四話 戦場の道理
時間が掛かりましたがようやく投稿できやしたぜ、本日中にもう一話投稿するので、そちらもお待ちください!
-宗主国ヤマト 指定戦場 桜花重工陣地-
平原に風が通り、ステラ・フレームを優しく撫でる。
時刻は11:45。申請戦争の開始時刻、12:00まで後半刻程。
前日のブリーフィングでも確認をした戦力が一堂に会しており、桜花重工の量産機『ハガネ』、そして今回の傭兵団が駆る機体群が列を成している。
「壮観だな……」
【そうですね……アッシュ、激しい戦闘が予想されます。広範囲を巻き込む魔法や兵器の使用は考える必要がありますね】
「そうだな、気を引き締めるぞ」
そして特徴のある見た目をしたステラ・フレームは3機。
アッシュの駆る『デイブレイク』
アッシュと同じBランク傭兵、マークの駆る『バスター』
そして『桜花十傑』の一人、ミコトが駆る『ムラクモ』
デイブレイクは両肩のシールドを『E-SLD F7』へ取り換えたこと以外に変わりはなく、鞘付きブレードを左手に携えている。
バスターはデイブレイクより大きく、15M|メートル。カラーリングは白がベース。重装甲重武装の機体で、多連装ミサイルや大型ビームランチャー。左腕部に取り付けられた大型の盾も目立つ、半ば要塞のような機体。
反対にムラクモは、デイブレイクより小さく、全長は10M|メートル程度。薄紫色のカラーリングが目立つ。
両腰に二本の刀を携え、両腕部、肘部分を覆うように鋭利な大型ブレードパーツ。両脚先端にも小型ブレードパーツが装着されている。そして背面上部に大型のブレードが二振りジョイントされている、計八本のブレードを装備した完全近接特化の機体で装甲も薄く、かなり高機動な機体に仕上がっている。
『斬姫』の二つ名で呼ばれるようになったのは、この機体の存在が大きい。
「やあ、色男。昨日のブリーフィングじゃ、大して話せなかったな」
「マークか。こうして会うのは昨日で初めてだったな」
「そうだよ。いやぁ、一目見た時から分かったよ、噂のルーキーはキミか!ってね」
マークはバスターの首をデイブレイクに向けアッシュに話しける。
マークの中で最近何かと活躍している男、アッシュはどんな存在なのかと気になっている所であった。
「そ、そうなのか」
「そうとも!!アッシュ、君は顔がいい!!強いヤツ、強くなるヤツは顔もいいんだよ……私のようにな!」
そう豪語する男、マーク。
彼は少々、いや結構暑苦しい性格で、中々に濃い顔をしている。男前である事に変わりはないが、その暑苦しさから距離を取られることもしばしある。
アッシュもその例に漏れず、心の距離を1歩引いてしまうのだった。
「それにしてもミコト嬢…彼女は別格の美しさだな………是非お近付きになりたい………」
「そ、そうか」
隣でそのような事を宣う人物がおり、気が抜けそうになるアッシュだったが、気を引き締め直す。
今回の戦争の指揮を取る桜花の私兵。その隊長機の風切。そしてミコトの叢雲が先頭に立ち、声を高らかにする。
「12:00開戦時刻だ。敵兵力にはホロスコープの機体が想定通り『二機』確認されている。ナンバーズ二機は十傑のミコト殿が受け持つ。皆は他戦力を削り、勝利へ貢献せよ!」
「「「「了解!!!!」」」」
開戦時刻を迎え、ステラフレームは隊列を組み前進を始めた。
「さてアッシュ、行くとしよう!」
「別に俺らはペアじゃないが…行くか」
アッシュとマークもフルスロットルで前進する。ブースターの噴射が平原を叩きつけ、激しい風が起きる。
「我々は作戦通り遊撃、私は前線を押し上げに行くがアッシュはどうする?」
「俺も前線、だな……」
アッシュとマークはシノから「自由に動いて下さい〜」と言われている。
彼らを隊列に組み込んで動かすよりも戦果を期待できるためだ。
「もしや……君もミコト嬢を狙っているのかね!?戦果をアピールするつもりか!?
「どうしてそうなる!?」
「色男がライバルと言う訳だな、俄然燃えると言うもの!!うおおおおおおお!!!」
マークは叫ぶと、バスターをさらに加速させ戦火の最前線へと合流し、戦闘を開始した。
「……なんつうか、元気だな」
【そうですね……ですが、実力は確かのようです。私達も負けられませんね】
「少し充てられてないか?お前」
【さて、何のことでしょう?】
「お前な……。まあいい、今回もサポート頼むぜ、フェル」
【お任せ下さい、アッシュ】
デイブレイクも速度を上げ前線に合流、ファーストコンタクトはアドバンス社の私兵が駆る『ディボーター』。サイズ11M程のアドバンス社が手掛けた量産機だ。
「我ら敬虔なる信者、神に勝利を!」
接敵したディボーターはミサイルとライフルでデイブレイクへ攻撃する。
対するデイブレイクは攻撃を掻い潜り接近。
居合切りで一機斬り伏せた。
「デイブレイクを墜とせ!神に勝利を捧げろ!」
「これだから苦手なんだよなぁ……」
教国の企業『アドバンス・アーキテクト』。
所属する人間は『女神イーリア』を崇めるイーリア教の信者の中でも、とびきり信心深い者たちなのだ。もちろん帝国や王国、ヤマト連合国を含め世界的に信仰されている女神ではあるが、アドバンス社員の場合は異常にも感じられるレベルだ。それはアッシュが重工の依頼を選んだ主な要因にもなるほどだ。
「エーテルミサイル、発射!!」
6人分隊の隊長兵士が号令し、隊の機体が一斉に連装ミサイルを発射する。エーテルで構成されたミサイルは高く打ち上がり、デイブレイクに向けて降下、その間にディボーター達はライフルを連射しデイブレイクを墜としに掛かる。
【座標指定完了、爆破術式を起動します】
「ナイスだ、フェル」
対するデイブレイクは動き出したディボーターの周辺に爆破魔法を発動。エーテルが炎に変換され爆発を起こし、敵機体の動きを制限する。そして上空から飛来するミサイルを地上を平行移動し回避。
体勢を立て直したディボーター達はライフルを構え、デイブレイクへ再度攻撃を試みるがその隙をデイブレイクは与えなかった。
「突破する!」
1機目、ブレードで一文字に斬り撃破。
2機目、逆手に持った左手の鞘で側面を叩き付け撃破。
3機目、勢いを殺さず一回転、流れるように接近しブレードを振り抜き撃破。
4機目、逆手の鞘を叩き付けた後、順手に鞘を持ち替え、上から叩き付けて撃破。
5機目、振り向いた瞬間に急加速、すれ違いざまにブレードで両断し撃破。
6機目、ブレードを突き刺し、蹴り飛ばしながらブレードを引き抜き撃破。
この一連の行動に10秒もかからなかった。
「流石だねアッシュ!これは負けられないな!!」
その様子を横目で見ていたマークはバスターの出力を上げ、ビームランチャーとミサイルを一斉発射。一定間隔で放たれるビームは確実に敵機を貫き、撃破していく。
ミサイルは敵を誘導し飛翔、直撃したものは撃破され、掠めた機体は追撃のビームで撃破されている。
【流石に強いですね】
「ああ、そして我らが最高戦力の方は……」
アッシュはムラクモに目を向けると、既に敵機体の残骸が連なっていた。
肩を、脚を、腰を、胴体を、首を、あらゆる箇所が断ち斬られている。その元凶は留まることを知らず、二振りの刀と、その身の刃全て斬撃を繰り返す。
斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る。戦場を舞うように進むムラクモは、早々に20機を超える戦果。
無双の力のまま進撃している。
だが、それに待ったを掛ける攻撃が2つ。
上空からホーミングレーザーと高威力の照射ビームがムラクモを狙い放たれる。
ムラクモは後退しながら攻撃を回避し、攻撃が来た方向を睨む。
『ホロスコープ』
アドバンス社が抱える12名の特記戦力。
内2名が戦場に舞い降り、ムラクモを見下ろす。
「全く、好き勝手やってくれますね」
「化け物退治っすね、先輩」
舞い降りて来た男女の声。
『ホロスコープ 11位 レント』
『ホロスコープ 12位 リーン』
レントは『アクアリス』。
リーンは『ピスケース』のパイロットだ。
両機ともサイズは12M程。
白金色ベースの色合いをした流線的で、丸みを帯びた造形。アクアリスは水色の差し色、ピスケースは薄い赤色の差し色がある。
それぞれ、エーテル兵器を多く装備しており、両手にビームライフル、両腰にはビームランチャーと起動式のビームソードを装備。両肩部にはエーテルミサイルが装備されている。
2機とも魔法陣を展開しながら、ムラクモにライフルを構えている。
今回の戦場における両社の最高戦力が相見えた。
「…斬り伏せる」
ミコトは呟くと、ムラクモの出力を上げ飛翔。超高速で距離を詰めようとする。対するホロスコープの2機は瞬時に後退、距離を保ちながら射撃を繰り返す。
結果、両陣営の特記戦力3機は遠くへと飛翔していき遠くへと消えた。
「予定通り、だが…」
【高速で接近するエーテル反応2、敵陣営からです】
デイブレイクは接近してくる敵機を確認した瞬間、エーテル反応が増大。
エーテル兵器によるビーム射撃、並行して展開された魔法陣から魔力弾が放たれる。
「エース級か、負けられないな」
「「神に勝利を!」」
デイブレイクは放たれた攻撃を全て回避し、相手を見据える。
到来した2機はディボーターの強化改修型。
『G・ディボーター』
エーテル出力を向上させ、装甲がより堅くなったタイプだ。機動力も通常のディボーターより高いステラ・フレーム。乗ることが出来るのはアドバンス社のパイロットでも良い戦績を残しているエース級、傭兵のランクで言うところのBランク相当だ。
ビームライフル、盾、ミサイル、そしてビームソードと標準的な量産機の装備だが、アドバンス社の機体だけあってエーテル出力、エネルギー効率が良く、高火力のエーテル兵器を連射できる性能となっている。
ランク上ではアッシュやマークと同じ。
油断はできないな、とアッシュは考えながら鞘に刃を纏わせ、二刀流の構えを取る。
「アッシュ、援護は必要かな?」
「必要ない。マークは前線を頼む」
「了解。任せたよ、アッシュ!」
レーダーで状況を確認していたマークは援護が必要かを確認。必要ないと言われたが、アッシュとマークの中で役割がハッキリした。
「俺がコイツらを抑えて」
「私が前線を押し上げる!」
バスターは継続して前線を火力で制圧を続ける。
デイブレイクは加速し、2機のG・ディボーターへ接近を試みる。
「舐められたものだな!Bランク傭兵1人で我々を止められるとでも?」
「大人しく仲間を呼べばいい物を…後悔させてやる!」
G・ディボーター達は連携を取りながら射撃を展開、ホーミングレーザーやエーテルミサイル、魔法術式が混ざった多様な弾幕がデイブレイクを襲う。
「流石に火力が高いか」
【直撃すれば一発でしょうね】
デイブレイクは前進をしながらの回避行動、不規則な立体機動で的を絞らせずに回避を続ける。上下機動、バレルロール、盾で弾を逸らし、そして来る攻撃を斬って見せた。
だがそれだけの事をして凌いでも、依然として距離は縮まらず、デイブレイクは一方的な弾幕を許してしまっている。
【アッシュ、ここは趣向を変えてはどうでしょう】
「それがいいみたいだな」
状況を打破するため、デイブレイクは回避しながら魔法弾の術式を展開、合わせてミサイルを発射しデイブレイクも弾幕を張り、相手の射撃に攻撃を重ね合わせる。
重なったミサイル、エーテルレーザーは閃光と爆風を生み、互いの視界を遮るように煙が立つ。
「そらっ!!!」
デイブレイクは右手のブレードを逆手に持ち投擲。投げ放たれたブレードは煙の中を真っ直ぐに突き抜け、果てにはG・ディボーターの右肩に深く突き刺さった。
「「な!?」」
予想外の攻撃による被弾に、思わず声が重なってしまう2人のパイロット。驚く間に刺さったブレードは光の粒になり消失。
そしてアッシュは、彼らが驚いている間にも次の攻撃へと移る。
「ウェポン、アップロード」
【『ドレイクバズーカ Mk-V』、転装完了】
デイブレイクは先程まで装備していなかった『ドレイクバズーカ Mk-V』をストレージから転送し、右手に構える。
「ナギから貰った『とっておき』、ぶちかます!!」
ズドンッ!!!っと轟音を鳴らし、ナギ特製の『とっておき』が射出される。
正式名称を『拡散誘爆式燃焼砲弾』
「『スプレッドナパーム弾』でもええよ」、とナギは言っていた。
その効果は名前のままだ。
着弾、または近接信管が作動した瞬間に内部の爆薬が拡散され、その後弾頭が爆発。
爆発により拡散された爆薬が誘爆。更には、拡散した爆薬には激しい燃焼を起こす特性があり、爆薬がもし付着してしまえば、その物体に燃え広がる。
そして、ブレードが刺さっていたG・ディボーターは、その爆発の餌食になっていた。
「ぐあああああああ!!!!
「直ぐに離脱しろ!後は私が引き継ぐ!」
半壊したG・ディボーターは火達磨になりながら墜落、パイロットは離脱術式で難を逃れたようだ。
「貴様!!良くも同胞をォ!!!」
ダメージを受けていないG・ディボーターは、デイブレイクへ向け怒りのまま攻撃を放つ。ビーム、エーテルミサイル、あらゆる攻撃が放たれるが、先程のモノと比べると密度もなく余裕があり、デイブレイクは易々と回避する。
「何故だ、何故当たらない!」
「さっきよりも弾幕が薄いんじゃ、当たる訳がねーよ」
デイブレイクは回避しながらミサイル、術式でホーミングレーザーを展開。そしてバズーカを構え動く標的に狙いを定める。
「っ!?」
僚機の惨状を見ていた彼は、バズーカの砲口が向けられたのを見て大きく回避行動を取ってしまう。その結果、別方向から来ていたミサイル、ホーミングレーザーを避けきれずに被弾。致命的な隙をG・ディボーターは晒してしまった。
「仕留める!」
デイブレイクは構えたバズーカから砲弾を発射する。放たれた砲弾は寸分違わずG・ディボーターへ飛翔し着弾。
G・ディボーター2機とデイブレイクの戦いは決着となった。
「なぜ…だ……」
「冷静じゃない奴から墜ちるのが、戦場の道理らしいぜ?」
墜ちていく敵機を背に、デイブレイクは前線へ飛翔した。