雪と灯火のお祭り②
来ていただいてありがとうございます!
雪灯祭二日目の夜の舞踏会。
華やかな明るいお城の大広間は着飾った貴族達の和やかな笑顔で溢れてた。
ノエル君と会場へ入った私は、クロス夫妻と一緒にお屋敷にお伺いした貴族夫人の方々からもご挨拶されてしまった。ドレスは皆さんとても似合ってて、とても喜んでくれていて私も嬉しかった。ノエル君の後ろについていくばかりだった昨年と違って、一人でたくさんの人達とお話できるようになったのは成長かな?ちなみにローズちゃんは舞踏会には興味無いってお祭りを一人で回ってる。ローズちゃんは自由で自立した精霊さんだ。
「あれ?メイベルさんとオスカー様?」
お話が終わって、近くにいるといってくれてたノエル君を探していたら、正装したメイベルさんとオスカー様が舞踏会の会場にいたんだ。
ノエル君と三人で深刻そうに何か話してる。私が近づくとスッと会話を止めてしまった……?どうしたんだろう?
「ああ、ルミリエ。ごめん一人にして」
ノエル君が気づかわし気に尋ねてくれる。
「いいえ。大丈夫です」
「皆さんとの話は終わったの?」
「はい!皆さんドレスを気に入って下さって。とても褒めて頂きました!」
「良かったね」
ノエル君はいつも通りに優しい笑顔。オスカー様もメイベルさんも笑ってる。さっき、深刻そうな雰囲気だと思ったのは気のせい?
「オスカー様とメイベルさんもいらしてたんですね」
「はい。ベルナール殿下にご招待いただいておりましたので」
微笑んだオスカー様に周囲にいたご令嬢様方が息を呑んだ気配がする。オスカー様って美形だし、気品があるもんね。何て言ったって元王子様だし。
「メイベルさん、そのドレスとても似合ってます!素敵です!」
「ありがとうございます!ルミリエ様」
メイベルさんのドレスはクリーム色のそこまで装飾の華美じゃないものだけど、光が当たると繊細な刺繍がキラキラ光ってとても幻想的に見える。まさに聖女って感じ!メイベルさんは可愛い感じだけど今日はとても大人っぽくてエレガント。こういうのも似合うなんて羨ましい!
見惚れているとメイベルさんはちょっと照れたように笑った。
「ルミリエ様の淡い夕暮れ色のドレスも素敵です!ルミリエ様は何色を着てもお似合いになるんですね」
「当然だ」
メイベルさんの言葉にノエル君が腕を組みながら答えた。
「僕がルミリエの為に選んだんだから」
「そういえばお店でとても悩んでましたものね」
え?ノエル君とメイベルさん、一緒にお店に行ったの?
「あのね、僕も一緒に行ったんだ。仕事で出かけた帰りに時間が無いからって」
私がポカンとしているとオスカー様が慌てたように説明してくれた。
「そう、なんですね」
「そうなんだよ。ついでに僕がメイベルのドレスも見立てたんだよ。さっきは褒めてくれてありがとう」
「ついでって、酷いんじゃありませんか?オスカー様」
「ごめん、ごめん」
メイベルさんがジト目でオスカー様を睨んでる。この二人っていつの間にかこんなに仲良しになったんだね。
その後、メイベルさんとオスカー様はベルナール殿下の所へ行くと言って国王様方がいらっしゃる方へ行ってしまった。
「え?」
一瞬、オスカー様とメイベルさんの後ろを白いウサギがついていくのが見えた気がする……赤い瞳がこちらを振り返った?あれ?消えた……。見間違えかな?
「ルミリエ……、ごめん。今回はオーダーメードのドレスを用意できなくて」
「いいえ。大丈夫です。お忙しいのにドレスを贈ってくださってありがとうございました」
ウサギに気を取られてぼんやりと答えてしまった私の手をノエル君が掴んだ。
「こっちへ来て」
ノエル君は少し慌てたように私をバルコニーへ連れ出した。真冬のバルコニーはかなり寒い。ノエル君は上着を脱いで私に着せかけてくれた。
「怒ってる?」
「え?」
怒ってるって何を?再びポカンとする私。
「その、ドレスの事……。それに昨夜もろくに話もできなくて……」
「それは仕方がないです。お仕事とそれから学園の課題でお忙しかったんでしょう?」
そうなんだ。ノエル君はお仕事で学園に通えない分課題をこなしていたんだって。たぶんメイベルさんも。かなり疲れてたんだと思う。
「ここには誰もいないよ。いつも通りに話してよ」
ノエル君の顔が少し歪んだ。今日の私は伯爵令嬢モード。だって周り中が貴族ばかりだもんね。いつも通り話しても本当に大丈夫かな?私は辺りを見回した。よし!誰もいないみたい。
「ノエル君、どうしたの?なんだか少し変みたい。やっぱりお仕事で疲れてる?」
「…………いつも通りか……。良かったような、ちょっとは妬いて欲しかったような……。まあいいや……」
なんだかぶつぶつ呟いてるノエル君。
「妬く……?」
「あああ!何でもないから!それよりも音楽が始まったし踊る?」
「ううん。ここでお話しするほうがいいな」
「わかった」
ノエル君と私は久しぶりにゆっくり話をした。途中で「お仕事」の話も聞いてみたけど、「隊員の選考とスカウトが難航してるんだ」って困ったように告げられただけだった。なんとなくそれだけじゃないような気がしたけど、何故だかそれ以上聞く気持ちになれなかったんだ。
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二人の会話
「結局何も見つかりませんでしたね」
「うん。動物達が減ったっていうのも僕達には分からなかったし、枯死した木々や植物というのも確かにあったけど、そこまで大規模なものじゃなかったね」
ベルナール王子に報告した後、メイベルとオスカーは舞踏会会場の片隅で話し合っていた。
「サフィーリエ様の方も同じようだったみたいですし、今回はあの魔人とは関係ないのかもしれないですね」
「そうだね。何事も無いのならそれに越したことは無いよね。せっかくのご招待だし、舞踏会を楽しまない?」
「…………はあ」
「どうしたの?やっぱり疲れちゃった?国境の森はちょっと遠かったからね」
「いえ」
「?」
「ルミリエ様、オレンジ色もお似合いだわって思って……」
「…………本当にメイベルってルミリエ嬢の事好きだよね……」
「だってお可愛らしいんですもの!それにあの力……!」
確かにルミリエ・ネージュ伯爵令嬢は不思議な力を持っている。魔人を退けることができたのは彼女の力があってこそだとオスカーも理解していた。
「綺麗な虹色の力……魔人が生きていればまたルミリエ様を狙ってくるかもしれないんです!私達がルミリエ様をお守りしなくては……!」
「メイベルの力も美しかったけどね」
胸の前で手を組み、陶然と呟くメイベルの耳にオスカーのささやき声は届かなかった。
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