魔術大会②
来ていただいてありがとうございます!
「ノエル君すごいですっ!あっという間に予選を勝ち抜いちゃいましたね!」
魔術大会はもう二日目が終わるところだった。ノエル君は魔術戦闘の大会の予選を軽々と突破してしまった。
「ノエル……、ちょっとは苦戦するふりしないと、去年までの中等部での大会で手を抜いてたのがバレバレだよ?」
シモン様が眉根を寄せて腕を組んでる。メイリリー学園の魔術大会は中等部、高等部それぞれに行われてる。中等部のノエル君も見たかったな。
「はあ、何ていうか、ここまでくると嫌味よね。勉強だけじゃなくて体力も魔術の成績もハイレベルとか……」
リンジー様も同じように眉根を寄せて腕を組んでる。さすが双子だ。そっくり!そういえば男女の双子って、ううん普通に双子って初めて会ったかもしれない!前世も含めて。
ノエル君と、シモン様とリンジー様。授業終わりにメイリリー学園のカフェテリアで、温かい香茶を飲みながら四人でカフェでお茶するのが最近のお決まりだ。魔術大会の間もそれは続いてる。
「笑ったと思ったら、びっくり顔だ。ルミリエは本当にくるくる表情が変わってかわいいね」
ノエル君はカフェのテーブルに頬杖をついて私を見つめてる。今日の予選は五連戦だったのに疲れが全く見えない。
「ノエル君、本当にかっこ良かったですよ!!明日の決勝も頑張ってください!応援してます!」
「うん、頑張るよ。ルミリエのために」
ノエル君はそう言ってカップを持つ私の手を両手で包んだ。
「はいそこ!私達もいるんだからナチュラルにイチャイチャしないの!」
「そうそう、あとでやってよね」
リンジー様とシモン様の言葉にノエル君は渋々手を離した。私は笑って誤魔化してみた。
「まあ、決勝はベルナール殿下もいるし、正直厳しいかもだけどね」
ノエル君はつまらなそうに言った。
「ああ、そうか!ベルナール殿下がいらっしゃるわね!あの方は凄まじいから確かに厳しいわねノエル様」
リンジー様が思い出したように言った。きっと去年のことだろうな。
「ベルナール殿下はそんなにお強いのですか?」
「殿下は別格だよ。ルミリエ嬢。風魔術の使い手で、空を飛んだりもできるんだよ。ちなみに昨年の優勝者だよ。もちろん今年も優勝候補筆頭」
シモン様が説明してくれた。
「そ、そうなのですね」
空も飛べるんだ!いいなぁ。魔法の箒とかいいな……。憧れちゃう!空中戦かぁ。凄そう。でもなんだろう?ノエル君が負けちゃうところとかちょっと想像できないかも。
魔術大会の戦闘は最終日の午前中に行われる。決勝戦はそれまでの一対一の対戦ではなくてそれぞれの予選で勝ち抜いた十六人のバトルロイヤル方式だ。
戦闘といっても傷つけあったりするわけじゃなくて制服の胸ポケットに刺した花を散らされたら負けになる。落とされても負けになる。なんだかとっても優雅な戦いみたい。
「盛り上がってまいりました!」
「何言ってるの?ルミリエ」
あ、しまったつい前世の癖が……。
「い、いえ!何でもないんです。リンジー様」
私は慌てて誤魔化した。でも学園のグラウンドの周囲には見物のためにたくさんの生徒や外部からのお客様達がやって来ていた。それだけじゃなくてグラウンドを見渡せる教室にもたくさんの人がいる。みんな、この大会をすごく楽しみにしてるのが良く分かるのだ。私の気持ちも上がってきてしまう!自分が出場するわけじゃないのにね。
私達は出場者の身内ということで、一段高いところに設けられた実況席の近くに席をいただいている。間近で観戦できるのだ。
「え?」
一瞬だった。一瞬でノエル君とベルナール殿下以外の出場者達の胸の花が散らされた。見ていた観客も何が起こったか分からないみたい。グラウンドに入って来た選手たちはみんな強そうで、それぞれに実況者が紹介してて、私の隣に座ったリンジー様とその隣に座ったシモン様が付け加えて説明してくれてた。
グラウンドの審判役の先生がルールを説明して、
「始めっ」
って言ったその瞬間だった。
「やっぱり、無理だったか」
ベルナール殿下がにやっと笑った。
「…………」
ノエル君はいつもの無表情だ。
「ノエル、今年はどうしたの?随分と真剣だね」
「思うところがありまして。何事にも全力を尽くすことにしました」
光と風の魔術の刃が互いの胸の花を狙う。もちろん魔術は攻撃のためのものだ。それでも相手に怪我を負わせたら退場になってしまうので、威力は極力抑えてる。だから、競われるのは速さと精度、そしてフェイントなどの技術だ。
「へえ、それもあの子の影響かい?」
「願いを叶えくれるそうです。優勝したら」
ベルナール殿下の動きが加速する。ノエル君は殿下の動きを追えてるのかな?すんでのところで魔術を跳ね返してる。凄い!合間合間に光の刃を殿下に向けて放って、動きを止めてる。
「うわあ、なんか腹立つねぇ。それは是非とも阻止してあげよう……!」
「先に謝っておきます、殿下。今回は僕が勝たせてもらいます」
ノエル君とベルナール殿下は戦いながら何か話してるみたい。
「嘘だろ?光魔術ってあんな風に使えるのか?」
「てっきり、戦闘には役に立たない力だと……」
周囲からそんな声が聞こえてくる。ふふん、ノエル君は私が見つけた魔法少女だったんですよ?皆さんはご存じないかもしれませんが、この国をたった一人で救ったのですよ?ああ、言ってしまいたい!
そんなことを考えてる間にも戦闘は続いてる。ノエル君は光の盾で花をガードしてる。あれは前に夢魔と戦った時に私が使った盾に似てる。そうか!ノエル君はあの時にも光魔術を使って戦ってた。多分普通の光魔術じゃないやり方が入ってるみたい。魔法少女の時の経験かな?何となくなんだけど、私が行ったあの世界の力を感じる。どういうことなんだろう?後でノエル君に聞いてみよう。
「?」
ふいに、ベルナール殿下が何かに躓いたようにつんのめった。転ぶまではいかないまでもバランスを崩してふらつく。殿下が振り返った後ろには何もない。
その一瞬の隙をついて、薄い三日月のような光の刃がベルナール殿下の胸の花を散らした。
「……ノエル君!」
「勝者!ノエル・サフィーリエ!!」
審判の先生の声が告げる。物凄い歓声があがり、二人の検討を称える大きな拍手が沸いた。
「凄かったなあ!」
「ノエル様ってあんなにお強かったのね」
口々に感想を言い合ってる。
「……そうか!私の風をその光の盾で跳ね返したのか!それで背後から……なるほど、どおりで魔術の軌道が見えなかった訳だ。やられたな……。来年は負けないよ、ノエル」
「胸をお貸しいただきありがとうございました」
ノエル君とベルナール殿下は握手を交わしてる。観客の拍手が更に強く大きくなった。あれ?ノエル君がこっちへ来る?
「ルミリエ」
胸に刺した花を抜き取って、私に渡してくれた。周囲でキャーっていう歓声が上がる。ん?さっきまでの歓声とはすこし違ってるみたい?
リンジー様は両手で頬を押さえて真っ赤になってるし、シモン様も眼鏡のふちを押さえて真っ赤になってる。やっぱり双子だ。こんな反応もそっくり!
「? 優勝おめでとうございます!!ノエル君はやっぱりすごいです!!」
「うん。ありがとう」
ノエル君は微笑んで、花を持った私の手にそっと口づけた。
後からリンジー様に聞いたんだけど、この国では決闘の時に身につけた花は愛する人を意味してて、それを渡すことは永遠の愛をその人に誓い、一生守りますってことなんだって……。
もちろんかなり昔の風習でいまは決闘なんて殆ど無い。それにこれは決闘でもない。でも周りの人たちの反応がおかしかったのはそのせいだったみたい。知らなかった。つまりノエル君はみんなの前で……。今更なんだけど顔が熱くなってきちゃった。
この戦いを見てた人達の中のとある二人がそれぞれの場所で声を上げた。
「まさか、あれってノエルだったの?でも、あれは夢で、でも……」
「ルミリエ?どうしてこの学園に?それになんだあの男は?!俺というものがありながら……!」
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