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エピローグ

 竹野和比己(たかのかずひこ) 様


 前略 京都は、9月も終わりに近付いているのに残暑が厳しく、湿度が高いので、蒸し風呂に入っているようです。

 サンフランシスコでは、相変わらず霧が出て涼しいのでしょうね。こんな日には、そちらの気候が恋しくなります。


 僕達を空港まで見送ってくださり、ありがとうございました。車の関係で空港まで別々に行って、慌ただしく余り話もできませんでしたが、顔を見られて嬉しかったです。


 その後、ヘレンさんともどもお元気でいらっしゃいますか。クライドは無事退院できたのでしょうか。


 僕達3人とも、無事に単位を取得することができました。そのまま転学も考えましたが、一旦こちらの大学を卒業した後、大学院を目指す、あるいは、日本で大学院へ進学し、編入や留学という形を取っても良いのではないか、とアドバイスをいただき、その方向で計画を立てています。


 プレシディオの件も、ベイカービーチの件も、当地の新聞で大きく報道されました。竹野さんは、読みましたか。


 記事では、僕達やクライドの関わりも、宇梶達が人質になったことにも触れられていなかったので、安心しました。


 オリヴァーがバークレーに通っているうちに、周囲の恵まれた環境にいる人達に嫉妬して犯行に及んだ、というのが警察側の発表で、記事もその通りの論調でした。


 彼は、家族を早くに失って、クライド以外とは、付き合いもほとんどなかったようです。


 それも、一面の真実かもしれません。

 車で送り迎えしてくれた時のオリヴァーや、エリザベスを救った彼のことは、僕が覚えておこうと思います。


 フレッドが偽名だということ、竹野さんご存知でしたか。CIAというのは本当らしいのですが。僕は、フレモントさんから知りました。


 ソ連ではオリヴァーみたいな人を集めて、スパイとして訓練しているそうです。あくまでも噂だ、とフレモントさんは言っていました。


 オリヴァーには思想的な背景はなかったようです。つまり、彼は当時、ソ連のスパイではなかった。

 勧誘されて、テストと称してアメリカの資産家を数人標的にするよう指示を受けていたのではないか、という疑いもあったみたいです。


 さすがに僕も、それはないだろう、と思いました。でも、フレッドは、そういうことを調べる仕事をしているらしいです。これも、フレモントさんから知りました。


 FBIとCIAは、あまり仲が良くないのですね。思うに、互いに秘密にすることが多いからでしょう。


 日本では、オリンピック開催に向けて連日の大騒ぎで、海の向こうの銃撃事件などは、全く報道されません。平和です。


 江上と宇梶には、僕達が、FBIに囮捜査のため、協力を求められたことを、話しました。2人は納得してくれました。

 前の晩にソフィアの家に泊まった設定は、そのまま通しました。


 よく考えたら、恋人を巻き込まないためには、別の場所に泊まるのが普通だったと思います。怪しまれてもおかしくないのですが、江上は何も追及しませんでした。


 帰国してから、江上と宇梶は二人で会うようになりました。まだぎこちなくて、恋人同士という感じではありませんが、いずれそうなる事を期待しています。


 オリヴァーに人質にされた時、僕が彼女を怒るだけだったのに、彼が命がけで彼女を助けようとしたことが心に響いた、と江上から教えられました。

 彼女が宇梶に目を向けてくれた結果は良しとして、確かにそこは、僕が反省すべき点です。


 これからは、人との関わりを避けず、もう少し向き合ってみようと思います。

 そんな風に考えられるようになったのも、竹野さんと出会えたおかげです。ごく短い間でしたが、一緒に過ごした時間は、貴重な体験の連続でした。


 今、アメリカから遠い日本の地にあって、楽しかった記憶がいくつも思い起こされます。不謹慎でしょうか?


 ところで、その後、僕なりに色々調べてみたところ、どうも幽霊を見る能力と、読心能力は、別の能力として扱われているようです。僕はエリザベスと話して、そのことに気づきました。彼女は、いわゆる心霊能力だけを持っているのです。


 反対にフレッドは、もしかしたら、読心能力だけを持っていたのかもしれない。

 あの時、彼は自分で霊を見たとは言っていませんでした。彼自身、その存在を信じているようにも見えませんでした。

 彼は、読み取った相手の目を通して、そういう存在を感知した、とも考えられます。


 読心能力を持つ人が、結果として心霊能力を持つのと同じ効力を得ているのか、それとも別々の能力を両方持ち合わせているのか、興味深い問題です。

 ただし、学問として研究するには、対象が少なすぎるのが難点です。


 フレッドのような立場の人が存在することから、アメリカやソ連では、日本よりは研究されているのではないかと思います。


 そちらの方で、良さそうな資料があったら、紹介してもらえると嬉しいです。僕も勉強の傍らですが、調べ続けるつもりです。


 考えてみると、僕が竹野さんと会えたこと、竹野さんが僕を信頼してくれたことは、とてつもなく幸運で、奇跡的だったと思います。

 改めて、ありがとうございました。


 封筒にもありますが、家の住所と電話番号を、同封します。いつか竹野さんが日本へ戻られたら、是非ご連絡ください。心から、再会できる時を、楽しみにしております。


 それでは、勉強のし過ぎで体調を崩さないよう気を付けて。煙草の吸いすぎにも。くれぐれもご自愛ください。

 皆様、特にソフィアによろしくお伝えください。 草々

 

                              日置(ひおき) (じょう)

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