青い夕べの舞踏会
来ていただいてありがとうございます!
日が沈んだばかりの青い空に月が浮かんでる。
「今日は少し気温が高かったね。風が気持ちいい」
「そうね。やっと涼しくなってきたわね」
「精霊も暑さ寒さが辛かったりするの?」
「ん?別に辛いとかは無いわね。でも天気や風を感じたりは普通にするわよ」
「へえ!そうなんだ!」
ローズちゃんと私はお城の庭で夕涼みしていた。今夜は初夏の舞踏会。今年もノエル君と二人で招待されたんだ。今日のドレスは今の空みたいな青い色でノエル君が忙しい中オーダーしてくれたもの。ブルーダイヤモンドのネックレスもつけてる。色合いはシンプルだけどふんわりしたシルエットが可愛らしいデザインでとても好きなドレスだった。
「そういえば白は?どこへ行ったの?」
「白ちゃん、ローズちゃんみたいに時々いなくなっちゃうんだよね。どこへ行ってるんだろう?」
サフィーリエ公爵家の森で出会った、白いウサギの姿の精霊は結局王都へついてきちゃった。ノエル君は渋ったけど、お願いしたら許してくれたんだ。
「ローズちゃんみたいに街が珍しくて散歩してるのかな?」
「うーん、やっぱり白って普通の精霊じゃないみたいなのよねぇ。森へ捨ててこない?」
「ローズちゃん酷いよ。あんなに可愛いのに。それに白ちゃんは私が飼ってる訳じゃないよ?」
「可愛いって……。ただのウサギじゃないのよ?全く……」
「まあまあ!大丈夫だよ。悪いものじゃないんでしょう?」
「それは、たぶんそうなんだけど……」
「何だかあの子って放っておけない気がするんだよね」
「……まあ、いいわ。ルミリエには私がいるし……。で、ノエルは?ルミリエを一人にしてどこへ行っちゃったの?せっかくの舞踏会なのに」
「……あっち」
私が指さした先はお城の大広間のバルコニー。ノエル君とメイベルさん、オスカー様とベルナール殿下もいらっしゃる。
「何?またメイベルと一緒なの?」
「オスカー様もベルナール殿下もご一緒だよ」
「ルミリエを放っておいてなにしてるのよ!」
「……お仕事の話だと思う。だから私には聞かせられないんだよ」
ついため息が出ちゃった。
「ルミリエ……寂しいの?」
「え?ううん……。ごめん。やっぱりそうかも……。ノエル君ずっと忙しいから」
「ノエルはルミリエの事を守ろうとしてるのよ……」
「うん。それは分かってる。だから大丈夫。……。あ!白ちゃんが戻ってきたよ!白ちゃん、どこ行ってたの?」
駆け寄って来た白いウサギの姿の精霊を抱き上げた。
「白ちゃんは何の精霊なの?ローズちゃんはピンク色の水晶の精霊なんだよ」
ローズちゃんは威張るように胸を張ったけど、小さい子みたいで可愛いだけだった。白ちゃんの小さな前足が空を指さす。その先にあったのは白い月。
「月?月の光の精霊?」
こくんと頷く白ちゃん。
「へえ!光の精霊って割と力が強いのよ?なんでお前は喋れないの?」
ローズちゃんが普通に会話してくれてるから良く分かってなかったけど、大多数の精霊は人の言葉を話せないんだって。長く生きた精霊や力の強い精霊はローズちゃんみたいに話す事ができるようになる。ローズちゃんはとても長く生きていて、力が強いんだ。
「……ハナセル」
私でも、ローズちゃんでもない声。今のって白ちゃんの声?
「「ええ?!」」
喋った?!小さな男の子を思わせるような声。ローズちゃんと顔を見合わせて驚いていると、誰かが近づいてくる足音がした。
「おやおや!このようなところで一体何をなさっておいでですか?ネージュ伯爵家の幻のご令嬢は」
一人の貴族男性に声をかけられた。黄色に近い金色の髪に緑の目……。誰かに似てる……。あ!
「アッシュベリー侯爵家の……」
エリザベスちゃんのお兄様だ!私は抱いていた白ちゃんをそっとおろして、ご挨拶をしようとした。
「ああ!挨拶はもう結構ですよ!ご婚約者に放っておかれてお一人でお可哀そうに。このような所でお休みになられるのでしたら、以前のように領地で静養なさったらいかがですか?」
さっき、ノエル君やサフィーリエ公爵家の方々と一緒に挨した時は気が付かなかったけど、とても背の高い人だ。見上げるくらいに。エリザベスちゃんは小さくて可愛いのに、お二人がお兄妹なんて不思議。
「ちょっと、何よこいつ!ルミリエは別に可哀想じゃないわよ!私達が一緒なんだから!それにそんなのあんたに言われたくないわ!」
ロ、ローズちゃん!落ち着いてよー!言いたいけど言えない……。足元では白ちゃんも地団駄を踏んでる。もしかして怒ってる?!私は大丈夫なのに。
こういうのは学園でけっこう言われてきたからもう慣れてるんだよね……。「病弱だなんてサフィーリエ様はさぞご心配でしょうねぇ」とか「無理に学園に通われずとも家庭教師をおつけになられては?」とか。つまりノエル君に負担をかけるな、とか領地にひっこんどけ、とかいう意味。こういうのは相手にしないでかわすに限るんだ。……でも男の人に言われるのは珍しいなぁ。
「お気遣いいただきありがとうございます。体調は以前より随分と良くなって参りましたのでご心配頂か無くても大丈夫です。この庭園の美しさに惹かれてつい外へ出てきてしまっただけなので、すぐに戻らせていただきます。では失礼いたします」
私は大広間へ戻ろうとした。いくら開放的な戸外でもずっと男女二人きりでいるのは良くないから。ローズちゃんと白ちゃんがいるから二人きりじゃないけど、他の人には見えないものね。
「お待ちなさい」
「え?」
「貴女はサフィーリエ公爵家に相応しくない。今からでも婚約を辞退されてはいかがか?」
うわぁ。こんなにはっきり言われたのは初めてだ……。
「たいした才覚もなく、貴族令嬢としての勉強も足りない病弱な貴女ではノエル・サフィーリエ殿の足を引っ張るだけでしょう。彼を愛しているのなら尚更身を引いて相応しい令嬢にその立場を譲られてはどうでしょう?」
「…………」
「傷つけるつもりはありません。しかし、結婚後に苦労をなさるのは目に見えているでしょう?少しお考えになられては?では失礼」
「あーあ、言われちゃった……」
ずっと病弱だった私は確かに貴族令嬢としての知識とか振る舞いとかが足りてないと思う。学園の勉強と並行して頑張って来たけど、何年も積み重ねてきた他のご令嬢と比べるとやっぱり見劣りしちゃうんだ。それになによりやっぱり友達が少ないのは致命的なんだよね……。お茶会なんて数えるくらいしか出たことないし、幼い頃からの友人もいないから交友関係も……。改めて指摘されるとちょっと落ち込むなぁ。
「…………」
「…………」
ローズちゃんと白ちゃんが全然喋らないのに気が付いた。といっても白ちゃんはまだ一言しか喋ってるのを聞いてないんだけど。
「ん?二人ともどうしたの?」
あれ?なんだかプルプル震えてる?あ、魔力を放出しだした?!
「ちょ、ちょっと?何してるの?!」
「ルミリエ、アイツやっちゃっていいよね」
「ちょっと、ローズちゃんそんな低い声出せたの?白ちゃんまでなんでファイティングポーズしてるの?っていうかそれどこで覚えてきたの?」
「私が教えたのよ。ルミリエの敵を倒せるようにね。白は魔力量が少ないみたいだから」
ローズちゃんが低い声でつぶやき続ける。
「て、敵って……!ちょっと待って何するの?ダメだよ!お城で魔術なんて使ったら!衛兵さんが来ちゃう!」
何とか二人を止めて大広間に戻ったけど、本当に大変だった。
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