雪と灯火のお祭り①
来ていただいてありがとうございます!
暖かな橙色の炎を灯した雪のランタンが街を彩る。吐く息が白い。元気になった私が経験する二回目の雪灯祭。
今日の街歩きはリンジー様とジョゼちゃんと一緒。もちろんローズちゃんも一緒に来てる。リンジー様の護衛の方々も一緒だから少し大所帯だけど、リンジー様は王子様の婚約者だから当然だよね。今年はノエル君もベルナール殿下もいない。二人とも仕事が忙しいんだって。……ちょっと寂しいけど仕方ないよね。
雪でランタンを作ったり雪像を作ったりと、前世の北の大地の雪まつりを彷彿とさせる。……行ったことないけど。雪の中の楽しいお祭りでは街の広場にたくさんの屋台や露店が並んでる。真っ白な雪の世界の中、寒いけどお祭りの熱気でそれもあまり気にならない。
「ルミリエ!ルミリエ!次!あれ食べたいわ!」
ローズちゃんは果物の飴掛けを見て目をキラキラさせてる。この屋台は去年は無かったと思う。珍しい果物を飴で固めて小さくカットしたものが売ってる!ローズちゃんの目と同じようにランタンの光を受けてキラキラ輝いてる。確かオレンジ色の明かりって食べ物が美味しそうに見えるんだっけ?そうじゃなくても美味しそうだけど。
少し大きめのカゴバッグにそっと飴掛け果物の紙袋をしまって、ローズちゃんがカゴの中でそれを食べる。そんな感じでローズちゃんにもお祭りの食べ物を楽しんでもらった。手に持った食べ物が急に消えたら、みんなに驚かれちゃうもんね。
「随分たくさん買い込むのね」
リンジー様が少し戸惑ったような声で尋ねてきた。
「あはは、えっとお土産にしようかと。どれも美味しそうで困ってしまいます」
ちょっとギクッとしちゃった。思わず乾いた笑いが出ちゃう。カゴバッグに入れた食べ物、殆ど残ってないなんて言えない……。
「今年は新しい屋台が増えたみたいですね」
ジョゼちゃんがカップに入ったココアを珍しそうに見てる。ココア?ホットチョコレート?そんな感じの飲み物。私には懐かしいけど、この白の王国では見たことがない飲み物だと思う。一口飲んでジョゼちゃんもリンジー様も美味しい!と言って顔を見合わせて笑い合ってる。
ジョゼちゃんの持ってる熱いココアを精霊さんが気にしてる。あ、ちょっと飲んだ?!美味しかったのか何だか嬉しそうに飛び回ってる。
「私の真似をするようになってきたわね……」
「そうなの?」
私の肩に座ってるローズちゃんと小声で会話する。ローズちゃんはたくさん食べて満足したみたい。ジョゼちゃんには精霊さんがついてるんだけど、その精霊さんはローズちゃんの行動を見て食べ物や飲み物を吸収するようになったみたい。ジョゼちゃんは違和感とか感じてないのかな?
ジョゼちゃんにもリンジー様にも精霊は見えないし、声も聞こえてない。精霊が見えるかどうかは体質みたいなものなんだって。この国には精霊が見えない人の方が多いみたいだから、なるべく他の人には話さないようにしてるんだ。ちょっと寂しいけど。
『たぶん精霊だったと思うわ』
そういえば、あの日ローズちゃんが追いかけて行ったウサギもいわゆるウサギじゃなくて精霊さんだったみたい。
『見失っちゃったけど、害のなさそうなものだから気にしなくていいわよ』
って帰って来たローズちゃんが言ってたっけ。結構精霊ってたくさんいるのかもしれない。この雪灯祭の会場にも精霊がちらほら飛んでる。白の王国の雪灯祭は幻想的で美しいって、とても有名なんだ。だから外国からのお客様もたくさん来てる。精霊が当たり前に存在する国もあるらしいから、そういう所か人間と一緒についてきてるんだろうな。
雪灯祭一日目、私達は昼過ぎまでお祭りを楽しんで、夕方になる前にそれぞれ帰途についた。明日はお城の舞踏会に招待されているから、早めに帰ることになったんだ。
「え?!ノエル君?どうして?」
夕暮れ時に屋敷へ帰り着くと門の前にノエル君が立ってた。
「先にお部屋に戻ってるわよ~。今夜は夕食は要らないわ」
ローズちゃんはさっさと屋敷の中へ入っていってしまった。あれだけたくさん食べたらそうなるよね。でもいつも思うけどあの小さな体のどこに入ってるんだろう?精霊と人間は違うんだろうけどそれにしても不思議。
「良かった。やっと会えた」
ノエル君に駆け寄るとぎゅっと抱きしめられた。ノエル君、頬が冷たい。どのくらいここにいたんだろう?
「屋敷の中で待っててくれれば良かったのに!風邪ひいちゃう」
私は慌ててノエル君と一緒に屋敷の中へ入った。お母様にお土産を渡してから応接室に行って、この前ローズちゃんとしたように暖炉の前にノエル君と二人で座り込んだ。
「あったかい……」
楽しかったけど長時間外に出ていたから、かなり体が冷えてしまってたみたい。
「今日はどうだった?」
「楽しかったよ!リンジー様とジョゼちゃんと一緒にお祭りを見て回って、色々なものを見てきたの!今年は美味しいリンゴのパイのお店があって、ノエル君にも食べさせてあげたかった。焼きたてが一番美味しいんだって。だから代わりにこれを買ってきたの」
私はノエル君にリンゴの砂糖漬けを混ぜ込んだ焼き菓子を渡した。
「そう。楽しめたんなら良かった。……ごめん。一緒に行けなくて」
「ううん、大丈夫。お祭りは来年もあるもの。それに明日は舞踏会だし、ずっと一緒だね」
寂しかった気持ちは隠して私はなるべく明るく答えた。今日ノエル君と会えただけで嬉しいから。
「……うん。そうだね。ありがとう。ルミリエ」
庭につくったランタンのオレンジ色の灯を見ていたら、肩が少し重くなった。ノエル君がもたれかかってウトウトしてる。疲れてたのに会いに来てくれたんだなぁ。嬉しいけど、一日遊んでた自分がちょっと申し訳なくなっちゃった。
「来年は一緒にお祭りを見て回ろうね……」
「……ん」
寝息のような返事を返してくれたノエル君。窓の外ではまた雪が降り始めた。
「あ……そういえば、あのウサギの事って伝えた方がいいのかな?」
ローズちゃんは精霊だったって言ってた。ノエル君、疲れてるみたいだし、少し寝かせてあげたい。大したことじゃないからいいかな?結局その日はあのウサギの事を話さずに終わってしまった。ノエル君はずっと眠ってて、夕食を一緒に取った後サフィーリエのお屋敷へ帰って行ってしまったから。
「あら、ルミリエ、何を思い出し笑いしてるの?」
ベッドに入った私にローズちゃんが尋ねてきた。
「ノエル君の寝顔、可愛かったなぁって思い出しちゃって」
「ああ!ルミリエが膝枕してた時のね。それなら目が覚めて真っ赤になってた時もなかなかだったわね」
「うん」
「いつも不愛想なくらい表情が動かないのに、ルミリエの前では無防備よねぇ」
来年の春に結婚したら、ノエル君はもっと忙しくなるんだろうな……。でも私しか知らないノエル君もたくさん見られるんだろうな。そんな幸せな夢を思い描きながら私はその夜幸せな眠りについた。
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