一話 申請戦争
初めましての方が殆どだと思います、作者です。
前作とはガラッと作風も世界観も変えて作りました本作、『ステラ・フレーム』、ぜひお楽しみ下さい。
-サルベルス帝国 指定戦場-
響く銃声、爆発音。
戦いの音が絶え間なく戦場に響く。
鈍色の空には2機の兵器。
現在運用されている兵器で最も強力な、『ステラ・フレーム』よる戦闘が行われていた。
灰色と青色の光跡。青色が離れれば灰色が近づく。その繰り返しの中で、銃弾の軌跡やミサイルの爆発、さらには魔法の応酬も見えている。
灰色の機体、デイブレイク。全長12M
左手に鞘を持ち、右手には抜き身の刃。両肩部に大型のシールド。腰部に小型連装ミサイルが装備されている中量級の機体。
青色の機体、オーシャン。全長13.5M
左手に盾、右手にアサルトライフル。左肩部にレールキャノン、右肩部には連装ミサイルが装備されている。腰部には高速弾を打ち出す為の長銃身ランチャーが装備されている。
デイブレイクは『アルファス王国』の『ワイズ社』、オーシャンは『サルベルス帝国』の『ドレイク社』により雇われた傭兵の機体だ。
「フィッシャー、あんたわりと楽な仕事が好きなんじゃなかったか?そろそろ退いてくれると助かるんだが」
「ふむ、そうさな。楽な仕事にしたいけど、報酬分の働きをしないと、面目が立たないからね」
デイブレイクを駆る青年アッシュは、オーシャンのパイロット、フィッシャーに向けて声をかける。
「それもそうだよな…『宿無し』同士、仲良くと行きたかったが」
「宿無しだから、面目は大事なのさ」
『宿無し』
特定の企業に所属せず、フリーで活動する傭兵の呼び名。
アッシュもフィッシャーもお互いにBランク。有力な傭兵でありながら、フリーで活動を続けている、少しばかり珍しい部類だ。
互いに面識もある『宿無し』傭兵。多少は気心を知っているもの同士ではあるが、ジェネレーターの出力を上げ再度戦闘態勢を取る。
「「やるか」」
二人の男の声は、意図せずとも重なった。
デイブレイクは逆手に持っていた鞘を順手に持ち替え、青色のエーテルの刃を形成。
そのまま急加速し、オーシャンへと接近する。
「そっちは仕込み武器か!驚いたな!」
「二刀流、って奴だ。このまま斬らせて貰う!」
対するオーシャンは後退しながらミサイル、アサルトライフル、レールキャノン、あらゆる射撃で弾幕を形成する。
デイブレイクは前進しながらミサイルを展開。オーシャンの放ったミサイルと相殺し無力化。両肩のシールドを用いてアサルトライフルの弾丸を防ぎ、レールキャノンの弾丸は斬り裂いて猛追する。
「貰った!」
「……甘いねぇ、アッシュくん」
「っ!?」
デイブレイクが刃を振るう瞬間、機雷術式が発動。デイブレイクが居た場所を中心に激しい爆発が起きた。
ベテランのBランク傭兵、フィッシャーの老獪なトラップ。高機動戦闘中に空間設置式の機雷術式を発動、そして射撃と回避行動でデイブレイクを爆心地へ誘導していたのだ。
「さて、これでお仕事完了なら楽なんだけど……」
爆風が収まり、爆心地には青い光。
デイブレイクのシールドから張り巡らせた、魔力障壁。バイザーが強く光り、オーシャンを睨みつけるような形となる。
「危なかったぜ、正直」
【エーテル障壁、展開済みです。アッシュ、警戒を怠ってはいけませんよ】
「……ほんと、優秀なAIを積んでいるね」
「ああ、よく言われる。ありがとな、フェル」
デイブレイクから聞こえる女性の機械音声。
『フェル』と言う名前のサポートAIだ。
機体によっては火器管制システムとしてAIを導入することがあり、フェルもそのような状況で火器管制、魔法管制の両方を担う、高性能AIだ。
アッシュが傭兵を始めてから1年、若いルーキーながらも半年でBランク到達できた、1つの要因とも言える。
【アッシュ、レーダーに反応あり。敵の増援のようです】
「このタイミングでか、ドレイク社は今回の戦争、結構本気なわけね」
「そういう事さ、ここで退いてくれると、僕としても楽なんだけどね?アッシュくん」
「意趣返しかよ…。まあ、俺としても楽にはしたいんだが……」
デイブレイクのジェネレーターの出力が更に上がる。
「こっちにも面目があるんでね!」
アッシュがそう吼えた瞬間、デイブレイクは瞬間的に最大速度まで急加速し、灰色の閃光と化す。
「だよなぁ……、友軍機に告げる、墜ちたくなければ、すぐ下がれ!」
「なっ!?雇われ!?それはどういう…っ!?」
「もう遅い」
フィッシャーが来た増援に向けて言葉を発した直後、先頭にいたステラ・フレームはV字に斬り裂かれ、両腕と両足を失い、撃墜。
「「「「っ!?!?」」」」
増援に来た者たちは一様に声を失う。
「コアはなるべく避けるが……乱戦になるとそんな余裕もないかもな?」
デイブレイクのバイザーを光らせながら、刀を増援に向けてそう告げた。
これはアッシュなりの、傭兵としての生存戦略である。
宿無しにとっては今敵対している企業も明日にはクライアントとなる事がある、そのため、今回のように敵対する企業への損害を大きくしすぎないようにしている。
「くっ、敵対するとやはり末恐ろしいが……憎めん奴だ、我々は撤退する、フィッシャー、健闘を祈る」
「了解だ。それじゃあアッシュ、仕切り直しだ!」
「そうなるよなぁ、あんたは引かないよな、フィッシャー!」
そうして互いに向かい合った2機は交錯を繰り返す。
「トラップへの反応が良くなったな!」
「一度食らったもんを何回も貰うほど、俺は甘くないんでね!」
状況はデイブレイクが押している。
オーシャンは上手く捌くがデイブレイクに対して決定打になる攻撃を当てられていない状況に対し、デイブレイクは繰り返し近接攻撃で確実にダメージを与えている。
「カハハ……、流石にこれは引かないと不味いかねぇ」
「やっと引く気になったかい、フィッシャーさん?」
「……冗談はよせよ、アッシュくん」
オーシャンの双眸が強く、鋭い輝きを放つ。
その刹那、青い閃光となり戦場を舞い、デイブレイクへ向け四方八方から弾丸を放つ。
アサルトライフルの弾丸だけでなく、レールキャノン、ミサイル、そしてエーテル弾。あらゆる射撃がデイブレイクを覆う。
「BSVマニューバっ!!!海の激しさ、それを見せてあげよう!」
BSV。バレット・ストーム・ボルテックス。
オーシャンの装者、フィッシャーの編み出した必殺の攻撃、敵機体、部隊の周囲を渦巻くように高速旋回し、嵐のように弾丸を見舞う必殺技。
その嵐に覆われたデイブレイクはエーテル出力を最大にした盾と障壁術式を展開し、攻撃を耐えていた。
「ったく、容赦なさすぎだろ……」
【愚痴を言う暇があれば、早く嵐から抜けましょう】
「分かってるよ……。魔力充填、完了。とっておき、こっちも出すぞ!」
【かしこまりました、魔力障壁は私が継続して展開します】
「エーテルバースト!!!」
デイブレイクはジェネレーターの出力を限界値まで上昇させ、自分の周囲をエーテルで呑み込んだ。
そして光の奔流で飛来した全ての攻撃を呑み込んだデイブレイクは、直ぐに魔法陣を展開。
「ホーミングレーザー、くらいな!!」
追尾魔法光線、追尾誘導エーテルレーザーとも呼ばれる追尾式の射撃術式、これによりオーシャンは誘導してくる攻撃への対応で攻撃の手が緩まってしまう。
「…ははっ!!なんて魔力してるんだ!アッシュくん!そんな破り方をされたのは初めてだ!!」
「褒めて貰えて嬉しいよ!!」
攻撃的な機動から、追尾してくるレーザーを避ける機動へと変わる。
そして避けるオーシャンを、デイブレイク自身も高速で猛追する。
「くっ!?ここまで追い詰められるとはっ…」
「このまま仕留める!」
ホーミングレーザーが機体をオーシャンの脚先に当たり、機体のバランスが崩れた。
「ぐううっ!?」
「これで仕舞いだ!!」
デイブレイクは構えた2刀を振り下ろし、両肩を切断。返す2振りで、両足を斬り離した。
「離脱しな、コアは外してある」
「カハハ……コアを狙わないのは変わらないみたいだね、アッシュくん」
「まあ、甘いのは分かってるけど。すぐ戻っても俺の邪魔にはなりそうも無いしな」
「そうかい、この借りは何時か必ず、返させてもらうよ」
「どっちの借りだよ……。まあいい、それじゃあ、いずれ」
「ああ、また何処かの『戦場』で」
そうしてオーシャンは光の粒子となり、中のフィッシャーは魔法を用いて戦場から離脱。
デイブレイクは戦場へ戻り、今回の戦争のワイズ社の勝利に貢献した。
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戦闘が終わった後、指定戦場の空をアッシュは見つめる。
「今回はあの黒いヤツは来なかったな」
【ええ、来ないに超したことはありませんが……空を見つめてしまいますか?】
「そうだな、アレが来てから、どこか落ち着かないみたいだ。早く帰って寝るとしよう」
【そうですね、アッシュ。休息は大事です】
アッシュは、そしてデイブレイクは鈍色の空に黒い幻影を幻視していた。
topics. 『エーテル』
本作に登場する魔力、魔素の通称。
ステラ・フレームを動かすためのリソースとなる物質とである。
大気中に存在し、あらゆる物のエネルギーへと変換される物質でステラ・フレームを含む兵器の他、動力を必要とする機械や道具等のエネルギーとしても使用されている。
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お読み頂きありがとうございました!
構想は大まか出来ていますが、筆が追いついていない状況ですが皆様の感想、コメントが励みになります。
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