夜空の下で
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「へえ!翡翠色の大精霊さんですか!」
「そうよ。全く。いきなり精霊界に移動させられて驚いたわよ」
ローズちゃんはサンドイッチを吸収しながらメイベルさんに答えた。
夕食には遅い時間になっちゃってたのに、サフィーリエ公爵家の料理人さんはササっと軽食を準備してくれたんだ。お昼からそんなに時間は経ってないって思ってたけど、けっこうお腹が空いてたから助かっちゃった。
突然、強い風が吹いてきて気が付くと精霊界にいたこと
翡翠色の小さな女の子の姿の大精霊のこと
白ちゃんのこと
白ちゃんの仲間の精霊のこと
その精霊のなかにいる魔人のこと
早く見つけて精霊を助けないと魔人が力を取り戻してしまうこと
軽食を食べながら、これらをみんなに話した。メイベルさんもオスカー様も精霊が見えるから、ローズちゃんや白ちゃんに詳しく説明を加えてもらいながら。あ、あと、アッシュベリー様はたまたま近くにいて一緒に来ただけだってことも。
「アッシュベリー君は完全に巻き込まれただけか。気の毒に」
オスカー様が苦笑した。オスカー様は元灰の王国の王子様だから、アッシュベリー様とは以前からの知り合いなんだって。
「とにかく、急いで白ちゃんのお友達を探し出して、なんとかしないといけないの!」
「わかった。後は僕達に任せてくれればいい。これは僕達魔術師部隊の仕事だから」
それまで黙って話を聞いていたノエル君がやっと口を開いてくれた。でもまだ怒ってるみたい。
「どうやって?」
ローズちゃんが宙に座って足を組みながらノエル君を見据えた。
「え?」
ローズちゃんは訝しげにローズちゃんを見上げた。
「翡翠の大精霊はルミリエを名指ししたのよ?ルミリエの力が強いからだけじゃない。ルミリエにしかできないからでしょ?」
「そんなことはない。白は仲間を見つける事ができるんだろう?」
ノエル君に見られた白ちゃんは私の椅子の後ろに隠れてしまった。
「……っ」
「どうやって白に言うことをきかせるの?白はノエルを怖がってるわ。ルミリエに懐いているのだからルミリエとも協力すべきでしょ?」
「……シモンの魔法道具もある。僕達だけでもなんとかなる」
ノエル君はどうしてそんなに……。
「そうかしら?」
「何が言いたいんだ、ローズ」
「はっきり言うけど、ノエル達だけじゃ力不足なんじゃないの?」
「ローズさん……厳しいなぁ……」
オスカー様は困り顔で頭をかいた。
「でも確かにそうかも……」
メイベルさんも俯いちゃった。
「自覚があるんでしょ?森の異変っていつから起こってたの?」
「今年の冬頃からでしょうか。針葉樹の森の木が枯れて、動物が少なくなったって報告が入って」
「僕達が調べ始めたんだよね。わずかに魔力の痕跡が残ってたから」
そうだったんだ。知らなかった……。
「そんなに長く異変が起きていたのに何も掴めてなかったんでしょ?今回もルミリエがあの大精霊に呼ばれなかったら、何もわからないまま魔人が復活してしまってたでしょうね。ノエルが頑なだったせいで」
「ローズちゃんっ」
何か意図があるのかもしれないけど、喧嘩腰の話し方はちょっとローズちゃんらしくない。どうしちゃったの?
「大体、ノエルがルミリエを蚊帳の外にしなければ、今日だって置き去りにしなければルミリエが一人で精霊界に連れ去られることは無かったでしょ。言っておくけれど、精霊界が人間にとって完全に安全な場所とは限らないのよ?今日だって短い時間会話をしただけだったのに、こちらではすでに夜中になっていた。下手をすれば永遠に再会できない可能性もあった」
「えっ?!そうなの?!」
それは嫌だ。遅ればせながらゾッとした。
「今回は大精霊の招請だったから問題無かっただけよ」
「……………………ごめん」
ノエル君は俯いたまま立ち上がって部屋から出て行ってしまった。
「ノエル君!待って!!」
ローズちゃんのことも気になるけど、まだノエル君に心配をかけたことを謝ってない。迷ったけど今はノエル君を追いかけることにしたんだ。
少し暗い廊下を歩くノエル君にやっと追いついた。
「待って!ノエル君!!心配かけてごめんなさい!!」
私は思いっきり頭を下げた。
「どうしてルミリエが謝るの?ルミリエは悪くない。さっきローズが指摘したとおりだ。僕は自分の力が足りないのにできるつもりでいたんだ」
「ノエル君が力不足なんてことは無いと思うんだけど……。魔物や魔人の対処なんて白の王国では経験が無いんだし、みんなで頑張るしかないと思う」
「……それでも僕はルミリエにはもうこれ以上魔物関連の事に関わってほしくない。ルミリエの力のことが知られてしまえば、王国が黙っていないだろう」
そっか、ノエル君はそっちの危険も心配してくれてたんだよね……。うーん、どうすれば……。私の頭の中に今までのことがグルグルと駆け巡った。そして!
「そうだ!いいこと思い付いた!」
「え?」
「私、変身する!」
「変身って魔法少女に?」
ノエル君はからかうように笑った。
「違うってば!ほら、オスカー様みたいに姿を変えればお仕事中もノエル君のそばにいられるよ!だから私にも一緒に頑張らせて!」
「でも……」
「お願い!私だって私の知らないところでノエル君が危ない目に合うのは嫌だよ」
「ルミリエ……」
「私、ノエル君の力になりたい!」
「……わかった。頼んでいい?」
「うん!ありがとう!」
「その代わり、絶対に僕のそばを離れないでね」
やっとほんとに笑って私を見てくれた。良かった。
「ローズちゃんっ。見つけた」
「ルミリエ……。それにノエルも」
「良かった。探したんだよ。白ちゃんがお庭にいるって教えてくれたの」
「もう夜遅いのよ。さっさと寝なさいな。オスカーもメイベルも今日はもう休むって言ってたわよ」
「ふふふっ、ローズちゃん、お母さんみたいだね」
「誰がお母さんよ。……怒ってないの?」
「怒る?どうして?」
「だって……ノエルにキツイこと言っちゃったし」
「ローズちゃんは私とノエル君のこと心配してくれたんだよね」
「…………」
「……僕が悪かったよ。ルミリエのことが心配過ぎて一人で空回りしてた」
一緒にローズちゃんを探しに来てくれたノエル君が気まずそうに謝った。
「それはわかるけど一人でできることには限界があるわ。できないことはできないと認めて、助けを求めなくちゃダメよ。最悪な結果を招くことだってあるんだから」
ローズちゃんの桜色の瞳は晴れた夜空を映してキラキラ光ってる。少し悲しそうでまるで泣いてるみたい。ローズちゃんの過去になにがあったんだろう。いつか話してくれるかな。
「私のこと、嫌いになってない?」
「そんなことあるわけない!大好きだよ!」
私は膝を抱えるように花の上に座ってるローズちゃんをそっと両手で包み込んだ。
「ずっと友達で仲間で家族だよ……」
「ありがと……ルミリエ」
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