスターへ接近。
バスターはデッドフェイスの左手で頭を掴まれてしまう。
「ぐっ!?」
「脆いな」
「なっ…!?ぐあああああああああああ!!!!!」
デッドフェイスは頭ごと機体は持ち上げながら腕部の小型キャノンがゼロ距離で胴体へと攻撃を加え、最後には地面に強く叩きつけた。
「次は貴様だ『デイブレイク』」
紫色に光る双眸を、デイブレイクに向けて布告する。
「そう簡単に…!?」
「遅いぞ」
布告してすぐさま、デッドフェイスはデイブレイクへと迫り、大剣を振り下ろした。
「当たるか!」
「遅いと言っている!」
「くっ!?」
デイブレイクは振り下ろしは回避したが、刃を返し振るわれた横薙ぎを回避し切れずにシールドで防御。速く重たい一撃をシールドで受け、ダメージは防いだが機体は大きく飛ばされてしまう。
「なんてパワーだ…シールド越しにこれだけの衝撃、前回の比じゃないぞ」
【実力を隠していたのか、強くなったか…いずれにしても、ここは離脱した方が良いでしょうが……】
「そう易々と逃がしてくれる雰囲気じゃなさそうだな……」
シールドを新しい物に変えていなければ危なかった。アッシュがそう思う程力強く、重たく、そして速い一撃。その元凶は追撃の為にデイブレイクへと迫り、再度その剣を振るおうとしていた。
「『デイブレイク』、この程度なのか?」
「お生憎と、俺はそこまでバケモノじみた強さは持ち合わせちゃないぜ?」
「…興ざめだ、死ね」
大剣は振るわれた。上段から片手での振り下ろし。荒々しくも正確で、当たれば即死も免れないであろう一撃。
その刃がデイブレイクに触れたように見えたが、デイブレイクは紙一重の距離でその剣を回避していた。そして大剣を振り下ろしているその隙に蹴りを一撃入れて離脱。
2機の間合いが開いた瞬間、デッドフェイスへと斬り掛かる薄紫の機影。
「…斬る」
ミコトの駆るムラクモだ。
デッドフェイスは高速で放たれる刃を全て躱し、弾きながら後退した。
「桜花十傑、第八位。斬姫か……潮時だな」
戦場に居る最高戦力。
その刃を一通り受け切り、デッドフェイスが判断したのは撤退。
「…逃げるの?」
「目的は達している」
「…逃がさない」
「君は追えないさ、残念ながらね」
その言葉の直後、デッドフェイスは飛翔。
超高速で空を去っていく。
後を追い、ムラクモも追いかけようとしたが、『シノ』から通信が入った。
《ミコトちゃん!お待ちください〜!不明戦力の為、深追いは厳禁です〜!》
「…わかった」
『君は追えない』
デッドフェイスは自分の立ち位置、そして力を理解した動きができる強者だった。
ミコトは十傑という、桜花重工にとって貴重な戦力。まだ重工からして詳細のわからない自分の事を、重工が追わせないと理解した立ち回りだった。
「………」
【アッシュ、大丈夫ですか?】
「…ああ、大丈夫だ」
『デッドフェイス』が去った方向をアッシュは見つめ、左胸に手を当てていた。
ここまでお読み頂きありがとうございました!!
そして、そんな素晴らしい読者様方に、宜しければお頼み申し上げたいことがございまして。
……お気づきかと思います
『評価』、『ブックマーク』更には『感想』という奴です!!
星5評価なんて頂けた日にはもう有頂天。
とても励みになりますし、今後のモチベーションが爆上がりです。
この作品を、面白い!、先が気になる!、また読みたい!そう思ってくださったそこの貴方!
是非、高評価をお願いします!