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青の湖③

来ていただいてありがとうございます!




「何をなさっておいでなのです?早く立ち上がられては?」

黄色に近い金髪をかき上げて、嘆かわしいというような顔をしているのはリチャード・アッシュベリー様だった。

「ああぁ!服の裾が地面についてしまいますよ」

……なんだか小さい子を注意するお母さんみたい。そういえば、アッシュベリー様も魔術師部隊だったっけ。きっと仕事でここへ来てるんだね。ノエル君達と合流しなくていいのかな?


この方には精霊は見えないんだ。さっきからローズちゃんが目の前で睨みつけてて、白ちゃんが足元で今にも飛び掛かりそうになってるんだけど、特に反応はしていない。でも何かは感じてるみたい。

「……何だか妙だな……」

しきりに顔や足元を気にする仕草をしてる。


「こんにちは。アッシュベリー様」

私は急いで立ち上がって、片手で口元を隠して、もう片方の手でスカートの陰で手招きしてローズちゃんと白ちゃんをそっと呼び寄せた。

「こっち、こっち」

二人は不満気な顔をしながらもこっちに戻って来てくれた。


私の様子に訝し気な顔をするアッシュベリー様は、何かを思いついたようにハッとした。

「もしかしてご気分が優れなかったのですか?病弱だというのは本当なのか……。そうか。サフィーリエ公爵家のお屋敷はすぐそこでしたね。お送りしますよ」

アッシュベリー様は慌てたように私に向かって手を差し出した。あれ?結構良い人なのかな?

「いえ、私一人で大丈夫です。アッシュベリー様はお仕事でいらしたのでしょう?私にはどうぞお構いなく。では失礼いたします」

お屋敷の門は見えているし、一人じゃないしね。私はローズちゃんと白ちゃんに目配せしてから屋敷へ向かって歩き出した。


「待ちたまえ!女性の一人歩きは危険だ。特に貴女のような世間知らずな女性は」

いや、すぐそこなんだけどお屋敷。それにそんなに世間知らずじゃないよ。これでも前世の分と合わせて結構長く生きてるし、色々な経験もしてるんだから。


「大丈夫です、本当にお構いなく」

ちょっとだけイラっときて、そう言いかけて振り向いた。


その時、突風が吹いた。






⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆




ノエル視点




「全く……。最近は森枯れの件は落ち着いて来ていたのに……。広範囲ってどのくらいなの?」

僕は森の中の道を歩きながらオスカーに尋ねた。馬車に乗って森の入り口へ向かいそこからは道なき道を徒歩で進む。サフィーリエ公爵領の整備された森をルミリエと散策した時とは異なり、深い森の中を騎士達が先導してくれてる。

「詳しいことはわからないんだ。僕達も報告を受けて急いでやって来たから。とにかく神殿がおかしいとだけ」

オスカーは戸惑ったように答える。

「神殿?森じゃなくて?」

「森もだけど、神殿の管理人から様子がおかしいと連絡が入って、急遽僕らが様子を見に来たんだよ」


「とりあえず報告だけと思ってお屋敷にお伺いしたんですけど、お留守だったんです。でもサフィーリエ様には来ていただかなくて良かったのに。ルミリエ様がお一人で可哀そうですよ」

メイベルが珍しく不満をあらわにする。ルミリエの事となると黙っていられないみたいだ。彼女は本当にルミリエの事が好きらしい。でもルミリエを想う気持ちなら僕の方がずっと上だという自負がある。

「危険があるなら放っておくわけにはいかない。ルミリエが巻き込まれるのは絶対に避けたいからね」


「見えてきました!あれが神殿ですね」

しばらく森を進むと急に視界が開けた。

「メイベル、気を付けて!」

「このくらい平気です」

オスカーが心配して声をかけるけれど、獣道をものともせずにメイベルが進んでいく。一応騎士が道を作りながら先導しているけど、それでも女性が歩くにはかなり辛いはずだ。でもメイベルは苦にする気配すらない。僕は内心舌を巻いた。メイベルはベルナール殿下の直轄の小隊に入った。全体を指揮する必要があるベルナール殿下の代わりを務めてオスカーが副隊長になっている。この為この二人は大体いつも一緒に行動しているようだ。


「これは……酷いね……」

オスカーは絶句している。木が枯れている。一本や二本じゃない。今までになく広範囲だ。

「おかしい。昨日まではこんなんじゃなかった」

ルミリエと一緒に湖の畔から眺めた時はこんな風には見えなかった。そうか!ルミリエは木が元気がない。翳ってるって言ってなかったか?

「まさか、一日でこんな……」

僕は衝撃でそれ以上声が出なかった。


「魔力の気配が以前の場所より濃いです。そしてもう一つ、もっと違う何か別の大きな力を感じます。これってあの神殿から……?あ!」

「これは……敵意?」

メイベルとオスカーは神殿の方へ視線を向けた。僕もまた大きな力の奔流を感じて神殿の方を向いた。


その時、突風が吹き荒れた。







ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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