モーネ王国騎士団魔術師特別部隊②
来ていただいてありがとうございます!
「今日は新たな隊員を紹介する。ル……、リュシアン、こちらへ」
ベルナール殿下に呼ばれた私は、 モーネ王国騎士団魔術師特別部隊の広い部屋への扉をくぐった。一斉にこちらに注目する隊員さん達。転校初日みたいでちょっと緊張する。転校、したことないけど。
翌朝すぐにミソラ湖から王都に戻った私達は、ベルナール殿下に事情をお話した。そして急遽私が魔術師部隊に参加させてもらうことになったんだ。緊急事態だったから、今回の移動は特別にローズちゃんに頼んで精霊の道を使った。
「リュシアン・ブランです!よろしくお願いします!」
十歳そこそこの少年の姿で魔術師部隊の人達の前に立った。ノエル君と同じ隊服を着た私は、ノエル君と同じ色の白銀のぱっつんヘア。某アニメの白龍の人の姿みたいな髪型にしてみた。最前列にいるノエル君の顔が心配そうでこわばって見えるから、安心してもらえるように笑って見せた。
「かの、いや彼はサフィーリエ公爵家の遠縁の子なんだ。幼いけれど魔力が強いとサフィーリエ公爵家からの推薦があり、見習いとしてしばらくの間の参加が決まった。みんな、よろしく頼むね」
ベルナール殿下が時々言い間違えそうになるのにドキドキしたけど、大丈夫だったみたい。
「おお!元気がいいな」
とか
「へえ、遠縁か。どおりで。サフィーリエ様に似てますね」
って小さな声が聞こえる。出会った頃のノエル君をイメージしたから似てるのは当たり前なんだよね。瞳の色はアイスブルーじゃなくて菫色にしたけど。
「何を言ってる?君はネージュはくむぐ……」
「ちょーっとこちらへいらしてくださいね」
大丈夫じゃなかったかも……。突然部屋へ入ってきて口を挟もうとしたアッシュベリー様をオスカー様が部屋の外へ連れて行った。
「あれ?アッシュベリー様っていつ王都へ戻られたんだ?」
「領地に行ってらしたのでは?」
「いや隣国へ視察では?」
隊員さん達は少しざわついてたけどすぐに静かになってた。び、びっくりした……。冷や汗をかいちゃったよ。どうしてわかっちゃったの?もしかして他の人にも……?そっと見回してみたけど、他に不審がる人はいなかったからホッとした。
「あいつ、精霊界へ行ってから目覚めたみたいね」
ローズちゃんが私の肩の上で呟いた。「目覚めた」ってことはアッシュベリー様って元々かなり魔力が強かったってこと?それにしてもアッシュベリー様ってどうやってここへ来たんだろう?ミソラ湖にいたはずなのに……?
自己紹介の後、事務仕事をする隊員さん達以外は仕事や訓練の為に外へ出て行った。つい先日港付近で魔物の出現が確認され討伐されて、港の警備や見回りに駆り出されるんだって。また魔物の壺を持ち込んだ人がいたらしい。幸い壊れた壺から出てきたのは力の弱い魔物でメイベルさんやノエル君が呼ばれることは無かった。
ベルナール殿下の近くに残ったのはノエル君とリュシアンの姿の私とメイベルさん。そしてローズちゃんと少し不安げに私の制服の裾を掴んでる白ちゃん。白ちゃんは何かを気にするみたいに窓の外を見てる。お城の中なんて入ったことが無いから緊張してるのかもしれない。
「いやあ、助かるよ。ル、リュシアン・ブラン君!」
何故かベルナール殿下はホクホク顔をしてる。何がそんなに嬉しいんだろ?
「ベルナール殿下、わかってると思うけど……」
ノエル君の冷たい視線にベルナール殿下がビクッとなった。
「わかってる!わかってるから!あくまで臨時の助っ人だよ!ね?うん!わかってるから!」
「本当にわかってらっしゃるんでしょうね……?」
ノエル君にじっとりとした視線を送られて、ベルナール殿下は苦笑いしてたけど、すぐに表情を改めた。
「あーコホン!それでは、ノエルを小隊長として特別小隊を結成。再び神殿の森へ調査へ行ってもらうね。よろしく!」
ベルナール殿下は「調査」とおっしゃったけど、本当は魔人の探索とできるなら討伐、できなければ弱らせて封印するという任務なんだ。メンバーはノエル君とメイベルさんとオスカー様と私、そしてローズちゃんと白ちゃん。他に連絡役の隊員さんが数名参加してくれる。この隊員さん達はベルナール殿下の隊の人達。
さあ、急いで白ちゃんの仲間の精霊を助けに行かなくちゃ!
「お待ちください!その任務!是非この私にも参加させていただきたい!」
うわぁ……オスカー様が後ろで額を押えてる。アッシュベリー様はオスカー様の制止を振り切って戻ってきたみたい。
「異変は我がアッシュベリー侯爵家の領地でも起こっております!私も他人事ではありません!殿下」
「それに私もまた大精霊のむぐ……」
「声が大きいですよ」
オスカー様がまた口を押えた。精霊についてはこの国では見える人が少ないから、まだ公表しないことになったらしいんだ。何だか少しづつ情報を出していって、もう少ししてから存在を認めるとか……。難しいことはよくわからないけど、とにかく今回はなるべく内密に事を進めるんだって。
「オスカー様もアッシュベリー様のお守りをするのは大変ね……」
メイベルさんが珍しくオスカー様に同情してる。
「そうだね」
同意しながら、今までメイベルさんはオスカー様に対して塩対応ばかりだったのにって、ちょっと驚いちゃった。
「私もまた大精霊に認められ、精霊界へ召喚された身。どうして見て見ぬ振りができましょうか!」
大げさな身振りだけどさっきよりずっと小さな声でアッシュベリー様はベルナール殿下に訴えかけてる。
「こいつがいつ大精霊に認められたのよ……」
「リュシアン君だけでは心もとないから私が呼ばれたのでしょう、小さな精霊殿」
何故かアッシュベリー様はこちらの世界へ戻っても精霊が見えるまま。これも「目覚めた」影響なのかもしれない。
「こいつ、イラつくわぁ」
「いけませんねぇ、精霊とはいえ淑女がそのような言葉遣いをなさっては」
嘆かわしいという仕草を見せるアッシュベリー様。声はごく小さいままだからちょっと面白い。
ノエル君やベルナール殿下が説得しようとしたけどできなくて、結局アッシュベリー様も一緒に行動することになった。何を言っても聞き入れてくれないから、時間がもったいなくて諦めたんだ。ノエル君はため息をついた。
「仕方ないな。さっさと出発しよう。ローズ頼む」
「わかったわ。はあ、精霊の道を行くのは疲れるのよね」
「ローズちゃん、ごめんね。負担をかけちゃって」
「仕方ないわ。緊急事態だものね」
「……ローズは何だか僕にだけ厳しいんじゃないかな」
「気のせいよ」
ローズちゃんはそっけなくノエル君に言い放つ。
「そうですよ。ローズ様が優しいのはリュシアン様に対してだけです」
「別にそんなことないわよ、メイベル」
少し頬を染めながらローズちゃんが精霊の道を開こうとしたその時だった。
ふいにぐいっと上着の裾が引っ張られた。
「白ちゃん?」
それまで黙ってた白ちゃんの手の力が強まって、顔がこわばった。
「来る。来るよ」
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